ビデュリオン vs リキスミア ~インスリンと併用ができるかどうか~ HDC アトラスクリニック院長 日本医科大学客員教授 鈴木 吉彦 M.D. 今後、日本のGLP1受容体作動薬の市場を、3分、するだろうと予測される、ビデュリオン、と、リキスミア、ビクトーザについて、私の私見を、お話させていただきたいと思います。既に、ビデュリオンは、発売が5月と速かったことから、かなりの多くの症例を経験することができました。そこで、実感したことは、やはり、インスリンを併用できるか、できないか、が、この2剤の特徴を、大きくわけるのだろう、という実感であります。なぜ、私が、そういう発想をするようになったのか、、との経緯を、お話したいと思います。
ビデュリオン投与後52週までの HbA1c値の推移(GWCK試験) ビデュリオン (n=78 ) バイエッタ/ビデュリオン (n=77) (%) 9.0 試験薬投与期間 継続期間 (バイエッタはビデュリオンに切り替え) この間の12週間を 我慢できるか・・・ 8.0 HbA1c値 7.0 ~ 平均値±標準誤差 ビデュリオンは、ドラッグナイーブの症例などに、もし注射できたり、他の、肥満だけを解消したいという患者に対して、処方する時には、たやすく処方できる薬剤です。悪心、嘔吐も少ないし、1週間に1回でいい、ということが、とても、患者さんには、安心感を与えます。ところが、困ったことに、実臨床では、バイエッタからの切り替えや、Botからの切り替えを希望する患者が、あとを立ちません。そういうケースになると、このスライドに示したように、HbA1cは、一過性に、悪化します。このHbA1cが悪化し、落ち着いてくるまでの間の、6週間から12週間、人によっては、18週間かかる場合もありますが、それを、我慢できるか、というのが、ビデュリオンを処方する時の、最大のトラブルになっています。 4 8 12 20 26 30 34 38 46 52 (週) 対 象 : 経口血糖降下薬単剤(スルホニルウレア剤、ビグアナイド系薬剤、チアゾリジン系薬剤)または2種類併用のいずれかを服用しても効果不十分な20歳以上の日本人2 型糖尿病患者 155例 方 法 : 無作為化非盲検並行群間比較試験。ビデュリオン2mg週1回皮下注射(78例)又はバイエッタ10μg1日2回皮下注射(投与開始後4週間は5μg:77例)にて26週間投 与した。続いてすべての被験者にビデュリオンを26週間投与した。 バイエッタは承認された効能・効果と異なる患者(スルホニルウレア剤非併用)を含む 承認時評価資料:アジア地域での第Ⅲ相比較試験(GWCK試験)52週 Onishi Y. et al.: J Diabetes Invest. 4: 182-189, 2013(GWCK試験)
ビデュリオンはビクトーザと バイエッタの欠点を補っている ●ビデュリオンの長所 ●ビデュリオンの欠点 ①作用時間が長く、週1回投与なので、QOLが向上が期待できる。 ②悪心、嘔吐が、従来のGLP-1製剤より少ない。 ③GLP-1タキフィラキシーが少ない。RHGTも少ない可能性が高い。 ④人前で投与する事がない。長期の旅行など薬剤の持ち歩きがない。 ⑤注射に対する心理的抵抗感が少ない。 ※RHGT:Rebound Hyperglycemia of GLP-1 Tachyphylaxis ●ビデュリオンの欠点 ①注射部位の違和感(硬結・結節)の頻度が高い。 ②投与準備(キット組立て)が複雑である。(高齢者の自己注は困難) ③他のGLP-1製剤からの切り替えでは一時的な血糖コントロールが悪化。 ※空腹感を思い出すという、人としての「自由」を奪われかねない。 (ただし、この「抗肥満作用」として活用すれば、欠点が長所にも なる。特に、大柄の肥満患者の血糖コントロールに成功する。) ビデュリオンは、日本初の、1週間に1回の製剤です。