平成18年度 構造有機化学 講義スライド テーマ:炭素陰イオン&二価炭素 奥野 恒久.

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学年   名列    名前 物理化学 第2章 2-1、2-2 Ver. 2.1 福井工業大学  原 道寛 HARA2005.
学年   名列    名前 物理化学 第1章5 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
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今後の予定 8日目 11月13日 口頭報告答あわせ,講義(5章) 9日目 11月27日 3・4章についての小テスト,講義(5章続き)
今後の予定 7日目 11月12日 レポート押印 1回目口頭報告についての説明 講義(4章~5章),班で討論
学年   名列    名前 物理化学 第1章5 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
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学年   名列    名前 物理化学 第2章 2-1、2-2 Ver. 2.0 福井工業大学  原 道寛 HARA2005.
学年   名列    名前 物理化学  第2章 1 Ver. 2.0 福井工業大学 原 道寛 HARA2005.
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平成18年度 構造有機化学 講義スライド テーマ:炭素陰イオン&二価炭素 奥野 恒久

前回の内容 ・混成軌道 sp, sp2, sp3, d2sp3混成 ・軌道のs性とこれを使った解釈 NMRのJ値, pKa, バナナボンド 本日の内容 ・ pKa ・炭素陰イオン(3配位)の構造 ・有機リチウム試薬の構造 ・ 高配位炭素陰イオンの構造

軌道のs性とpKaとの相関 化合物 pKa値 ・軌道のs性(sa2pb2) Ethane 49 Ethylene 44 cosq Acetylene      25 cosq a2= cosq-1 カルボアニオンの安定性はどう解釈すべきか? 第3級>第2級>第1級

炭素陰イオンの非共有電子対とベンゼン環のπ電子とが共役することによって安定化される 共役塩基の熱力学的安定性とpKa 値 ベンゼン環の効果 49 41 31.5 34 炭素陰イオンの非共有電子対とベンゼン環のπ電子とが共役することによって安定化される

Ph3C-イオン(Cs塩)の結晶構造 ・アニオン中心である炭素原子は平面構造をとる ・フェニル基はねじれている

種々の水素の酸性度 CH4 CH2=CH2 49 44 43 ベンゼン環の水素の酸性度は低い (炭素陰イオンは生成しにくい)

配座の固定 34 22.9 配座が固定されることで π系の平面性が高まる 非共有電子対が共役しやすくなる

共役とpKa 値 CH4 25 49 35 36 15 18.5 ベンゼン環でなくても不飽和結合と 共役することで安定化する

芳香族性 36 15 18.5 8π 6π 10π 4nπ (4n+2)π 共役塩基が芳香族性を示し安定化

共役塩基の熱力学的安定性とpKa 値 pKa 49 35 40 25 41 36 34 22.9 15 43 31.5 18.5 これらの結果をどう解釈すべきか?

気相におけるカルボアニオンの安定性 プロトン親和力 proton affinity RA(R-)を考える R- + H+ → RH ΔH°= -PA(R-) PA(R-)が小さいほど熱力学的に安定 各種カルボアニオンのプロトン親和力(kJmol-1) ← イオンサイクトロン共鳴法 カルボアニオン プロトン親和力( PA(R-) ) (NC)2CH- 1406 CH3COCH2- 1543 (CH3CO)2CH- 1438 シクロヘプタトリエニドイオン 1564 フルオレニドイオン 1478 NCCH2- 1557 1490 CH3(NC)CH- 1564 シクロペンタジエニドイオン O2NCH2- 1501 HC≡C- 1571 C6H5(CH3)2C- 1579 (C6H5)2CH- 1525 CH3SO2CH2- C6H5CH2- 1586 1534 CH3- 1743 C6H5C≡C- 1549

有機リチウム試薬の構造 6量体:ヘキサン溶液中 リチウム原子の8面体構造

有機リチウム試薬の構造 4量体:THF溶液中(低温)

有機リチウム試薬の構造 2量体:THF-TMEDA中(低温)

有機リチウム試薬の構造 ・種々のクラスター間の平衡状態にある n-BuLiに関して常温付近では ヘキサン : 6量体 エーテル : 4量体 ヘキサン : 6量体 エーテル : 4量体 THF    : 2量体 TMEDA  : 単量体

高配位炭素化合物(5配位) F. Scherbaum et al., Angew. Chem. Int Ed. Eng., 28, 463 (1989)

高配位炭素化合物(6配位) O. Steigelmann et al., Angew. Chem. Int Ed. Eng., 29, 1399 (1990)

メチレンの発生方法 クロロホルムなどを強塩基で処理 一重項状態 ・空のp軌道と非共有電子対を持つ ・イオン的な反応性を示す

フント則とは? 縮重した軌道に電子が収容される際には、スピンが最大になるように配列する。 余りにも定性的、何故なのか? 縮重が僅かに解けたらどうなるのか

遷移金属の場合 Mn2+の場合; 25Mn:1s22s22p63s23p63d54s2 高スピン状態 低スピン状態

二重縮重の場合 一重項状態 一重項状態 三重項状態 どの電子配置が安定なのか?? 電子間反発を考えることが重要!

> > 一重項状態 一重項状態 三重項状態 同じ一重項状態であれば電子が異なる軌道に充填されたほうが安定 軌道が異なるのであれば一重項よりも三重項のほうが安定

三重項が安定な理由 パウリ原理により↑は近付きにくい。それに対し↓は近づける分、静電反発も大きくなる。 スピン分極 静電反発の小さい三重項が 安定となる。

:CH2の構造(AH2型) x + z y yz平面内のz軸方向から相互作用させる 考慮する軌道 C:1s, 2s, 2px, 2py, 2pz H2:σ, σ*

:CH2の構造(AH2型) C2v対称 1su 2px 2py 2pz 1sg 2s C H2 1s (2B2)f7 (4A1)f6

分子軌道の角度依存性 f5 f4 f3 f2 90 180 一重項:102.4º 三重項:136.0º

メチレンのオレフィンへの付加反応 D2h C2v D3h この反応の取りうる最も 高い対称性はC2v

C2v対称を保ち反応 C2 z y x C2v E C2 sv(xz) sv(yz) A1 1 1 1 1 A2 1 1 -1 -1 B1

軌道相関図 s1*-s2* B2 B2 s1*+s2* A1 B2 A1 B2 s1-s2 A1 A1 s1+s2

C2v対称のまま反応は進行できない 協奏的な反応ではない?? 対称性を落とす→ Cs対称、 C2対称 C2対称:禁制 Cs対称:許容 Cs E sv A’ 1 1 A’’ 1 -1

軌道相関図 s1*-s2* A’ A’ s1*+s2* A’ A’ A’ A’ s1-s2 A’ A’ s1+s2