4. がんの診断と腫瘍マーカー がんのプロセスとその治療 認定看護師研修センター ホスピスケア 分野 2009年6月25日(木) 1講時

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4. がんの診断と腫瘍マーカー がんのプロセスとその治療 認定看護師研修センター ホスピスケア 分野 2009年6月25日(木) 1講時 認定看護師研修センター  ホスピスケア 分野   がんのプロセスとその治療  4. がんの診断と腫瘍マーカー                                              2009年6月25日(木) 1講時       生命基礎科学講座                                         小林正伸

がんの診断 1)生化学的診断 腫瘍マーカー 2)病理診断・病気診断 3)画像診断 (1)X線検査 (2)造影検査 (3)超音波検査 1)生化学的診断 腫瘍マーカー 2)病理診断・病気診断 3)画像診断  (1)X線検査  (2)造影検査  (3)超音波検査  (4)超音波内視鏡検査  (5)X線CT ヘリカルCT  (6)MRI  (7)核医学検査 4)分子生物学的検査 

腫瘍マーカー がんは正常細胞と異なった異常な細胞なので、正常細胞とは違う目印となる物質が存在する。 それらを生検組織や血中、尿中、便中から検出することで、がんの存在はもとより、がんの種類や病気の広がり、治療の効果予測、治療の効果判定、再発の発見などに役立つ目印を腫瘍マーカーと呼ぶ。 1)正常細胞は産生しないタンパク質や、異常がおこった遺伝子産物。 2)正常細胞にも存在するが、がん細胞の方がよりたくさん産生する物質。 3)がん細胞の影響によって、正常細胞がたくさん産生する物質。

腫瘍マーカーの役割 1.がんの存在診断に用いられる。 2.治療効果のモニタリング 3.再発の監視    健康診断などでがんの早期発見を目的とした場でのスクリーニングに用いる    のが理想的だが、実際にはがんの早期から異常値を示す腫瘍マーカーはなく、    画像診断などで見つかった腫瘍の悪性度診断などに用いられている。 2.治療効果のモニタリング    がんを摘出したり、抗癌剤や放射線照射などの治療によって小さくなった場合、    腫瘍マーカーの値が低下するので、治療がうまくいっているのかどうかの判定    に使用される。 3.再発の監視    治療によって正常値となった腫瘍マーカーが再発に伴い再び上昇するのを監視    することで、早期に治療の再開を可能にする。

各臓器のがんと代表的腫瘍マーカー 図を見てわかるように、腫瘍マーカーはある臓器のがんに特異的なもの(原発性肝細胞癌のAFPなど)と、胃癌や大腸癌などの複数の臓器の癌にまたがって検出されるもの(CEA)の2種類に分けられる。

代表的な腫瘍マーカー CEA (carcinoembryonic antigen):がん胎児性抗原  胎児の消化管などで作られるタンパク質で、食道、胃、大腸などの消  化器系の腫瘍マーカーとして用いられる。臓器特異性はなく、糖尿病  や肝硬変、肺疾患、ヘビースモーカーでも上昇することがある。 AFP (alpha-fetoprotein)  胎児期の肝臓で作られるタンパク質で、肝細胞がんのスクリーニング  や効果判定に用いられる。癌でなくとも妊娠後期や肝硬変、肝炎など  で上昇する。 PSA (prostate specific antigen):前立腺特異抗原  ヒトの前立腺から発見されたタンパク質で、前立腺癌に特異的なマーカー  であるが、前立腺炎や前立腺肥大でも上昇する。 CA19-9 (carbohydrate antigen 19-9)  膵癌や大腸癌、胆道がん、胃癌などの消化器系の腫瘍マーカーとして用  いられる。特に膵癌での陽性率が高く、膵がんの治療効果判定や経過の  観察に用いられる。

癌の存在診断(補助診断への適応) 肺癌には腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌、肺小細胞癌といった異なる病理組織像を呈する癌がある。したがって画像診断にて腫瘍が発見された場合に、ある腫瘍マーカーが上昇していると組織診断の補助となりうる。 それぞれの腫瘍マーカーが特異性が比較的高くなく、偽陽性となる疾患があるため、腫瘍マーカーの意義としてはあくまでも補助的診断に使用できるといった程度である。

