第5回 黒体放射とその応用 東京大学教養学部前期課程 2012年冬学期 宇宙科学II 松原英雄(JAXA宇宙研)

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第5回 黒体放射とその応用 東京大学教養学部前期課程 2012年冬学期 宇宙科学II 松原英雄(JAXA宇宙研)

黒体放射とは? 放射吸収する物質と熱平衡にある放射のこと。黒体放射する物質の量・表面の性質は関係ない 全く同じ放射 黒体=完全吸収体 黒体 の壁 黒体 黒体放射 背後から来る光は 完全に吸収 一部が透過 背後から来る光 物質からの放射 通常の物質

キルヒホップの法則 放射輸送の式(4.24)で左辺=0とおく: (5.2) 天井も床も同じ温度Tの箱を考えましょう。天井は黒体、下の箱の床は反射率がRの物質でできているとします。    床Bからの反射光+床Bの放射光=天井Aの放射光 R・B(T)+IB=B(T) IB=B(T)ーR・B(T)      =(1-R) ・B(T)      =E・B(T) 床から放射される光 E・B(T) は同時に床が吸収する光の量に等しい:(吸収率をAとすると) A・B(T)=  E・B(T) 床 B (温度T) 黒体天井 (温度T) IB B(T) R・B(T)

振動数nの光子の量子状態の数 一辺がLの立方体を考え、その中にある光子の量子状態数をもとめましょう。量子力学では光子が箱の中で安定な波になっていると考えます。その条件は x、y、z の各方向で辺長 L が波長の整数倍になることです。 L/λX = 1,2,3、...、  L/λY = 1,2,3、...、  L/λZ = 1,2,3、... ですが、電磁波には2成分の偏光があるので2倍して、L3の箱内の安定な光子の量子状態の数 ΔNBox は、 ΔNBox = 2Δ(L/λX)・ Δ(L/λY)・ Δ(L/λZ)  で与えられます。単位体積当たりの状態数 ΔNUnit は、箱の体積で割って ΔNUnit = ΔNBox/L3 = 2Δ(1/λX)・ Δ(1/λY)・ Δ(1/λZ) です。 光子の密度を振動数ν空間で考えると ( ΔVν 振動数空間での体積要素) ΔNUnit =(2/c3)Δ(c/λX)・ Δ(c/λY)・ Δ(c/λZ)       = (2/c3)Δ(νX)・ Δ(νY)・ Δ(νZ)= (2/c3) ΔVν      球座標で書くと ΔVν = ν2dΩdν よって ΔNUnit = (2/c3) ν2dΩdν      (5.10) 式 参考: http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html

黒体輻射の数値表現 h=6.626×10-34 Js, k=1.381×10-23 J/K, c=2.998×108 m/s 参考: http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html G: 黒体輻射

Planck Spectra T=6000K T=6000K 波長 (cm) 振動数(Hz) 波長 (cm) 振動数(Hz) http://www.shokabo.co.jp/sp_e/optical/labo/bb/bb.htm

レーリージーンズ領域 傾き一定、 強さはTに比例 ウィーン領域 傾きと強さが 大きく変化する http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html G: 黒体輻射

天体からの(近似的に)黒体放射の例 赤外線でみた 燃えるマッチを持つ人

黒体輻射スペクトルの例 天体 典型的な温度 宇宙開闢の頃 1032 K 高温降着円盤 109-13 K 低温降着円盤 107 K 中性子星表面 太陽中心 白色矮星表面 10000 K 高温度星表面 太陽表面 6000 K 宇宙の晴れ上がり 4000 K 星間雲 10 ‐100K 現在の宇宙背景放射 2.74 K http://www.shokabo.co.jp/sp_e/optical/labo/bb/bb.htm

第5回の問題 問5-1. 黒体放射のフラックスは で与えられる。これを計算して となることを示せ。ただし また次の関係は使って良い。   で与えられる。これを計算して   となることを示せ。ただし (シュテファン・ボルツマン定数)   また次の関係は使って良い。

ところで、 天体からの放射はどういうときに黒体放射になるのか? 注: 放射物質が熱平衡だからといって放射が黒体とは限らない。

放射が黒体になる条件(1) 物質が熱平衡にあること 源泉関数Sn=Bn(T)が成立すること。 必ずしも、物質の温度と放射場の温度が同じとは限らない。 放射場は非熱的な場合もある:レーザー/メーザー 以下の場合には動力学的な温度=放射場の温度が成立 条件① 系の大きさが平均自由行程よりも十分に大きいこと 条件② 平均衝突時間が系の年齢よりも十分に短いこと 条件③ 物質が放射場光子を非弾性散乱する機能を持つこと(色々な光の振動数に変換できること)

放射が黒体になる条件(2) 光学的に十分に厚いこと In = In(0)exp(-tn) + B n(T) (1 - exp(-tn)) なので、 tn >> 1が必要。 星間塵のように、波長によって光学的厚みが著しく異なる場合、近赤外線ではBlackbodyでも、遠赤外~サブミリ波では  In = tnB n(T)~nb B n(T) (b=1-2) となる ★天体(特に希薄な宇宙空間)は一様温度とは限らない:  そのときでも局所的になりたっている場合が多い(局所熱力学的平衡:LTE) 熱平衡を達成するには衝突緩和時間に比べて十分長い時間が必要。 銀河間空間のプラズマ: 電子と陽子で温度が違う可能性がある: teq(e,e) ~ 3.1×105 (Te/108K)3/2(ne/10-3cm-3)-1 yr teq(p,p) = √(mp/me) teq(e,e)    ~ 1.3×107 (Te/108K)3/2(ne/10-3cm-3)-1 yr