【入門講座「海外日本語教育経験を研究に」②】 インストラクター役: 吉田 一彦 研究する人役: 高嶋 幸太 鶴岡 聖未
進め方 前回(第1回、3月8日)に続き、 「研究する人」2人の立てた命題を検討し、 研究によって明らかにすべき論点として立てるまでの過程を、 「研究する人」2人の立てた命題を検討し、 研究によって明らかにすべき論点として立てるまでの過程を、 この場で演じて見せる というのが、発表の内容。 質問やコメントは、思いついたらすぐ発言。(発表後には時間を 取らない。)なぜなら、 1)後から発言の度に前の段階まで遡るのは効率がよくないし、 2)思い付きは時間が経つにつれて忘れていくものだから。
内容 前回終了時点の版の命題の確認と、演繹的推論の問題 高嶋命題の検討 鶴岡命題の検討
演繹的推論 AならばB 真 逆:BならばA 裏:AでないならばBでない 対偶:BでないならばAでない 真とは限らず 真とは限らず 必ず真 野矢茂樹(2006)『入門!論理学』(中公新書)
演繹的推論 A: 犯人である B: 犯行時・犯行現場にいた 犯人ならば、犯行時犯行現場にいた 真 逆:犯行時・犯行現場にいたならば、 犯人ならば、犯行時犯行現場にいた 真 逆:犯行時・犯行現場にいたならば、 犯人である 裏: 犯人でないならば、犯行時犯行現場にいない 対偶:犯行時・犯行現場にいないならば、犯人でない 偽 偽 必ず真
鶴岡命題(ver.1)の場合: 実利を求めない日本語学習には意義がある 指摘: 「実利を求める日本語学習には意義がない」と言っているように響く... A: 実利を求めない B: 意義がある 裏: 実利を求めないのでないならば、意義があるのでない 裏: 実利を求めるならば、意義がない 指摘者に聞こえていたことは鶴岡命題の「裏」 鶴岡は主張していないし、別途実証が必要
高嶋命題(ver.1.3)の場合: 海外の初級段階の効率の良い教室活動をするためには、母語話者教師は赴任国の学習者にとって身近な事物を知っているべきである 指摘: 「イスラム教徒にはお酒の話題はだめ」など、日本語教師なら誰でも知っているようなこととどう違うのか? 高嶋: 知っているならば、良い教室活動ができる 常識: 知らないならば、良い教室活動ができない 高嶋命題と常識的なことは互いに「裏」の関係 高嶋命題には実証が必要。実証は有意義
海外日本語教育略歴: 高嶋 幸太 時期:2010.3~2012.3(2年) 場所:モンゴル・ウランバートル 機関:市の教育局 海外日本語教育略歴: 高嶋 幸太 時期:2010.3~2012.3(2年) 場所:モンゴル・ウランバートル 機関:市の教育局 内容:初中等教育機関への巡回指導(選択必修) 時期:2013.1~2013.7(半年) 場所:イギリス・ロンドン 機関:語学学校 内容:一般的な語学コース
高嶋命題Ver.1.3 ①’海外の初級段階の効率の良い教室活動をするためには、母語 話者教師は赴任国の学習者にとって身近な事物を知っているべき である。
先行研究の成果は命題を支持するか? 高嶋命題Ver.1.3 ①’海外の初級段階の効率の良い教室活動をするためには、母語 話者教師は赴任国の学習者にとって身近な事物を知っているべき である。 先行研究の成果は命題を支持するか?
