医療保険制度 医療保険制度は4つに分類 健康保険組合・・・主に大企業の従業員やその被扶養者が加入。

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医療保険制度 医療保険制度は4つに分類 健康保険組合・・・主に大企業の従業員やその被扶養者が加入。 全国健康保険協会管掌健康保険、略して協会けんぽ・・・主に中小企業の従業員と被扶養者が加入。2008年に、政府管掌健康保険から名称変更。都道府県単位で財政運営され、保険料率も都道府県ごとに異なる。

共済組合健康保険・・・国家公務員に関する21の共済組合、地方公務員等の54の共済組合、私学共済の合計85の団体。公務員本人及びその扶養者が加入している。 国民健康保険制度・・・農林水産業従事者や自営業者、無業者などが多く加入。加入者数は最大。運営は市町村ごとに行なわれている。 このほか国保組合といって、弁護士や医師などの職業の人々が、同業者同士で加入する国保も存在。

保険料と公費負担の差 これらの健保組合、協会けんぽ、共済健保、国保の各保険制度の違いは、まず、公費負担の比率。先に作られた組合、共済は全く補助金が無いのに対して、政管健保は給付費の13.0%、国保は50%が公費によって賄われている。 保険料率は、協会けんぽ約10.0%(都道府県別に異なる)。健保組合や共済健保はそれ以下のものが多い。国保は加入者の所得把握が難しいために、保険料率ではなく、頭割や負担能力を勘案した独自の保険料を市町村ごとに決め、徴収している。

サラリーマンの各保険(健保組合、協会けんぽ、共済健保)をまとめて被用者保険と呼ぶ。被用者保険と国保のもう一つの違いは、被扶養者の取り扱い。 被用者保険では、専業主婦や子供などの被扶養者の保険料負担はなく、サラリーマン本人である被保険者のみが、被扶養者の有無や数にかかわらず同一の保険料率負担。 国保では被扶養者・被保険者という区別はなく、全ての人々が被保険者として保険料を算出される。

老人保健制度と後期高齢者医療制度 こうした縦割りの各保険制度を横断的につなぐ仕組みとして、退職者医療制度と老人保健制度という2つの制度が2007年度まで存在。これは、各保険制度間の財政調整を行なう制度。 国保は高齢者が多く含まれる保険制度。国保の財政負担が重くなることに配慮して、老健が1983年、退職者制度が1984年に設立され、サラリーマン達の各保険から国保への老健拠出金という形で、実質的資金援助が行なわれることになった。

老健の対象者は75歳以上の高齢者、退職者医療制度が74歳以下の被用者保険の退職者。老健は、給付費の5割を公費負担で賄われる。 2008年からは、老健が廃止され、後期高齢者医療制度が開始。都道府県を単位とした47の広域連合によって運営。 現在の費用負担構成は、公費負担が5割、高齢者の保険料が1割、各保険制度から後期高齢者医療制度への財政支援である後期高齢者支援金が4割。これまでの老健制度と基本的な変化はない。

後期高齢者医療制度によって変わった意味は、高齢者の保険料負担割合を1割と定め、将来の保険料引上げの仕組みを確保したことにある。そのために、その負担の徴収ベースを広くして、高齢者1人1人を対象にし、また、確実に徴収を行なうために年金からの天引きを行なうという制度変更。 もう一つは、後期高齢者に対して独自に定められた診療報酬制度で、かかりつけ医化の推進、在宅医療化の促進、終末期医療の管理、外来医療の包括化など、全体として医療費が効率化もしくは抑制される仕組みに変更。

自己負担率 患者の自己負担率は、現在、全保険制度で統一。原則3割、義務教育就学前児童が2割、70~74歳の前期高齢者が2割(現役並み所得者3割)。現在は特例で1割に据え置き。健保組合は、付加給付あり。また、児童は市町村独自で免除している場合が多い。 一方、後期高齢者医療制度の自己負担率は1割(現役並み所得者3割)。 高額療養費制度は、患者が支払う月当たりの自己負担額に上限を設け、それ以上支払った場合には、後で医療保険から還付される制度(現在は認定証により窓口負担を減らす方法もあり)。

