白内障診療ガイドライン概要 獨協医大 眼科 小原喜隆
診療ガイドライン 「特定の臨床状況のもとで適切な判断や決断を下せるよう支援する目的で体系的に作成された文書」 獨協医大 小原 喜隆 「特定の臨床状況のもとで適切な判断や決断を下せるよう支援する目的で体系的に作成された文書」 60~90%のケースに摘要される診療を ガイドするものでリードするものではない
文献検索の実施 1987年1月~2001年2月 PubMed、Cochrane Library、医学中央雑誌 検索文献数 英文 2,322件 英文 2,322件 和文 4,924件
1. 白内障の診断 2. 白内障の危険因子 3. 白内障の手術適応と視機能 4. 白内障手術 5. 糖尿病白内障 6. 白内障薬物療法 疑問点の設定 1. 白内障の診断 2. 白内障の危険因子 3. 白内障の手術適応と視機能 4. 白内障手術 5. 糖尿病白内障 6. 白内障薬物療法
エビデンスの分類 Ⅰ. ランダム化比較試験(RCT)のメタ分析 Ⅱ. 1つ以上のランダム化比較試験 Ⅲ. 非ランダム化比較試験 Ⅰ. ランダム化比較試験(RCT)のメタ分析 Ⅱ. 1つ以上のランダム化比較試験 Ⅲ. 非ランダム化比較試験 Ⅳ. コホート研究 / 症例対照研究 Ⅴ. ケースシリーズ / ケースレポート Ⅵ. 患者データに基づかない 専門委員会や専門家個人の意見
診療 = 科学的根拠(evidence)に基づいた行為 + 医師の知識・経験 患者の価値観 診療ガイドラインは診療をガイドするもので リードするものでなく、支配するものでもない
白 内 障 手 術
手術適応と視機能 1.視力 ・遠見視力のみならず、近見視力も必要 2.コントラスト感度 ・白内障で有意に低下 3.グレア ・遠見視力のみならず、近見視力も必要 2.コントラスト感度 ・白内障で有意に低下 3.グレア ・グレア光下での視力、コントラスト感度が有意に低下 ・術後の満足度とグレアの程度とに相関々係はない 4.自覚的視覚障害 ・視力以外の自覚的な視覚障害を医療面接によって正しく把握する (遠見視力が良好でも自覚的に視覚障害を訴える) 5.視野 ・視野の感度が全体的に低下する 6.インホームドコンセント ・適応者には術中・術後合併症の可能性を説明、同意
白内障手術の検討項目 術前管理(全身状態・術前処置) 手術(麻酔方法・麻酔剤) 手術方法(超音波乳化吸引術・嚢外摘出術・嚢内摘出術) 手術(切開創・眼内レンズ) 術中合併症 術後合併症 術後管理 後発白内障
各種麻酔の利点・欠点 利点 欠点 点眼麻酔 (III) 麻酔に対するストレスが少ない。 疼痛抑制効果が弱い。手術難易度が高い。 手術(麻酔方法・麻酔剤) 各種麻酔の利点・欠点 利点 欠点 点眼麻酔 (III) 麻酔に対するストレスが少ない。 疼痛抑制効果が弱い。手術難易度が高い。 テノン嚢下麻酔 (II-III) 疼痛抑制効果が高い。 麻酔後早期に眼圧上昇。 球後麻酔 疼痛抑制効果が極めて高い。 結膜下出血、眼瞼出血、球後出血。
手術方法 (超音波乳化吸引術・嚢外摘出術・嚢内摘出術) 問題提議 白内障手術にはどの術式が良いか?
エビデンス 白内障手術を行うと95.5%の症例で20/40以上の視力を得る(II)。 手術方法(超音波乳化吸引術・嚢外摘出術・嚢内摘出術) エビデンス 白内障手術を行うと95.5%の症例で20/40以上の視力を得る(II)。 眼内レンズ挿入例のQuality of lifeは非挿入例より有意に高い(III)。 超音波乳化吸引術と計画的嚢外摘出術を比較。
PEAとPECCEの比較 PEA PECCE 術後フレア値(II-III) 低い 高い 術後前房内細胞数 (III) 手術方法(超音波乳化吸引術・嚢外摘出術・嚢内摘出術) PEAとPECCEの比較 PEA PECCE 術後フレア値(II-III) 低い 高い 術後前房内細胞数 (III) 術後角膜内皮細胞減少率(III) 術後眼圧低下(III) 0.6 mmHg 1.1 mmHg 術後最高視力(Ⅳ) 患者満足度(III) 超音波乳化吸引術では術中超音波時間が長いほど角膜内皮細胞減少率が高い。
エビデンス 白内障手術において前房維持、角膜内皮細胞保護に粘弾性物質が有効である(III)。 手術方法(超音波乳化吸引術・嚢外摘出術・嚢内摘出術) エビデンス 白内障手術において前房維持、角膜内皮細胞保護に粘弾性物質が有効である(III)。 粘弾性物質としてヒアルロン酸(凝集型)とコンドロイチン硫酸・ヒアルロン酸の合剤(分散型)があるが粘弾性物質の種類で視力予後は変わらない(II)。 分散型は角膜内皮の形状保護作用があり(II)、角膜内皮細胞の減少率は低値である(III)という報告と分散型と凝集型で差がないという報告がある(II-III)。 粘弾性物質と眼圧の関係では分散型は術後早期に眼圧の上昇をきたす(II-III)という報告と凝集型のほうが上昇するという報告(II)、両者で差がないという報告がある(III)。
白内障手術方法として超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術が推奨される(グレードA)。 手術方法(超音波乳化吸引術・嚢外摘出術・嚢内摘出術) 勧告(ガイドライン) 白内障手術方法として超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術が推奨される(グレードA)。 手術補助剤として粘弾性物質の使用が推奨される(グレードB)。