先行研究検討:佐久間(2006) 海外における多様な日本語教育の事例を取り上げ、海外の日本語 教育にかかわる上で、「日本語学習の動機をはじめ彼ら自身につ いて多くを知る必要がある(p.37)」と主張している。 これは、少なからぬ数の教師が実感として持っている経験的事実。これ自体を根拠にはできない。 しかし、学習者について知っていることがどのように有効かは、教授法開発の努力として探究していくべき。
先行研究検討:平畑(2009) 現地契約、JICAボランティア、基金からの派遣などを含む172名の 海外教授経験者に質問紙調査で海外の日本語教師に望まれる資質 を研究した。その結果について「その地を知り、その地に合わせ ていくための資質が、海外での活動に当たって最重視される ( p.19)」と述べている。 教授経験者の多くの人が重要だと言っていることが確認されたにすぎない。良い教室活動が実現するかどうかは別問題。 「海外」と言いながら、アフリカが調査対象から除外されている。(鶴岡)
予備調査:アンケートの実施 高嶋命題Ver.1.3 ①’海外の初級段階の効率の良い教室活動をするためには、母語 話者教師は赴任国の学習者にとって身近な事物を知っているべき である。 予備調査:アンケートの実施
予備調査の結果(協力者12名) 学習者にとって身近なことに関する知識を 教授活動においてどのように使っていたか整理した。 ・学習者が身近な事物を説明する活動をした。(4名) ・教師が提示する語彙の導入や例文などで取り入れた。(1名) ・日本や他の国々との比較をした。(1名)
予備調査(アンケート結果から) ・サッカーほど野球は普及していなく、読解に「ピッチャー」や 「キャッチャー」「ホームランを打った」などが文法問題で出て くるが、それの意味が分からない。説明に時間がかかった。(キ ルギス) ・内陸国なので「さんごビーチ」などは???だったようです。 (ラオス) ・授業で家族についての話題を扱って初めて生徒の8割が家族 (両親)と一緒に暮らしていないということを知った。(中国) 授業をしてみてはじめて、学習者にとって身近な事物とはどんなものかを知った
さらに自身の経験から モンゴルには、日本のサクラとはちょっと違う 「ボイルス」というモンゴルザクラがある。週 末を利用してこれを田舎まで見に行くツアーに 参加したとき得られた知識が授業の役に立った。 授業で「日本の」サクラを紹介する時は写真を持参 学習者にとって身近な事物を知るための手段について調査したい!
高嶋命題Ver.1.3 1 予備調査:グループワーク 身近な事物を知るためにどうしたかを4名程度のグループで5分話し合い、報告してください。 ①’海外の初級段階の効率の良い教室活動をするためには、母語 話者教師は赴任国の学習者にとって身近な事物を知っているべき である。 ・身近でない事物 予備調査:グループワーク 身近な事物を知るためにどうしたかを4名程度のグループで5分話し合い、報告してください。
高嶋命題Ver.1.31 参考文献:配布資料をご覧ください。 ①’海外の初級段階の効率の良い教室活動をするためには、母語 話者教師は赴任国の学習者にとって身近な事物・身近でない事物 を知っているべきである。 参考文献:配布資料をご覧ください。
高嶋命題Ver.1.31 予備調査:Web上のアンケート ①’海外の初級段階の効率の良い教室活動をするためには、母語 話者教師は赴任国の学習者にとって身近な事物・身近でない事物 を知っているべきである。 予備調査:Web上のアンケート
ご協力の程、 よろしくお願いいたします。 高嶋 幸太 http://goo.gl/jEjt1F
海外日本語教育略歴1: 鶴岡 聖未 時期:2000.12~2002.6(1年半) 場所:トンガ・ババウ 機関:公立の中等教育機関 ●12歳~20歳の在校生対象の選択必修科目、総合日本語 時期:2004.6~2008.3(3年10か月) 場所:マレーシア・クアラルンプール 機関:語学学校 ●一般的な語学コースの他、中等教育機関や企業での出張授業、 JLPT特訓コース、スピーチコンテスト等 時期:2009.8~2010.7(1年) 場所:タンザニア・ドドマ 機関:国立の高等教育機関 ●人文学部外国語学科在籍者対象の選択科目
海外日本語教育略歴2 鶴岡 聖未 時期:2010.12~2011.6(半年) 場所:セネガル・ダカール 機関:私立の高等教育機関 海外日本語教育略歴2 鶴岡 聖未 時期:2010.12~2011.6(半年) 場所:セネガル・ダカール 機関:私立の高等教育機関 ●経営学を学ぶ学生の選択科目、 学生は多国籍(仏語話者) 時期:2012.6~2013.6(1年) 場所:スーダン・ハルツーム 機関:国立の高等教育機関 ●大学付属研究所での公開講座、 学生(ほとんどが医歯薬理工系)と社会人がほぼ 半々
鶴岡命題Ver.1.1 資格、進学、就職に直結すること ③ 実利を求めない日本語学習には、実利につながる日本語学習に 劣らない意義がある。 「実利」の内容を明確にしておこう!: 資格、進学、就職に直結すること
鶴岡命題Ver.1.2 ③ 資格・進学・就職に直結するのでない日本語学習には、それら に直結する日本語学習に劣らない意義がある。 考察対象をODA事業による日本語教師派遣の場合に限定して考えてみたい! それは、なぜ?