価格規制と参入規制  わが国の医療制度は、市場経済の仕組みになっておらず、政府が価格を統制する。 価格を診療報酬単価と呼び、サービス内容や医師の技術の良し悪しにかかわらず、同じ診療行為に対して、同一の固定価格。 診療報酬を決めるのは、厚生労働省管轄の「中央社会保険医療協議会(中医協)」であり、2年ごとに、保険者等の「支払側」と医師会等の「診療側」の審議・利害調整が行なわれている。

医薬品は薬価基準という公定価格。診療報酬とはやや異なり、保険が支払う際に用いられる算定価格。取引価格は、この薬価基準から乖離しても良い。薬価基準と取引価格との差額は、薬価差益と呼ばれ、医療機関、処方箋薬局の重要な収入源。 参入規制は、医療法に基づく、病床規制。2次医療圏という医療独自の地域区分に対して、都道府県が一定の必要病床数を設定し、これを超えて病院の新設や増設の申請があった場合には、それを認可しない 大学医学部の入学定員も規制され、医療費の抑制手段として機能。

介護保険制度 我が国の介護保険制度は2000年に開始。「保険の原理」が比較的守られており、理論的にわかりやすい。高齢者の負担も比較的大きく、「リスクが同質な集団にかけられる」という保険の原理に近い。また、保険料は、基本的に応益負担。所得再分配という要素も小さい。  もう一つの特徴は、市場メカニズムを一部取り入れ、民間活力を利用した仕組み。居宅の介護保険サービス分野は、全ての種類の業者に参入が自由化され、株式会社や有限会社といった営利法人でも経営できる。

どの業者と契約するかという選択は、利用者が自由に行なえる。措置、つまり行政による福祉サービスの配給制度として、これまで利用者の自由がなく、サービスの質が利用者に問われなかった福祉の世界では、実に画期的なこと。 望ましい特徴がある一方で、2つ残念な面。 一つは、公費の負担割合が非常に大きいこと。全体の給付費の半分以上が公費で賄われている。 もう一つは、創設当初の高齢者やその後の高齢者に適切な負担を課さず、またもや財政方式として賦課方式を採用してしまったこと。

保険料と公費負担 わが国の介護保険制度は大まかにいうと、40歳以上の全住民から介護保険料を徴収し、原則65歳以上で要介護状態になった場合に、介護保険サービスを1割の自己負担で受給できるという制度。 保険者は、基本的に各市町村。広域連合としていくつかの市町村がまとまって運営しているところもある。

保険料の徴収ベースは、65歳以上を1号被保険者、40歳から64歳を2号被保険者として分け、前者は年金給付額からの天引き、後者は医療保険と合算しての徴収が行われている。 それぞれの負担する額は、まず国全体のレベルでは、1号被保険者と2号被保険者の人口割合に応じて、現在、給付費のそれぞれ21%と29%を負担することになっている。1号被保険者の保険料負担は、2016年度現在、全国平均は月当たり5514円。住んでいる自治体のサービス水準によって大きく異なる。

所得再分配要素として、自治体ごとに決められている保険料基準額を元に、収入によって標準的には6段階の保険料(最大基準額の1 所得再分配要素として、自治体ごとに決められている保険料基準額を元に、収入によって標準的には6段階の保険料(最大基準額の1.5倍、最小基準額の0.5)区分がある。減免制度は、災害などの特殊な事態がない限り、基本的に認められない。 一方、2号被保険者の保険料率は、2015年度現在、協会けんぽで、1.58%。1号被保険者の保険料は、3年に一度、改定。 公費部分については、国が20%、都道府県と市町村が12.5%ずつ負担し、残りの5%は財政調整である(調整交付金)。

