放送産業の特徴(2) 放送法制度、倫理・人権 1.放送法制度 2.放送倫理と放送法 3.テレビが加害者となるとき 4.倫理的な取材・報道をするために
1.放送法制度 日本の放送=法制度拘束型メディア (1)放送事業体 NHK(公共事業体) 民間放送(一般放送事業者) の並存体制 受信料 視聴者 NHK 全国的な放送サービス 図1 NHKと視聴者の関係
(2)周波数の利用 放送の「計画的普及」「健全な発達」のために、放送用周波数の割り当ては計画的・段階的に許可される。 放送法の第2条の2で、「放送普及基本計画」を定めることが、主務大臣(総務大臣)に義務づけられている。 a.放送の種類別・区分別、対象地域別の放送系統数 の目標設定。 b.割り当て可能な周波数、放送技術の発達、放送需 要の動向、放送対象地域の事情を考慮して定める こと。
(3)施設管理主体と番組編集主体 放送事業を営む際には、総務大臣(=国)からの免許ないし認定を受けなければならない。 →“放送設備(ハード)の管理責任”と“放送番組(ソフト) の編集責任” ①ハードとソフトの一致:放送設備を持つものが、放送 番組の最終責任を持つ。 地上放送のみに現在は適用。 電波法に基づく「免許」が必要。 a.工事設計の技術水準 b.割り当て可能な周波数の有無 c.財政的基礎の有無 d.マスメディア集中排除の原則
②ハードとソフトの分離:受託放送事業者(ハード)と委 託放送事業者(ソフト)を分離。 ←1989年の放送法改正によりCS放送で実施。 BS放送でも適用。 受託放送事業者は、総務大臣の「免許」が必要。 委託放送事業者は、放送法に基づく「認定」を総 務大臣から受けなければならない。 a.利用できるハードの有無 b.財政基盤 c.「放送法施行規則」に合致しているか d.放送の普及および健全な発達に適切か e.「外国性」の制限
(3)免許・認定制度 ≠誰でも放送事業を営むことができる 特に「マスメディア集中排除の原則」は大事。 「放送をする機会をできるだけ多くの人に確保することにより、放送による表現の自由ができるだけ多くの人に享有される」(放送法第2条第2項) ⇒「放送普及基本計画」(総務大臣) ①所有・支配できるチャンネル数の制限 ②各地域社会において「大衆情報提供手段」の所 有・支配が特定の者に集中させない ⇒細則が、「放送局の開設の根本的基準」「放送 法施行規則」などで明示されている(→図2)。
(4)「番組編集準則」などの順守義務 「放送番組は法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、または規律されることがない」(放送法第3条)=自主・自律の原則 しかし、放送法第3条の2などでは、 ①放送番組編集準則を遵守すること i.公安及び善良な風俗を害しないこと ii.政治的に公平であること iii.報道は事実を曲げないこと iv.意見が対立している問題についてはできるだけ 多くの角度から論点を明らかにすること ②放送番組の相互間の調和を図ること
③放送番組の編集基準を定め、これに従って放送番 組を編集すること。 ④放送番組審議会を設置すること。 ⑤特定の者からのみ放送番組の供給を受けることと なる条項を含む番組供給協定を締結してはなら ないこと。 また、地上派テレビ放送局の免許・再免許交付の条件として、教育・教養番組やローカル番組の一定比率を義務づけている。 ⇔増大する社会的影響力に対する考慮
2.放送倫理と放送法 放送倫理=「放送人にとっての守るべき規範」「放送人と視聴者、取材を受ける人との秩序関係」 (1)放送倫理基本綱領 NHKと(社)日本民間放送連盟が、1996年9月19日に定めた。 =放送界全体を律する精神綱領 主要な内容は資料1を参照。
3.テレビが加害者となるとき テレビ=「低俗」「1億総白痴化」「のぞき趣味的」? 他にも「メディア・スクラム」「冤罪報道」「被害者の人権侵害」など、テレビだけではなくマス・メディアの取材・報道が非難されることは多い。 では、テレビ(他のメディアも含む)が、取材対象やその関係者を傷つける(人権やプライバシーを侵害する)のはどんなときか? 事件・事故の情報は主に警察発表に頼っている。 Q1:では、次のような発表から、あなたはどんな報道をしますか?
警察:黒のミニスカート、長袖黒色上衣、黒色ブーツ、 グッチの腕時計。また、自転車の前かご内に黒色 半コートが入っていました。 記者:被害者の服装及び装飾品などは? 警察:黒のミニスカート、長袖黒色上衣、黒色ブーツ、 グッチの腕時計。また、自転車の前かご内に黒色 半コートが入っていました。 記者:被害者の持っていたバックの大きさは? 警察:小さなリュックサックタイプのもので、プラダ製です。 (鳥越・取材班, 2000) どんな被害者像が思い浮かぶか? →派手な女性、ブランド好き? 実際、 「美人女子大生ー“ブランド依存症”で落ちた穴」 「キャバクラ嬢だったストーカー殺人“被害女子大生”の素顔」などと、週刊誌やワイドショーで報じられた。
この事件は、1991年10月26日の午後1時ごろにJR高崎線の桶川駅前で、通学途中の女子大生(当時21歳)が、待ち伏せしていた男に刃物で刺され死亡したという事件。 事件の特異性 ↓ 警察発表に基づく報道+連想 ↓ 被害者に関する虚偽の報道 これ以外にも、「冤罪報道」「メディア・スクラム」など取材対象の人権を侵害する取材・報道の例は多い。
4.倫理的な取材・報道をするために 最近では、事件関係者(特に被害者)から、「取材の自粛」「匿名報道」の要請がなされることが多い。 それを受け、警察当局・医療機関などは、匿名での発表、取材の拒否を報道機関に対して行っている。 ←「個人情報保護法」(2005年4月) ←「犯罪被害者等基本法」の「犯罪被害者等基本 計画案」(2005年4月施行、同年12月27日閣議決 定)
しかし、そもそも実名報道すべきか否かは、報道機関が判断すべきもの(←ニュースバリュー) 法律や公権力により、取材・報道が規制されるのは、受け手の知る権利や公益性という観点から考えるといかがなものか。 さらに、警察発表を鵜呑みにする、そこから推測を行うことは断じて許されない。 ←独自取材による裏づけが必要。
参考文献 武蔵大学社会学部(編) (2006) 多様化するメディア環境と人権 御茶の水書房 武蔵大学社会学部(編) (2006) 多様化するメディア環境と人権 御茶の水書房 大木圭之介 (2004) 倫理・人権 松岡新兒・向後英紀(編著) 新現場からみた放送学 学文社 Pp. 164-181. 篠原俊行 (2004) 放送法制度 松岡新兒・向後英紀(編著) 新現場からみた放送学 学文社 Pp. 111-124. 鳥越俊太郎・取材班 (2000) 桶川女子大生ストーカー殺人事件 メディアファクトリー