鶴岡命題Ver.1. 3 ③ 資格・進学・就職に直結するのでない日本語学習は、ODA対象国 の場合にも、それらに直結する日本語学習に劣らない意義がある。 なぜODA対象国を問題にしたいか?といえば、 それは、自分自身がそこで意味のある日本語教育をしてきたという、確かな実感があるから!
鶴岡命題Ver.1.3 ③ 資格・進学・就職に直結するのでない日本語学習は、ODA対象国 の場合にも、それらに直結する日本語学習に劣らない意義がある。 タンザニアでも、 教師として働いて本当によかったと思ったこと、なかったでしょうかね? セネガルでも、 スーダンでも、 ................
鶴岡命題Ver.1.3 ③ 資格・進学・就職に直結するのでない日本語学習は、ODA対象国 の場合にも、それらに直結する日本語学習に劣らない意義がある。 相互理解、 人間としての成長、 人間の“幸せ”、 平和的な人と人の関係構築、 日本語教師だからこそできることは多いのではないか?
鶴岡命題Ver.1.3 ③ 資格・進学・就職に直結するのでない日本語学習は、ODA対象国 の場合にも、それらに直結する日本語学習に劣らない意義がある。 ODA事業による日本語教師派遣では、 「技術移転先にならない」「学習者の直接的利益につながらない」ことが、教師派遣打ち切りの理由となる。 それでいて、「何人の現地教師が育った」「日本語学習者の求人率がどれだけ高まった」「平均賃金が上がった」という追跡調査もない!
鶴岡命題Ver.1.3 ③ 資格・進学・就職に直結するのでない日本語学習は、ODA対象国 の場合にも、それらに直結する日本語学習に劣らない意義がある。 学習者「日本・日本人と出会い、より深く知るために日本語を学ぼう」 学習者「語り合うことで新しい関係を構築しよう」 学習者「語り合える人に、今ここにいてほしい」 アフリカには語り合う伝統がある。コミュニケーションの在り方自体、多様であるはず。
鶴岡命題Ver.1.3 ③ 資格・進学・就職に直結するのでない日本語学習は、ODA対象国 の場合にも、それらに直結する日本語学習に劣らない意義がある。 高収入や仕事の機会を求めることは世界共通、普遍性がある。 しかし、それが第一にほしくて日本語を学びにきたという人にアフリカで会ったことはない。 「学習」「労働」などの概念には多様性がある。日本のものの捉え方が世界中通用するわけがない。
鶴岡命題Ver.1.3 先に提示した”実利”というのは、こちらの勝手な思い込み? ⇒アフリカの学習者にとっての実利再考 スーダンで行ったアンケート(2013)結果から考える
スーダンでのアンケート:学習者の回答(1) クラス で話題 になった 事柄 について考えたりしてい くことで、 自分 の視野 が広がった 日本 のことを知ると同時 にスーダン につい て知ることができた いい 友達 ができた 勉強 することの楽しさを知った 「対話」 による思考 や意識 の変容 を楽しむ喜びを味わった 発展 した国の言語 を学ぶことで、自分 も発展 したい
スーダンでのアンケート:学習者の回答(2) 新たな言語 を学ぶことで、 世界 を深く理解 できる。/新しい 文 化 を理解 できる 語学教師 の視点 から、アフリカ の言語 との比較 を楽しむ 外国語 を学ぶことは幸せだ 自分 に自信 がつい た 自分自身の成長 になる 日本 が経済成長できた背景 を探る楽しみがあ る 人と接する方法を学んだ
スーダンでのアンケート:学習者の回答(3) 新しい 世界 が開けた 夢がかなった アニメ を理解して楽しむ 私にとって の自由 な時間 だった 日本人 の友達 を作れた クラス で日本語を発することが楽しかった 今まで想像してい なかった ことに遭遇 する楽しさを味わう
鶴岡命題Ver.1.3 関連先行研究(参考文献?) 先行研究の指摘を待つまでもなく、 アンケート回答のように、 実は学習者も意義がわかっている!!
鶴岡新命題Ver.1 アフリカの日本語学習者にとって、○△□こそが日本語学習の実利 である。 何が「○△□」かを求めて、さらなる調査を続けよう...