給付の仕組み 介護保険で介護サービスを受けられるのは、基本的には65歳以上の1号被保険者で、介護が必要と認定された要介護者及び要支援者。 介護サービスを受けたい希望者は、まず、市町村等の保険者に要介護認定の申請を行う。すると、市町村のケースワーカーや保健師などが派遣され、詳細な項目について日常生活動作にかかる時間や状況の調査を行い、機械的にコンピューターによる要介護度の判定が行なわれる。次に、医師の意見を加えて、保険者に設置された介護認定審査会において最終判断が行われて、申請者に通知される。

通知される要介護認定の区分は非該当(自立)・要支援(1・2)・要介護(1~5)。利用可能なサービスの上限額(利用限度額)が設定されている。その後、ケアプランという介護サービス利用のスケジュール表を、ケアマネージャーが作成する。 ケアマネージャーは、要介護者・要支援者の状況に合わせてケアプランを作成し、利用業者の選定から発注までを行う。利用者個人が行ってもよい。 2015年改正で要支援者が利用できるサービスが大幅に縮小された。

利用できるサービスの種類は、大まかに、①居宅(在宅)サービス、②地域密着型サービス、③施設サービスの3つ。 居宅サービスは、訪問介護(ホームヘルプサービス)、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)、短期入所生活介護・短期入所療養介護(ショートステイ)、特定施設入所者生活介護(有料老人ホーム、ケアハウス等)などが存在。 また、地域密着型サービスとしては、認知症対応型通所介護(デイサービス)や、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)がある。

施設サービスは3種類で、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設(老人保健施設)、介護療養型医療施設(療養型病床)となっている。この施設介護の分野は、居宅サービスとは異なり、参入が規制されており、社会福祉法人や医療法人、自治体などに設立主体が限られている。 また、医療計画と同様、自治体は(介護保険事業計画)として、施設の「必要入所定員数」を定め、それを超える施設の設置が申請された場合に、拒否できる仕組みとなっている。

このため3施設では、入居費を含めた利用費が特定施設よりもかなり低いことと相まって、待機者問題が深刻。現在、全国で52万人程度の待機者が存在するとみられており、2~5年程度待つことは当たり前(2015年改正で減る模様)。 サービスの時間当たりの利用料金は、介護報酬単価として、医療保険同様に統制価格で固定されており、その1割を利用者が自己負担をし、残りの9割を保険者が支払う仕組み。 この介護報酬単価も、保険料と同様に、3年に一度改定される。

医療・介護の諸問題 (1)医師不足問題 わが国の人口千人当たりの医師数は2.3人(2012年)と、OECD加盟国平均の3.1人を下回り、主要先進国の中で最低。 医学部の入学定員に上限を設定し、医師数のコントロール。 ただし、近年は、2000年の2.0から2012年の2.3とむしろ増加。全体として医師不足かどうかは定かではない。

むしろ深刻なことは、医師偏在。 特に地方病院や、産科や小児科、外科などにおいて勤務医不足が問題。 相対的に報酬の高い開業医へシフト。 勤務医不足の背景は、①近年急速に高まったとされる医療へ「安全要求」と、それに伴う医療訴訟や医師の逮捕の増加という現象、②コンビニ受診」といわれる安易な夜間の受診増加、③高齢者達の病院志向の高さ 加えて、④ 「新医師臨床研修制度」も影響した。

通常の市場経済でもしこのような状態が生じれば、①そのサービスの価格が直ちに上昇する、②価格上昇に反応して供給量が増える、③価格上昇に反応して消費者の需要量が減るという3つのメカニズムによって、需要と供給は直ぐに調整され、不足という「不均衡」状態が持続することはあり得ない。 診療報酬制度で価格が固定されていることが、諸悪の根源。むしろ引き下げを行うので、需給格差がさらに拡大。

