軽度外傷性脳損傷の問題点 ~ 弁護士の立場から ~

Slides:



Advertisements
Similar presentations
高次脳機能障害について 藤本大樹. 目次 1 .高次脳機能障害とは 1-1 .高次の活動・低次の活動 1-2 .高次脳機能障害の主な症状 .記憶障害 .注意障害 .持続性注意障害 .容量性注意障害 .選択性注意障害
Advertisements

統合失調症ABC 監修 : 国際医療福祉大学 教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.1
統合失調症ABC 監修 : 昭和大学名誉教授 上島 国利 すまいるナビゲーター ブックレットシリーズ No.1
地方公務員災害補償基金富山県支部 平成21年8月21日
三例の糖尿病性腎症導入例 仁和寺診療所 田中 貫一 仁和寺診療所.
※ 氏名・生年月日・住所など記入漏れがないかご確認ください。
障害基礎年金・障害厚生年金の診断書作成の留意事項
脳脊髄液減少症について 埼玉県教育委員会 平成20年10月 (平成26年3月改訂)
【障害者自立支援法に基づく就労継続支援A型事業所用】 最低賃金適用除外許可 作業実績、作業能力に関する資料
医療事故 2002.6.7.
H28改定後の全国の届出動向 2167施設が届出 1 愛知256 2 広島199 3 兵庫
意識とは? 「意識がある」 「意識がない」 「気を失う」 「無意識のうちに」
順序立った判読の仕方.
制作:鈴木昭広(旭川医大QQB) 協力:斎藤司(旭川医大神経内科)
平成18年10月1日から 療養病床に入院する高齢者の 入院時の食費の負担額が変わり、 新たに居住費(光熱水費)の 負担が追加されます
検体採取等に関する 厚生労働省指定講習会(主催:日臨技) 実施要項①
聴覚障害の認定方法の見直し案について ○ 「身体障害認定基準の取扱い(身体障害認定要領)について」を改正し、
ドイツの医師職業規則 から学ぶもの 東京医科歯科大学 名誉教授  岡嶋道夫.
「医法研 被験者の健康被害補償に 関するガイドライン」について
4 第3次障害者基本計画の特徴 障害者基本計画 経緯等 概要(特徴) 障害者基本法に基づき政府が策定する障害者施策に関する基本計画
平成27年度 障害者虐待防止権利擁護研修 施設コース
健康・医療の知識とメディア                  林 剛生.
脳性まひをもつ 子どもの発達 肢体不自由児の動作改善を目指して 障害児病理・保健学演習 プレゼンテーション資料 2000年2月24日
~ 回答数  ~ 回答数 206.
本邦における「障害」の射程と 身体障害者手帳をめぐる問題
疫学概論 診療ガイドライン Lesson 22. 健康政策への応用 §B. 診療ガイドライン S.Harano, MD,PhD,MPH.
重度障害者等包括支援について.
脳血管障害 診断・治療の流れ 診断と治療の流れ 問診・身体診察 緊急処置 一般検査 画像検査 治療 診断
自転車で転倒し    脾臓損傷した症例 ○○消防署 ○○救急隊  ○○○○.
裁判の情報保障、手続保障に 関する事前協議の経過について
脳死について  最近よく取り上げられるニュースのひとつである脳死について考えて行こうと思う。  舘野 友裕.
口唇・舌感覚異常プロトコール記載要項 誘発感覚 自発感覚
大脳辺縁系.
独立行政法人国立病院機構 舞鶴医療センター認知症疾患医療センター 川島 佳苗
関西リハビリ病院におけるCI療法 方法 治療期間 訓練内容 非麻痺側上肢をミトンで固定 麻痺側上肢のみで集中的な運動を実施
平成26年4月から ペースメーカや人工関節等を 入れた方に対する 身体障害者手帳の認定基準が変わります ご注意ください
