ASEAN・中国自由貿易協定 の再検討 松山大学経済学研究科 姚 海峰.

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経常収支とは?  一国の国際収支を評価する基準の一つ。  この 4 つのうち、 1 つが赤字であっても他で賄え ていれば経常収支は黒字となる。 貿易収支 モノの輸出入の 差 所得収支 海外投資の収益 サービス収支 サービス取引額 経常移転収支 対価を伴わない 他国への援助額 これらを合わせたものが経常収支.
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ASEAN・中国自由貿易協定 の再検討 松山大学経済学研究科 姚 海峰

本文の分析視点 経済面  「走出去」戦略の観点から中国の対外投資とASEANとのFTAの関係を分析する 政治面  中国がアジア地域における利益を守りながら、自国の国際地位を高める点を掘り下げる。

結 論 中国はASEANとFTAを締結したが、中国からみると、このFTAは戦略的な手段となり、実際に経済面の利益より政治面の利益が重視されている。FTAの成果としても、経済面より政治面の成果が著しい。

1990年〜2011年世界におけるFTAの数の変化

一般的FTAの経済効果: ②貿易拡大により、貿易転換と貿易創出効果に至る。 ③市場拡大により、競争促進効果が行う。  ①関税障壁を撤廃により貿易拡大させ、海外市場を拡大させる。  ②貿易拡大により、貿易転換と貿易創出効果に至る。  ③市場拡大により、競争促進効果が行う。  ④FTAの締結することにより、第三国はFTA締結国に投資を行うことが促進する。

経済面における先行研究 第一のメリット: 輸出を拡大効果 第二のメリット: ASEANから資源を確保する 第三のメリット: 対外投資を促進する

政治面のメリット: 第一のメリット: 中国脅威論から脱却する 第二のメリット: 自国の国際地位を高める

経済面における分析⑴ 「走出去」政策を実施 背景:改革開放以来、中国の平均GDP成長率は9.51%、輸出平均増加率は10.62%であった。 1981年〜2002年中国の外貨準備高は107.5倍増加し、2911億ドルであった。

1980年〜2002年中国経済環境の変化 GDP 世界順位 外貨準備高 1980年 1894億ドル 11 27億800万ドル (1981年) − 2002年 1兆4538億ドル 6 2911億ドル 3 増加倍数 7.68 107.5

存在する問題: ①生産力過剰 ②経済発展と資源不足 ③外貨準備過剰 ④国有企業改革と国内産業構造の改革 このような背景における中国の政策変化: 外資導入−→外資導入及び自国企業の海外進出(「走出去」政策)

「走出去」政策とは 「走出去」政策のメリット 現地の自然資源を利用 自国企業の国際競争力をレベルアップ 国内より安価な労働力を利用  中国政府が自国企業の海外へ進出を促進する政策である。 「走出去」政策のメリット 現地の自然資源を利用 自国企業の国際競争力をレベルアップ 国内より安価な労働力を利用 生産コストを抑える 貿易障壁を回避

経済・政治の同盟・発展レベル異なる加盟国・開放された市場 中国政府はFTA相手を選ぶ基準 実施しやすい国・地域から行う; 戦略的な利益のある国・地域と行う; 地理的条件を考える; ————中国は短期・直接な経済関係を狙っている   わけではないが、長期的・間接的な利益を   狙っている ASEAN   経済・政治の同盟・発展レベル異なる加盟国・開放された市場

2000年まで中国の 対米、日、香港及びASEANの輸出状況 単位:億ドル

経済面における分析⑵ 担い手:多国籍企業 水平型多国籍企業——親会社と海外子会社同じ製品を生産する  海外市場の拡大 担い手:多国籍企業  水平型多国籍企業——親会社と海外子会社同じ製品を生産する  垂直型多国籍企業——製品の製造工程の段階に分けられ、複数の工程を各地の子会社が分担して、最後にまとめて組み立てる。  一般的な対外貿易を行うことと共に、企業内貿易が繁栄となる。

政治面における分析 ⑴経済の高度成長期にある中国は安定した国際環境が必要となる。 ⑵ 冷戦終結後、中国は社会主義大国として欧米諸国にみられ、孤立させられた。 ⑶中米関係の悪化により中国は自国を守るため、アジア地域において盟友を作らなければならない状況になっている。

ASEAN・中国FTA概要 時間 内容 「ASEAN・中国包括的経済協力枠組み協定」締結 2002年11月 「ASEAN・中国包括的経済協力枠組み協定」締結 2003年10月 「枠組み協定」修正書締結、アーリーハーベスト計画製定 内容:農水産品HS01〜08を対象として、関税引き下げ、また、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ及びブルネイと特定産品を交渉した。 2004年1月 特定農産品8品目(HS2桁)を対象にアーリーハーベスト実施(タイは2003年10月、フィリピンは2006年1月実施) 2004年11月 「物品貿易協定」を締結 内容:早期収穫産品以外のものを通常類と敏感類と分別する。協定発効後、ASEAN6に対して、平均関税は8.1%へ下げ、2010年に敏感類以外は0関税へ下げる。2015年に、CLMVの4ヵ国に通常類の産品が0関税へ下げる。 2005年7月 ASEAN6に対して、物品貿易協定が発効、非農水産分野、その他農水産品の関税削減開始。 2007年1月 「サービス貿易協定」に署名 内容:適用範囲、人力資源の移動、サービス貿易に関する措置、各国の具体的な開放分野などについて、規定した。 2009年8月 「投資協定」に署名 内容:域内の投資家への内国民待遇の供与。透明度を高めるために毎年一度ASEAN事務局を通した、今後の投資に関する取り決めや計画の届出。投資促進活動の組織化。投資センター設置によるサービスの提供 2009年12月 知的財産に関する覚書署名 2010年1月 「投資協定」発効、ASEAN6と中国が関税率を撤廃。(CLMVは2015年関税を撤廃) 2010年11月 第2議定書署名 2011年1月 第2議定書発効(3国間貿易、移動証明書発行可能) 2015年 CLMVに対して関税を撤廃