病期診断における腫瘍マーカーの補助的役割 術前にI期と診断した症例においてCEA高値の症例は有意にN2(縦隔リンパ節転移)であることが多いことも報告されている 術前CEA値が高いほど術後予後が悪いことが報告されている。 これらのデーターは、腫瘍マーカーの高い症例が予後不良であることを示す。しかし、腫瘍マーカーが詳しい病期分類を診断するのに役立つ訳ではない。

治療効果のモニターリング SAは癌の早期発見のみならず,治療の効果を知るうえでも有用である。根治手術あるいは内分泌療法開始後,PSAは急激に低下する。手術後では,PSAは急速に0.2ng/ml以下(感度以下)になるが,この値を再び超えてくるような場合には再発が疑われる。放射線療法および内分泌療法後にはPSAの3回連続上昇が放射線治療後の再発,内分泌療法後の再燃の診断にそれぞれ必要である。

再発の早期発見

乳がんの術後フォローアップ中に腫瘍マーカー高値となった場合の対応 再発部位別には遠隔転移,ことに肝転移では陽性率ならびにマーカー値自体も高い。それに反して,局所・リンパ節再発では陽性率は低い。 腫瘍マーカー高値化が画像診断による再発確認に先行する時間差(lead time)は平均数カ月であるが,当然検査の間隔や精度に左右される。 腫瘍マーカー陽性の判断は1回の測定値を基準値と比較するのではなく,持続的な上昇をもって異常と判定することが重要である。

がんの診断 1)生化学的診断 腫瘍マーカー 2)細胞診・組織診 (内視鏡検査を含む) 3)画像診断 (1)X線検査 (2)造影検査 1)生化学的診断 腫瘍マーカー 2)細胞診・組織診 (内視鏡検査を含む)  3)画像診断  (1)X線検査  (2)造影検査  (3)超音波検査  (4)超音波内視鏡検査  (5)X線CT ヘリカルCT  (6)MRI  (7)核医学検査

細胞診 上の絵の右下の組織図、水色の線と「↑」が現しているように、細胞診は、浅く組織表面全体を撫でて細胞を採取する検査。また、採取される範囲(広さ)は、この絵の左側のコルポ像(膣の側から子宮頚部を覗いて、コルポスコピーで拡大したものの略図)のピンクの丸にそって書いてある水色の点線部分の内側全体、表面をなでて採取する。

子宮頸部の細胞診の実際 左側の図が子宮頸部の正常細胞診を示し、右側が異常細胞の存在を示す。左側の図は均一の大きさと形態を示す細胞集団から構成されているが、右側の図にはひときわ大型の細胞集団が認められる。

免疫染色 写真1の細胞を拡大したもの。中央の赤く染まっているのが胃癌細胞。 胃癌の方の腹水細胞診で見つかった胃癌細胞(矢印)。 形態だけでは判断が難しい場合が多く、癌細胞に特徴的な抗原を抗体を用いて染色する方法が取り入れられており、癌細胞が1個だけでも診断できる。

病理組織診断 小腸型の低異型度腺腫 核は深部では紡錘形であるが、表層に向かうに従って核は円形、小型になる。この所見を表層分化と呼ぶ。表層分化がみられず、異型腺管の乳頭状増生を伴うときは高分化型腺癌を考慮する。 分化型腺癌 内視鏡で sm浸潤を示唆する IIc + IIa で、幽門側温存胃切除が行われた。生検所見では異型の低い癌であるが、切除胃では sm2浸潤とリンパ管侵襲があり、リンパ節転移を認めた。

免疫染色 乳癌患者を対象にHER2/neu発現を免疫染色にて確認した。

がんの診断 1)生化学的診断 腫瘍マーカー 2)細胞診・組織診 (内視鏡検査を含む) 3)画像診断 (1)X線検査 (2)造影検査 1)生化学的診断 腫瘍マーカー 2)細胞診・組織診 (内視鏡検査を含む)  3)画像診断  (1)X線検査  (2)造影検査  (3)超音波検査  (4)超音波内視鏡検査  (5)X線CT ヘリカルCT  (6)MRI  (7)核医学検査

