M&A研究の動向と展望 愛知大学・筑波大学 星野靖雄 愛知学院大学産業研究所 講演 2011年1月12日(水) M&A研究の動向と展望 愛知大学・筑波大学 星野靖雄
目次 I. M&Aの動向と展望 II.我が国におけるM&Aの効果 III.海外におけるM&Aの効果 結論 参考文献 IV 目次 I. M&Aの動向と展望 II.我が国におけるM&Aの効果 III.海外におけるM&Aの効果 結論 参考文献 IV. 日系国際合弁の効果 Foreign Direct Investment and Performance of Japanese Subsidiaries in Malaysia (別紙)
I.M&Aの動向と展望 1. レコフデータ(2010)
2.日本経済新聞(2010) M&A世界で復調 世界のM&A総額2兆2470 億ドル(184兆円)、前年 より12%増。企業業績が 上向き、資源・エネルギー 関連の大型買収が動き 出し、新興国企業の 買収目立つ。日本企業による海外企業の買収、3兆3200億円(84%増)
3. 経済財政白書平成20年版第3節 1) 日本のM&A は増加しているが国際的には低水準 M&A取引金額の推移をみると、日本はGDP比2~3%程度で推移しており、諸外国と比較して低くなっている。実際、98 ~ 2005 年の平均では、アメリカ10.7 %、英国21.8 %、ドイツ7.5 %、フランス9.9 %となっている22。なお、外国企業が日本企業を買収する形のM&A(Out-In 型)が全体に占めるシェアは10 %前後であるが、これもクロスボーダーでのM&Aが盛んな欧州の主要先進国と比べ相対的に低いことが知られている。
2) 買収防衛策の導入は着実に進んでいる 「友好的な企業との株式持合い」「ポイズ ンピル等の買収防衛策の導入」「取締役の選任・解任要件の厳格化」 4割の企業が「株式持合い」を、1割強の企業が「ポイズンピル等」「取締役の選任・解任要件の厳格化」を導入済みである。2008 年の状況を前年と比べると、いずれについても増加しているが、中でも「ポイズンピル等」は6.8%から11.7%へと大幅に増加している。
3) 友好的M&A であっても回避したいという企業が少なくない 「外資系企業による敵対的M&A」を「弊害が多いため回避したい」とする企業は7割を超えた。「国内企業による敵対的M&A」を「回避したい」とする企業も約7割である。 一方、「友好的M&A」では、相手が「外資系」の場合45%が、「国内企業」では3割が「回避したい」と回答している。
4. 前澤(2007)は、2006年での広義のM&Aを実施。企業178社(30 4. 前澤(2007)は、2006年での広義のM&Aを実施。企業178社(30.4%)から回収。 M&Aを実施した理由(いくつでも) 1)相乗効果を上げるため 131社 84.5% 2)競争力を高めるため 121社 78.1% 3)シェアを高めるため 81社 52.3% 4)自社にない新技術やブランド を獲得するため 79社 49.0% 5)新分野に進出するため 55社 35.5% 他、有効回答数155
M&Aのうち、現時点で「成功した」と判断されるのは何件か 成功した 821件 74
5.花枝・胥・鈴木(2010)の日本企業のM&A戦略―サーベイ調査による分析― 2008年7月17日―8月20日に上場企業3,957 社に質問表を郵送し、546社回収(13.8%) M&A実施の目的 M&A実施の効果 1. 市場シェアの拡大 58.75% 1.17 2. 事業の選択と集中 44.69% 1.19 3. 経営資源の獲得 37.50% 0.47 4. 経営多角化の手段 34.69% 0.68 5. 成熟・衰退部門の 事業再編 23.13% 1.03 評価尺度 2:非常に重要である。 1:重要である。0:どちらともいえない。-1:そう思わない。 -2:全くそう思わない。
敵対的買収に対する考え方 短期の株価を気にし、長期的視野に立った経営が損なわれる。 66.86% 従業員の利益を株主へ移転することになり、士気低下を招く。 46.06% 株の売りぬけで短期的利益を得ようとするのが目的であり許せない。 41.43% 4. 会社が切り売りされることになる。40.62% 5. 顧客・供給先の利益を損なう。 38.27% 6. 一般株主の利益を犠牲にすることになる。 32.69% 7.緊張感をもたらすということで評価する。 32.63%
II.我が国におけるM&Aの効果 星野(1985)
前表での、25件の合併効果の研究では、使用したデータの標本数、業種、手法が異なっている。正の合併効果のあった件数が11件、負の効果があったのが11件、中立が2件、正負両方の場合が1件の合計25件であった。 企業合併の目的を経営の効率化、収益性、成長性、安全性の向上とすると、目的と効果は必ずしも一致しない。
