多彩な肝病変を呈した Rendu-Osler-Weber病の1例

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多彩な肝病変を呈した Rendu-Osler-Weber病の1例 札幌医大第1内科 一内太郎、一内次郎、一内三郎、一内花子 教授一郎 市立某総合病院内科 一内五郎

Case 患 者 66歳,女性 主 訴 特になし 既往歴 40歳時耳鼻科にてRendu-Osler-Weber病と診断 家族歴 患 者 66歳,女性 主 訴 特になし 既往歴 40歳時耳鼻科にてRendu-Osler-Weber病と診断 家族歴 鼻出血傾向を有する同胞複数 現病歴 昭和63年頃より、高血圧にて前医通院。腹部エコー検査にて、肝嚢胞が指摘されていた。平成13年7月、肝機能障害を指摘され、造影CTにて、肝内に濃染するSOLを認め平成14年1月前医入院。血管造影にて肝動脈瘤が疑われたため、精査加療目的に同年3月当科紹介入院となる。 現 症 身長 149.8 cm、体重 49.9 kg、血圧 120/60 mmHg、脈拍 78回/分(整)、体温 36.7 ℃、意識清明。眼球結膜に黄疸を認めず、眼瞼結膜に貧血を認める。腹部に理学的異常所見なし。舌、手指末端に、点状の毛細血管拡張像を認める。

Laboratory data on admission Peripheral blood Biochemistry Serology WBC 3000 /ml T.P 5.2 g/dl HBsAg ( - ) RBC 223×104 /ml Alb 3.3 g/dl HCVAb ( - ) Hb 6.5 g/dl T.Bil 0.3 mg/dl CRP 0.1 mg/dl Ht 20.3 % D.Bil 0.0 mg/dl Faeces Plt 27.5×104 /ml ZTT 3.8 K-U occult blood TTT 0.4 M-U Coagulation グアヤック ( - ) AST 21 IU/l APTT 30.2 sec 抗体法 ( - ) ALT 20 IU/l PT 94.4 % ChE 166 IU/l Urinalysis LDH 277 IU/l Protein ( - ) 入院時検査成績を示す。 貧血および胆道系酵素の上昇を認めた。 Tumor marker g-GTP 117 IU/l Glucose ( - ) AFP 2.8 ng/ml ALP 447 IU/l Occult blood ( - ) PIVKA-II 20 mA/ml BUN 17 mg/dl Cr 0.5 mg/dl T-Chol 146 mg/dl TG 80 mg/dl

Mucocutaneous findings 皮膚粘膜所見を示す。 手指末端および舌に点状の毛細血管拡張所見を認める。 fingertip tongue

Plain US 腹部超音波検査では、S4に31.8x28.2mmの嚢胞性病変を認めた。肝右葉にも嚢胞性病変を認め、それに連続するように蛇行した脈管構造を認めた。

Color Doppler A-V shunt? LHV LHV 動脈瘤様構造から左肝静脈に連続するような脈管構造を認め、左肝静脈のFFT解析では拍動性分の混入を認め、A-V shuntが疑われた。 LHV

Computed tomography CT所見を示す。上段に単純、下段に動脈相を示す。内側区に嚢胞状の主病変を認める。動脈相では、肝静脈の早期描出を認め、AV shuntが疑われた。S4病変と拡張した肝内動脈との連続性が疑われた。

3D-CT and DSA LHV RHV 3D-CT LHA P-SMA 左上の3DCTでは、肝内に流入する副左肝動脈と内側区の肝内動脈瘤との連続性が明瞭に認められた。間接的門脈造影では、門脈の描出と共に、右肝静脈が描出されP-V shuntが疑われた。副左肝動脈の造影では、肝内動脈瘤の描出とほぼ同時に、左肝静脈が描出され、A-V shuntが疑われた。 RHV 3D-CT LHA P-SMA

Venography CTAP LHV RHV 上段に肝静脈造影を示す。バルーン閉塞下の右肝静脈造影では、静脈分枝に嚢胞状拡張を認め、さらに末梢側での造影では、類洞充満像を経ず、容易に肝内門脈枝が描出された。左肝静脈造影でも、同様に肝内門脈枝が描出された。 下段に示すCTAPでは、肝内の造影効果が不均一で、早期より肝静脈の描出を認めた 静脈造影、CTAPの所見から肝内のPV shuntの存在が肝がえらた。 以上の画像所見より、本例では肝動脈瘤の他、AV shunt、PV shuntといった多彩な肝血管性病変を認めたが、shuntに起因する心不全や、肝性脳症、門脈圧亢進症の合併を認めず、肝内動脈瘤の径も以前と変化がないことから、特に治療は行わず、経過観察を行っていくこととした。

肝病変を伴ったRendu-Osler-Weber病の 本邦報告例 ・ 1990年から2002年の医中誌検索では、本邦において自験例を含め 65例の報告 ・ 平均年齢は、56.4歳。男女比は3:10 ・ 肝病変の多くは、肝動脈拡張蛇行、A-V shunt、A-P shuntが 多く、肝動脈瘤の合併は自験例を含め7例と少ない ・ 動脈瘤に対する治療は、1例で切除、1例でTAEを施行 ・ 合併症として、shuntに起因した肝性脳症や心不全が多い ・ 心不全に対しshuntの減少を目的に、2例でA-V shuntに対する 肝動脈塞栓術が施行されているが、1例で治療後、肝不全を惹起し 不幸な転帰を辿っている

まとめ ・ 本疾患において、肝病変の合併は8−31%との報告があり、自験例でも、肝動脈瘤の他、P-V shunt、A-V shuntと多彩な肝病変を認めた。 ・ シャント量の減少を期待し、経カテーテル的に肝動脈塞栓術を施行し奏効した報告もあるが、一方で、塞栓後、肝不全を惹起し不幸な転帰をたどった症例の報告もあり、治療法の選択、治療時期については慎重を期す必要があると考えられた。