寡占理論(Oligopoly Theory) 第11講 Collusion 本講義の目的 (1)繰り返しゲームの発想を理解する (2)カルテルの安定性という発想を理解する 寡占理論第11講
Outline of the 11th Lecture 11-1 Infinitely Repeated Game 11-2 Stability of Cartel 11-3 Busyness Cycle and the Stability of Cartel 11-4 Vertical Differentiation and Cartel Stability 11-5 Horizontal Differentiation and the Stability of Cartel 11-6 Finitely Repeated Game 11-7 Endogenous Timing and Cartel 寡占理論第11講
囚人のジレンマ 2 C D (3,3) (0,4) (4,0) (1,1) 1 ナッシュ均衡:(D、D) 寡占理論第11講
囚人のジレンマと協調 現実には囚人のジレンマの状況でも協調行動がしばしば見られる。なぜか? (1)人間は合理的でない 。 (2)Playerの利得が第3者に分かる金銭的な(経済的な)利益のみに依存していない。→囚人のジレンマの状況になっていない。 (3)短期的な利益を犠牲にしても長期的な利益のために協調する。→繰り返しゲーム 寡占理論第11講
(2)の発想: 囚人のジレンマ修正版 2 C D (3,3) (0,2) (2,0) (1,1) 1 問題:ナッシュ均衡は? 寡占理論第11講
(2)の発想: 囚人のジレンマ修正版 2 C D (3,3) (0,2) (2,0) (1,1) 1 ナッシュ均衡:(C、C) (D、D) ナッシュ均衡:(C、C) (D、D) 寡占理論第11講
(3)の発想:繰り返しゲーム 同じゲームが将来にわたって長期的に繰り返される。 →将来の利益のために短期的な利益を犠牲にする可能性がある (有限繰返ゲーム)繰り返しの回数が有限 (無限繰返ゲーム)繰り返しの回数が無限 寡占理論第11講
有限繰り返しゲーム 同じゲームをN回繰り返す。 各回ごとに利得が発生。 各Playerは、そのN回分の合計を最大化するように行動する。 これ以降囚人のジレンマゲームが繰り返される状況のみを考える。 寡占理論第11講
backward induction 第N期→将来はないから当然双方Dを取る 第Nー1期→1期だけ将来はあるが、今期の行動と次期の行動は無関係。従って今期の利得のみを最大化する⇒当然双方Dを取る 第Nー2期→2期将来はあるが、今期の行動と次期の行動、次々期の行動は無関係。従って今期の利得のみを最大化する⇒当然双方Dを取る ・・・ 第1期⇒同じ理由で双方Dを取る ~Nがどんなに大きくても協調できない 寡占理論第11講
どんな場合に協調できるか? (1)不完備情報ゲーム→合理的でない振りをする誘因 (2)ステージゲームでナッシュ均衡が複数ある。 →より劣る均衡をpunishmentとして使う (3)無限繰り返しゲーム 寡占理論第11講
無限繰り返しゲーム 同じゲームを無限回繰り返す。 各回ごとに利得が発生。 その割引現在価値を最大化する 今期の利得+δ次期の利得+δ2 次々期の利得+ δ3 次々々期の利得+... δ∈(0,1):割引因子 寡占理論第11講
割引因子の意味 (1)利子率を反映 δ=1/(1+r) r:利子率 (1)利子率を反映 δ=1/(1+r) r:利子率 (2)主観的割引率を反映:将来をどれぐらい軽視するかの指標、その主体がどれぐらい忍耐強いかを表す指標(忍耐強いほどδは大きい) (3)ゲームが次の期まで続く確率 ⇒実際には無限にゲームが続く確率はほぼゼロでもかまわない~見かけほど非現実的な状況ではない 寡占理論第11講
部分ゲーム完全均衡 以下の戦略はδ≧ 1/3である限り、部分ゲーム完全均衡となる。 各playerはそれ以前に2人とも一度もDを取っていないときCを取り、これ以外の場合にはDを取る。 寡占理論第11講