小本恵照(2002)
小本(2002)は、合併により、業績が改善したと結論した研究はIkeda and Doi(1983)のみであり、残りは、明確な改善が見られないや悪化した。 この傾向は、欧米の研究でも同様である。
宮島(2007)では、1.おおむね合併の長期効果については否定的である。例外が、Kruse, et al 宮島(2007)では、1.おおむね合併の長期効果については否定的である。例外が、Kruse, et al.(2006)でバブル期以前の雇用の増大を伴う多角化ケースで、近年の効果でない。M&Aの長期効果は確認できない。ポストM&Aの改善効果は、かならずしも頑強といえないとしている。2、金融部門の収益改善は、不良債権処理の結果であり、費用関数の推計では負である。IT関連関連産業では、資本効率はM&Aは負の効果。3、海外企業による買収は、対象企業の効率性を向上させる。
岡部(2007)は、1、全期間を通してみれば、経営効率化に資する。M&A急増の90年代後半より前では、経営救済的合併、系列内の合併が多い。2、最近時のM&Aの方が、企業価値増大、生産性向上の効果がある。3、日本企業のM&Aでは、被買収企業のみならず、 買収企業の価値も高まる。4,吸収型M&Aでは、企業ガバナンスが買収企業により一元的になされるので効率が向上しやすいが、対等型では統合が効率的に進めにくく、効率化効果が小さい。長岡(2005)
最近の研究 浅羽(2005)では、外国企業による日本企業の買収で、出資比率が高くなるほど、被買収企業の買収後の使用総資本利益率が高くなり、被買収企業の取締役に占める買収企業出身者の比率が高いほど、高くなることが指摘された。 松尾・山本(2006)90年の商法改正後前後のM&Aマーケットの変化より、買収企業と被買収企業ともプラスの株主価値をもたらす。 Zrillic and Hoshino(2008) 1983-2005年までの62件の上場企業に合併では、3日後の平均累積超過収益率は1.19%で正の効果があった。 宮宇地(2009) M&A実施前の平均的な収益性水準との比較で、M&A実施後の収益性水準の方が有意に高くなる。年度ごとの変化は観察されない。
ベーベンロ―ト・李(2009)では、外国より買収された日本の製造業60社の業績は、買収前より低くなるが、従業員の削減のため労働生産性が上がる。 葉(2010)では、日本企業の欧州での買収について、超過収益率(CAR)が発表1日前から1日後で平均0.3% で有意でなかったとしている。
III. 海外におけるM&Aの効果
表3-3のように、25件のM&Aでは、すべて被買収企業の株主に正の効果がある。 表3-4では、買収企業に22件中14件で統計的に有意で負の効果があり、負の収益率は1から4%である。 表3-5では、買収企業の35件の正の効果のうち23件は統計的に有意な正の効果がある。 表3-6では、長期の買収企業に負の効果が16件中11件で統計的に有意で負の効果がある。 表3-7では、ほとんどすべての件で、買収企業と被買収企業の合計効果は正であり、24件中14件で統計的に有意で正の効果がある。 表3-8の財務データでは、15件中4件では統計的に有意で正の効果であるが、9件では負で(有意は2件)、2件で正、負両方となっている。 表3-12は、実務家による調査では24件中12件で負の効果、その他は正の効果か中立となっている。
Eckbo(2009)での、大標本(1000社より大)のレビューでは、16件中3件が負の効果、5件が正の効果、8件が正負混合または不明であった。 結論 M&Aの効果 我が国の研究 株価データによる短期の収益率では、買収企業、被買収企業とも正の効果の研究成果がより多い。 財務データによる長期の分析では合併効果は疑問である。 長期の株価効果は研究があまりされていない。
欧米の研究 短期の株価効果は被買収企業では正の効果があるが、買収企業では正の効果のある場合のほうが、負の効果の場合よりより多い。 買収企業と被買収企業の合計効果は正である。 長期の株価効果では負の効果が多くなる。 財務データによる研究、実務家のよる調査では概して負の効果がある。 M&A研究の動向と展望 1.米英以外の国、ブラジル、他のOECD諸国、中国、インド等でのM&A研究。<> 経済社会に対するインパクト 2.M&Aデータベースの共同利用、 3.論文を共同で執筆する。 4.英文論文の作成投稿、査読付き学術誌 5.論文の引用回数や研究上のインパクトの調査