その意味では、画期的ですし、ここに示してような長所をもっています。例えば、①作用時間が長く、週1回投与なので、QOLが向上が期待できる。 ②悪心、嘔吐が、従来のGLP-1製剤より少ない。 ③GLP-1タキフィラキシーが少ない。RHGTも少ない可能性が高い。 ④人前で投与する事がない。長期の旅行など薬剤の持ち歩きがない。 ⑤注射に対する心理的抵抗感が少ない。 などです。ところが、残念ながら、欠点もあります。例えば、①注射部位の違和感(硬結・結節)の頻度が高い。 ②投与準備(キット組立て)が複雑である。(高齢者の自己注は困難) ③他のGLP-1製剤からの切り替えでは一時的な血糖コントロールが悪化。という点です。なお、ビデュリオンは、いつも、食欲中枢を抑制してくれています。ですから、それは、空腹感を思い出すという、人としての「自由」を奪われかねない、ということにも繋がります。実際、これをメリットとして考えるか、デメリットとして考えるかは、人によります。大柄の肥満男性にとっては、これは、メリットになるかもしれません。しかし、そうでなくても、衰弱しやすいご老人たちにとっては、これは、デメリットになりやすい特徴と言えるのです。
リキスミア、バイエッタ・ ビデュリオン ビクトーザ (バイエッタ・ビクトーザの応用) (GLP‐1製剤の基本を習得する) ビデュリオンは、バイエッタより導入が困難な場合もあります。なので、まず、リキスミアや、バイエッタの導入により、患者個々の消化器系副作用・食欲低下などの反応を診てから初めても遅くはないと考えています。 まず、リキスミア、バイエッタ・ビクトーザ等の処方経験がある糖尿病専門医が、処方するのが良い薬剤であると考えます。 リキスミア、バイエッタ・ ビクトーザ (GLP‐1製剤の基本を習得する) ビデュリオン (バイエッタ・ビクトーザの応用) したがって、リキスミアを処方するか、ビデュリオンを処方するか、は、こうした、長所と欠点を、よく医師が熟知しておく必要があります。つまり、ビデュリオンは、バイエッタより導入が困難な場合もあります。なので、まず、リキスミアや、バイエッタの導入により、患者個々の消化器系副作用・食欲低下などの反応を診てから初めても遅くはないと考えています。まず、リキスミア、バイエッタ・ビクトーザ等の処方経験がある糖尿病専門医が、処方するのが良い薬剤であると考えます。イメージで言うと、リキスミアやバイエッタは、GLP-1という薬剤を使ってキャッチポールをするくらい、優しい治療法になります。ところが、ビデュリオンは、HbA1cが、一時的にあがってしまうので、患者と友に、HbA1cがさがってくるのを待つ必要があります。その間は、心理作戦になり、じっくりと患者の病状を観察していく必要があります。HbA1cが、あがって、もし、下がってこないようであれば、患者からの信頼を失ってしまいます。週に1回の注射になれてしまった患者が、1日1回のリキスミアに、戻るのは、かなり心理的な抵抗がある患者が多いので、注意が必要です。したがって、リキスミアやバイエッタから、ビデュリオンに移行する時には、かならず、もとの世界に戻ることがありますからね、と、患者に説明しておく必要があります。メジャーリーグのピッチャーは、いつも勝てるとは限りません。もし、なかなか、ビデュリオンで、血糖コントロールが巧くいかないとわかったら、すぐに、次のピッチャーに交代できるよう、ビデュリオンを処方する前に、しっかりと、患者さんに意志確認をしておく必要があるのです。
また、ビデュリオンは、インスリンとの併用が認められておりません。これは、HbA1cの改善効果でもなく、他の副作用のせいでもありません。実は、ビデュリオンは、空腹時血糖値をさげるという効果が強い薬剤であるから、なのであります。リキスミアと違い、ビデュリオンは、夜中でもGLP-1濃度が高い状況が続くため、夜間の高血糖も改善します。したがって、ビデュリオンを処方する時には、就寝前のインスリンは、注射するのは、怖い、ということになります。
