商学研究入門 第15回 「研究のフロンティアからみた日本経済」 2014年1月17日 財政赤字のマクロ経済学 商学研究入門 第15回 「研究のフロンティアからみた日本経済」 2014年1月17日 財政赤字のマクロ経済学 畑農鋭矢(はたの・としや)
財政は破綻するのか?
出所:OECD Economic Outlook 2010. 政府債務/GDP 出所:OECD Economic Outlook 2010.
財政危機説に対する異論・反論 粗債務で見てはいけない。純債務。 経済成長で解消できる。 国債の金利は安定している。
出所:OECD Economic Outlook 2010. 政府資産/GDP 出所:OECD Economic Outlook 2010.
出所:OECD Economic Outlook 2010. 政府純債務/GDP 出所:OECD Economic Outlook 2010.
ドーマー定理(命題) ~財政は破綻しない?
ドーマー定理とは? 証券投資用語辞典 ドーマーの定理とは (ドーマー定理①) 1940年代にドーマー教授によって提唱された。それによると、経済成長率が利子率を上回れば財政は破綻しない。
ドーマー定理の異なる説明 橋本徹ほか(2002)『基本財政学[第4版]』 毎年の国債発行がGDPの一定割合にとどまるならば、国債残高の対GDP比率は一定の値に収束し、財政破綻は生じない。 (第7章、159ページ) 林宜嗣(2005)『基礎コース 財政学 第2版』 公債発行額の伸びがGDPの伸びと同じであるなら、国債残高の対GDP比率や利払費のシェアは一定の値に収束し、財政破綻は生じない。 (第3章、53ページ)。
ドーマー教授の説 Domar, Evsey D., (1944) “The Burden of the Debt and the National Income,” American Economic Review, 34(4), pp.798-827. (E.D.ドーマー[宇野健吾訳](1959)『経済成長の理論』東洋経済新報社.) (ドーマー定理②) 国債発行(財政赤字)がGDPの一定割合であれば、国債残高の対GDP比は一定の値に収束し、財政破綻は生じない。
二つのドーマー定理 ドーマー定理① (プライマリーバランスの赤字がGDPの一定割合のとき)、経済成長率が利子率を上回れば財政は破綻しない。 ドーマー定理② 国債発行(財政赤字)がGDPの一定割合であれば、国債残高の対GDP比は一定の値に収束し、財政破綻は生じない。 ⇒ドーマー条件
ドーマー条件のルーツ探索1 ドーマー条件 海外文献に”Domar Condition”は存在しない 文献検索すると・・・ 望月正光(1981)「ドーマー公債負担論の再検討―公債累積と財政破綻―」『経済と経済学(東京都立大学)』第46号:143-157ページ. 米原淳七郎(1981)「財政赤字と公債負担―ドーマー理論再考―」『広島大学経済論叢』第4巻3号:105-118ページ.
ドーマー条件のルーツ探索2 望月(1981)から見つかる文献 米原淳七郎(1977)『地方財政学』有斐閣. 荒憲治郎(1980)「経済成長と公債依存度」,荒憲治郎・伊藤善市・倉林義正・佐藤隆三・宮沢健一編『戦後経済政策論の争点』第13章:207-215ページ. 野口悠紀雄(1980a)『財政危機の構造』東洋経済新報社.
ドーマー条件のルーツ探索3 米原(1981)から見つかる文献 野口悠紀雄(1980b)「赤字財政の意味を考える」『税(ぎょうせい)』第35巻2号:4-16ページ. 野口(1980b)から見つかる文献 米原淳七郎(1979)「増税の論理」『税(ぎょうせい)』第34巻11号:4-18ページ.
ドーマー条件のルーツ 米原淳七郎(1979)「増税の論理」『税(ぎょうせい)』第34巻11号:4-18ページ. 荒憲治郎(1980)「経済成長と公債依存度」,荒憲治郎・伊藤善市・倉林義正・佐藤隆三・宮沢健一編『戦後経済政策論の争点』第13章,207-215ページ. 結論 「ドーマー条件」の呼称は「米原・荒 条件」に改めるべき
誰がドーマー条件を広めたか これまで挙げた文献はドーマー条件の内容を記しているが、「ドーマー条件」の呼称を用いていない! 誰が「ドーマー条件」と名付けたのか? 最古のテキスト・・・ 本間正明編(1990)『ゼミナール現代財政入門』(初版)日本経済新聞社.
