Lian & Showman(2010) の紹介 巨大惑星における 大規模潜熱加熱による赤道ジェット形成 地球および惑星大気科学研究室

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Lian & Showman(2010) の紹介 巨大惑星における 大規模潜熱加熱による赤道ジェット形成 地球および惑星大気科学研究室 Generation of equatorial jets by large-scale latent heating on the giant planets Lian & Showman(2010) の紹介 地球および惑星大気科学研究室 河合 佑太

研究背景

はじめに〜巨大惑星の東西ジェット 帯・縞構造 * 巨大惑星(大きい・重い) <= 太陽系では** (巨大ガス惑星 + 巨大氷惑星) 木星 土星 天王星 海王星 外惑星の可視画像 (Cassini と Voyagerより) 帯・縞構造 赤道:西風ジェット 本数多い 赤道:東風ジェット 本数少ない 小規模な雲の追跡から推測される 平均東西流分布 * 巨大惑星(大きい・重い) <= 太陽系では**  (巨大ガス惑星 + 巨大氷惑星) * 大気運動の駆動源: 太陽加熱+内部熱源  太陽から遠い * 木星 5AU 海王星 30AU * but 内部熱源あり * 自転角速度速い(木星地球の約2倍) * 外惑星の大気運動 * 多重ジェット, 縞構造が卓越 * 木星は long-lived な巨大な渦がある. * zonal jets の向きと本数に注目 * 巨大ガス惑星: 20 本, 赤道ジェット:スーパーローテーション * 巨大氷惑星: 3 本, 赤道ジェット:スーパーローテーションしてない => なぜこんな違いが生まれるのか? Showman et al. (2010) Fig.6 を加筆

研究背景 帯・縞構造や東西ジェットの成因に 対する力学的な仮説 伝統的には 「深部起源説」(Busse, 1976,1970他) 「浅部起源説」(Williams,1978他) 木星内部構造の概念図(中島,2005) * 木星の内部構造を説明 * 東西ジェットの仮説 * deep: 分子水素層中に伸びる対流セルが差動回転を駆動. 雲層のジェットとして現れる.   * shallow: 湿潤対流や太陽加熱の水平コントラスト他による乱流の注入によって, 「外側縁」でジェットを駆動.

研究背景:浅部起源説1 浅部起源説 熱強制説: 雲による凝結加熱の差異に注目 乱流カスケード説: (2次元)乱流的な渦運動に注目 (図:中島,2005) 乱流カスケード説 (図:中島,2005) 帯 縞 帯 3次元的構造をもつ木星大気をどの程度表現できるか?また雲の生成をどのように説明する?小スケールの渦の起源は? 雷雲は縞でよく観測される事実と不整合!!

研究背景:浅部起源説 東西ジェットの駆動メカニズム 基本的には乱流の逆カスケードとベータ 効果の相互作用で説明 乱流の生成源: 湿潤対流, 傾圧不安定その他 (を想定) ジェットの本数, 幅は多くのモデルでまず まず再現される. ジェットの特徴的な幅: Rhines スケール (U/β)^1/2 乱流の生成源のスケール: 変形半径 c/Ω (Williams, 1978) 帯 縞 帯

研究背景:浅部起源説 赤道ジェットの方向やその大きさを再現するのは 難しい. 一層浅水モデル: 一般には西向き(Chao&Polvani,1996他) ある条件下では赤道ジェットの超回転を予測できるが, アドホック な強制が必要(Scott&Polvani,2008; Williams,2006 他) 多くのモデルは巨大惑星の赤道ジェットの向きを全て同じに予想 してしまう. =>木星/土星と海王星/天王星の両方の赤道ジェットの向きを, 同じ駆動 メカニズムによって整合的に説明できなかった. * Hide の定理 * 赤道で東向きジェットが存在するには, 赤道域へ渦に依る角運動量輸送が必要. 帯 縞 帯

研究背景:浅部起源説 湿潤対流の観測事実 木星/土星では湿潤対流が観 測されている. 雷の存在 水の存在量はまだ不確か 木星: x3 太陽組成 海王星・天王星: x30-40 太陽 組成 雲の追跡観測: 雲層の高度にある渦が逆カス ケードしてジェットを駆動す ることを示唆 水雲の雷嵐 木星における雷 Galileo Legacy Site (http://solarsystem.nasa.gov/galileo/gallery/jupiter-lightning.cfm)