2007年10月14日 精神腫瘍学都道府県指導者研修会 家族ケア・遺族ケア 埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科 大西秀樹.
第48回日本神経学会 PZZ-301 神経学資源の国内分布 池田正行1) 2) mail adresss goo
裏面に新たな認定基準の一覧を掲載していますので、ご参照ください。
裏面に新たな認定基準の一覧を掲載していますので、ご参照ください。
裏面に新たな認定基準の一覧を掲載していますので、ご参照ください。
地方公務員災害補償基金富山県支部 平成22年7月23日
脳死は人の死? 志津川教室 高1 M.M 志津川教室、高校1年生、M.Mです。 これから脳死について調べたことの発表を始めます。
看護管理学特論 救急・集中治療領域における家族看護
学習目標 1.急性期の意識障害患者の生命危機を回避するための看護がわかる. 2.慢性期の意識障害患者の回復に向けた看護がわかる. 3.片麻痺患者のADL獲得に向けた看護がわかる. 4.失行・失認の患者が生活に適応するための看護がわかる. 5.失語症の患者のコミュニケーション方法の確立に向けた看護がわかる.
Evidence-based Practice とは何か
2015年症例報告 地域がん診療連携拠点病院 水戸医療センター
「“人生の最終段階における医療” の決定プロセスに関するガイドライン」
川村雄次 NHK 文化・福祉番組部 ディレクター
第2回 市民公開講座 糖尿病を知って その合併症を防ぎましょう
診断書を作成する医師・医療機関の皆さまへ
東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座
2015年症例報告 地域がん診療連携拠点病院 水戸医療センター
経過のまとめ 家族歴、基礎疾患のない14歳女性 筋力低下、嚥下障害を主訴としてDM発症 DMは、皮膚症状と筋生検にて確定診断
4.「血液透析看護共通転院サマリーVer.2」
心臓機能障害(ペースメーカ等植え込み者)の 診断書・意見書を作成される医師の皆さまへ
2011/9/29 おもてなしマイスター制度 研 修 「観光とADL」 理学療法士  川本 淳一.
裏面に新たな認定基準の一覧を掲載していますので、ご参照ください。
【研究題目】 視線不安からの脱却に 影響を与える要因について
平成26年4月から ペースメーカや人工関節等を 入れた方に対する 身体障害者手帳の認定基準が変わります ご注意ください
脳脊髄液減少症について 埼玉県教育委員会 平成20年10月
2.介護に必要な「時間」に置き換えて「要介護度」を判定します。 聞き取った「心身の状況(5項目の得点)」から直接、「要介護度」を求めることはできません。病気の重さと必要な介護量は必ずしも一致しないからです。 そこで、調査結果をコンピュータに入力し、その人の介助にどのくらいの「時間」が必要なのかを推計することで、介護の必要量の目安としています。この「要介護認定基準時間」を用いて要介護度を判定します。
先進予防医学共同専攻臨床疫学 臨床疫学とは 現在の取り組みと成果 研究材料・手法 未来のあるべき医療を見つめて改革の手法を研究します。 特徴
地方公務員災害補償基金富山県支部 平成30年6月4日
市町村審査会における二次判定について.
間欠型一酸化炭素中毒に対する高気圧酸素治療の限界
南魚沼市民病院 リハビリテーション科 大西康史
「JSEPTIC-BW ICU における体重測定の意義」 経緯と今後
誰も言わなかったが、実は誰もが知っている
33事件 精神障害者の自殺 (東京高判平13・7・19) 事実概要
Presentation transcript:

