STAS作成の背景と開発過程 および日本語版について 東京大学成人看護学/緩和ケア看護学 宮下光令
STAS作成の背景 STAS(Support Team Assessment Schedule) 1990年代、英国ではメディカル・オーディット(監査)の重要性/必要性が叫ばれる。 在宅緩和ケア領域ではオーディット・ツールがなかった。 そこで、1990年代前半、英国のHigginsonが、在宅緩和ケアサービスのオーディット(Audit)ツールとして開発。
オーディット(監査、[自己]評価) 白書「Working for Patient」(1990) メディカルオーディット: 診断、治療の方法、資源の利用、その成果、患者のQOLなどを含む医療ケアの質を系統的、批判的に分析すること。 STASを用いて系統的な自己評価[自己監査]を行うことにより、適切な緩和ケアが提供されているかを、自己評価(分析)することができる。
STAS作成の背景(当時の英国) 医療の質の保証のため、行政(Purchaser)が医療機関(Provider)にオーディットを要求 サービス購入者 医療機関 患者 サービス消費者 (Consumer/User)
オーディットサイクル 1.ケア基準や目標の設定 3.結果の分析、 フィードバック、改善 2.モニタリング、 観察(データ収集)
STAS (Support team assessment schedule) 1.痛みのコントロール:痛みが患者に及ぼす影響 0= なし 1= 時折の、または断続的な単一の痛みで、患者が今以上の治療を必要としない痛みである。 2= 中程度の痛み。時に調子の悪い日もある。痛みのため、病状からみると可能なはずの日常生活動作に支障をきたす。 3= しばしばひどい痛みがある。痛みによって日常生活動作や物事への集中力に著しく支障をきたす。 4= 持続的な耐えられない激しい痛み。他のことを考えることができない。 STAS-Jの9項目 1. 痛みのコントロール 2. 症状が患者に及ぼす影響 3. 患者の不安 4. 家族の不安 5. 患者の病状認識 6. 家族の病状認識 7. 患者と家族のコミュニケーション 8. 医療専門職間のコミュニケーション 9. 患者・家族に対する医療専門職 とのコミュニケーション
STAS-Jの特徴と使い方(1) STAS-Jは患者の身体的症状について(2項目)、患者の情緒的なことについて(2項目)、家族または身近な介護者について(2項目)、コミュニケーションについて(3項目)の計9項目からなる。 各項目は0~4の5段階からなり、各段階につけられた説明文を見て最も近いものを選ぶ。 0が症状が最も軽い(問題が小さい)、4が症状が最も重い(問題が大きい)ことを意味する 患者や家族自身でなく、ケアを提供しているスタッフが記入する。そのため、患者の身体状態に関わらず、緩和ケアを受けている全患者さんに実施することが可能である。
STAS-Jの特徴と使い方(2) スコアリングは、できればチームカンファレンスでの話し合いをもとに記入する。また、プライマリーナースなど、同じ人が継続して記入することが望ましい。 スコアリングの結果は専用の表(経時的なもの)やカルテのチャートに記載するのがよい。(ただし、シートをそのまま用いて記録することも可能である、最近ではレーダーチャートを用いている施設もある) スコアリングするのは入院時、その後はだいたい1~2回/週である。ただし、患者や家族の状態によって評価回数を調整してもかまわない 宮下光令, 笹原朋代. STAS-Jを用いた緩和ケアの自己評価. 看護管理 2005; 15(12): 993-998.
オーディットの意義 (Higginson, 1995) 臨床での現実的な問題の同定、改善することにより将来の患者に貢献できる。 スタッフの時間や資源を、有効なところに配分することにより、患者や家族が最新で効率的なケアを受けられる。 オーディットしている患者への直接的な効果がある(ケアの見逃しがない、より全人的ケアが受けられる、新しいスタッフがアセスメントしなくてはいけないこと把握できる)。 ほぼ全ての患者の助けになる。(ケースレビューの対象になるような問題事例だけでなく日常のケアを見直すことができる)。 スタッフが仕事をモニタリング、レビューし改善策を講じることができる。 ケアの目標や成果を系統的に考えることができる。 ケアが有効である、または有効でない領域を同定できる。 患者・家族に関する問題をより詳しく把握できる。 緩和ケアに関する教育、トレーニングとして有効である。 (Higginson, 1995)
オーディット成功のためのキー SPREE(導入時に注意すること) BRAVE(測定を成功させるために) ARISE(フィードバック、レビュー、サイクルをまわすこと)
SPREE(導入時に注意すること) Small:通常の業務を障害しないように、小規模にはじめる。 Plan:明確なプランの説明、リーダーシップが重要である。 Regular:オーディットの結果を集計して、レビューするミーティングを定期的に行う。 Exchange:グループ内で意見交換を行う。可能なら他のオーディットを行っているグループと失敗、成功経験を学びあう Enjoy:楽しむ、スタッフにとって脅威と感じないようにすすめる(最も重要な要素である)
BRAVE(測定を成功させるために) Borrow:どこからか基準と測定用具を持ってくる(無駄を省く、既存のものを修正して利用する)。 Reliable:信頼性(安定性、再現性)のある測定用具や測定基準を用いる。 Appropriate:スタッフが自分達の環境に適していると感じられるような基準、測定用具を用いる。 Valid:妥当性(正確性)のある測定用具と評価基準を用いる。 Easy:簡便にできるものを利用する。
ARISE(フィードバック、レビュー、サイクルをまわすこと) Analyze often:多量のデータが集積される前に、頻繁に分析する。 Review:オーディットの結果、進捗、オーディットによってスタッフ、患者への正負の影響をレビューする。 Instigate change:次のオーディット・サイクルの前に、臨床実践やオーディットの方法を改善する。 Set new standard:次のオーディットのための新しいスタンダードを作成する。 Effect new cycle:新しいサイクルをまわす。
STAS-J(日本語版STAS)の作成 研究方法 1. 信頼性 10例のシナリオ 18名の看護師と1名の医師(評価者間) 10例のシナリオ 18名の看護師と1名の医師(評価者間) 3ヶ月間隔で2度評価(評価者内) 2. 妥当性 患者、家族のインタビューと看護師による評価の比較 Miyashita M, Matoba K, Sasahara T, Kizawa Y, Maruguchi M, Abe M, Kawa M, Shima Y. Reliability and Validity of Japanese version STAS ( STAS-J). Palliative and Supportive Care 2004; 2(4): 379-384.
STAS-Jの評価者内信頼性
STAS-Jの評価者間信頼性
STAS-Jの妥当性の検討
STAS-Jによる緩和ケアチームのオーディット(聖隷三方原病院)
まとめ STAS-Jは1990年代に英国で開発された、緩和ケア領域における、クリニカル・オーディット(監査、自己評価)のためのツールである。 クリニカルオーディットは様々な臨床上の利点を持つ。 オーディットの成功のためには、導入時に小規模から始める、信頼性のある測定用具を用いるなど、いくつかのキーがある。 STAS-Jは日本語版として信頼性・妥当性が保証されている。 日本死の臨床研究会(11/5 大阪)でSTASの活用事例を集めたワークショップを企画中。是非ご参加ください。 STAS-Jのホームページ(http://plaza.umin.ac.jp/~stas/) このスライドも掲載しておきます。