これが、空腹時血糖値を、ビデュリオンと、バイエッタとの比較した場合の、比較です。バイエッタは、1日2回ですが、夕方に注射したバイエッタは、夜間には、その効力がきれてしまい、空腹時血糖値をさげるまでには、至りません。つまり、空腹時血糖値を下げないで、そこから、再度、血糖コントロールを行うという作業を繰り返すことになり、なかなか、効き目が定着しないということになります。それに対して、ビデュリオンは、空腹時血糖値を、しっかり下げてくれます。ですから、空腹時血糖値を下げることを目標として、治療を始める場合には、バイエッタより、ビデュリオンのほうが、優れていることを示しています。
この空腹時血糖値 を下げるか、下げにくいか の差が後になり、大きな 差になり現れてくる。 これは、左がビデュリオンを処方した時の1日の血糖値カーブの変化です。右は、バイエッタを処方した時の血糖値カーブの変化を示します。バイエッタは、朝と夕方に注射しますが、昼は、血糖値が高くなることがわかります。また、夕食後2時間は、プロットしていますが、就寝前の血糖値は、プロットしていませんが、昼の血糖値のあがりをみると、バイエッタでは、就寝前の血糖値は、やや高めになるのかもしれません。ところが、ビデュリオンの場合には、食後の高血糖を下げるというよりも、1日全体の血糖プロフィールを、さげます。食後高血糖を低下させる力は、バイエッタには、及ばないようです。こうなると、バイエッタと、ビデュリオンは、血液中を流れる成分は、エクセナチドという薬品ではあり、同じではありますが、製品としては、全く異なる製品であるという理解をしておかなくてはなりません。特に、ビデュリオンは、空腹時血糖値を、ぐんと、さげる力をもった薬剤であるのです。 この空腹時血糖値 を下げるか、下げにくいか の差が後になり、大きな 差になり現れてくる。
4〜6週間で突然に 空腹時血糖値が下がる。 15週間超えてくるとFBSが 上がってくる。安心して慣れが 起こる。過食が始まる。しかし、 就寝前ランタスとの併用は 低血糖の危険を増すので 難しい 15週間超えてくるとFBSが 上がってくる。安心して慣れが 起こる。過食が始まる。しかし、 そこにランタスを追加すると、 体重が増え、HbA1cが上がる。 ところが、ビデュリオンの、この空腹時血糖値をさげやすいという特徴が、インスリンとの併用を、難しくしてしまっているのです。このカーブに認められるように、ビデュリオンを処方すると、3週間から6週間の間に、急激に空腹時血糖値が下がるのが、分かるのです。実際の臨床を行っていると、この時期が、とても、危ない、危険であると考えます。特に、ビデュリオンとアマリールなどのSU剤と併用している場合には、注意が必要です。ましてや、この時期に、もし、就寝前ランタスを注射していたとしたら、空腹時血糖値は、下がりすぎてしまっていただでしょう。この時期に、この事態を予測して、就寝前ランタスの量を減らしておくなどというテクニックを使うのは、現実問題として、困難です。また、この空腹時血糖値の低下は、4週間ごろになり、突然、患者さん自身が気がつくことが多いのです。なかなか、下がらないとおもっていた患者さんたちが、突然、下がったという報告をされます。このように、空腹時血糖値は、急に、さがるので、なので、なおさらに、インスリンとの併用は、難しいと考えられるわけです。まだ、私の外来では、18週目以降になっている患者は多くはないのですが、このグラフをみると、15週目以降に、多少、リバウンドを起こしてくるようですが、これは、安心して、多少、過食傾向になってしまうからなのでしょう。しかし、もし、そこにインスリンを併用すれば、今度は、体重が増えていきます。過食を、インスリンは促進させてしまうでしょう。こうした意味もあって、ビデュリオンには、インスリンとの併用は、勧められないと、私は、考えております。
