「情報活用の実践力」の育成と評価を中心とした校内体制のあり方 6年間の学びを保障する授業設計と学校力 「情報活用の実践力」の育成と評価を中心とした校内体制のあり方 みなさんこんにちは、氷上情報教育研究会の芦田といいます。 本日は、「6年間の学びを保証する授業設計と学校力」について発表を行ないます。 小学校の場合、1学年1学年の学びを保障し、卒業する段階で6年間の学びを保障しなければなりません。そのためには、教職員が「ねらい」や「学習目標」を共有し、子どもの学びを保障していく必要があります。 氷上情報教育研究会 芦田繁昭 婦木 巧 岸田隆博
これまでの経過 子どもの学びを保障する組織ワークの実現 6年間を見通した学びの保障ができない ・ 学びを保障する授業設計と学習歴の共有 担任が1年で変わる 6年間を見通した学びの保障ができない ねらいを共有できない ・ 学びを保障する授業設計と学習歴の共有 ・ ルブリック(評価指標)の活用と共有 しかし、学級担任が1年で替わることや交代時の学びの引き継ぎが行われていないのが現実があります。また、総合的な学習などにおいても、「ねらい」や「評価規準」を共有し、6年間を連続した学びとして捉えるという意識がとても希薄だと感じています。 そこで、この課題を少しでも解消し、6年間を見通した「子どもの育ち」を保障していくために、 ○学びを保障する授業設計と学習歴の共有 ○ルブリックの活用と共有 今述べた2点を大切にした6年間の学びを保障することが「子どもの学びを保障する」教職員の組織ワークを作ることになると考えました。 子どもの学びを保障する組織ワークの実現
授業設計支援システムの開発 (1)学習支援システムの概要 ③学 習 歴 ①授業設計 ②評 価 それでは、「6年間の学びを保証する業設計支援システムの概要」を説明します。 これがシステム全体の構成です。 大きく分けて3つの機能があります。 授業設計に関わる部分、評価にかかわる部分、学習歴にかかわる部分です。 授業設計にかかわる部分では、 6年間の学びを保障するために、1年1年、学年ごとにねらいを確実に身につけさせる必要があります。そのためには、少なくても、学習目標をうまく埋め込んだ授業設計を行う必要があります。学習目標については、次のように整理しました。 ②評 価
① 授業設計 (2)学習目標および活用ユニットの明確化 ① 授業設計 (2)学習目標および活用ユニットの明確化 この作成にあたっては、情報教育をベースに総合的な学習の時間を行っていくために、どのような情報活用の実践力が必要なのかという視点を大切にし、6年間の目標体系図を作成しました。それをもとに、学習目標及び活動ユニットを明確にしていきました。これは中学年の一部ですが、「大目標」「中目標」「活動ユニット」の3つに分類し、整理しました。 この学習目標を骨格に授業設計を行ないます。
授業設計 教師用学習設計フロー 学習目標を骨格に 学習材 支援 流れの詳細 評 価 評 価 これが、実際に全画面の学習目標を骨格にして作成された単元指導計画です。 赤枠で囲んだところが、学習目標を取り入れたものです。 この目標を骨格として「学習材」を準備したり、「学習の流れの詳細」を考えたり「支援の方法」や「評価方法等」の計画を立てることになります。
② 評 価 授業設計支援システムの開発 ②評 価 評 価 評価にかかわる部分です。 ② 評 価 評価にかかわる部分です。 6年間の学びを保障するためには、教職員の間で、学習目標や評価規準を共通理解し共有化されなければなりません。それには客観性のある評価規準が必要になってきます。 ②評 価 評 価
②評 価 自己評価ワークシート ②自己評価 ①目標 ③教師評価 同じ活動を振り返ることで、確実にねらった力を身につけさせる。 ②評 価 自己評価ワークシート 同じ活動を振り返ることで、確実にねらった力を身につけさせる。 ②自己評価 ①目標 ③教師評価 そこで、その基準に到達したかどうか客観的に判断できるルブリック(評価指標)を作成し、それをもとに、ルブリックを活用したワークシートを利用し授業を行いました。 これは、導入校が改良を重ね作成したワークシートです。 話し合いの場面の振り返りです。 まず、児童がワークシートのルブリックをもとに今日の目標を黒色で印をつけます。そして、授業が終わった後に赤色で自己評価を行ないます。それに対してその時間の児童の評価を教師が赤で印をつけ、子どもに返すことになります。
③ 学習歴 全校の単元記録 単元の概要・資料・到達度等 授業設計支援システムの開発 ③学習歴 学習歴にかかわる部分です。 ③ 学習歴 ③学習歴 全校の単元記録 単元の概要・資料・到達度等 学習歴にかかわる部分です。 6年間の学びを保障するためには、学校組織として児童の連続した学びをどこまで保障できるのかを明らかにしながら確実な成長を目指さなければなりません。そのために、単元の概要や使用した資料、各学習目標に関する達成度等その単元にかかわる情報を共有しました。
