サンデーショックによる 私立校試験日程の変化: 社会厚生と最適な試験日程 入試日程班 古池 朋和 杉浦 大貴 関 亘 小井戸 理敏 清水康成 高橋 春樹 石川 卓 新田 章太 小嶋 崇央
背景 約7年に1度,私立学校の試験日程の均衡が崩れる. 「サンデーショック」 例年の試験日が日曜にあたる場合,キリスト教系の学校は礼拝を 「サンデーショック」 例年の試験日が日曜にあたる場合,キリスト教系の学校は礼拝を 優先して試験日を変更.
サンデーショックの影響 キリスト教系の学校は礼拝を優先して試験日を変更 他校の試験日や合格者数も変化 競合しないように試験日をずらしたり,合格定員を増やすといった動きが見られる. 受験生の併願戦略が変化
先行研究 実証研究は存在するが,「入試日程決定問題」を ゲーム理論の観点から厳密に分析した研究は 見られなかった. 見られなかった. 生徒獲得競争の結果,難易度の近い学校の試験 日が特定の日に集中することは,Hotellingの立地 理論(顧客獲得競争)と同様の論理で起こると考えられる. そこで,立地理論を参考にしながら,試験日程決定問題の実験を行うことにした.
実験の目的 サンデーショックが学校,受験生にどのような影響を与えるかを実験によって調査し,社会厚生と最適な試験日程について考察する. 現在でも,私立校入試担当者はサンデーショックの影響について手探り状態. →本実験によって示唆を与える.
実験の設定1 サンデーショックが起こらない場合・・・ A C B D 2/1 2/2 左の図のような受験校の日程を 「実験者」で設定. 各受験校の難易度(偏差値),定員 生徒役10人を ・ a~jと定義し,成績をa>b>・・・>j ・それぞれキリスト教徒or not と設定 キリスト教徒はA校の受験には有利とする. キリスト教系学校 2/1 2/2 A B C D 受験校 A B C D 偏差値 4 5 3 1 定員 2 2 3 3
実験の設定2 サンデーショックが起こる場合・・・ B A B A C D B C A D B D A C C,D校の日程を「被験者」が設定. その他は「サンデーショックが起こる場合」と同じ設定. キリスト教系学校 2/1 2/2 B A ※例 2/1 2/2 2/1 2/2 2/1 2/2 B A C D B C A D B D A C
実験の方法 サンデーショックが起こらない場合→起こる場合 の順番で実験を実施. の順番で実験を実施. 生徒役10人:被験者10人にランダムで割振り. 学校役2人:被験者2人を固定. (サンデーショックが起こる場合のみ) 練習一回,本番五回を両方の場合で行う.
実験の手順 生徒役は意中の学校を受験し, 学校は定員に応じて受験者を成績順に合格させる. 生徒はランクの高い学校に優先的に入学するとした. 例 受験者 2/1 A:b,d,g,i,j 2/1 A:b,d,g,i,j B:a,c,e,f,h B:a,c,e,f,h 2/2 C:b,c,d,e,f,g 2/2 C:b,c,d,e,f,g D:h,i,j D:h,i,j =入学者 生徒b,c,dはランクの高い学校に 優先的に入学し,2/2のC校の入学者は b,c,d以降の三人となる.
結果と考察1 ・サンデーショックが起こる場合と起こらない場合の比較 生徒全体の利益 学校全体の利益 ともに,起こる場合 < 起こらない場合 (功利主義的社会厚生関数で計測) ・サンデーショックが起こる場合 観測された3つのパターンから平均利得を割り出し, 観測されなかったパターンでは実際のデータと選考表から平均利得 を算出し,下図のような利得表を作った. 割り当て法により算出 詳しくは補足を参照 D 2/1 2/2 2/1 (8.5,3.5) (7,4) C 2/2 (9,5) (9,3) この値がナッシュ均衡利得
結果と考察2 ナッシュ均衡となった試験日程 2月1日・・・難易度トップとボトム(B校とD校) 2月1日・・・難易度トップとボトム(B校とD校) 2月2日・・・難易度が近い学校同士(A校とC校) 2月1日では生徒獲得競争はない: 学力の高い生徒は2月2日に難易度2位のA校を 受験できるのでD校を受験せず,学力の低い 生徒がB校を受験しても合格できない.
結果と考察3 ナッシュ均衡となった試験日程の社会厚生: 他の試験日程との比較 社会厚生関数 生徒側の便益 学校側の便益 社会全体の便益 他の試験日程との比較 社会厚生関数 生徒側の便益 学校側の便益 社会全体の便益 功利主義的 最大 最大 最大 ロールズ型 最大 最大 最大 ナッシュ型 最大 最大 最大 (※ 社会全体の便益=生徒側の便益+学校側の便益) (1) 功利主義的社会厚生関数において,生徒側の便益は最大 ではなかったが,学校側と社会全体の便益は最大となった. (2) ロールズ型社会厚生関数,ナッシュ型社会厚生関数では どれも最大となった.(これらの厚生指標は公平性を測る.)
まとめ 試験日程では,難易度トップとボトムの学校を除いた 「難易度が近い学校同士が同じ試験日となる」 ■ サンデーショックは学校側,生徒側双方の社会厚生を低下させる. ■ サンデーショックが起きた場合,ナッシュ均衡となった 試験日程では,難易度トップとボトムの学校を除いた 「難易度が近い学校同士が同じ試験日となる」 → Hotellingの立地理論が示す「同質財を生産企業は(価格競争が無い場合)同じ場所に立地する」という結論に類似する. ■ 学校側,生徒側双方にとって,ナッシュ均衡となる試験日程はその他の試験日程よりも公平.
課題 実験の課題 今後の課題 来年度以降の実例を分析していく. →実際のデータを増やし,より正確な分析をしたい. (1)実際の学校数,定員などを反映 (2)実際の試験では,生徒は挑戦的に自分より偏差値の高い学校を受験するとは限らない. 今後の課題 実際のサンデーショックは実験より複雑で,簡単に結論づけることができない. サンデーショックは過去の例が少なく,また近年では中学受験への関心が高まっている. 来年度以降の実例を分析していく. →実際のデータを増やし,より正確な分析をしたい.
以下補足
立地理論 ・Hotelling(1929) 線分上に2企業が1店舗ずつ立地させる場合, 価格が外生的に与えられているならば,両企業が 線分上に2企業が1店舗ずつ立地させる場合, 価格が外生的に与えられているならば,両企業が 線分の中心に立地し、消費者の移動コストを最小 にする1/4と3/4の地点への立地が実現しない.
割り当て方法 e.x. 生徒Cの場合 2/1 2/2 2/2 (1回) B (0回) C A (1回) D (0回) (0回) A
割り当て方法 e.x. 生徒Cの場合 2/2 2/2 (1回) B A (3回) (2回) B A (2回) (1回) C (0回) D 2/1 2/2 2/1 2/2 (1回) B A (3回) (2回) B A (2回) (1回) C (0回) D C (0回) (0回) D ( )の中は生徒Cが選択した回数 以上の結果から考えて生徒Cは2/1にB 2/2にAを受験するよう割り当てた.
選考表 a B A e B C B A B C b f c B g B A C d h B A B D B B e C i D 生徒 生徒 2/1 2/1 2/2 2/2 a B A e B C B A B C b f c B g B A C d h B A B D B B e C i D