11 応用行動分析(その5) 応用行動分析による実践・研究のデザイン (援助者の責任を果たすために)
この単元の目標 対人援助の作業を記述・表現することの意味 (なぜ、黙々と実践しただけでは成り立たないことを説明する) ・行動のデータにはどのようなものがあるか? ・行動の測定の仕方にはどのようなものがあるか? ・二つの代表的なデザイン(ABABデザインとマルチベースライン・デザイン)はどのように使用するのか、「援助」、「教授」作業の確認に対応して説明することができる。
応用行動分析の目標設定 さまざまな「対人援助」の実践作業においては、応用行動分析は、個別の被援助者の自発的行動の成立とその選択肢拡大という原則のもとに目標設定を行う。 第1回の復習 これまでの行動分析学の用語を使うと・・・・ 正の強化で維持される行動の選択肢の拡大
応用行動分析的“支援”の方針 2)罰的なものではなく「正の強化」で行動が成立するように 3)行動成立の条件を「表現」し 引き継ぐこと 復習 応用行動分析的“支援”の方針 1)given ではなくgetが成立している 2)罰的なものではなく「正の強化」で行動が成立するように 3)行動成立の条件を「表現」し 引き継ぐこと これはなぜ?
行動の成立のための方法 統合 平等派 同化 異化 差異派 排除 石川准(2000)「平等派でもなく差異派でもなく」倉本・長瀬(編) 「障害学を語る」第2章、28-42
行動の成立の条件 「これ」があれば「できる行動」の表現 反応(行動) 先行事象 結果事象 付加的なヒント 達成基準の設定 反応を成立させる援助 行動はこの3つで表現 ゆえに基本枠組みは「行動分析学」採用
3 2 1 対人援助作業の3つの機能の連環的発展 治療・教授 援護 援助 Instruction advocate assist 個人の行動(反応)形成 3 治療・教授 2 Instruction 援助 援護 advocate assist 1 進歩するとは? 援助設定の定着のための要請 行動成立のための 新たな環境設定
3つの機能的アプローチの連環的「連携」が可能な実践と研究(=言語表現化)を行う。 (第3回復習)対人援助実践の3つの機能 1)「障害 impairment」があっても先送りすることなく 社会参加を可能にする人的・物理的援助システムの 設計・設定(援助的アプローチ) 2)それを環境に定着させるために周囲に要請する作業(援護的アプローチ)、 3)援助設定を前提にして諸行動を可能にするための 教育・訓練する作業(教授的アプローチ) 新たな「対人援助」の学とよべるもの 3つの機能的アプローチの連環的「連携」が可能な実践と研究(=言語表現化)を行う。
「助ける」は表現してナンボである 1)誰かが何か「できる」ようになるには、多くは社会への要請(援護=言語行動)が必要条件である。 2)援助・援護・教授という3つの仕事は、単独では行いきれない(連携が不可欠) であれば、共通言語を持つ必要がある。 3)「助ける」は、本来、人が自然に行う行為ではないかも知れない。であれば絶えずチェックしていないとアカン。 4)本当に、当事者が望んでいることなのか? それをどのように確認するか方法(=表現として)を示す必要がある。
行動のデータとは? 記録をとる前に: これから記録をとろうとする行動(反応)について、客観的な表現で定義できているか? 行動のデータとは? 記録をとる前に: これから記録をとろうとする行動(反応)について、客観的な表現で定義できているか? 「まじめに作業できる」(???) ●決められた時間の中で休まないことか? ●開始時間になったらすぐに始めることか? ●単位時間あたりの作業量が多いのか? ●正確に作業をこなすということか?
行動の測定の仕方 ある機会あたりの反応数(反応比率 ratio) 時間あたりの反応数(反応率 rate) 時間間隔記録法 時間サンプリング 時間間隔記録法 時間サンプリング エピソード記録法
時間間隔記録法による記録 数十秒の間にある反応が出たか、出ないか?
時間サンプリングによる記録 比較的長い時間の中で、数分ごとの最後に出たか出ないか
行動が目標の形に変化しつつある場合(学習:acquisition中)の記録・表現 「援助つきの行動成立」の過程を表現する。 ある作業についてどれくらいできているか どんな部分について「教授」したり「援助」 が必要かを知る(課題に対するアセスメント) ●誰もが同じ記録が残せるような具体的 な目標が設定されているか? ●その行動に必要な下位の行動を分解 ●その個人において、自立や自律に至る プロセスを表現できるか、 その表現方法は?
