第13章 フォンノイマン/モルゲンシュテイン解

Slides:



Advertisements
Similar presentations
最上 亮.  近年標的型と呼ばれるサイバー攻撃が増え、大 企業や、政府機関が情報窃取型の標的型メール 攻撃の被害を受けている。  標的型メール攻撃による個人情報漏えいは、企 業に莫大な損失を与えるとともに、信頼を失う。  現在サイバー攻撃における攻撃者、防御者の戦 略をゲーム理論的にモデル化する研究がおこな.
Advertisements

Voronoi Game on Graph and its Complexity 寺本 幸生 上原 隆平 (JAIST)
第 5 章 企業と費用 企業の目的 企業 生産要素:労働・土地・資本 利潤最大化 5.2 生産関数 生産関数: 生産要素と生産物の技術的関係を表した もの 2.
新ゲーム理論 第Ⅰ部 非協力ゲームの理論 第2章 戦略形ゲームのナッシュ均衡
ゲーム理論・ゲーム理論Ⅰ(第2回) 第2章 戦略形ゲームの基礎
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
初級ミクロ経済学 -消費者行動理論- 2014年9月29日 古川徹也 2014年9月29日 初級ミクロ経済学.
離散数学入門 (集合論、ベン図) 情報システム学科 中田豊久.
M.E.ポーターの競争戦略論 M.E.ポーターの競争戦略論は、「競争優位」に関する理論的フレームワークを提示した基本的理論である。SCPパラダイムという考えをもとに持続的な競争優位を確立するための戦略である。 SCPとは、市場構造(structure)、企業行動(conduct)、業績(performance)の略語であり、市場構造と企業行動が業績を決めるという考えである。
ゲーム理論・ゲーム理論Ⅰ (第8回) 第5章 不完全競争市場の応用
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
上級価格理論II 第3回 2011年後期 中村さやか.
ゲーム理論・ゲーム理論Ⅰ (第6回) 第4章 戦略形ゲームの応用
経済学A ミクロ経済学(第4回) 費用の構造と供給行動
「生き残り競争」から抜け出したい! -ゲーム理論入門- 東京国際大学オープンキャンパス (2014年8月23日) 経済学部体験授業
新ゲーム理論ゼミ 第5章 「繰り返しゲーム」 M1 松村 草也.
「存在の肯定」を規範的視座とした作業療法理論の批判的検討と 作業療法・リハビリテーションの時代的意義 田島明子
計算の理論 I ー DFAとNFAの等価性 ー 月曜3校時 大月 美佳.
初級ミクロ経済学 -生産者行動理論復習と前回宿題解説-
Extremal Combinatrics Chapter 4
    有限幾何学        第12回.
初級ミクロ経済学 -ゲーム理論入門- 2014年12月19日 古川徹也 2014/12/19.
論理式の表現を数学的に取り扱いやすくするために代数学の助けを借りる.
ロビンソー・クルーソー経済.
法と経済学(file 6) ゲーム理論2 今日の講義の目的 (1)展開型ゲームという考え方を理解する (2)後方帰納法の考え方を理解する
10.Private Strategies in Games with Imperfect Public Monitoring
政策決定のプロセス 政策過程論 公共選択 ゲームの理論.
初級ミクロ経済学 -ゲーム理論入門- 2014年12月15日 古川徹也 2014年12月15日 初級ミクロ経済学.
ゲーム理論・ゲーム理論Ⅰ(第3回) 第2章 戦略形ゲームの基礎
9.NP完全問題とNP困難問題.
特殊講義(経済理論)B/初級ミクロ経済学
3. 消費の理論.
8.Intersecting Families
CSP記述によるモデル設計と ツールによる検証
慶應義塾大学経済学部 グレーヴァ香子 Takako Fujiwara-Greve
新ゲーム理論 第Ⅰ部 非協力ゲームの理論 第1章 非協力ゲームの戦略形
© Yukiko Abe 2014 All rights reserved
第Ⅱ部 協力ゲームの理論 第9章 シャープレイ値.
第Ⅱ部 協力ゲームの理論 第7章 交渉問題 2008/07/01(火) ゲーム理論合宿 M1 北川直樹.
◎ 本章  化学ポテンシャルという概念の導入   ・部分モル量という種類の性質の一つ   ・混合物の物性を記述するために,化学ポテンシャルがどのように使われるか   基本原理        平衡では,ある化学種の化学ポテンシャルはどの相でも同じ ◎ 化学  互いに反応できるものも含めて,混合物を扱う.
総合政策学部4年 佐藤 建仁 環境情報学部3年 生田目 啓 総合政策学部2年 谷 明日美
第Ⅱ部 協力ゲームの理論 第15章 費用分担問題 2008/07/02(水) ゲーム理論合宿.
Analysis for Marketing Planning
経済原論IA 第10回 西村「ミクロ経済学入門」 第9章 完全競争市場と効率性 京都大学経済学部 依田高典.
論文紹介 Query Incentive Networks
形式言語の理論 5. 文脈依存言語.
経済原論IA 第5回 西村「ミクロ経済学入門」 第5章 消費者需要理論の応用と拡張 京都大学経済学部 依田高典.
計算の理論 I -Myhill-Nerodeの定理 と最小化-
3. 消費の理論.
7.4 Two General Settings D3 杉原堅也.
第Ⅱ部 協力ゲームの理論 第10章 コア 2008/07/01(火) ゲーム理論合宿.
意外と身近なゲーム理論 へなちょこ研究室 p.
第Ⅱ部 協力ゲームの理論 第16章 破産問題 2008/07/02(水) ゲーム理論合宿 M1 浦田淳司.
循環構造 民間部門経済循環の流れ circular flow 家 計 企 業 (価格メカニズム) 市場機構 が働く p p 消費財市場 y
第Ⅱ部 協力ゲームの理論 第11章 仁(nucleolus) 2008/07/02(水) ゲーム理論合宿 M1 浦田淳司 nucleolus
進化ゲームと微分方程式 第15章 n種の群集の安定性
『組織の限界』 第1章 個人的合理性と社会的合理性 前半
情報経済システム論:第13回 担当教員 黒田敏史 2019/5/7 情報経済システム論.
3. 消費の理論.
第Ⅱ部 協力ゲームの理論 第7章 提携形ゲームと配分 2008/07/01(火) ゲーム理論合宿 M1 藤井敬士.
第16章 動的計画法 アルゴリズムイントロダクション.
第Ⅱ部 協力ゲームの理論 第14章 交渉集合.
比較政治学における パレスチナ研究 ~交渉ゲーム理論を中心に~
矛盾した知識 デフォルト推論 仮説を用いた推論 準無矛盾推論 デフォルト規則 デフォルト理論の拡張 → デフォルト証明 シナリオ
囚人のジレンマ ―― 裏切りのインセンティブ ――
計算の理論 I 反復補題 火曜3校時 大月 美佳 平成16年7月13日 佐賀大学知能情報システム学科.
第Ⅰ部 非協力ゲームの理論 第6章 情報の価値 2008/07/01(火) ゲーム理論合宿 M2 渡辺美穂.
データ分布の特徴 基準化変量 歪度 尖度.
大阪市立大学 孝森 洋介 with 大川,諏訪,高本
地域通貨的価値を利用した 価値の交換システム
Presentation transcript:

