環境経済論 第4回目 CVM.

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環境経済論 第4回目 CVM

仮想評価法 (Contingent valuation method, CVM) 直接的方法(表明選好法)の代表 支払い意志額(WTP)を直接アンケートで尋ねる 「存在価値」の唯一の評価法 米国スーパーファンド法(1980)、石油汚濁防止法(1990)で被害額算出法と認定 オハイオ裁判(1989):CVMを自然資源損害額の算定方法として確認

CVMの基本式 (対象財の価値)=(WTPの総和) =(支払いに同意した場合の平均WTP)×(総人口または世帯数) ×(支払いに合意した回答の割合)

CVMの例(松倉川のダム) 回答数 487 人 保存に同意した回答者の割合 85.8 % 上記回答者のWTPの平均 14,486 円 回答数  487 人 保存に同意した回答者の割合 85.8 % 上記回答者のWTPの平均 14,486 円 北海道の世帯数 220 万世帯 分析対象期間 10 年間 「生態系価値の評価額」     = 14,486円×0.858×220万世帯×10年 = 2738億円

CVMによる環境価値の評価の前提 社会全体のWTPを対象環境の経済価値の尺度と考える 社会全体のWTPは個人のWTPの総和  松倉川の例:北海道民が特定の環境保全プロジェクトに対して追加的税金の形で支払うことに同意する額

CVMの結果は信用できるか 設定ケースを理解した、正直な回答を得ることは難しい 取引経験が乏しい財についてのWTPの回答は見当違いになりやすい 結果の先取り効果 特定の意見を持った被験者は自己の解答が結果に与える影響を考えて過大または過小なWTPを回答をする傾向がある 税負担に対する拒否 既に政策が決定していることに関して質問すると、自己の意見は反映されず金銭的負担のみがふりかかるととらえられ、WTPが過小になりやすい 追従効果 頑張っている調査員をねぎらおうと、調査員の期待する方向に回答する傾向がある

CVMの矛盾? 支払い意思額と受け取り意思額の関係 距離の問題 WTPとWTAに大きな差。WTAはWTPの2~5倍(平均3倍) 本来は同じであるはず。どちらを信用するべきか 距離の問題 どれだけの人口(世帯数)を対象(母集団)とするかの基準が不明確 対象財との物理的距離が離れてもWTPの回答額はあまり逓減しない

WTP回答額の意味 支払っても良いと「考える」ことと、実際に「支払う」ことの差 (慈善心の作用) 支払っても良いと「考える」ことと、実際に「支払う」ことの差 (慈善心の作用) ひとつの財に対して一定額支払うと答えたとしても、同様の別の財に同様の額を支払うだろうとは推定できない(予算制約) WTPの対象財に固有な部分と共通部分 エルワ川のサケのWTP回答額=その川その種に固有の保存価値+サケの一般的保存価値+環境にいいことへの参加費

KahnemanとKnetschの実験 3つのプロジェクト Aプロジェクト: ABプロジェクト: ABCプロジェクト: 洪水発生時の救難体制整備のみ ABプロジェクト: 洪水防止、防災活動の改善 ABCプロジェクト: 包括的な治山、治水、環境保全

3つのプロジェクト

質問の方法 第1グループにはABCプロジェクトに対するWTPはいくらかを尋ねる 第1グループには、続けてABプロジェクト、Aプロジェクトに対するWTPを尋ねる。 (ABC1→AB1→A1) 第2グループはまずABプロジェクトに対するWTPを尋ね、続いてAを尋ねる(AB2→A2) 第3グループはAのみ(A3)を尋ねる

結果 同一財に対するWTPは質問順序によって異なる WTP(A1)< WTP(A2)< WTP(A3) 最初に質問された財に対するWTPはほとんど同じ WTP(ABC1)≒ WTP(AB2)≒ WTP(A3)

KahnemanとKnetschの結論 CVMによるWTPは評価対象と非整合的 その原因は「倫理的満足感(warm glow)」にある 財の貨幣的尺度というより慈善動機による寄付可能額を答えている可能性が高い もしそうならば、WTPの表明額は対象財の価値とは無関係ということになる なぜなら、慈善心による寄付金額は、その人の財布の余裕と寄付への参加意欲によって決まり、評価対象にはよらないから

量的変化に対する弾力性 CVMによるWTPは評価対象の量的変化に反応しない 保護対象 WTP平均値 WTP中央値 2,000羽 80 25 2千羽の鳥の保護と20万羽の保護のWTPが同じ (Desvousgesによる研究) 保護対象 WTP平均値 WTP中央値 2,000羽 80 25 20,000羽 78 200,000羽 88

スコープテスト CVM推進派の反論 Desvousgesなどの評価例を再検討 推定方法、異常値の取り扱いに問題点があったと指摘 質問順序の影響 量的変化への柔軟性 スコープテストにパスすればCVMの信頼性は保証?

CVMの品質 以上の問題点を考慮しても、CVMには手法としてのメリットがある 他の方法では測りえない「存在価値」を計測対象にできること 賛成-反対を超えた、対象財に対する民意の吸い上げが可能であること 調査結果の品質を保証する調査設計がポイント →何回もその状況に置かれれば合理的な判断ができるはず →実験方法の改良による問題点の克服の可能性 「NOAAのガイドライン」

調査方法の改善 現実的シナリオで回答を求める 非現実的な設問ではよい回答は得られない 金額を明示した料金、追加的税金などへの賛否を問う 対象財に対して、適切な説明をすること。写真、図などは効果的。ただし、強すぎる印象を与えて回答を誘導しないこと。 サンプルサイズは充分な大きさが必要。回収率は低いと信頼性が低下する。

調査方法の改善 WTAではなく支払い意思額(WTP)を聞く 過去の変化に対してよりも将来の変化について問う 郵送よりも可能な限り面接により調査をする 支払うと回答した場合、その他の財の購入に使える所得が減るということを認識させる

調査方法の改善 自由回答で「いくらなら支払うか」と聞くより、金額を例示して支払いに同意するかを聞いた方がよい open-end question 「いくらなら最大限支払っても良いと思いますか」 single question 「1000円を支払うのに同意しますか」→ yes or no double-bound question Q1「1000円を支払うのに同意しますか」 yes no ↓ ↓ Q2「では2000円だったらどうですか」 「では500円だったらどうですか」 ↓ ↓ ↓ ↓ yes no yes no

調査方法の改善 プレテストを行って質問項目などをチェックする 「クロス表」の作成 「フルモデル」の作成 回答者を所得、予備知識(関心)の有無、対象財への物理的距離などで分類して、それらの要因が支払い意志額に与える影響について調べる。 「フルモデル」の作成 さらに、上記要因を説明変数、支払い意志額を被説明変数とする回帰モデルを作成し、消費者の価値意識の構造を分析する。

CVMのまとめ CVMは社会的WTPを推定する荒っぽい方法 調査設計には注意が必要 スコープテスト 慈善心のみを聞いていないか 多数決的な「賛成・反対の単純な集計」にとどまらない→「市場の判定」を模倣する意味がある