軽度外傷性脳損傷の問題点 ~ 弁護士の立場から ~ 軽度外傷性脳損傷の問題点 ~ 弁護士の立場から ~         弁護士法人穂高

軽度外傷性脳損傷の臨床像 各種発作 欠伸発作 脱力発作 精神運動発作 焦点性発作 てんかんetc. 脳神経麻痺      味覚・嗅覚障害、視野狭窄、眼球運動異常、咀嚼障害、開口障害               難聴、耳鳴り、平衡感覚障害、嚥下障害 運動・知覚麻痺    片麻痺、単麻痺、四肢麻痺 小脳症状       小脳運動失調、筋緊張低下 自律神経障害    発汗異常、洞性頻脈 神経因性膀胱等   頻尿、残尿感、切迫排尿、尿失禁、便失禁 求心路遮断痛     永続する四肢の疼痛 高次脳機能障害   認知機能障害(注意・記憶・遂行機能等の障害)               人格情動障害(易怒性、感情易変、アパシー)

現状~見捨てられる軽度外傷性脳損傷者 自賠責保険は、脳損傷の診断基準として国際基準に比べて異常に突出した高いハードルの診断基準を設定し、裁判所も自賠責保険の判断を追認する傾向が顕著(司法の独立はほとんど機能していない)。   日本の医療従事者の大半は2004年WHOの軽度外傷性脳損傷の診断基準を知らない。そのため、脳損傷であるのにそうではないとノイローゼ扱いして、診療の対象外に置いている。 その結果、軽度外傷性脳損傷による後遺障害に苦しんでいる被害者は、適正な賠償はおろか、被害回復が全くできず、途方に暮れ、泣き寝入りを強いられている。このような現状について、加害者、保険会社、医療従事者、行政、司法関係者、だれも責任を取ろうとしない

脳外傷のガイドライン(国際基準の枠組み) (1) 1993年 ACRM(アメリカ・リハビリテーション医学協会) (2) 2002年 EFNS(神経学学会ヨーロッパ連盟 (3) 2003年 CDC(アメリカ疾病対策センター) (4) 2004年 WHO(世界保険機関) (5) 2008年 CDC(アメリカ疾病対策センター)   ※ 意識障害の要件について ・ACRMとCDC(2003年)は、事故後の意識障害の存在を絶対の要件としていない。 ・意識障害を要件とするのは、EFNSとWHO、CDC(2008年)であるが、いずれもGCS で満点の15点(すなわち意識の変容)でも足りるとしている。 ※ 共通の診断基準 意識障害や脳損傷の画像所見があることを脳外傷の要件としておらず、 ①事故態様が脳に加速・減速運動が働く程度に達するものであって、 ②事故直後に意識障害がなくとも、意識の変容又は外傷後健忘 があったときは脳外傷を認める点で共通している。

自賠責保険の認定基準(1) ① 初診時に頭部外傷の診断があること ② 頭部外傷後に以下のレベルの意識障害があったこと a 半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態(JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上 b 軽度意識障害(JCSが1~2桁、GCSが13点~14点)が少なくとも1週間以上 ③ 経過の診断書または後遺障害診断書に、高次脳機能害、脳挫傷、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷の記載があること。 ④ 経過の診断書または後遺障害診断書に、高次脳機能障害を示唆する具体的な症例が記載されていること、またウェクスラー成人知能検査など各種神経心理学的検査が施行されていること。 ⑤ 頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも、3カ月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認されること。

         自賠責保険の認定基準(2) 但し、 前記①~⑤のうち、いずれか一つのファクターでも該当する症例であれば脳外傷による高次脳機能障害が問題となる事案として審査会の専門部会で審査・認定する。 しかしながらこれは建前 意識障害や画像所見のない脳外傷による後遺障害を認めた例はない。 平成19年2月2日の自賠責保険検討委員会の報告書は、 「現在の画像診断技術で異常が発見できない場合には、外傷による脳損傷は存在しないと断定するものではない。」と指摘しつつも、「CT、MRI等の検査において外傷の存在を裏付ける異常所見がなくかつ、相当程度の意識障害の存在も確認できない事例について、脳外傷による高次脳機能障害の存在を確認する信頼性のある手法があると結論するには至らなかった。従って、当面、従前のような画像検査の所見や意識障害の状態に着目して外傷による高次脳機能障害の有無を判定する手法を継続すべきこととなる。」と明言。

