計量経済学 経済の構造を推定する 浅野 晳 筑波大学
社会工学の特徴 社会・経済の相互連関を分析して構造を明らかにする。 予測、政策提言、立案 実験は難しい・不可能なケースがほとんど 現実のデータを分析 分析手法は経済学、社会学、行政学、統計学..など
社会・経済の構造 ・ 構造 Y = f(X) データの検証から発見 Y : 結果 X : 原因 ・ f()はどんな関数かを解明。 ・ データ分析の結果からモデルを再検討 ・ 結果、原因とも多数のケースがある。 例 Y:介護需要、医療需要、年金財政 X:高齢化、税制、出生率、。。。
構造推定の手順 ステップ1:データ収集、散布図、構造の候補 を検討 ステップ2:推定、再検討 ステップ3:予測、意思決定
例1:経済活動とエネルギー消費 Y:エネルギー 電力消費 ELC (Electricity) X:経済活動 国内総生産 GDP ・データ Y:エネルギー 電力消費 ELC (Electricity) X:経済活動 国内総生産 GDP (Gross Domestic Product) 期間:1955-2004
データの動き 1955-2004
散布図 1994 石油危機1974
特徴 1. GDPは49兆円から524兆円へ増加 (約11倍、年率4.9%で成長) 2. 電力消費は43GWから858GWへ増加 (約11倍、年率4.9%で成長) 2. 電力消費は43GWから858GWへ増加 (約20倍、年率6.3%で増加) 3. GDPが240兆円近辺(1974年石油危機)で節 4. 1994年でジャンプ 5. 関係は直線的もしくは指数的
構造の候補 ・ 候補1 ELC = a + bGDP 線形 b: ΔELC/ΔGDP 微係数 構造の候補 ・ 候補1 ELC = a + bGDP 線形 b: ΔELC/ΔGDP 微係数 GDPが1兆円増加したとき電力消費はどのくらい増えるか? ・ 候補2 lnELC = a + blnGDP 対数線形 b: ΔlnELC/ΔlnGDP 弾力性 GDPが1%増加したとき電力消費は何%増加するか? 候補3 … 候補4 …
候補2(対数線形):推定結果 1955-1993 GDP 1%増 電力消費 1.20%増 モデルの説明力 99.7%
残差(観測値ー当てはめ値)の検討
候補3 2本の直線 危機後 危機前
候補3の推定結果 「前」と「後」の構造が異なる => 構造変化(省エネルギー型へ変化) 推定結果 => 構造変化(省エネルギー型へ変化) 推定結果 危機前:lnELC = -1.094 + 1.268lnGDP 危機後:lnELC = 0.267 + 1.019lnGDP 決定係数:0.999
ここまでの結論 1974年(石油危機)を境に日本の電力消費構造は省電力型に変化した。 弾力性は1.268から1.019に下落。 期間中の電力消費変動の99.9%が説明できた。 疑問 1994年以降もこのモデルで説明できるのか?
1994年 気象庁HP最近の異常気象の実態 より 異常高温・低温 異常高温・低温 1998年から2004年にかけては、日本では顕著な高温となった。2004年は、観測史上2番目に高い年平均気温となり、夏には東京(大手町)で過去最高となる日最高気温39.5℃を記録するなど、各地で高温の記録が更新され。。 2004年の夏は、10年前の1994年の夏につぐ記録的な高温となった。
例2 為替レートと物価 Y:国内物価 消費者物価指数 CPI Consumer Price Index 例2 為替レートと物価 Y:国内物価 消費者物価指数 CPI Consumer Price Index X:為替レート (\/$) 1ドル***円 EXR Exchange Rate モデル:CPI = f(EXR) EXR 上昇(円安) CPI 上昇 輸入物価上昇 消費者物価上昇 どのくらい上昇するのか?
データの動き
特徴 1970-2003年の期間、為替レート(EXR)は対ドル360円から100円へ下落(円高) (年率5%下落) (年率5%下落) 物価指数(CPI)は35から100へ上昇 (年率5%上昇) 円高、物価上昇。両変数の動きは逆。
構造の候補 候補1: CPI = a + bEXR 候補2: lnCPI = a +b lnEXR 候補3: 。。。 候補3: 。。。 データ : 1970-2004
候補1:線形
候補2:対数線形
変な結果? ΔCPI/ΔEXR < 0 ΔlnCPI/ΔlnEXR <0 円安になると物価は下がる? 円安(EXR上昇)輸入物価上昇 国内物価上昇 となるはず!
候補3 CPI= f(EXR,Wage) 賃金率(Wage)を説明変数に加える。 理由: 為替レート(EXR)以外に要因があるはず。 賃金率を考慮しなかったのでおかしな結果が起きたのではないか? 他の要因(Wage)が一定なら円安は物価上昇につながるはず。
興味は(物価の) 1.為替レート(に対する)弾力性 b 2.賃金(に対する)弾力性 g 3.候補3の説明力 R2 決定係数 lnCPI = a + blnEXR + glnWage 興味は(物価の) 1.為替レート(に対する)弾力性 b 2.賃金(に対する)弾力性 g 3.候補3の説明力 R2 決定係数 予想: 0 < b < g < 1
賃金の動き
候補3 推定結果グラフ
候補3 推定式 lnCPI = 0.912 + 0.049lnEXR + 0.751lnWage 決定係数 R2 = 0.995 候補3 推定式 lnCPI = 0.912 + 0.049lnEXR + 0.751lnWage 決定係数 R2 = 0.995 円安ー>物価上昇。 弾力性 0.049 賃金上昇ー>物価上昇。 弾力性 0.751
なぜ賃金率(Wage)を考慮すると正の関係が検出できたのか? lnCPI = a + blnEXR + glnWage lnCPI 傾き:b 切片:a+glnWage lnEXR
1.Wageが一定なら正の関係。 2.観測期間中、賃金(Wage)は上昇 ―>切片a + glnWageは上がり続けた。 3.為替レートは下落(円高が進んだ)
lnCPI ▲ ▲ ▲ 賃金 上昇 ▲ ▲ ▲ ▲ lnEXR 円高進行