■日本コミュニティ心理学会研修発表用■ DV・虐待被害者のための 回復プログラムSEP ~母子生活支援施設における シングルマザーに対するSSTの効果~ 2013.03.02 藤木美奈子 (龍谷大学)
<1> 問題と目的 ・・・など、立ち直りのプロセスは困難を極め、 支援対象者は減っていない <1> 問題と目的 ドメスティック・バイオレンス(DV)や児童虐待の被害者 ⇒様々な心身の健康障害 加害行為からのがれたあとも長引く、 <うつ病>や<PTSD>の症状 再び暴力的な関係性に身を置く etc. 対人関係に課題を持ち、就労も支障をきたす ・・・など、立ち直りのプロセスは困難を極め、 支援対象者は減っていない
<2> 回復のポイント これまでそれらの効果について 実証的に検討した研究は少ない 「長期的な視点に立ち、 <2> 回復のポイント 「長期的な視点に立ち、 失われた自尊心や主体性を取り戻すことが大事」 ⇒ 再発防止に向けたさまざまな対応や取組 しかし、 これまでそれらの効果について 実証的に検討した研究は少ない つまり、 『家族からの暴力被害体験により、 社会不適応傾向を示す成人』を対象とした 心理学的支援プログラムの評価研究は進んでいない
<3> 多く報告されている研究 学校場面における認知行動的技法を用いた 心理学的介入プログラムの実践 ⇓ <3> 多く報告されている研究 学校場面における認知行動的技法を用いた 心理学的介入プログラムの実践 (児童青年の抑うつに対する早期対応の試み etc) ⇓ そこでは、 抑うつ予防のために本人が身につけるべき 適応的な認知行動的スキルの一つとして, <社会的スキル>が指摘されている
<4> 現在、全国の母子生活支援施設で 生活する利用者(母親)の現状 <4> 現在、全国の母子生活支援施設で 生活する利用者(母親)の現状 ⇒半数以上がDV・児童虐待の被害者 【傾向として】 抑うつ傾向 対人関係への苦手意識から就労や生活自立が進まない わが子への加害傾向を示す母親 etc. ⇒そこで本研究では、 認知行動的技法を用いたプログラム(集団SST) を実施、その効果を検討した
その前に・・・母子生活支援施設とは (全母協 - 社会福祉法人 全国社会福祉協議会・全国母子生活支援施設協議会資料より) その前に・・・母子生活支援施設とは (全母協 - 社会福祉法人 全国社会福祉協議会・全国母子生活支援施設協議会資料より) 18歳未満の子どもを養育している母子家庭、または何らかの事情で離婚の届出ができないなど、母子家庭に準じる家庭の女性が、子どもと一緒に利用できる施設(1947年 昭和22年に制定された児童福祉法に定められる) ・ 全国に261施設、全国で3911世帯、8589(児童6250)人の利用者の方々が生活する(2012年11月厚労省) <入所の理由(2010年)> *入所理由の8割が「暴力」と「貧困」 ①夫などの暴力 43.2% ②住宅事情 23.5% ③経済事情 11.2% ④入所前の家庭環境の不適切 7.3% ⑤児童虐待 2.2% ⑥母親の心身の不安定 2.0% ⑦職業上の理由 0.2% ⑧その他 6.8% *身体障害、知的障害、精神障害などがある方(お母さん)の割合は23.5%
施設でのSSTの様子
<5> 測定尺度 プレ(前)、ポスト(後)、フォロー(4ケ月以後) の計3回、自記式質問紙調査を実施 <5> 測定尺度 プレ(前)、ポスト(後)、フォロー(4ケ月以後) の計3回、自記式質問紙調査を実施 1) 心理的ストレス反応尺度(SRS-18) 鈴木ら(1997)によって標準化され、「抑うつ・不安」(6項目)、「不機嫌・怒り」(6項目)、「無気力」(6項目)の3因子、合計18項目から構成される。4件法で回答し、得点が高いほどストレスが高いことを示す 2) Rosenberg(1965)の日本語版自尊感情測定尺度 山本ら(1982)によって邦訳された尺度。単因子構造と考えられ、合計10項目から構成される。5件法で回答を求め、得点が高いほど自尊感情は高いことを示す
<6> 方 法 対象: 母子生活支援施設で生活する 10代から30代のシングルマザー10名 <6> 方 法 対象: 母子生活支援施設で生活する 10代から30代のシングルマザー10名 方法: 1回90分、隔週、計5回で終了するプログラムの実施 面接: 実施前に各40分ずつ面接を行い、プログラム内容と結果の取り 扱いにおける倫理的配慮について説明、同意を得たうえで フェイスシートと質問紙への記入を実施した 内容: 2施設2グループに対し、ファシリテーターによる心理教育や, 認知修正を組み込んだSST方式の学習プログラムを実施した テーマ: 「自己理解と他者理解」、「社会的スキルとは」、「認知モデル と修正」、 「自動思考」、「対人関係と感情コントロール」、などを 中心に、毎回各自の体験を話し合う。 プログラム後、各自感想文を提出
<7> 結 果① データ数10 各尺度得点ごとに被験者内の一元配置分散分析を行った ▲自尊感情は有意に増加(F(2, 18)=4 <7> 結 果① データ数10 各尺度得点ごとに被験者内の一元配置分散分析を行った ▲自尊感情は有意に増加(F(2, 18)=4.13, p<.05) ⇒介入直後だけでなく4ヵ月後にも高い状態が維持された ▲ストレス反応については有意な変化なし(F(2, 18)=0.12, ns) 図 1 自尊感情得点の推移 22 23 24 25 26 27 28 29 30 時期1 ←介入期→ 時期2 ←非介入期→ 時期3 時 期 平 均 値 自尊感情
<8> 考 察 自尊感情を高めた可能性として <8> 考 察 自尊感情を高めた可能性として ① 社会的スキル概念を中心とした心理教育によるもの ② 認知行動療法の学習によるもの ③ 当事者同士の語らいによる共感と孤独感の軽減 ④ ファシリテーターによる利用者に対する尊重 具体的には・・・・・丁寧語・尊敬語の徹底 非審判的態度 受容・共感的態度 etc.