JCS(3-3-9度方式) Grade Ⅰ 刺激しないでも覚醒している 1 一見、意識清明のようであるが、今ひとつどこかぼんやりしていて、意識清明とは言えない。 2 見当識障害(時・場所・人)がある。 3 名前・生年月日が言えない・ Grade Ⅱ     刺激で覚醒する 10 普通の呼びかけて容易に開眼する。 20 大声または体をゆさぶることで開眼する。 30 痛み刺激を加えつつ、呼びかけを繰り返すと、かろうじて開眼する。 Grade Ⅲ 刺激しても覚醒しない 100 痛み刺激を払いのけるような動作をする。 200 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる。 300 痛み刺激に反応しない。 意識レベルを3つのグレード・3つの段階に分類され、カルテには100-I、20-RIなどと記載。 (R)Restlessness(不穏状態) (I)Icotinence(失禁) (A)Akinetic mutism(無動性無言)、Apallic Statre(失外套症候群)

GCS 反応 評点 開眼(E) Eye Opening 最良言語反応(V) Best Verbel Response 自発的に開眼する(spontaneous) 4 呼びかけにより開眼(to speech) 3 痛み刺激により開眼する(to pain) 2 全く開眼しない(nil) 1 最良言語反応(V) Best Verbel Response 見当識あり(orientated) 5 混乱した会話(confused conversation) 混乱した言葉(inappropriate words) 理解不明の音声(incomprehensible sounds) 全くなし(nil) 最良運動反応(M) Best Motor Respponse 命令に従う(obeys) 6 疼痛部へ(localises) 逃避する(withdraws) 異常屈曲(abnormal flexion) 伸展する(extends) 3つの項目のスコアの合計で評価する

            意識障害の要件について  近畿大学医学部脳神経外科・種子田護教授 意識障害のないびまん性軸索損傷はないと一般に言われているが、多くの症例を経験する とそうでもなさそうだということが脳外傷の臨床の現場で指摘されている。 日本大学医学部脳神経外科・講師・前田剛医師 GCS14点、15点のごく軽症で、なおかつ外傷後健忘が48時間以 上認められた症例では、100%社会復帰出来ているのは45例中わずかに27例に止まっていた。残りの18例(4割)の中には、脳外傷による高次脳機能障 害の後遺障害が含まれているのではないか意識障害の重症度と高次脳機能障害の相関はもちろんだが、軽症の場合にも存在する。そのため、見過ごされている 患者が存在すると考えられる。 東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座・橋本圭司医師 意識障害がなかった軽度脳外傷者の自賠責保険の認定は失調やバランスの問題による運動障害や様々な高次脳機能障害による社会認知、就労不能といった問題に対応しきれていない可能性がある。

  裁判所に軽度外傷性脳損傷による後遺障害を認定させるには? (1)自賠責保険及び労災保険の脳外傷による後遺障害の認定基準の 改正(軽度外傷性脳損傷による後遺障害を正面から認めること)。 (2)医療従事者や国民に軽度外傷性脳損傷の病態を周知させること。 自賠責保険が脳外傷による後遺障害を否定した場合でも、経過の診療録( カルテ)に 、事故後に脳外傷 を疑う神経症状が顕現し、それが治癒せずに 後遺していることが記載されていれば、裁判所が軽度外傷性脳損傷による 後遺障害を肯定する余地は出てくる。 しかしながら、そのような診療録は皆無に近い。 理由 そもそも日本の医師は軽度外傷性脳損傷の病態を知らない。脳CTやMR Iで異常がなければ、ベッドサイドでの脳神経学的検査をすることなしに、脳   外傷ではないと断定し、診療の対象外とする。   →カルテに事故後の脳外傷を疑う症状や検査所見が記載されていないと、    軽度外傷性脳損傷に理解のある裁判官でも、事故との因果関係を認める    ことが出来なくなる。  

軽度外傷性脳損傷の症状がカルテに記載されていない理由(1) 軽度外傷性脳損傷の症状がカルテに記載されていない理由(1)  医師側  ①軽度外傷性脳損傷の国際基準ないしガイドラインを知らない。 ②CTやMRIで検出しずらいことを知らない。 ③遅発性の障害であることを知らない(軽度外傷性脳損傷は、外傷直  後の症状が最も重く、それ以降は暫時軽減していく、との外傷の一般  論が当てはまらない)。  ※ ダグラス・J・メイソン「軽度外傷性脳損傷の症状は、受傷後すぐに顕現   するわけではなく数日ないし数カ月前後で表面化する。  ※ 2007年・WHO「頭部外傷の表面的な兆候が何も認められなくともTBI(外    傷性脳損傷)である場合があり得る」  ※ クイーンーズランド脳損傷協会「頭をけがしたあと、さまざまな検査(画像    検査や神経学的検査など)を受けても、明らかにならないことがよくある」  → 受傷後、数カ月経て、味覚・嗅覚障害を訴えたり、失禁、物忘れを    訴えても、外傷とは無関係、心因性と判断し患者を相手にしない。