問題の処方箋は簡単。不足している診療科、地方の診療報酬を引き上げること。需給ギャップが引き上げる。 しかし、中医協では極めて政治的なプロセスをへるために、メリハリをつけた調整ができない。 政治的に調整不能な中医協を補完するメカニズムとして、都道府県別あるいは二次医療圏別に、地域版中医協を設けるというアイディア。 価格の完全自由化自体は、医師=患者間の情報の非対称性のため、疑問であり、その対処を考えるべきである。

(2)病床の歪み:医療提供体制 診療報酬が、急性期病床膨張の原因。 2006年度の改定において、患者7人に対して看護師1人を配する急性期病床に、1日当たり15660 円という高価格を設定。

その後、政治的な要因でその歪んだ診療報酬を8年間も方針変更ができなかった。 その結果、当初の4万床強から現在の約36万床まで、厚労省の想定をはるかに超えて病床が急増し、急性期病院に軽度患者が留まる事態を招いた。 現在、診療報酬改定で急性期病床を減らそうとしているが、サーモスタットのように常にずれる可能性。 そこで飛び出した病床再編策が、昨年6月に成立した「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」

法律の柱となっている制度は、①地域医療構想(ビジョン)、②病床機能報告制度、③地域医療構想調整会議の3つ 第一に、「地域医療構想」として、二次医療圏(構想区域)ごとに2025年までの医療・介護需要が、各種のデータを元に推計される。その上で、地域の医療提供体制や包括支援システムの将来整備計画が策定され、医療計画の一部となる。 「病床機能報告制度」によって、医療機関は、病棟ごとに機能別(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)の病床や人員配置、医療機器等の現状を、今後の計画(予定)と伴に都道府県に報告する。

第三に、「地域医療構想調整会議」が構想区域ごとに設置される。これは、地域医療構想と病床機能報告制度を付き合わせて、将来的にその乖離が生じた場合、地域住民の意見や医療機関相互の協議によって、その乖離を縮小させる機能を果たすことが期待されている。 根本的な問題は、価格誘導策が無いこと。 都道府県別あるいは二次医療圏別に、地域版の中医協を設けるというアイディア

(3)後発医薬品の普及 後発薬(ジェネリック)とは新薬(先発薬)の特許が切れた後に作られる安価な医薬品のことで、海外では一般的に先発薬の2~3割程度の価格で販売。薬効は同じ。 わが国では後発薬メーカー育成のために、先発薬の原則7割という高価格に規制されており、普及が大幅に遅れている。 先発薬が3000円だとすると後発薬は2100円だが、医療保険の自己負担は3割であるから患者にとっての差額は270円にすぎない。1割負担の高齢者なら差額はわずか90円である。

効果的な対策としては、先発薬と後発薬の薬価差(900円)を全て自己負担にすること。 後発薬の承認にあたって、先発薬と薬効は同じと保障しているから、両者の薬価差の3割は単なる「安心代」。 もちろん、患者が先発薬を選択するのは自由だが、安心代にまで保険を適用するというのは明らかに行き過ぎ。患者差額を大きくすれば、後発薬の普及は一気に進む。 また、普及量が増えれば後発薬メーカーの収益も増えるから、6割の薬価を海外並みに引き下げ、国民医療費をさらに節約できる。

(4)介護労働力不足問題 現在、深刻となっている介護労働力不足問題も、医師不足問題と同様、介護報酬の問題と考えることができる。 介護産業は特に、人件費比率の高い産業であるために、介護報酬がすぐに賃金に影響する。 労働力不足問題の直接の原因は、景気が良くなり、他の産業の賃金が上がり、相対的に介護産業の賃金が低くなったこと。 加えて、介護報酬が引き下げられたこと(今年4月より2.27%引き下げ)。2000年代初めと全く同じ構図。