第13章 フォンノイマン/モルゲンシュテイン解 第Ⅱ部 協力ゲームの理論 第13章 フォンノイマン/モルゲンシュテイン解 2008/07/02(水) ゲーム理論合宿 M2 渡辺美穂

内容 1.安定集合 2. 非定和3人ゲームの解 3.解と行動基準 ‥‥‥ フォン・ノイマン/モルゲンシュテイン解 定和3人ゲームの対称解 定和3人ゲームの差別解 2. 非定和3人ゲームの解  交渉曲線 コアが空である非定和3人ゲームの解 コアが空でない3人ゲームの解 3.解と行動基準 ‥‥‥

安定集合 フォン・ノイマン/モルゲンシュテルン解とは ・3人以上の協力ゲームに関し提案された最初の解. ・この解は,安全な配分の集合なので安定集合ともよばれる. ・すべてのゲーム理論の解はここから生まれ,ここへ帰っていく.

安定集合 【定義】 i)内部安定性 ii)外部支配性(外部安定性) > > > > > > ゲーム(N,v)が与えられたとき,配分の集合Aの部分集合Kが,以下の2つの性質を満たすとき,Kをフォン・ノイマン/モルゲンシュテルン解(安定集合)という. i)内部安定性  配分xと配分yとがKに属するならば,xはyを支配せず,yはxを支配しない. ii)外部支配性(外部安定性)  Kに属さない任意の配分は,Kに属する少なくとも1つの配分によって支配さ   れる. P1,P2,P3 選好条件:提携Sのすべてのメンバーにとって、配分xが配分yより大きい      利得が得られるため、yよりもxを選好する 実現可能条件:そのような配分xを提携Sだけで実現可能である 支配する > (10,20,30) (12,21,33) (11,22,27) > > > 支配しない > >

安定集合 フォン・ノイマン/モルゲンシュテルン解とは ・3人以上の協力ゲームに関し提案された最初の解. 支配関係は1人提携と全体提携については成立しないため,2人ゲームの安定集合は配分の集合に一致する. 3人以上の任意のゲームにおいて安定集合が空でないとは限らない. (ex.安定集合が空な10人ゲーム(Lucas,1968))

安定集合 定和3人ゲームの対称解 x1 A B C D E F G ☆多数決3人ゲーム ・コアが空 →シャープレイ値や仁での 配分が難しい. ・コアが空  →シャープレイ値や仁での   配分が難しい.  提携{1,2} ⇒ (6,6,0) 提携{1,3} ⇒ (6,0,6) 提携{2,3} ⇒ (0,6,6) x2 x3 集合K={D,E,F}

