過去原価の無関連性 過去原価は予測においては有用であるが、意思決定においては無関連であるのはどうしてなのか?

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Presentation transcript:

過去原価の無関連性 過去原価は予測においては有用であるが、意思決定においては無関連であるのはどうしてなのか? 過去原価の無関連性を理解するためには・・・ 例として、陳腐化した棚卸資産(Obsolete Inventory)の処理、旧設備の簿価(Book Value of Old Equipment)を考える 第6章

陳腐化した棚卸資産の処理 陳腐化した棚卸資産の処理について考える ポイント 過去原価の無関連性を理解 差額原価と差額収益の比較 第6章

例示 General Dynamics 陳腐化した航空機部品100個を棚卸資産として保有している これらの部品の製造原価は100,000㌦である 選択案 30,000㌦かけて部品を再加工し、50,000㌦で販売する スクラップとして5,000㌦で処分する どちらの案を選択するべきか? 第6章

分析~図表6-1 製造原価100,000㌦は過去原価(歴史的原価)であり、意思決定とは無関連である (=再加工-処分) 製造原価100,000㌦は過去原価(歴史的原価)であり、意思決定とは無関連である つまり、関連要素は将来収益と未来原価の予測額だけである 第6章

分析の結果 図表6-1より、再加工して販売する案を選択するべきであることが分かる  追加収益が追加原価を越えるなら、追加加工したり、追加的な  販売費を投じたりするべきである

旧設備の簿価と意思決定 旧設備の簿価は、陳腐化した部品と同様、設備を取り替えようと取り替えまいと、意思決定に関連する情報にはならない なぜなら過去原価であって、未来原価ではないから そのため、簿価は埋没原価と呼ばれることがある 簿価(book value)・・・設備の取得原価から減価償却費の合計を              引いたもの 第6章

埋没原価の概念 埋没原価(sunk cost) すでに発生してしまっており、そのため意思決定プロセスには無関連なコスト 歴史的原価や過去原価を言い換えただけの用語 第6章

簿価と減価償却費・取得原価との関係 設備が購入されると、そのコストは設備を利用すると予想される将来の期間全体に配分される この期間費用を減価償却費(depreciation)という 設備の簿価は、取得原価から減価償却累計額を差し引いた額である 減価償却累計額・・・過去の期間に負担させた減価償却費の合計             額 第6章

例示 取得原価10,000㌦、耐用年数10年の機械に対して、毎年1,000㌦の減価償却費がかかるとする(残存価額ゼロの定額法を採用) すると、例えば6年経過後には‥ 減価償却累計額は(6年×1,000㌦)6,000㌦、簿価は4,000㌦となる 第6章

旧設備の取替え・継続利用の意思決定 旧設備の取替え・継続利用の意思決定するのに、以下の4項目の関連性の有無について考える 旧設備の簿価(book value of old equipment) 無関連 過去原価(歴史的原価)であるから 従って、旧設備の減価償却費も無関連 旧設備の処分価値(disposal value of old equipment) 関連原価 代替案間で異なる予想将来インフローであるから 設備売却損益(gain or loss on disposal) 簿価(無関連情報)と処分価値(関連情報)の差額であるため、二つの区別が不明確になる 従って、それぞれを個別に考える 新設備の取得コスト(cost of new equipment) 代替案間で異なる予想将来アウトフローであるから 第6章

つづき~図表6-2  <無関連原価>                    <関連原価> 旧設備の簿価       設備売却損益        旧設備の処分価値                                  新設備の取得コスト

例示~図表6-3 旧機械を取り替えるかどうかの意思決定を、以下のデータに基づいて検討する 第6章

分析~図表6-4 コストの比較 例として各項目の関連性を示している 旧設備の簿価は、意思決定に関係なく無関連である なぜなら、帳簿価格から控除される金額は、どの案を実行しても4,000㌦であるから    (単位:㌦)   4年間合計 継続利用(A) 取り替え(B) 差額(A-B) キャッシュ業務費用 20,000 12,000 8,000 旧設備の簿価  定期的な減価償却による 4,000         -  一括控除による         - 4,000 処分価値         - -2,500 2,500 新機械の取得原価         - 8,000 -8,000 総費用 24,000 21,500 2,500 第6章

分析(つづき1) 旧設備の簿価(4,000㌦)は、意思決定には無関連である 旧設備を継続利用する場合 4年間にわたり、年1,000㌦ずつの減価償却費が計上される    (単位:㌦)   4年間合計 継続利用(A) 取り替え(B) 差額(A-B) キャッシュ業務費用 20,000 12,000 8,000 旧設備の簿価  定期的な減価償却による 4,000         -  一括控除による         - 4,000 処分価値         - -2,500 2,500 新機械の取得原価         - 8,000 -8,000 総費用 24,000 21,500 2,500