参考文献 浅羽茂(2005)外資は日本企業を立て直せるか?、一橋ビジネスレビュー、秋、46-58. ベーベンロート、ラルフ・李東浩(2009)日本におけるM&Aと被買収企業の業績、年報財務管理研究、20、pp.110-118. Bruner, Robert F. (2004), Applied mergers and acquisitions, John Wiley & Sons. 岡部光明(2007)日本企業とM&A、東洋経済新報社. Eckbo, B. Espen(2009) Bidding strategies and takeoverr preminums: A review, Journal of Corporate Finance, 15, 149-178. 花枝英樹・胥鵬・鈴木健嗣(2010)の日本企業のM&A戦略―サーベイ調査による分析―、現代ファイナンス、No.28, 3月、69-100。 星野靖雄(1981) 企業合併の計量分析、白桃書房。 Hoshino,Yasuo (1982) The Performance of Corporate Mergers in Japan, Journal of Business Finance and Accounting 9 / 2 , 153-165. Hoshino,Yasuo(1983) Corporate mergers in Japan, Business Research Institute, Toyo University No.1, 1-154. Hoshino Yasuo(1983) An Analysis of Mergers among the Credit Associations in Japan, International Review of Economics and Business, 35 / 2 , 135-156 星野靖雄(1985) 企業合併、柴川林也編 財務管理所収、中央経済社。 星野靖雄(1992)中小金融機関の合併分析、多賀出版。
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しかしながら信用金庫と信用組合、相互銀行と信用組合における異種金融機関における合併はやや正である。Hoshino(1995a,1995B) 中小金融機関の合併効果 信用金庫、信用組合、農業業同組合における同種金融機関の合併効果は負である。星野(1992)、Hoshino(1988,1991,1995c ),米国におけるCredit Unionでも合併の負の効果がある。Hoshino(1993) しかしながら信用金庫と信用組合、相互銀行と信用組合における異種金融機関における合併はやや正である。Hoshino(1995a,1995B) 参考文献 Hoshino(1988) An Analysis of Mergers among the Credit Associations in Japan, International Review of Economics and Business 35 / 2 , 135-156 . Hoshino(1991) An Analysis of Mergers among Credit Co-operatives in Japan, in Malcom Trevor ed., International Business and the Management of Change, Avebury. 星野靖雄(1992)中小金融機関の合併分析、多賀出版。 Hoshino(1993) A Statistical Test for Measuring the Performance of Mergers among U.S. Credit Unions, Journal of Financial Management and Analysis: International Review of Finance, 6 / 2 , Hoshino(1995a) An Analysis of Mergers between Credit Associations and Credit Cooperatives in Japan, in Gray, P.G. and S.C. Richard eds., International Finance in the New World Order, Pergamon Hoshino(1995b) The Performance of Mergers between Mutual Banks and Credit Cooperatives in Japan, in Cheng-few Lee ed., Advances in Pacific Basin Business, Economics and Finance, JAI Press Hoshino(1995c) The Performance of Mergers of Japanese Agricultural Cooperatives, Management International Review, 35 / Special Issue,131-144