課題分析 目標とする(複雑な)行動を、 時系列的に「教授」や「援助」をしやすい行動要素にわける。 目標とする(複雑な)行動を、 時系列的に「教授」や「援助」をしやすい行動要素にわける。 今回は、パソコンでしてみたいことを一つ目標行動として、こまかい課題に分けてみました。
スーパーで買い物をする課題分析(応用行動分析入門)
上昇方向で 「薄い」援助へ 各行動に必要な「援助」内容の表現
高齢者におけるPC操作の支援 (課題分析) Mさんの課題分析 : メールを送信する これは、Mさんの「メールを送信する」という目標を達成するために必要な各課題です。 この課題分析が、そのままマニュアルになるようにしています。 斉藤(2001)
プロンプトの段階 斉藤(2001) 課題分析をもとに、はじめはこのようなプロンプトを入れながら操作を教えます。 基本的に10秒間待ってから、プロンプトをいれてゆくようにします。 斉藤(2001)
Mさんの結果 斉藤(2001) チェックリスト記入 チェックリストとフィードバック マニュアル 励ますだけ 下の表は、それぞれの課題の正答がどれくらいかを示したものです。 数字はプロンプトの種類です。 上のグラフは、正答率をグラフにしたものです。 マニュアル・・・課題分析をマニュアルとして提示した時 チェック・・・対象者自身で、一つの課題がおわることに記録用紙に丸をつけてもらう チェックとフィードバック・・・対象者に丸をつけながら、進めてもらった後で、どれくらい できたか、どこができなかったかをフィードバックするもの 斉藤(2001)
実験(実証)デザイン 独立変数としての「教授方法」や「援助設定」が、従属変数である行動に対して影響を及ぼしているかを検討する。= 実験デザイン 「特定個人」において、行動の原因となっている独立変数を特定していく →Single Subject Design 1回だけ独立変数をみるのでは信頼性が低い。独立変数の導入を複数回繰り返してその効果を検証する必要がある(=replication:追試) そこで「実験デザイン」というものが必要となる
デザインの基本:Baseline ある独立変数(教授方法や援助方法)と行動的結果(従属変数)の間の機能的関係をみるためには、当該の支援を導入する前の(導入しない時の)状態と比較する必要がある。 「ベースライン」をとってみよう ベースライン:これから試してみるトリートメント(教授・援助)を導入する前に、現状での当該行動の出方(反応率や反応比率など)を、数回(3回)とってみる。
ベースライン 行動の変化(回数・持続時間など) 介入前の状態 介入(教授)スタート セッション(日数)
ベースラインと介入期(教授・援助)の比較をのためのいくつかのバリエーション A期:ベースライン期(当該対応なし) B期:ある対応(介入)をしている時期 1)ABデザイン 2)ABABデザイン(逆転デザイン) 3)マルチ・ベースラインD 4)マルチ・プローブD 5)チェンング・クライテリオンD 6)オルタネイテイング・トリートメントD
行動的コミュニティ心理学から ゴミ袋+10セント ゴミ袋配布 個別の行動に具体的随伴性 何もせず B C D A A A A ゴミ袋+「説得」 ゴミ袋配布 個別の行動に具体的随伴性 何もせず B C D A A A A
ABABデザイン(どんな変数の測定に使われる?) これは、目的と手法があまり適当ではない。 反応率・比率 など 同じ独立変数(B)の効果を、同一個人の中で反復検証する
ABABデザイン の実例
独立変数としての「ひらがな表カード」
A;ひらがな表なし B;ひらがな表あり
Bで試された変数は「援助設定」 A;ひらがな表なし B;ひらがな表あり
周囲の子供の社会的行動開始行動(initiation)が常動行動にどう影響? Lee & Odom(’96) 社会的相互行動 周囲の子供の社会的行動開始行動(initiation)が常動行動にどう影響? ABABデザイン 常動行動 A:周囲の子供は単に一緒に遊ぶことを指示されている B:周囲の子供(peer)が話しかけなどの口火を切る 独立変数は「?」設定
長期間のトリートメントの効果をみたABAB 偶発的にReversal条件(介入操作を抜く)操作が入り、ABABの実験スタイルになった例 (Carr & McDowell, 1980, Behavior Therapy, 11, 402-409.) Baseline(A条件):トリートメントなし Treatment(B条件): ●独立変数:自傷(ひっかく)したらタイムアウト/ 傷口が減ったら正の強化(特定の場所へドライブ等) (傷の数が2個減った週に限って施行) ●従属変数:自傷による「ひっかき傷」の数
偶発的 A A B A B
図1 ADHD児におけるリタリン投与と在室率 金山好美(2004)ADHD児の集団参加を促進する環境設定 実験の前半部:リタリンの投与が教室在室に及ぼす効果 A A B B 図1 ADHD児におけるリタリン投与と在室率 偶発的A
マルチベースライン(反転不能な教授設定に) 従属変数A 独立変数の導入をずらす 従属変数B ある独立変数の効果を、異なる行動あるいは異なる個人に おいて(再)確認(replication)する
マルチベースライン 「空手の行動的コーチング」(星野,2000) 標的行動:右下段廻し蹴り 従来の指導法(S) 「腰が入っていないのでもっと意識して」(抽象的) 行動的コーチング(B) 教示・モデリング・ 具体的行動を強化 具体的フィードバック
手話の本:環境成員の手話の獲得のために
A B 知的障害のある成人の手話獲得過程(Nozaki, et al. 1991)
設問 (応用)行動分析学で、ある独立変数と従属変数の因果関係を検討する際の実験デザインの特徴は? Single Subject Design (単一事例研究デザイン)の代表的なデザインを挙げよ。 ABABデザインでは、せっかくB期で「できたもの」をまたA期を繰り返して元に戻してしまうのは倫理的に問題がある、という批判に対して、どう応えるのか?(ヒント:「援助設定」の意味) 対人援助の実践において、行動分析学という方法を用いるメリットを、行動の表現・情報移行の必要性という観点から述べよ。
参考文献 ●アルバート・トルートマン: 「はじめての応用行動分析」(二瓶社) 参考文献 ●アルバート・トルートマン: 「はじめての応用行動分析」(二瓶社) ●望月昭(1997):コミュニケーションを教える” とは? 小林重雄(監修)山本・加藤(編) 「応用行動分析学入門」(学苑社),2-25. ●望月昭:「行動変化の観察と評価(講座3回連載)」、月刊実践障害児教育、21巻(10月号~12月号)、1993 http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/kenkyu.html 上記URLの当該引用部分の左端「・」の部分で原典リンク