分析(つづき2) 旧設備を取り替える場合 旧設備を売却(除却)したときに、一括控除される なお、売却収入は2,500㌦であったので、固定資産売却損(4,000-2,500)=1,500㌦が初年度に計上される 以上より、タイミングの差はあるが、計上される金額はいずれも合計で4,000㌦であり、意思決定には無関連である    (単位:㌦)   4年間合計 継続利用(A) 取り替え(B) 差額(A-B) キャッシュ業務費用 20,000 12,000 8,000 旧設備の簿価  定期的な減価償却による 4,000         -  一括控除による         - 4,000 処分価値         - -2,500 2,500 新機械の取得原価 8,000 -8,000 総費用 24,000 21,500 2,500

分析(つづき3) これに対して、新設備の減価償却費総額(4年間合計8,000㌦)は、旧設備を取り替えなければ回避できる未来原価である 従って、新設備の減価償却費(8,000㌦÷4年=年2,000㌦)は関連原価となる 第6章

分析(つづき4)~図表6-5 以上から、3つの関連項目(業務費用、処分価額、取得原価)について総合的に検討する 第6章

分析の結果 設備を取り替えた方が、4年間で2,500㌦有利である

長期的な代替案の検討 図表6-4は1年以上におよぶ期間を考慮した例である 耐用年数全体にわたって代替案を検討することにより、非反復的な特別項目(Ex.処分損失)が、経営意思決定に不可欠な長期的視点を阻害しないようにすることが出来る 収入とコストのタイミングを含んだより完全な比較(第11章参照) 図表6-5は、関連項目だけを示している 旧設備の簿価が意思決定に無関連だということを例証するために、旧設備の簿価を500,000㌦と想定してみても、取替えによる利益は2,500㌦である

無関連な未来原価の存在 未来原価の中にも無関連となる項目が存在する それは、代替案間で異ならない未来原価である 従って、意思決定の際は無視しても構わない 第5章「関連性の定義」参照 無関連未来原価の例 トップマネジメントの給料 意思決定によっては変化しない固定費 ただし、この例は単に固定費が無関連原価、変動費が関連原価だと言っている訳ではなく、逆になる場合もある Ex.G工場かH工場のどちらが注文に応じるかとは関係なく、注文に対して販売手数料を支払う場合である 第6章

確認事項 関連情報の条件 その情報は、未来原価または未来収益であること その情報は、各代替案間で異なる項目を含んでいること この両方の条件を含んでいることが必要 つまり、固定費が関連原価になることもあれば、変動費が無関連原価になることもあるのである 第6章

意思決定における単位コストの扱い 意思決定に際して、単位コストを分析する場合には、主として以下の2つの誤りをすることがあるので、注意が必要である(第5章参照) ①無関連コストを含めてしまう 前述のGEにおける自製か購入かの意思決定において、適切な単位原価は@8㌦であるのに、回避不能固定費配賦額@3㌦を含めて@11㌦と算定した誤りのように、無関連原価を含めてしまうこと ②操業度の異なる単位コストの比較 これは、同じ操業度に基づいて算定されていない単位コスト同士を比較してしまうことである 第6章

②の例示~前提とする操業度に注意 セールスマン「新機械を導入した方がお得です!」 新機械 変動費@1.0㌦ 取得原価100,000㌦(耐用年数5年) 年間100,000個生産可能 毎年の減価償却費20,000㌦は、新機械を購入しないことによって回避できる未来原価を伴うものであり、関連原価である 旧機械 変動費@1.5㌦ 処分価値はゼロ 簿価・減価償却費は過去原価・その配分額であり、無関連 セールスマンは新機械の減価償却費を含めても、単位あたり0.3㌦のコストを削減できると主張するが、これは正しい主張だろうか? 第6章

分析 (単位:㌦) 新機械 旧機械 生産個数 100,000個 100,000個 変動費 100,000 150,000 減価償却費 年間操業度を100,000個とすると 新機械によって@0.3㌦コストが削減できるという、セールスマンの主張は正しい しかし、顧客側の予定操業度が年間30,000個しかないのであるならば、どうだろうか?  (単位:㌦) 新機械 旧機械 生産個数  100,000個  100,000個 変動費 100,000 150,000 減価償却費 20,000       - 総関連原価 120,000 150,000 単位関連原価 1.2 1.5 第6章

分析(つづき) (単位:㌦) 新機械 旧機械 生産個数 30,000個 30,000個 変動費 30,000 45,000 減価償却費 年間操業度を30,000個とすると  (単位:㌦) 新機械 旧機械 生産個数   30,000個   30,000個 変動費 30,000 45,000 減価償却費 20,000       - 総関連原価 50,000 45,000 単位関連原価 1.67 1.5 第6章

分析の結果 新機械によって@0.3㌦コストが削減できる、というセールスマンの主張は、顧客側の予想よりも遥かに多い操業度を前提としている 年間操業度が30,000個ならば、旧機械の方がむしろ@0.17㌦分のコストが安く、この主張は正しくないといえる