犯人捜し 検索すると・・・ 岩田一政(1990)「中長期財政政策運営とマクロ経済」『フィナンシャル・レビュー』:21-38ページ(該当箇所は24ページ). 植田和男(1986)「経常収支と為替レート」『金融研究』(日本銀行金融研究所)5巻1号:11-27ページ(該当箇所は19ページ). 木下信行(1986)「財政危機の現状と要因」,深尾光洋編『日本の財政・金融問題』第1章(該当箇所は22-24ページ).
大蔵省(財務省)? 参議院会議録情報「第101回国会 大蔵委員会 第20号(1984年6月19日) 「修正ドーマー理論」の記述 参議院会議録情報「第101回国会 大蔵委員会 第20号(1984年6月19日) 「修正ドーマー理論」の記述 修正ドーマーモデル ――(1984)「公債残高累増と我が国経済社会(財政制度審議会)」『ファイナンス』(財務省広報誌)19巻11号:31-37. ドーマー条件の育ての親は大蔵省! 現在ではドーマー条件に否定的
財政赤字の負担~中立命題
国債を発行しない場合 当初の所得は110 時点 1 2 3 家計A 所得 110 - 税 10 可処分所得 100 消費 50 貯蓄 -50 - 税 10 可処分所得 100 消費 50 貯蓄 -50 家計B 政府 支出 税収 国債(赤字)
中立命題の考え方 時点 1 2 3 家計A 所得 110 - 税 10 可処分所得 -10 消費 50 貯蓄 60 -60 家計B 100 - 税 10 可処分所得 -10 消費 50 貯蓄 60 -60 家計B 100 -50 政府 支出 税収 20 国債(赤字)
世代間移転 時点 1 2 3 家計A 所得 110 - 税 可処分所得 消費 55 貯蓄 -55 家計B 20 90 45 -45 政府 - 税 可処分所得 消費 55 貯蓄 -55 家計B 20 90 45 -45 政府 支出 10 税収 国債(赤字) -10
リカード=バローの中立命題 10 時点1 時点2 時点3 家計A 所得 110 - 税 可処分所得 消費 50 貯蓄 60 -50 遺産 - 税 可処分所得 消費 50 貯蓄 60 -50 遺産 10 家計B 相続 20 100 政府 支出 税収 国債(赤字) -10
中立命題と遺産動機 利他的遺産動機 中立命題成立の必要条件 戦略的遺産動機 介護などとの交換動機 偶発的(意図せざる)遺産 不確実性に備えた貯蓄が死亡によって残存してしまうケース
中立命題の実証分析 中立命題の基本構造 現在 Yt-Tt=Ct+St 将来 Yt+1-Tt+1=Ct+1+St+1 中立命題の成否 アプローチ 伝統的 消費関数 異時点間 最適化モデル 世代重複モデル 流動性制約 基礎研究 Kormendi (1983) Aschauer (1985) Blanchard (1985) Hayashi (1982) 中 立 命 題 の 成 否 ○ 本間他(1987), 井堀(1987) 井堀(1986),本間他(1986),長峰(1987) Ihori (1989), Ihori et al. (2001) , 柴田・日高(1992) Hayashi (1982), 柴田・日高(1992) × 落合(1982), 本間(1996) 畑農(2009) 竹中・小川(1987),Jappelli and Pagano (1989) ,Campbell and Mankiw (1989, 1991), 畑農(2009)
リカードの中立命題とバローの中立命題 リカードとバローの違い リカードの中立命題 世代交代のない場合 バローの中立命題 世代交代のある場合
リカードの中立命題は2つある リカードの主著『経済学および課税の原理』 世代交代のないケースの記述 「Funding System」(公債制度論) 「金額はいくらでもいいのだが、かりに二万ポンドを所有している人に年額五〇ポンドを永久に支払いつづけることと、一〇〇〇ポンドの租税を一度に支払うのとは負担としては同額だと信じさせるのは難しいであろう。彼は、年額五〇ポンドが子孫によって支払われるのであり彼が支払うのではないであろう、という漠然とした考えをもつのである。しかし、もし彼がその財産を息子に残し、しかもその財産とともに永久的な租税をも残すとすれば、彼がこの租税負担付きの二万ポンドを息子に残すことと、租税負担なしの一万九〇〇〇ポンドを残すことにどんな違いがあるというのであろう?」(磯村隆文訳「公債制度論」『リカードウ全集Ⅳ 後期論文集』雄松堂出版,227-228ページ.)
中立命題に関する誤った理解 以下のような理解は誤り リカードの中立命題=世代交代のない場合 バローの中立命題=世代交代のある場合 しかし、公務員試験での出題あり