食道癌のX線像と内視鏡像 胸部食道にほぼ全周性の隆起性病変を認める。 胸部食道にほぼ全周性の隆起性病変を認め、内視鏡にてこれ以上先に進むことは不可能だった。

肺癌のX潜像とCT像 左中肺野、第3前肋骨と第6後肋骨の重なる位置に淡い結節影を認める。 気腫性の肺をベースとし、左肺上葉S1+2b領域に1.4cm大の充実性結節影を認める。 国立がんセンター画像レファレンスデーターベースより

早期胃癌のX線2重造影像 前庭部、小穹寄りの後壁に、形が不整形な小さな浅い陥凹性病変を認める。同部位にわずかな粘膜ひだの集中も認める。 国立がんセンター画像レファレンスデーターベースより

早期大腸癌のX線像と内視鏡像 注腸検査で、直腸の左側壁に扁平な隆起性病変を認める。 病変の境界は明瞭で、最大径12mmであった。 組織学的には、粘膜下浸潤を伴った高分化型腺癌であった。 リンパ管や静脈への侵襲は見られず、リンパ節転移も認められなかった。 国立がんセンター画像レファレンスデーターベースより

大腸の小さな進行癌 切除された腫瘍の肉眼像。 10mm大の無茎性病変が認められる。 本腫瘍は10×10mmの表面隆起性病変である。 表層性陥凹があり、浸潤の存在が疑われる。 切除された腫瘍の肉眼像。 本腫瘍は10×10mmの表面隆起性病変である。 腫瘍は正常な粘膜に囲まれている。 病変の中心は陥凹しており、浸潤の存在が示唆される。 国立がんセンター画像レファレンスデーターベースより

胆嚢癌との鑑別が困難であった慢性胆嚢炎 胆嚢大部に隆起性病変を認める。不整形で内部エコー不均一である。 カラードプラにて病変の内部に血流信号を認める。 胆嚢粘膜はやや粗雑。胆嚢体部中央付近に粘膜下腫瘍様隆起を見る。 国立がんセンター画像レファレンスデーターベースより

小肝細胞癌のMRI、血管造影による診断 造影CT早期相で、S8の腫瘤内に2つの結節状の濃染像を認める。腫瘍内腫瘍(nodule-in- nodule)の所見である。 造影開始5分後のCTで、S8の腫瘤はリング状の高吸収域で縁取りされた低吸収域を呈している。 MRT2強調画像で、S8に高信号域を認める。 肝動脈血管造影動脈相でS8に類円形の濃染像を認める。 国立がんセンター画像レファレンスデーターベースより

ヘリカルCTで発見された極小サイズ肺癌 通常の胸部レントゲン写真で見つかる肺がんは小さくても2センチぐらいだが、ヘリカルCTではそれよりも小さくて早い時期のミリ肺がんを見つけることが出来る。

PET-CT 大腸がんの進行期 早期大腸がん FDG PET 検査で大腸にFDGの異常集積の認められた例で大腸内視鏡検査を行なうと約9%で大腸がんが見つかるという成績が報告されており、大腸癌のスクリーニングにも使用できる。また、転移巣の発見にも通常の造影CTと比較して感度が優れている。

分子生物学的診断法 RT-PCR PCRの原理 1.2本鎖DNAを熱変性させて1本鎖にする。 2.プライマーをDNAに結合させる。 3.プライマーの結合した部位からDNAを合成。 上記の3ステップを繰り返すことによって目的のDNA断片を1個から10万倍にまで増幅できる。 (原理的には1個を100000個に増幅できるが、試料中に1個しかないような遺伝子は1個含まれている可能性が100%ではないことに注意)  この方法を用いることによって、例えば1万個に一個しかないような末梢血中の癌細胞の存在を調べることも可能となるし、0.1mlの血液から個人を同定することも可能となる。

PCRの結果 目的のmRNAと標準のmRNAをRT-PCRにて増幅して、サイクル数によってサンプルをゲル電気泳動した。 サイクル数が増えるに従ってDNA量が増えているのがわかる。