ストレス反応に有意な変化が見られなかった要因 (2011年07月の考察) ① 数値の平均では有意差は示されなかったが、 個別には有意を示している ➾個人差が大きい ② 参加者全員が入所後、数カ月~数年経過している ➾DV直後の高ストレスはすでに緩和していた ③ 施設内での規則や高密度の人間関係 ➾低下してもすぐに新たなストレス出現 ④ 本プログラムはリラクゼーションなど、直接的に ➾ストレス解消に働きかける内容ではない ⑤ 学習に不慣れな参加者にとっては、 ➾プログラム参加そのものが緊張感を持った可能性も *ところが、実施を重ねるにつれ、結果に変化が・・・?
3つのデータ数 時間経過と結果の関係 ①2009年9月~2011年3月 データ数10 プレ・ポスト・フォロー ➾自尊感情が有意に変化 3つのデータ数 時間経過と結果の関係 <実施時期> ①2009年9月~2011年3月 データ数10 プレ・ポスト・フォロー ➾自尊感情が有意に変化 ②2009年9月~2012年8月 データ数26 プレ・ポスト・フォロー ➾ストレス反応が有意に変化 ③2009年9月~2012年8月 データ数40 プレ・ポストのみ (4ヶ月後は未採取) ➾ストレス反応が有意に変化 *②と③の分析結果ほぼ同じだった
<10> 結 果② データ数26 各尺度得点ごとに被験者内の一元配置分散分析を行った ▲ストレス反応は有意に増加 (F (2, 50)=1.85, n.s.) ▲自尊感情については有意な変化なし(F (2, 50)=3.53, p<0.5)
データ数が増すにつれ、 自尊感情とストレス反応の結果が逆転した要因(仮説) ① 本プログラムがストレス解消に働きかけた ➾前半の対象者のストレスは容易に下がるレベルではなかった? ② 入所理由の変化: 経済的理由での入所が増えている ➾後半の対象者は、心理的不可が重くなく、もともとの自尊感情がそれほど低くなかった(前半の対象者はもともと低めだった) ③ 対象者の質の変化: 若年シングルマザーの増加 ➾自己理解度が乏しい傾向 (「私は何も問題がありません」と発言する)など *では、自己理解が高め、もしくはDV被害が重いケースは どのような傾向を示すのか?(一般対象の実践から)
方法 一般対象のプログラム実践 対象: 現在、大阪府内の自宅で居住中で、DV被害の後遺症に悩む30代~40 代のシングルマザー5名 方法 一般対象のプログラム実践 対象: 現在、大阪府内の自宅で居住中で、DV被害の後遺症に悩む30代~40 代のシングルマザー5名 (大卒以上3名、心理カウンセラー1、ケアワーク従事者1) ・ 場所: 大阪府内の中核都市にある男女共生フロア(ここへの来談者に公募) 方法: 1回90分、隔週、計5回で終了するプログラムの実施(無料) 時期: 2012年9月24日~2012年12月3日 面接: 実施前に各40分ずつ面接を行い、プログラム内容と結果の取り扱いに おける倫理的配慮について説明、同意を得たうえでフェイスシートと 質問紙への記入を実施した 内容: 5名に対し、ファシリテーターによる心理教育や, 認知修正を組み込んだSST方式の学習プログラムを実施した テーマ: 「自己理解と他者理解」、「社会的スキルとは」、「認知モデルと修正」、 「自動思考」、「対人関係と感情コントロール」、などを中心に、 毎回各自の体験を話し合う。プログラム後、各自感想文を提出
結果(SRS-18) 平均値25.8ポイントマイナス *分散分析は未実施
結果(SE)平均値10.2ポイントプラス *分散分析は未実施
【考察】 ここまでのまとめ ●『家族による暴力の被害体験』を持つ成人に対する SSTなどの介入プログラムは、自尊感情とストレス反応になんらかの 影響を与える *今後も、実証的研究を重ね、その効果を明らかにする 【課題】 ・自尊感情とストレスの関係の検討 ・自尊感情と自己理解の関係の検討 ・自尊感情の高い群と低い群、それぞれの変化の検討 ・因子別(自尊感情/SRS抑うつ・不安・無気力)の検討 ・対象者の養育環境と自尊感情の関係の検討 ・データ採取の工夫(退所後 欠損確認)の検討 ・一般者対象のプログラム実施の検討 *目標: 3水準のデータを50集める!
おわり ・・・この研究に関心をいただき、感謝いたします プログラムを広め、虐待の連鎖にストップを おわり ・・・この研究に関心をいただき、感謝いたします プログラムを広め、虐待の連鎖にストップを <連絡先> 龍谷大学 藤木 美奈子 (研究室508) fujiki@human.ryukoku.ac.jp