適切な意思決定への動機付け 第5・6章を通じて、関連データに基づいて適切な意思決定を行う方法が理解できたはず しかし、適切な意思決定を行う方法を理解することと、実際にそれを行うこととは、全く別である マネジャーに適切な意思決定をするよう動機付けるためには、業績評価手法と意思決定分析が一貫していなければならない 第6章

意思決定と業績評価のコンフリクト 例えば (会計的)業績尺度に基づいてマネジャーに報酬が与えられている場合、マネージャーは不適切であると分かっている意思決定を行おうとすることがある これはどういうことであろうか? 第6章

例示① 前述の設備取り替えの意思決定について再度考える 旧機械の継続利用よりも、新機械に取り替えた方が2,500㌦有利であった マネジャーに、この正しい選択をするよう動機付けるためには、業績評価に用いる手法が、意思決定モデルと一貫していなければならない つまり、マネジャーが旧機械を継続利用するよりも、新機械に取り替えた場合に、良い業績を示すべきである 第6章

誤った意思決定~図表6-6 業績は、会計的利益によって測定されることが多いので、初年度、2年度、3年度、4年度と会計利益を比較して考えてみる 機械を継続利用すれば、初年度のコストは500㌦低くなり、結果初年度の利益は500㌦高くなる マネジャーは当然、自らの業績尺度を最大にしようと意思決定をしたがるので、機械を継続利用したいと考える これが、意思決定の分析と業績評価手法とのコンフリクトの例である 第6章

例示② マネジャーがある地位から他の地位へと異動させられることが多い場合には、このコンフリクトは特に深刻である なぜか? 前述の具体例において、設備を継続利用することによる初年度の差額利益500㌦は、2~4年度における設備の取り替えによる年間1,000㌦の利益によって相殺され、4年間で考えれば、設備の取り替えを選択した方が2,500㌦の有利となる しかし初年度以降に、他の地位へ異動するマネジャーは、2~4年度における業務費用の節約というメリットを受けることなく、処分損失だけを被ることになるのだ 第6章

例示③ 計画よりも早期に機械を取り替える意思決定によって、機械を購入するというもともとの意思決定が不適切であったことが明らかとなる 旧機械-6年前10,000㌦で購入、耐用年数10年と見積もられる しかし、よりすぐれた機械を購入した場合は、耐用年数6年であった この旧機械の実際の耐用年数に関するフィードバック情報には、2つの効果がある

つづき 良い効果 マネジャーが過去の過ちから学習すること 旧機械の耐用年数を過大に見積もっていた場合に、新機械の耐用年数が4年であるという予測はどれだけ信用できるであろうか フィードバックは過去の過ちを繰り返すことを回避するのに役立つ 悪い効果 過去の過ちを隠すために、もう1つの過ちがなされること 設備処分損失が明らかになると、上位のマネジャーは、以前の意思決定における耐用年数予測が不適切であったと気づくだろう この場合、取替えを回避することによって設備処分損失を出さずに、4,000㌦の帳簿価格を減価償却費として将来の期間に配分することが出来る 設備を継続利用した場合は、上位マネジャーは、不適切な耐用年数予測に気がつかないだろう 業績評価に会計利益を用いることによって、様々な意思決定の財務的な効果が混同してしまい、以前の意思決定における耐用年数見積の誤りも、現在の取替の失敗も隠してしまうのである

意思決定と業績評価を一致させる 意思決定と業績評価とのコンフリクトは、実際に広く見られる問題であるが、残念なことに容易な解決策はない 理論的に言えば、前述したように、会計担当者はマネジャーを、意思決定と一貫した方法で業績を評価すれば良い 前述の具体例でいえば、4年間の計画範囲にわたって毎年の利益への影響を予測するという方法である 第6章

コストと便益のバランスの壁 コストと便益のバランスの壁 しかしここで問題となるのは、それぞれの意思決定ごとに業績を評価するとコストがかかりすぎる、ということである こうして、マネジャーは企業にメリットをもたらす長期的な視点を持つことをやめてしまうのである 損益計算書には多くの意思決定の結果は示されるが、機械購入という単一の意思決定の結果は表示されない 結論として、前述の具体例においては、マネジャーは損益計算書における初年度の結果に最も強い影響を受けてしまうのである 第6章

レビュー問題

Review 関連情報の定義を再確認 機会原価の概念 差額原価分析との比較 生産段階における意思決定 自製か購入かの意思決定 陳腐化した棚卸資産の処理 旧設備の取り替え・継続使用の意思決定 意思決定における単位コストの扱い 意思決定と業績評価のコンフリクト 第6章

参考・引用文献 Horngren,C.T., G.L.Sundem, and W.O.Stratton, Introduction To Management Accounting, Eleven Edition, Prentice Hall, 1999(渡邊俊輔監訳『マネジメント・アカウンティング』TAC出版、2000年) 第6章