アマリールの食後服用の可能性(?): 今後は要検討 GLP1受容体作動薬で吐気がでてきた頃には アマリールは、食前投与だと、低血糖を 起こすことがある。 心配であれば、アマリールを食後内服を勧めることもあり。導入時には特に注意が必要。 Case 実例:男性50歳台。ビデュリオン投与後に数週目で電話あり。アマリールを朝、服用したが、朝食が食べられなかった。すると、昼食前に、急激な寒気が襲ってきて、布団に はいって寝ていたら治った。低血糖でしょうか?という質問。 ビデュリオンだけでなく、リキスミアでも起こる可能性はあり。 もう、ひとつ、GLP1受容体作動薬を初めて気がつくことは、ビデュリオンも、リキスミアも、だんだん、作用が強くなり、効果がわかってくると、食事を前にしても、食べたくない、という場合がおこってきます。その場合、例えば、朝、アマリールを内服していたとします。ところが、実際、食事をとろうとおもったら、食べられなかったという患者さんがおりました。その患者さんから、突然、電話がありました。昼前になって、急激に、寒気がおこってしまって体調が悪くなったとのことです。アマリールを服用したが、結局、朝食をたべなかったわけですから、低血糖を起こしてしまうのは、当然です。さっそく、ブドウ糖を補給するように指示しました。このイベントは、実際には、ビデュリオンの、4週間目くらいで、おこった現象ですが、GLP1受容体作動薬には、同じような事故がおこる可能性が常にあります。ですから、リキスミアやビデュリオンが、効いてきた、と思った時には、アマリールは、あえて、食前投与ではなくて、食後投与にしておいたほうが、安心です。この議論は、私が、最近に考えはじめたものですが、こうしたアマリールは、食前か、食後でも大丈夫か、という議論は、これから、より多くの臨床家の間で、議論されていくことでしょう。
BOT(DPP4阻害薬を含む)からの切り替えにおいては (イメージ像) BOT、すなわち、basal oral supported therapyを、行っている患者であれば、もともと、就寝前にランタスを注射しているケースが多いはずです。そのため、就寝前のランタスに、朝にリキスミアを追加する、というのは、きわめて、すごい簡単に行える治療です。他の血糖降下剤を整理する必要はありますが、朝の注射も自宅で注射し、就寝前の注射も自宅で、できますので、患者さんは、注射器を、外出時にもちあるく必要がありません。ですから、リキスミアとランタスとの併用は、比較的、優しく、糖尿病専門医でなくても、一般内科医師でも、すぐに、処方できる処方ではないか、と考えます。これに対して、ビデュリオンのような週1回製剤は、うまくいった時には、とても、患者によろこばれます。しかし、誰もが、確実に血糖コントロールが成功するとは、限りません。18週間、待っていても、HbA1cが、全く下がらないというケースも、私は経験しています。そうした患者さんは、週に1回から、なかなか、1日1回の注射に戻るというのは、難しいのですが、そこは、しっかりと、ビデュリオンを始める前に、患者さんに、説得しておく必要があります。いずれにしても、ビデュリオンは、インスリン分泌が十分にあり、食事や運動療法がしっかり行えていないと、なかなか、成功しにくい場合があります。ですから、あらかじめ、インスリンが必要だった患者さんにおいては、まず、基礎インスリンをランタスで、就寝前に注射しておいて、空腹時血糖値をさげておいて、リキスミアでは、1日の食後高血糖を抑制する、というように、明確に目的をわけておいたほうが、血糖コントロールの術としては、やさしい治療法と言えるでしょう。 週1回製剤の GLP1受容体作動薬 への切り替え リキシセナチドと インスリンとの併用