「三月三日」 08210066
三月三日。 一般的には、この日は「ひな祭り」 。 しかし、彼女らにとっての今日のこの日は違う。 ――今日は、三年間の高校生活に別れを告げる、「卒業式」だ――
卒業式 ~式中~ 校長たちが式の挨拶をしている――。 話の中盤あたりになると、大人しく聞いているようでも、頭の中では違うことを考える人が増えてくる。 三年間の思い出、自分の将来、様々なものとの別れなど。 ――それは、この三人にとっても 例外ではなかった――
‐優希の場合‐ 優希はつい数日前に終わった、大学入 試のことで頭がいっぱいだった。 優希はつい数日前に終わった、大学入 試のことで頭がいっぱいだった。 「その大学に入りたい」という思い入れが強 いためか、なかなか振り切ることができ ないでいた。
全てが遠い存在になってしまうと思うと、じんわりと寂しい気持ちになった。 ――優希は心の中で呟いた。
‐香澄の場合‐ 香澄も、高校生活の様々な思い出に浸っていた。 それを、とても寂しく思っていた。 考えていたのは、地元のこと、 香澄も、高校生活の様々な思い出に浸っていた。 考えていたのは、地元のこと、 ここで出会った友達のことだ。 香澄は卒業したら、上京して専門学校に行く ことに決まっていた。なかなか友達には会えなくなってしまう。 それを、とても寂しく思っていた。
――この感じは、中学の卒業式だ、と分かった。 漠然とそんなことを思っていたが、不意に、今のその感じが、何かに似ていることに気づいた。 ――この感じは、中学の卒業式だ、と分かった。 それに気づくと、一気に気持ちが楽になった。
‐涼子の場合‐ 涼子の頭の中ではずっと、文化祭でやった自分たちの演技が繰り返し再生されていた。 演劇の魅力に取りつかれていった。 表に立つことを苦手としていた自分が、まさか、 こんなに取りつかれるとは思ってもみなかった。
そのことが本当に、楽しくて、嬉しい。 ――本当にやりたいことが何なのか、よくわかっていなかったのだ。 ――本当にやりたいことが何なのか、よくわかっていなかったのだ。 向こうに行ったら一人暮らしも始めるので、やりたいことがたくさんある。 そのことが本当に、楽しくて、嬉しい。
卒業式 ~式後~ 式が終わった。 終わってみるとあっという間だったような気もする。 卒業生たちは体育館を出て、 校舎に戻る途中だった。
三人とも、どこか寂しげだった。 優希が何気なく空を見上げた。 気持ちの良い小春日和で、空も 澄み切っていた。
三人はお互い照れくさそうにして、笑い合った。 肩を並べて、一緒に同じ教 室へと、向かっていった――