ASEAN・中国FTAの到達点 ⑴経済面 ①投資 2001年〜2010年中国のFDI変化 2001 2002 2003 2004 2005  ⑴経済面  ①投資 2001年〜2010年中国のFDI変化 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 FDI総額 10.9 15.1 28.5 55.0 122.6 176.3 265.1 559.1 565.3 688.1 対ASEAN FDI額 2.9 1.0 1.2 2.0 1.6 3.4 9.7 24.8 27.0 44.0 比率 26.5 6.7 4.2 3.6 1.3 1.9 3.7 4.4 4.8 6.4 出所:「東南アジアと中国——ASEAN中国FTAの経済外交」 吉野文雄 のデータにより作成

2001年〜2010年中国のFDI変化

2001年に、中国の対外投資全体少ない時期、対ASEANへの投資は全体に占める比率が高かった。 ※香港の存在に注目

国別からみる中国の対ASEAN直接投資(2001〜2010) 単位:百万ドル 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 ブルネイ - 0.7 1.5 ― 1.2 1.8 5.8 16.5 インドネシア 0.9 5.7 26.8 62.0 11.8 56.9 99.1 174.0 226.1 201.3 マレーシア 0.6 2.0 8.2 56.7 7.5 -32.8 34.4 53.8 163.5 フィリピン 0.3 1.4 1.0 4.5 9.3 33.7 40.2 244.1 シンガポール 3.3 -3.2 47.9 20.3 132.2 397.7 1551.0 1414.3 1118.5 タイ 186.6 6.1 57.3 23.5 4.8 15.8 76.4 45.5 49.8 699.9 カンボジア 53.6 8.0 22.0 29.5 5.2 9.8 64.5 204.6 215.8 466.5 ラオス 1.7 9.4 0.8 3.5 20.6 48.0 154.4 87.0 203.2 313.6 ミャンマー 2.6 24.3 4.1 11.5 12.6 92.3 232.5 376.7 875.6 ベトナム 41.2 41.8 12.8 16.8 20.8 43.5 110.9 119.8 112.4 305.1 合計 288.4 102.0 119.3 195.6 157.7 335.8 968.1 2484.4 2698.1 4404.6

⑵貿易 貿易からみる中国とASEANの経済変化 貿易結合度 A国から見たB国との貿易結合度= (A国からB国への輸出額/A国の総輸出額) /         /  (B国の総輸入額/世界総輸入額)

中国・ASEAN・世界の輸出入の状況 単位:億ドル 2000 2005 2010 2011 中国の輸出総額 2492.0 7619.5 15777.5 18983.8 中国の輸入総額 2250.9 6599.5 13962.4 17434.8 ASEANの輸出総額 4627.9 6532.3 10495 12395.4 ASEANの輸入総額 3674.5 5636.1 9409.2 11428.1 世界の輸出総額 63626.6 104420.9 151005.5 180242.7 世界の輸入総額 65775.8 106901.9 152271.6 181149 中国の対ASEAN輸出額 173.4 553.6 1381.6 1700.7 中国ASEANからの輸入額 221.8 750.0 1547.0 1930.2 ----- 会议笔记(13/04/24 16:56) ----- 輸出と輸入別の結合度がおかしい

中国とASEANの貿易結合度の変化

成果: 2003年に、ASEANは中国の五番目の貿易相手だった。FTAを締結することによって、中国とASEANの貿易関係が深まり、2011年に、ASEANは中国の四番目の輸出市場と三番目の輸入先となった。(原料と中間財に集中)中国とASEAN後発国の関税削減は2015年から始まるため、経済面の効果はまだ期待できると考えられる。 ----- 会议笔记(13/04/24 16:56) ----- 経済の成果あまりなく、期待できる

政治面における現状 ⑴、南シナ海問題を棚上げし、全力的に経済を発展させる——フィリピン ⑵、陸上国境問題について、談判・共同探査の手段を使い、問題解決——ベトナム ⑶、外交面では、ASEAN諸国へ政府間ハイレベル訪問を通じて、交流・友好を深める——10年間400回弱の相互訪問 ⑷、東アジアの地域会議に積極的に参加 ⑸、軍事面では、ASEAN諸国と連合パトロール、軍事演習を行う ⑹、ASEAN諸国へ軍事援助——カンボジア・インドネシア

成果: 地域組織に積極的参加することにより、地域における発言権を強め、自国のプレゼンスを高める。  経済に集中し、共同探査を通じて、領土問題及び資源紛争について、隣国の警戒心を弱める  地域組織に積極的参加することにより、地域における発言権を強め、自国のプレゼンスを高める。  軍事上の協力によって、隣国に自国の実力が地域の安全を守れることを示す同時に、隣国の自国に対する恐怖心を蘇る可能性もある。  対外援助を通じて、可能の限り、盟友を作る。 

課題: 中国の産業別の対外投資状況不明確 中国の商品別の貿易状況不明確 国別でみるとASEANは中国との関係不均衡により隠されている危機

ご清聴ありがとうございました