馬パラチフス 馬科動物の生殖器感染症
馬パラチフス(届出伝染病) 馬、ろばなどの馬科の動物のみに感染。 1983年に米国で初めて原因菌が分離報告され、以降世界各国で発生が確認された。 日本では北海道釧路地方の重種馬を中心に発生が続いている。 感染は経口的に起こるが、流産胎子や胎盤には大量の菌が含まれており、しばしば集団発生につながる。 精巣に感染した種牡馬との交配による交尾感染も起こる。 感染馬の一部が保菌馬となり、胸骨骨髄が長期保菌部位とされる。
馬パラチフスの原因菌 Salmonella enterica subsp. enteritica serovar Abortusequi (Salmonella Abortusequi : 馬パラチフス菌)が原因菌で、運動性を示すグラム陰性菌である。 Salmonella Abortusequiの抗原構造式は[4, 12 : - : e, n, x]で1種類の鞭毛しか発現しない。 本菌は硫化水素を産生せず、炭素源としてクエン酸を利用せず、粘液酸を発酵しないなどの生化学的特徴を示す。
馬パラチフスの症状 流産はどの時期にもみられるが、特に妊娠後期に起こりやすい。 胎齢約5カ月の流産胎児。 体表は混濁し不潔感がある。 流産はどの時期にもみられるが、特に妊娠後期に起こりやすい。 流産に先立って発熱や乳房炎が認められることがあるが、何の予兆もなく突然流産することもある。 子馬では敗血症や関節炎などを、成馬では膿瘍、関節炎、き甲瘻、精巣炎などを起こす。
流産胎子には、諸臓器の充出血、体表の混濁、不潔感などが認められる。 本病の病変は、他の細菌性流産と共通点が多く、特徴的な所見はない。 馬パラチフスの病変 流産胎児の肺。 実質に漿液を含み腫大 流産胎子には、諸臓器の充出血、体表の混濁、不潔感などが認められる。 本病の病変は、他の細菌性流産と共通点が多く、特徴的な所見はない。
馬パラチフスの診断法 流産例では胎子、胎盤、悪露などから菌分離を行う。 胎子では胃液が最も分離に適している。 流産胎児胃液の光学顕微鏡像(ギムザ染色)。 球桿菌が多数認められる。 流産胎児の混濁した胃液 流産例では胎子、胎盤、悪露などから菌分離を行う。 胎子では胃液が最も分離に適している。 保菌馬の検査では、胸骨骨髄から菌分離を行う。 原因菌は他のサルモネラに比較して増殖が悪いので、選択培地を使用する際には注意を要する。 血清診断は、市販の抗原を用いた試験管内凝集反応で1:1280以上を示した血清を陽性と判定するが、他のサルモネラ感染でも陽性を示すので注意する。
馬パラチフスの予防・治療 現在、本病に有効なワクチンは開発されていない。 流産が発生した場合は、胎子や胎盤の処分、感染馬の隔離、消毒などの衛生対策を徹底する。 治療法は未確立であるが、ニューキノロン系抗菌剤が有効である。 子馬の敗血症の治療に免疫血清が用いられることもある。