定量RT-PCR PCRのサイクル数が少ないうちに増幅される遺伝子量が一定量まで到達すれば、もともとあったDNAが多かったと判断される。これによって定量できるようになった。

DNAマイクロアレイ コントロールをCy3(緑)に染め、サンプルをCy5(赤)に染めて遺伝子を載せたアレイに結合させると、コントロールに発現量が多いと緑、サンプルに発現量が多いと赤に染色される。この方法を用いると、サンプルとコントロールの遺伝子発現量をほぼすべての遺伝子について同時に検査できる。

DNAマイクロアレイの結果 線維芽細胞を血清に暴露した後で発現が変化する遺伝子を解析した結果で、3つの細胞株で同じ遺伝子が発現亢進したり、発現低下している。

肺癌の実際の診断の流れ 自覚症状または胸部X線・CT異常 病歴聴取(特に喫煙歴)、身体診察 胸部X線、胸部CT(またはPET/CT)、一般検査、腫瘍マーカー 初診 喀痰細胞診・気管支内視鏡 (以下は症例によって選択) 胸部穿刺、CTガイド下生検、リンパ節生検、胸腔鏡、開胸生検、縦隔鏡 確定診断 PET/CT、脳造影MRI (以下は症例によって選択) 骨シンチグラム、腹部造影CT、超音波 病期診断 治療方針 の決定 主要な臓器機能検査 (一般採血、心、肺、肝、腎機能)

確定診断 癌細胞または癌組織の検出が、確定診断となる。 検査の基本は、患者に侵襲が少なく、経済的かつ検出率の高い方法から選択する。 喀痰細胞診 気管支内視鏡 CTガイド下生検 胸腔鏡下生検 縦隔鏡検査 の順番に選択する。

病期診断 一般に肺癌は胸腔内浸潤とリンパ節転移をへて、血行性遠隔転移をきたす。主な転移臓器は肺、副腎、肝、脳、骨である。 したがって病期はTNM分類をもとに決定するために、画像診断を計画する。TNMのそれぞれに対して以下の検査を主に用いる。 T因子(腫瘍原発巣の大きさ):胸部X線像、胸部CT N因子(リンパ節転移):胸部造影CT、PET M因子(遠隔転移):PET、脳造影MRI

肺癌における臨床病期の定義 病期分類 潜伏期 TX N0 M0 TX 細胞診のみ陽性 0期 Tis N0 M0 T1 腫瘍の径≤3 cm IA期 T1 N0 M0 IB期 T2 N0 M0 IIA期 T1 N1 M0 IIB期 T2 N1 M0 T3 N0 M0 IIIA期 T1 N2 M0 T2 N2 M0 T3 N1, N2 M0 IIIB期 Tは関係なし N3 M0 T4 Nは関係なし M0 IV期 Tは関係なし Nは関係なし M1 TX 細胞診のみ陽性 T1 腫瘍の径≤3 cm T2 腫瘍の径>3 cm、主気管支への進展が   気管分岐部から≥2 cm、臓側胸膜への浸   潤、部分的な無気肺 T3 胸壁・横隔膜・心膜・縦隔胸膜への浸潤、   主気管支への進展が気管分岐部から<2    cm、一側全肺の無気肺 T4 縦隔・心臓・大血管・気管分岐部・気管・   食道・椎骨への浸潤、同一肺葉内に存在   する腫瘍結節、悪性胸水 N1 同側気管支周囲、同側肺門 N2 同側縦隔、気管分岐部 N3 対側縦隔または対側肺門、斜角筋部ま   たは鎖骨上窩 M1 遠隔転移、複数の肺葉の腫瘍結節

非小細胞肺癌の病期別治療方針の概略 臨床病期 TNM 治療法 備考 IA T1N0 手術 IB T2N0 手術 術後化学療法 IIA T1N1 手術 術後化学療法 IIB T2N1 手術 術後化学療法 T3N0 手術 IIIA T1~3N2 手術/化学放射線 術後化学療法 T3N1 手術 術後化学療法 IIIB T4Nany 化学放射線療法 胸水を除く TanyN3 化学療法 IV TanyNanyM1 化学療法 IAとIB期では手術後の術後化学療法をするかどうかが決まるので、どちらになるのかを決めることが重要となる。