部分ゲーム完全均衡であることの確認 今まで2人とも一度もDを取っていないとする。 ライバルの戦略を所与として、自分が(前のシートの)戦略に従うと利得は3/(1- δ)。 戦略を変えてDを取ると4+ δ ( 1- δ)。 3/(1- δ)≧4+δ / ( 1- δ)⇔ δ ≧1/3 ~将来がある程度以上重要であれば協調行動を取る誘因がある。 寡占理論第11講
部分ゲーム完全均衡であることの確認 3+3 δ+3 δ2 +3 δ3 +... =3/(1- δ)。 導出法 V=3+3 δ+3 δ2 +3 δ3 +... δV= 3 δ+3 δ2 +3 δ3 + 3 δ4+... (1 - δ)V=3 寡占理論第11講
繰り返しゲームのロジックが使われる例 ・国際協調、国際法 ・継続的取引、長期的取引 ・定期市 ・ソフトロー、慣習 ・カルテル、談合 寡占理論第11講
他の部分ゲーム完全均衡 以下の戦略はδによらず、部分ゲーム完全均衡となる。 各playerは常にDを取り続ける。 ⇒長期的な関係にあれば常に協調が実現するわけではない。 寡占理論第11講
どんなときに協調が難しいか? (1)情報のギャップ (2)Player間の非対称性、格差(単なる異質性ではない) (3)衰退産業 (4)将来の新規参入の可能性 (5)需要規模の変動 寡占理論第11講
協調の難しさの指標 δ が十分大きければ協調は部分ゲーム完全均衡として実現できる → δ が小さくなったときにどこまで協調が可能か? 協調可能な最小のδ( δ* )が大きいほど 協調は困難 (協調は不安定) 寡占理論第11講
Infinite Nash Reversion infinite Nash reversion (grim trigger strategy) 誰かがカルテルを破る →その後はずっと競争状態になる この講義では断りのない限りこれを使う cf Optimal Penal Code 寡占理論第11講
企業数とカルテルの安定性 Bertrand Oligopoly カルテル価格PM、カルテル下では利潤を平等に分配、誰か1人でもdeviateしたらその後は競争→利潤ゼロ カルテルが維持できるための条件 ΠM/(n(1-δ)) ≧ ΠM⇔ δ ≧(n-1)/n 企業数が多くなるほどカルテルは不安定 寡占理論第11講
企業数とカルテルの安定性 他のモデル 一般に企業数が増えるとdeviation incentive(カルテル破りをしたときの今期の利益の増加)は大きくなる →カルテルをより不安定にする 一般に企業数が増えるとpunishment effectはより強くなる(競争がよりシビアになるから) →カルテルをより安定的にする どちらの効果が大きいかは先験的には何も言えないが、通常のモデルでは前者が上回る 寡占理論第11講
企業数の非対称性とカルテルの安定性 Bertrand Duopoly カルテル価格PM、カルテル下では企業1はα ΠMの利益(α ≧1/2)。誰か1人でもdeviateしたらその後は競争→利潤ゼロ カルテルが維持できるための条件 αΠM/(1-δ) ≧ ΠM かつ (1-α)ΠM/(1-δ) ≧ ΠM ⇔ δ ≧α 非対称性が大きくなるほどカルテルは不安定 寡占理論第11講
企業数の非対称性とカルテルの安定性 完全に対称な状況→企業1がカルテルを守る誘因があれば企業2にもカルテルを守る誘因がある⇒誘因整合条件を一つ満たせばよい。 何らかの非対称性を導入 ⇒2企業ともにカルテルを守る誘因が必要。 非対称的な要因は通常一つの企業のカルテル維持の誘因を増し、もう一つの企業の誘因を減らす。カルテルの安定性はこの弱まった方の企業の条件に制約される。 ⇒非対称性は通常カルテルをより不安定にする 寡占理論第11講
企業の非対称性の例 (1)利潤の配分の不平等 (2)費用格差、生産能力格差 (3)垂直的製品差別化 寡占理論第11講
市場の成長とカルテルの安定性 企業数一定 問題:成長する市場と衰退する市場でどちらの方がカルテルが安定的になるか? 寡占理論第11講