研究背景:浅部起源説 湿潤対流の大規模な潜熱加熱による東西ジェットの駆動 仮説は古くからあるが, 数値モデルによる検証はあまりなされ てない. (c.f Shoman,2007; Del genio&McGrattan,1990 他) L&S2010: 大規模な潜熱加熱が東西ジェットを駆動するか検証 (I) ジェットの本数と風速 (ii) 赤道ジェットの向き *水蒸気の輸送と凝結を「陽に」取り扱うモデルを使う * 大規模な潜熱加熱=>傾圧渦生成=> 逆カスケード=>東西ジェット形成=> 子ゴメン循環駆動=> 下層から湿った空気を上昇させる=>雷雲活動を活発化 (図:中島,2005)

数値モデル

数値モデル L&S 2010 では3次元静力学モデルを使って, 球面上の静力 学プリミティブ方程式(圧力座標系)を解いた. * 支配方程式 v: 水平速度ベクトル ω: 鉛直p速度 Φ: ジオポテンシャル, θ: 温位 q: 水蒸気混合比 p: 圧力, T: 温度, ρ: 密度, qs: 飽和水蒸気混合比 Qθ: 放射強制, Qdeep: 深部水蒸気源 f: コリオリ・パラメーター, cp: 定圧比熱 t: 時間, L:凝結の潜熱 大規模凝結と関連する項 MITgcm * 立方球面格子 http://mitgcm.org/public/pelican/online_documents/img81.png * 支配方程式 * 水蒸気輸送の式を含む * Qdeep, Qθ, 大規模凝結に注意 * MITgcm * 格子系: 立方球面格子(この計算では特異点はクリティカルではないの?) 水蒸気輸送の式

放射の取り扱い(Qθ について) ニュートン緩和法 放射緩和時間スケールの設定 木星/土星設定:400地球日 海王星/天王星設定:200地球日 参照温度の設定 緯度に依存しない. 成層圏: 等温 対流圏:中立安定 * 計算時間の短縮のために, 実際の対流圏深部のτrad より短い. * 放射の取り扱い: 簡潔(ニュートン冷却)  * 現実より短い放射緩和時間 * cf)1500K, 1bar で放射緩和時間 2000days * 緯度に依存しない強制にする. * 東西バンド的な強制もジェットを形成させる * ここでは, 逆カスケードとβ効果の相互作用の結果としてのジェット形成に注目したい 参照温度の鉛直分布(Lian&Showman(2010) Fig1 加筆) * 大規模凝結加熱がジェットを駆動するかに注目したい.

ソース項Qdeep について 降水の蒸発, 惑星内部からの湿っ た上昇流を大雑把に表現する. Pc:凝結高度に対応 qdeep:惑星の水蒸気混合比(定数) (=1,3,10,30 ×太陽組成) Τreprenish: 緩和時間(= 5 h) * p>pc で有効 降水の蒸発 Pb:モデル下端 惑星内部からの 水蒸気フラックス * この項により, 大気の全水蒸気量がほぼ一定な凖定常状態に到達する. Qdeep で パラメータ化する * (qdeep で決まる)凝結高度とモデル下端の間の水蒸気混合比をqdeep に維持したい.

モデル:備考 雲微物理や積雲パラメタリゼーションは考慮しない. 乾燥対流調節スキームは用いない. 地球大気に調整されているフリーパラメータを, どのように変更すれ ばよいかがまだよく知られていない. (c.f Palotai&Dowling(2008)) 乾燥対流調節スキームは用いない. 大規模凝結を介して大気の鉛直構造は(対流に対して)安定化すると考 える. 数値安定性のために4次の Shapro ファイルタ(8次の超粘性 と同等)が含まれる. * 大規模凝結による鉛直成層の安定化 because of 凝結/降水による潜熱の放出と空気のモル質量の減少

数値実験とその結果

数値実験 パラメータの設定 パラメータの設定 初期値 惑星 半径 自転 角速度 定圧比熱 重力 加速度 基準qdeep (太陽組成比) モデル 下端高度 解像度 3倍 5倍 30倍 * 太陽組成の混合比: 0.01 kg per 1kg dry air 初期値 * 風なし * 水蒸気量: p>pcでq=qdeep, p<pcでq=0.95 qs * 擾乱: p<pc に5~9 個の温度擾乱をランダムに与えて運動を励起する. * 水平解像度: 600-800km<deformation radius 10^3km 惑星半径[km] 自転角速度[s-1] 重力加速度[ms-2] 解像度 モデル下端 木星 71,492 土星 60,268 海王星 24,746