解決策。 第一に、混合介護。医療保険における混合診療と同様、保険サービスと保険外サービスの併用を認めること。 サービスの質が高いこと等を条件に、介護報酬以上の料金設定を認める。 例えば、身体介護の介護報酬は現在、1時間当たり約四千円であるが、四千五百円の料金とする。このうち五百円が保険外料金であり、利用者は保険サービスの1割(四百円)と合わせて九百円を自己負担する。ヘルパーの時給は一気に五百円もアップ可能である。

一方、介護保険からの給付(三千六百円)は今までと変わらず、公費も一切増えない。 このように価格面の混合介護を解禁すれば、努力次第で賃金アップが可能となることから、質の高い労働力が介護産業に踏み留まる大きな動機づけとなる。 むしろ、努力してもしなくても同じ料金という現行制度の方が、悪平等で不健全な仕組と言える。もちろん、利用者に選ばれなければ料金アップは維持できないから、利用者の不利益にはならない。

第二に、特別養護老人ホーム等の介護施設において、労働者への適切な賃金分配が促されるためには「社会福祉法人制度」の改革が不可欠 特養等を運営するための特殊な法人格である社会福祉法人は、家族・同族経営が実に多く、事実上の世襲が許される前近代的仕組み。福祉分野の特定郵便局。 オーナー一家の役員報酬が多額に及ぶ一方、介護職員の賃金が極端に低いことが問題視。

会計情報が一般公開されておらず、長らく実態が不明であったが、最近の厚生労働省調査によって、平均利益率が8 会計情報が一般公開されておらず、長らく実態が不明であったが、最近の厚生労働省調査によって、平均利益率が8.7%と非常に高く、一施設平均で三億円あまり、全体で約二兆円もの内部留保があることが判明 多額の公費が投入されているにもかかわらず、労働者に十分な分配もせず、このような「儲けすぎ経営」が横行する背景には、①オーナー中心の歪んだガバナンス(統治)構造、②情報公開の甘さ、③不明確な財務規律という問題がある。これらを正すための法改正をセットで実施しなければ、介護報酬引き下げのしわよせが労働者に行く。

第三に、中長期的観点からは地域間の需給ミスマッチの解消が重要。 少子高齢化が急速に進む日本では、介護労働力不足が将来的にますます深刻化すると考えられるが、その程度は全国一律ではない。 都市圏は高齢者数が激増する一方、地方では早くも5年後に減少に転じる県がある。今後、都市圏、特に東京都で生じる介護労働力不足、介護施設不足は壮絶を極める。 他方、地方は今いる介護労働者、介護施設が不要になってゆく。もちろん、地方の介護労働者の一部は若手を中心に都市圏に移るだろうが、離職や廃業をするケースも多いだろう。つまり、地域間のミスマッチ拡大が、日本全体の介護労働力不足に拍車をかける。

高齢者(65歳以上)人口の将来予測

 このための対策は、逆に都市部にいる高齢者に地方への移住を促すこと。特に地方出身者が多く、人口も多い「団塊の世代」が一大チャンスであり、里帰りを自ら希望する人々に元気なうちに移住してもらう。 地方への人口流入が進むほか、彼らの医療・介護需要によって、地方の雇用が将来にわたって維持できる。 これは極めて現実的かつ有効な地方創生策でもある。地価の高い都市部で介護施設の整備を行うより、はるかに安上がりで財政も節約できる。

 唯一のネックは、現行の介護保険制度が移住を妨げている点であり、具体的に都市の高齢者が移ると地方の介護保険料が上がってしまう問題がある。医療保険も同様である。 移住元の都市部が費用負担を行う「住所地特例」を拡大できれば、この障害が取り除かれる。 図の徳島県、高知県、秋田県は、安倍政権が進める「地方創生特区」として、実際に住所地特例の規制緩和による移住促進を提案したが、厚生労働省の猛抵抗に遭ってとん挫した。まさに岩盤規制である。