市場の成長とカルテルの安定性 企業数一定 問題:成長する市場と衰退する市場でどちらの方がカルテルが安定的になるか? 解答:成長市場の方が安定的 理由:将来の利益が現在の利益よりも重要になるから 現実には成長産業は企業の将来の参入と競争の激化が見込まれるからより不安定になる。 寡占理論第11講
景気循環とカルテルの安定性 企業数一定 問題:好況と不況を交互に繰り返す市場。一般に好況期と不況期でどちらがカルテルがより維持しにくいか? 不況期と好況期でどちらの要因がbindingになるか? 寡占理論第11講
景気循環とカルテルの安定性 企業数一定 問題:好況と不況を交互に繰り返す市場。一般に好況期と不況期でどちらがカルテルがより維持しにくいか? 不況期と好況期でどちらの要因がbindingになるか? 解答:好況期の方が壊れやすい 理由:現在の利益が将来の利益よりも重要になるから 好況期にカルテルが崩壊し不況期に維持されると言っているわけではない。好況期に壊れることがわかっていれば不況期にもカルテルの維持は難しい。 寡占理論第11講
製品差別化とカルテルの安定性 垂直的製品差別化 ~費用格差の場合と同様に多くの場合でより協調が難しくなる←企業間の非対称性の問題 水平的製品差別化なら? Bertrand競争を仮定 差別化してないと、競争下では利潤ゼロ →カルテル破りに対するpunishmentがきつくなる ⇒差別化されていないほどカルテルが起きやすい? ~この議論は一般には正しくない 寡占理論第11講
Chang (1991) 水平的製品差別化、Hotelling、shopping、duopoly (1)差別化してないと、競争下では利潤ゼロ →カルテル破りに対するpunishmentがきつくなる (2)差別化してないと、わずかな価格引き下げでライバルの需要を全部とれる →deviation incentiveが大きくなる ⇒(2)の効果の方が大きい ~水平的差別化の程度が大きいほどカルテルは安定的 寡占理論第11講
Denekere (1983) Duopoly、水平的製品差別化 P1=a-Y1-bY2 P2=a-Y2-bY1 bが1なら同質財、bがゼロに近づく~差別化の程度があがる Cournot: bが大きいほどカルテルは不安定 Bertrand: bとカルテルの安定性に関しては非単調の関係(b=0でカルテルは最も安定) 寡占理論第11講
Gupta and Venkatu(2002) Hotelling、shipping、Bertrand、duopoly (1)距離が近いと、競争下では利潤ゼロ →カルテル破りに対するpunishmentがきつくなる (2)距離が近いと、ライバルの需要を奪うコストが小さい →deviation incentiveが大きくなる ⇒(1)の効果の方が大きい ~2企業の距離が小さいほどカルテルは安定的 ただし輸送費用に関して非単調、Cournotだと距離に関しても非単調、集積でカルテルが最も安定することはない 寡占理論第11講
非集積 C国 A国 B国 企業2 企業1 寡占理論第11講
集積 C国 企業1 A国 B国 企業2 寡占理論第11講
分散? C国 A国 B国 企業2 企業1 企業3 企業4 寡占理論第11講
集積 C国 企業1 A国 企業2 B国 企業3 企業4 寡占理論第11講
Matsumura and Matsushima(2005) Hotelling、Salop、shipping、Bertrand ~企業間の距離が小さいほどカルテルは安定的という性質は企業数が3までしか当てはまらない 2社集積すれば競争強化効果は十分だから 寡占理論第11講
その他のトレードオフ1 相対利潤 企業1の利得=企業1の利潤ーα企業2の利潤 αが1に近づく→Cournot Modelでも完全競争(第7講) α の増加→punishment効果を強める α の増加→deviation incentiveを強める 後者がdominate 寡占理論第11講
その他のトレードオフ 2 クロスライセンシング クロスライセンシング採用→punishment効果を強める クロスライセンシング採用→deviation incentiveを強める 前者がdominate(Bertrand) 後者がdominate(Cournot) 寡占理論第11講