環境経済論 第3回目 環境を経済的に評価する
Pearceによる環境価値の類型 利用価値(use value) 非利用価値(non-use value) 直接的利用 例:木材 直接的利用 例:木材 間接的利用 例:レクリエーション オプション価値 例:将来のレクリエーション 非利用価値(non-use value) 遺産価値 例:苗木 存在価値 例:生物多様性の維持
環境の経済的評価方法 需要曲線アプローチ その他の方法(非需要曲線アプローチ) 表明選好法 顕示選好法 仮想評価法(CVM) 旅行費用法 表明選好法 仮想評価法(CVM) 顕示選好法 旅行費用法 ヘドニック価格 その他の方法(非需要曲線アプローチ) 用量-反応の観察 置換費用 緩和費用 機会費用
マーシャルの考え方 財が消費者にもたらす効用、喜びは直接測ることができない しかし、交換を観察することによりその手がかりを得ることはできる 消費者にはその財を得るためにいくらまでなら支払う気持ちがあるかという最大支払い金額についての尺度があると考える
支払い意思額 willingness to pay (WTP) 「最大限いくらまでなら支払う用意があるか」 例:「このバナナ、最高いくらだったら買いますか」 「森林保護にはお金がかかります。このために税金が年1万円増えますが、払っていただけますか」
支払い意思額と購買行動 WTP > 財の販売価格 WTP < 財の販売価格 WTP = 財の販売価格 消費者はその財を購入する 消費者はその財を購入しない WTP = 財の販売価格 価格は財の効用に等しい
「最大限」を尋ねる意味 価格 (安い) (高い) ← → 反応 買う 買わない ↑ どこかに分かれ目があるはず 価格 (安い) (高い) ← → 反応 買う 買わない ↑ どこかに分かれ目があるはず 「買う」行動範囲の上限がその分かれ目
受け取り意思額 “Willingness to accept” (WTA) 既に所有している対象財を、最小限いくらの代償価格を受け取って手放すか 「干拓事業によって湿地は失われますが、あなたの所得は年間1万円増加します。この事業に賛成ですか?」 支払い意思額(WTP)と対。 「1物1価」ならWTP=WTAとなる。
個人のWTPと社会全体のWTP 社会全体のWTP ≒ 対象財の経済的価値 WTP1 :1番目の個人の支払い意思額 n :社会全体の人数 対象財から得られる社会全体の効用の貨幣的表現
WTP計測の方法1: 直接的な方法 表明選好法 stated preference 消費者に財に対する選好を表明させる 「この財(バナナ、森林の保護など)に対して最大限いくらなら支払ってもいいと思うか」 と直接、消費者に尋ねる
WTP計測の方法2: 間接的な方法 その1 顕示選好法 (revealed preference) 消費者の財に対する選好を直接聞くのではなく、消費者の行動を市場で観察する 実際に現れた行動のほうが正確 需要の価格に対する変化を観察する これを用いて需要曲線をプロットする
WTP計測の方法3: 間接的な方法 その2 代理市場法:代理市場における代理財への需要を観察する 対象財の代理財に着目し、代理財の需要曲線を観察する) 例:住宅環境の差を宅地価格の差で測る
仮想評価法 (Contingent valuation method, CVM) 直接的方法(表明選好法)の代表 支払い意志額を直接アンケートで尋ねる 「存在価値」の唯一の評価法 米国スーパーファンド法(1980)、石油汚濁防止法(1990)で被害額算出法と認定 オハイオ裁判(1989):CVMを自然資源損害額の算定方法として確認
CVMの基本式 (対象財の価値)=(WTPの総和) または、 (対象財の価値) =(支払いに同意した場合の平均WTP)×(総人口または世帯数) ×(支払いに合意した回答の割合)
CVMの例(松倉川のダム) 回答数 487 人 保存に同意した回答者の割合 85.8 % 上記回答者のWTPの平均 14,486 円 回答数 487 人 保存に同意した回答者の割合 85.8 % 上記回答者のWTPの平均 14,486 円 北海道の世帯数 220 万世帯 分析対象期間 10 年間 「生態系価値の評価額」 = 14,486円×0.858×220万世帯×10年 = 2738億円
「生態系価値の評価額」の意味 北海道民が対象地域の環境保全を目的としたプロジェクトに対して追加的税金の形で支払うことに同意する額の推定値 (その最高額の総合計) 環境それ自体の値札的価格ではない