数値実験 L&S 2010 で示されている数値値実験の結果 Basic flow regime(木星, 土星, 海王星設定計算) ジェット形成過程, 運動量バランスの診断 etc 赤道ジェットに関するパラメータ感度実験 赤道ジェットの向きはどのパラメータに依って決まる のか? {qdeep, 惑星半径,自転角速度} を変化させて調査 観測との比較 大規模凝結によって生成される渦の形態の考察 紹介

結果~ basic flow regime 土星計算 木星計算 海王星 /天王星計算 * 時間発展(ジェットの形成過程)はこのあと 補足事項 赤道ジェット: 西向き ジェットの本数: ~ 20 [qdeep:太陽組成の3倍] [0.9 bar level, 1200地球日] (NASA/VIMS/Bob Brown/Kevin Baines) 土星計算 赤道ジェット: 西向き ジェットの本数: ~ 20 [qdeep:太陽組成の5倍] [1bar level, 1200地球日] 海王星 /天王星計算 赤道ジェット: 東向き(幅広) ジェットの本数: 3 [qdeep:太陽組成の30倍] [0.8bar level, 1200地球日] * 時間発展(ジェットの形成過程)はこのあと 補足事項 * 高緯度でジェットが蛇行 * 土星: 極域の 多角形. 土星のペンタゴンに似てる? 東西風のスナップショット(L&S,2010. Fig.2)

結果~ basic flow regime 木星計算の時間発展 * 渦の形成: * 初期の温度擾乱が運動を発生させる → 凝結をトリガ 0度,-176.8度 東西平均 木星計算の時間発展 3 Days 55 Days 116 Days 578 Days 1157 Days 東西風の時間発展(L&S,2010. Fig.3) 2315 Days * 渦の形成: * 初期の温度擾乱が運動を発生させる → 凝結をトリガ * 凝結加熱は水平温度勾配をつくるー> 循環(低気圧性)を駆動ー>凝結域へ水蒸気を集め続けるー>凝結加熱により水平温度勾配は維持される * 一度循環が始まれば , 循環は自立的(self-sustaining) * ジェットの形成 * 55 日までに風は zonally に * 1100 日以降 ジェットのパターンは安定化する. 20 本 * 赤道ジェットに注目 * 最初部分的. * 潜熱加熱による低緯度の渦が赤道流にエネルギーを送り続け、100日後には一周した超回転赤道ジェットができる. * 幅:10S-10N 平均風速80m/s [qdeep:太陽組成の3倍] [0.9 bar level]

結果~ basic flow regime 海王星/天王星計算の時間発展 * ジェットの形成 -176.8度 東西平均 海王星/天王星計算の時間発展 3 Days 55 Days 1157 Days 東西風の時間発展(L&S,2010. Fig.4) 2315 Days * ジェットの形成 * 1000days までにジェットの分布は安定化 * 木星・土星の東西ジェットとおもむきが異なる * 3 本 * 幅広い西向き赤道ジェット: 40N-40S, -100m/s * 高緯度のジェットは東向き: 250m/s * 渦の活動は活発であるが, 平均流と比較して存在はみえない. * ジェット形成に潜熱加熱は重要な役割を果たしているか? => コントロール実験 * 潜熱加熱を off * 最大風速 20m/s => 潜熱加熱はジェット生成に重要な役割をはたす. [qdeep:太陽組成の30倍] [0.9 bar level]

結果~ 運動量収支の診断 5-10度より高緯度 水平渦運動量フラックスの 収束項とコリオリ加速項で主 にキャンセル 赤道付近 木星 土星 海王星 A = [A] +A' : 東西平均, A = A + A* : 時間平均 * 東西ジェットの維持 5-10度より高緯度 水平渦運動量フラックスの 収束項とコリオリ加速項で主 にキャンセル 赤道付近 水平渦運動量フラックスの 収束項と鉛直渦運動量フラッ クスの収束項で主にキャンセ ル . * 水平渦運動量フラックス *木星・土星 * 0.2bar-1bar, 10S-10N では東向き渦運動量フラックスは赤道向き => 赤道で運動量フラックス収束 => 超回転に寄与 *逆に, 10N, 10S では運動量フラックスは発散   => 西向き加速 * 海王星・天王星 * <1bar : 東向き渦運動量フラックスは極向き => 赤道で運動量フラックス発散 => 西向き加速 (木星・土星では同じ構造が成層圏で見える) * 鉛直渦運動量フラックス * 木星・土星:赤道で下向き  * 運動量収束発散は1bar 付近が中心だが, これがジェットが深部までpenetrate するのを助けている? * コリオリ加速: 子ゴメン循環の結果  * 3ケースとも運動量収束域で西向き加速を打ち消すセンス (L&S,2010. Fig.12)