眼内レンズ別の比較 PMMA アクリル シリコーン 術後惹起乱視 大きい 小さい 前嚢収縮(III) 傾斜・偏心(II) 有意差なし 手術(切開創・眼内レンズ) 眼内レンズ別の比較 PMMA アクリル シリコーン 術後惹起乱視 (II-III) 大きい 小さい 前嚢収縮(III) 傾斜・偏心(II) 有意差なし 角膜内皮減少率 (III) ヘパリンコート眼内レンズは術後眼内レンズ上の細胞沈着を抑制する。
エビデンス 多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズに比べ裸眼視力がよく、術後日常生活上眼鏡を必要としない率が高い(II-III)。 手術(切開創・眼内レンズ) エビデンス 多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズに比べ裸眼視力がよく、術後日常生活上眼鏡を必要としない率が高い(II-III)。 遠見、近見ともに良好な視力を得ることができる(II)。 多焦点眼内レンズは術後にグレアやハローが生じることが多い(II,IV)。 多焦点眼内レンズを使用する場合は両眼挿入例で視機能が良かった(IV)。
超音波乳化吸引術に際し術後惹起乱視を考え、小切開創とfoldable眼内レンズを選択する(グレードA)。 手術(切開創・眼内レンズ) 勧告(ガイドライン) 超音波乳化吸引術に際し術後惹起乱視を考え、小切開創とfoldable眼内レンズを選択する(グレードA)。 ※ 多焦点眼内レンズの有効性については明らかでない。
術後炎症の発生予防にステロイドの使用が推奨される(グレードB)。 術後管理 勧告(ガイドライン) 術後炎症の発生予防にステロイドの使用が推奨される(グレードB)。 術後炎症・黄斑浮腫の発生予防にジクロフェナックナトリウムの使用が推奨される(グレードB)。 術後炎症の発生予防にブロモフェナックナトリウムの使用が推奨される(グレードB)。
まとめ(白内障手術2001年2月まで) 術前 非ステロイド点眼薬(散瞳維持) 麻酔 術者の技量・症例の難易度に合わせた麻酔方法を選択 術前 非ステロイド点眼薬(散瞳維持) 麻酔 術者の技量・症例の難易度に合わせた麻酔方法を選択 術式 小切開創より粘弾性物質を使用し、超音波乳化吸引術 眼内レンズ エッジ形状のシャープなアクリルレンズ(後発白内障抑制) 術後 ステロイド、非ステロイド点眼薬(炎症・CME抑制) 後発白内障 YAGレーザー後嚢切開術が有効
Evidence-based guideline作成の問題点 1.白内障分類・疫学 ・分類方法が患者アウトカムを改善するかエビデンスがなく、勧告は不可能であった。 ・有所見率、発症率についてのエビデンスレベルはCentre for Evidence-based Medicine, Oxfordでも作成されていないので、レベル付け行うことが出来ない。 2.リスクファクター ・エビデンスのレベルは、Centre for Evidence-based Medicineにおいてもなされていない。 今回は、治療/予防/害/病因のランク付を用いた。→ランダム化比較試験が困難なので質の高いエビデンスはほとんど存在しない。質の高い観察研究は多数存在した。日本国内で得られたエビデンスは少数である。 3.手術適応と視機能 ・適応に関するEvi.のレベルを策定していない。 遠距離視力のみを参考にしない。コントラスト感度、自覚症状の評価。 ↓ エビデンスレベル付 グレイドを付けて勧告 しかし、どの程度、どの値を手術適応の目安とするか エビデンスない 勧告できず
4.手術 ・質の高いエビデンスが存在した。 ・眼内レンズのように急速に進歩が予想される領域では勧告がやりにくい。 ↓ 合意された解決策:現時点でのエビデンスに基づいていることを明示。 改訂計画を設定し、遵守する。 ・術前の洗浄液に消毒薬や抗生物質を使用するか否かについて細菌数の減少を 示した研究があったが、患者アウトカムのエビデンスがないので勧告として取り 上げないことで合意。 5.糖尿病 ・リスクファクターのレベル付は困難 6.薬物療法 ・元来、ランダム化比較試験を行いやすいものに 質の高いエビデンスに欠ける。
総括(問題点) 1.ガイドライン作成者およびガイドライン使用者の双方にとって 1.ガイドライン作成者およびガイドライン使用者の双方にとって Standard Guideline, Optionに存在する概念上の差を理解する。 2. Evidence-based Medicineにおけるエビデンスとは患者アウトカムを改善するか否かを臨床疫学的手法で証明したもの 3.エビデンスのレベル付 患者に対する行為として重症度診断のための検査や手術適応決定がある。これらのエビデンスのレベルを治療、診断でのエビデンスレベルと整合性をもって策定する。 4.リスクファクターに関する研究のデザインに対するレベル付がない 今回は治療・予防/害/病因のレベル付を流用したが、理想的でない。 5.質の高いエビデンスの入手が困難 (例)術前に消毒薬や抗菌薬の局所投与をすべきか→患者アウト カムの研究ない
結 論 1.外科的治療が主体である白内障でもEvidence-based guideline作成可 結 論 1.外科的治療が主体である白内障でもEvidence-based guideline作成可 2.良質のエビデンスに欠けることあり。 エビデンスを得る研究が必要。