             医師の無理解について 東京女子医科大学脳神経外科教授・川俣貴一医師 日本のMRIの普及率は世界一であることから画像偏重になっていることは否めない。画像で異常がないと気のせいだと言う医師が結構いる。 鞭打ち症と診断された中に軽度外傷性脳損傷が多く含まれている可能性がある。 軽度外傷性脳損傷の診療について、日本は遅れている。 防衛医科大学・名誉教授・島克司医師 私たち脳外科医の多くは,急性期の診療終了後の軽症患者に積極的にかかわることは避けてきた経緯がある。 福井大学医学部・小林康孝教授他4名 今日においても、MTBI(軽度外傷性脳損傷)は国内ではまだ十分に認知されておらず、その報告も稀。 石橋徹医師 本邦の医師は、専門科目を問わず、こぞって軽度外傷性脳損傷の患者をノイローゼ扱いしている。

軽度外傷性脳損傷の症状がカルテに記載されていない理由(2) 軽度外傷性脳損傷の症状がカルテに記載されていない理由(2)  患者側 ①受傷時、頭を打っていないから脳に損傷はないと自己判断している。 ②頭を打っていても、画像で異常が見つからなかったことから、医師の説  明とあいまって、事故とは無関係、脳に損傷はない、そのうち治ると思い  込んでいる。  ※ 2008年・CDC    「多くの軽度TBIを受傷した患者は、医療機関を訪れない」  → 事故後、数カ月を経て、発汗異常や知覚鈍麻、視野障害の症状が    顕現しても、事故とは無関係、脳の損傷とは無関係、と決めうちして    かかっている。事故との関係のある症状は頭痛、項部痛、めまい、嘔    吐、上下肢のシビレの症状のみと思い込み、医師に愁訴しない。

労災の認定の概要 厚生労働省は、 2003年・WHOが作成したMTBIの操作的定義は TBIに起因する高次脳機能障害の取扱いを共通化するためには有用であるとし、平成25年6月から、 高次脳機能障害者画像検査所見陰性例のうち軽度外傷性脳損傷(MTBI)と考えられる症例については全て、本省(障害認定審査会)において判断するとの運用をしている。  しかしながら、その後、本省で判断された案件のうち、脳外傷が肯定された例は一例もない。すべて否定されている。  その根本的理由は、カルテに事故後に脳外傷を疑う症状が顕現していたことを示唆する記載が全くされていない点にある。  これでは事故と脳外傷との因果関係を肯定することは困難である。  このように、カルテに事故後に脳外傷を疑う症状が記載されていることは、外傷との因果関係を証明するうえで極めて重要。

最後に 被害者保障の最後の砦である司法が行政の認定に追随し、MTBI患者の救済機関として機能していない以上、行政が認定基準を改正するしかない。 行政が認定基準を新設し改正した、ただそれだけの理由で司法はこれまでの 判断を改め、救済に乗り出すという、ていたらく。 そのような司法の行政追随の例は、CRPS(当初は心因性とされほとんど 賠償の対象とされなかった)新基準の定立後の司法の認定の変化からも明らか(節操がない)。    MTBIによる後遺障害患者が適切な保障を受けるには、基準改正プロジェクトについて行政から委託された専門家によるメンバースタッフの人選に対しても注意深くチェックすることが必要。スタッフの専任を行政に任せていたのでは、適切な保障は実現不能である。    以上の実情を踏まえ、MTBIによる後遺障害患者が適切な保障が受けられる よう、ご尽力いただきたくご要望いたします。

ご静聴ありがとうございました。         弁護士法人穂高