結果:赤道ジェットの方向は何で決まるか? パラメーターの違いに注目すると.. 惑星半径:木星(7×10^4 km) 〜 土星(6×10^4 km) > 海王星(2×10^4 km) 自転角速度:木星(1.8×10^-4 s-1)〜土星(1.7×10^-4 s-1) >海王星(1.0×10^-4 s-1) 水蒸気量(太陽組成比): 海王星(30倍) >> 土星(5倍) > 木星(3倍) * 水蒸気量が第一要因のように思われるが, 惑星半径や自転角速度は赤道ジェットの方向にどう影響を与えるのか ?

結果:赤道ジェットの方向は何で決まるか? (L&S,2010. Fig.11) 水蒸気量 多:東風, 少(or 中間): 西風 惑星半径, 自転角速度に対する依存 性は複雑 東風ジェット生成するには.. (第一に)水蒸気量少 + 惑星半径と自転角速度大? 破線:水蒸気多 実線: 水蒸気少 標準実験 * L&S 2010 には, これらのパラメーター依存性を生み出す要因を書いていない. (赤道ジェットの向きが「なぜ」そうなるかの記述はなかった) 1) 水の存在量に注目 2) 半径, 自転角速度に注目 * 超回転に半径, 自転角速度はどう寄与するか * 破線: 水蒸気多 実線: 水蒸気少 * 横軸; 自転角速度  *水蒸気少ないとき   * 自転角速度大or半径大ほどスーパーローテーションへ * 水蒸気多い時 * 0.5a ならば自転角速度が大きくなれば, より西風ジェットは強くなる * a のときはあまり依存しない? => 関係性は良くわからない(複雑). 2Ω/a

考察? 木星/土星 海王星/天王星 傾圧不安定によって励起される ロスビー波の射出 中高緯度 中高緯度 赤道域の対流活動によって励起される ロスビー波束のエネルギーフラックス 赤道域の対流活動によって励起される ロスビー波の射出 赤道域 赤道域 変形半径大(水蒸気多い:安定度大): 赤道のロスビー波の射出が弱い. 相対的に高緯度からのロスビー波の吸着が相対的に勝つ => 東風加速 変形半径小(水蒸気少ない:安定度小): 赤道のロスビー波の射出が強い => 西風加速

結論

結論(Lian and Showman, 2010) 湿潤対流の大規模な潜熱による東西ジェット生成 説を3次元全球静力学モデルを使って検証 木星/土星, 海王星/天王星の両方の東西ジェットの特徴(本 数, 赤道ジェットの向き)を, ad hoc な強制なしに一つのモ デルで再現 赤道ジェットに対するパラメーター感度によれば 適度な水蒸気量 + 惑星半径,自転角速度大=>超回転 水蒸気量多い =>亜回転 * 土星設定は亜回転の赤道ジェットとなる可能性あり. 超回転でも弱い.

参考文献 Lian,A & Showman,P,A.,2010. Generation of equatorial jets by large-scale latent heating on the giant planets. Icarus 207,373-393. Gierasch et al, 2000, Observation of moist convection in Jupiter’s atmosphere. Nature, 403 628–30 中島健介, 2005. 木星の気象学. 天文月報 Schineider,T., &Liu,J.,2009. Formation of Jets and Equatorial Superrotation on Jupiter, J.Atmos.Sci.66,579-601. Showman et al. Atmospheric Circulation of Exoplanets Williams, G, P. 1978. Planetary circulations 1: Barotropic representations of Jovian and terrestrial turbulence J. Atmos.Sci. 35 1399–426 Williams, G, P. 1979. Planetary circulations 2: Jovian quasi-geostrophic regime J. Atmos. Sci. 36 932–68. Busse, F, H. 1970. Differential rotation in stellar convection zones Astrophys. J. 159 629–40