学習目標の達成評価 ③ 学習歴 ○当該学年でどの目 標をねらって学習をしたのか。 ○ねらった目標の回数によって色は違う ③ 学習歴 ○当該学年でどの目 標をねらって学習をしたのか。 ○ねらった目標の回数によって色は違う ○次年度の担任が具体的に見えやすい形での引き継ぎのための工夫 さらに、授業後次年度の担任が具体的に見えやすい形で引き継ぐための工夫として 当該学年でどの目標をねらって学習設定を行なったのかが分るようにその回数によって色付けをしました。 次年度の担任は、学習目標が抜け落ちている学習目標を骨格とした授業構想を組むことで学習目標の抜けを地を防ぐことができます。 こうすることによって、前年度の学びを知り、学びに連続性を持たせることができるのです。
教師の変容は 学年間の引き継ぎや授業作りの話し合いが活性化 指導案の添付で学習が分かる 学習履歴の蓄積が参考になる 指導計画が立てやすい また、運用してみて教師側では、昨年度の引き継ぎと、今後の授業作りについて協議をし、共通理解しようという話し合いが活性化しました。 指導計画が立てやすい
教職員の意識変化 1.子どもの成長やねらいを共有しようとする 組織ワークの意識化 2.学年間のつながりを意識した教職員相互の 交流や研修 組織ワークの意識化 2.学年間のつながりを意識した教職員相互の 交流や研修 3.育てたい力を計画的に埋め込んだ単元構想 具体的には、 ①子どもの成長やねらいを引き継いでいこうとする組織ワークへの意識化ができるようになったこと。 ②学年間のつながりを意識した教職員相互の交流や研修ができるようになったこと。 ③育てたい力を明確にしてから、単元構想ができるようになったこと。 の3点です。自分の学級さえ、とか、自分の学年さえよければ、とか、まず指導計画といって子どもの育ちを明確にしない授業設計から、変化が見えるようになってきました。
「6年間の学びを保証する授業設計支援システムの導入」 これまでの経過 平成12年度 「6年間の学びを保証する授業設計支援システムの導入」 継続的な取り組み 学びを育てる 「組織ワーク」の実現 第28回栃木大会 第29回沖縄大会 にて報告 さて、平成12年度に「このような授業設計支援システム」を導入しました。 導入した2校は研究の方法は違いますが、研究の柱として、 「学びを育てる組織ワークの実現」 をめざした、具体的で継続的な取り組みが行われてきました。 これらの具体的な実践については、 第28回栃木大会 第29回沖縄大会等で報告させていただきました。 さて、導入後、 6年が経過し、当時1年生の児童が平成18年3月に小学校を卒業しました。 当時1年生の児童が、「平成18年3月卒業」
目的と方法 目的 「6年間の学びを保証する授業設計支援システム」を導入した学校と、導入していない学校では「情報活用の実践力」に違いがあるか 方法 調査問題を回答させ、回答を比較し、分析する そこで、「システム」を導入した2つの学校とシステムを導入していない学校では、卒業時において、児童の「情報活用の実践力の力」には違いがあるのかを検証することにしました。その方法として児童に調査問題を回答させ、それを比較することで、6年間の学びが保障できたかどうかを分析することにしました。
調査問題の実施 対象 (丹波市内の5小学校、6年生児童数203名) 実施時期(平成18年3月) 導入した学校 2校(児童数46名) 導入した学校 2校(児童数46名) 導入しなかった学校 3校(児童数157名) 実施時期(平成18年3月) ○対象(丹波市内の5小学校 6年生児童数203名) ○実施期間(平成18年3月)
調査用紙 これが調査用紙です。 調査用紙では、児童が記入するときに、学習の見通しや学習場面が想定しやすい設問になるように工夫しました。
「6年生の総合的な学習の時間で【災害に強い 街づくり】について調べ、おうちの方や地域の 方々に来ていただいて発表することになりました。」 調査用紙の工夫 「6年生の総合的な学習の時間で【災害に強い 街づくり】について調べ、おうちの方や地域の 方々に来ていただいて発表することになりました。」 見通す まとめる力 具体的には、「6年生の総合的な学習の時間で【災害に強い街づくり】について調べ、おうちの方や地域の方々に来ていただいて発表することになりました。」という導入です。 また、内容は、 課題解決のための見通す力を問う項目 目的に応じた情報手段を活用して集める力を問う項目 ふさわしい方法でまとめる力を問う項目 わかりやすく伝える力を問う項目 4つです。 特徴的なところを、報告します。 集める力 伝える力
自ら課題を見つけ、課題解決のための見通す力を問う項目 「どんな方法」で 調べますか? 大きな違いがあるようには 見えないが インタビューを詳しく見ると 青色は導入していない学校です。 赤色は導入した学校です。 ②あなたは【火事の災害から街を守る仕組み】について調べることにしました。どんな方法で調べたらいいと思いますか?調べる方法を書きましょう 情報を集めるときの情報収集の方法を問う設問です。導入した学校と導入していない学校の間には、情報を集める手段に大きな違いはみることができません。 しかし、インタビューの中身を詳しく見てみると