安定集合 定和3人ゲームの対称解 x1 A {1,2} ⇒ (6,6,0) {1,3} ⇒ (6,0,6) {2,3} ⇒ (0,6,6) ⅰ)内部安定性 Kの属する任意の2つの配分は互いに他を支配しない. ⅱ)外部支配性 配分D=(d1,d2,d3)=(0,6,6)に不満をもったP1がP2にG=(g1,g2,g3)=(4,8,0)という集合Kに含まれない配分を示して提携{1,2}をつくることを提案する. 集合K={D,E,F} F E G より,配分Gは配分Dを支配するが,この時,P3は配分Gを支配する配分E=(6,0,6)を示してP1とP2の提携を阻止する. B D C x2 x3

安定集合 定和3人ゲームの対称解 Kはフォンノイマン・モルゲンシュテルン解である. (対象解・客観解) x1 A {1,2} ⇒ (6,6,0) {1,3} ⇒ (6,0,6) {2,3} ⇒ (0,6,6) ⅰ)内部安定性 Kの属する任意の2つの配分は互いに他を支配しない. ⅱ)外部支配性 配分D=(d1,d2,d3)=(0,6,6)に不満をもったP1がP2にG=(g1,g2,g3)=(4,8,0)という集合Kに含まれない配分を示して提携{1,2}をつくることを提案する. 集合K={D,E,F} Kに属さない任意の点は,Kに属するいずれかの配分に支配されるので,Kは外部支配性を持っている. F E G Kはフォンノイマン・モルゲンシュテルン解である. (対象解・客観解) より,配分Gは配分Dを支配するが,この時,P3は配分Gを支配する配分E=(6,0,6)を示してP1とP2の提携を阻止する. B D C x2 x3

安定集合 定和3人ゲームの差別解 【対象解】 提携合理性という行動基準に基づいて行動し,提携形成に成功すれば利得6を得,失敗すれば利得が0になる. 【差別解】 提携形成をめぐる駆け引きから下りて,自ら中立を宣言し,ある一定の利得で満足する.或いは,あるプレーヤーが他のプレーヤーから差別的立場に立たされて,提携形成から排除され,ある一定の利得に固定されている状態 P1に          をみたす一定の値cを与え,残りのv(N)-cをP2とP3で分けるとすると,配分の集合D1(c)は以下のように表現できる. 

安定集合 A D1(c)が内部安定性と外部支配性をみたしていることを証明する. D1(c) E D ⅰ)内部安定性 B F G C H

安定集合 D1(c)は内部安定性・外部支配性を満たすので,フォンノイマン・モルゲンシュテルン解である. (差別解) A ⅱ)外部支配性 1.a1>cのとき a2<b2,a3<b3より, aは提携{2,3}に関してbに支配される. 2.z1<cのとき z1<cなる配分zはDまたはEに支配される. a D1(c) E D b z D1(c)は内部安定性・外部支配性を満たすので,フォンノイマン・モルゲンシュテルン解である. (差別解) B F G C H

安定集合 以上より,定和3人ゲームのフォンノイマン・モルゲンシュテルン解として1つの客観解と無限の差別解があることがわかった.

非定和3人集合の解 交渉曲線 ☆非分割財3人ゲーム このとき,コアは という一つの配分から成る. P2・P3が共謀して価格を引き下げる戦略

非定和3人集合の解 ⇒交渉曲線 配分Aから底辺BCに向かってP1の利得は常に減少し,P2,P3の利得は常に増加する曲線 A=(12,0,0) 交渉曲線上の配分の集合をKとすると, E=(7,3,2) E F=(4,4,4) E’ 提携{1,2}{1,3}についてはもちろん,提携{2,3}についても F Z であるからEはAを支配できず,支配関係は成り立たない⇒内部安定性 B D’ C D

非定和3人集合の解 A E 交渉曲線Kは安定集合である E’ F Z B D D’ C

非定和3人集合の解 コアが空である非定和3人ゲームの解 一般の3人ゲームにおいても,コアが空であってもプレーヤー間の話し合いは何らかの意味である状態に落ち着くと考えられ,安定集合を求めることができる. 1.v1+v2+v3>2v コアが空の場合

非定和3人集合の解 ・7つの領域 ①のどの領域も外部の点によって支配されない ①の領域について対称解と差別解を考える.

非定和3人集合の解 以下のような非定和2人ゲームを考える (1)対象解

非定和3人集合の解 (1)対象解 K①によって支配されない三角形3つ 三角形の安定集合Kは3つの交渉曲線

非定和3人集合の解 (1)差別解 P1は中立的立場であり,利得はc1に固定される. C1=50とすると, 線分pqが差別解

非定和3人集合の解 コアが空でない3人ゲームの解 ・コアは内部安定性を満たしている.

解と行動基準 ・フォンノイマン・モルゲンシュテルン解は安定な行動基準によって得られる解である. ・このとき,行動基準とは,プレーヤー間の社会秩序や社会組織.或いは社会習慣・社会規範などを意味する. ・つまり,客観解や差別解のような異なるタイプの解が存在するということは,そのような解を導く異なる安定な行動基準が存在し,それがプレーヤーに受け入れられるということである. ・フォンノイマン・モルゲンシュテルン解の理論は,規範的理論でも記述的理論でもなく,起こり得る可能性のあることを発見する理論であるということである.

安定集合