インタビューの相手は インタビューする 相手を選択する。 より価値のある 情報を 誰から情報を集めるのか 導入していない学校は、「消防署・警察署・被害にあった人などからインタビューをする」と回答したのは62%であったのに対して、導入した学校では75%になっています。これは、学習目標の中の「自分に必要な情報を様々な活動・メディアを通して集める」(公共施設・関係施設・企業・団体などから集める)という活動が導入校において意識化されて実践された成果だと考えます。 つまり、必要な情報や正確な情報を得るにはインタビューする相手を選択し、情報を集めるという意識、またはより価値のある情報を収集しようとする観点において差がみられます。
課題解決に必要な情報を目的に応じた情報手段を活用して集める力を問う項目 「何」を持って 調べに行きますか? 情報を集める手段の選択範囲が広い 筆記用具と 同じ必需品 である ①【火事の災害から街を守る仕組み】を調べるために、消防署に行くことにしました。何を持って調べに行きますか。もって行きたいものを書きましょう。 という問です。 ここでは、導入した学校と導入していない学校に大きな違いを見ることができました。特に「デジタルカメラ」の所持については顕著です。導入した学校では、デジタルカメラを持っていくと回答した児童が72%おり、筆記用具と同様に調べるときの必需品になっていることが分かります。 また、そのほかにも「ビデオやボイスレコーダなどの録音機」においても導入した学校が導入していない学校を上回っており、情報を集める手段の選択範囲が広くなっています。これは、カメラやビデオで情報を集めることで目的にあった情報や質の高い情報を集めようと意識しているとも考えられます。
集めたヒントを整理して、ふさわしい方法でまとめる力を問う項目 「どんな方法」で まとめますか? ふさわしいまとめ方の意識 ①集めてきた資料を使ってまとめることになりました。あなたは、「どんな方法で」まとめますか。思いつく方法をいくつか書きましょう この項目においても、「コンピュータ活用」「OHP」「劇」の項目において違いが現れています。 これらのまとめ方においても、「おうちの方や地域の人の前で発表する」のにふさわしいまとめ方に対しての意識に違いがあると考えられます。
「伝えるため」のまとめ方を身につけている まとめる内容は 「4枚まで」のスライド まででまとめよう 「伝えるため」のまとめ方を身につけている 40% 78% ②あなたはコンピュータを使って「街を守るための消防士の働き」をまとめることにしました。4枚までのスライド(画面)でまとめます。それぞれのスライド(画面)の中に、どんな内容や言葉を入れますか。下のスライドに書きましょう。 調べてきた内容を4枚のスライドで「何を」まとめるのか記す問いです。導入した学校は96%の児童が、導入していない学校は64%児童が4枚のスライドを活用してまとめていました。最後のページに注目してみると「まとめ・感想」等を書くと記した児童は、導入していない学校で(40%)だったのに対し、導入した学校では(78%)にのぼりました。これは、小学校の6年間で「課題を見つける・調べる・まとめる・伝える」といった活動を繰り返し、「伝える」ためのまとめ方を身につけてきた結果であり、学校組織としての取り組みであると考えられる。
導入した学校から見えてきた成果 インタビューする相手を明確にし、より価値のある情報が収集できる デジタルカメラなどの情報収集に必要な持ち物の意識が高い 調べてきた内容をまとめる手段が豊富である まとめる内容が分りやすく整理できる 今回情報活用の実践力を児童に「調査問題に回答させる」ことでその力を探ろうとしました。 その結果、導入した学校は、 ①インタビューする相手を明確にし、より価値のある情報が収集できる。 ②デジタルカメラなどの情報収集に必要な持ち物の意識の高い。 ③調べてきた内容をまとめる手段が豊富である。 ④まとめる内容がわかりやすく整理できる。 といった点において、導入していない学校を上回っていると言えます。
おわりに 児童の回答の分析を終えて ①目標や評価の共有化 ②「いつ」「どのような」学習を ③目に見える形で、次年度へ引き継ぐ 最後に分析を終えすることで、 学習目標や評価方法を共通理解し、 「いつ」「どのような」学習をしたのか明らかにすることや、 その明らかにしたことを目に見える形で引き継ぐことなどを組織として取り組んだことが先ほどのような成果として表われたと考えています。 6年間の学びを見通しながら、すべての教員が十分に理解し、子どもの育ちを確かなものにする組織ワークがいかに大切であるかを物語っていました。 学びを育てる組織ワークの大切さと それ自体の引継ぎの大切さ