リハビリテーション臨床における「障害受容」の使用法 ー臨床作業療法士へのインタビュー調査 の結果をめぐる一考察ー

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リハビリテーション臨床における「障害受容」の使用法 ー臨床作業療法士へのインタビュー調査 の結果をめぐる一考察ー さっそく始めたいと思います。 ・所属ですが、抄録に加えまして、立命館大学大学院先端総合学術研究科に在学中です。 ・タイトル~、ということで、ご報告させていただきます。 東京都板橋ナーシングホーム 立命館大学大学院先端総合学術研究科博士課程 田島明子

はじめに 専制的・押しつけ的 「障害受容」の使用に対する批判 反省的態度のみで終結しない「仕掛け」があるのでは? 南雲直二,1998,『障害受容-意味論からの問い-』,荘道社. 上農正剛,2003,『たったひとりのクレオール』,ポット出版. 専制的・押しつけ的 反省的態度のみで終結しない「仕掛け」があるのでは? ①はじめに、ですが ②これまでにも、リハビリテーションや障害児教育の分野において、「障害受容」という言葉の使用に対する批判というのは、すでに存在しています。 例えば、南雲先生や上農先生が書かれた本なんかがあります。 ⑤それらをまとめると、「専制的」であるとか、「押し付け的」である、ということだと思いますが ⑥私自身は、臨床をやってきたなかで、「障害受容」という言葉の使用には 反省的態度のみで終結しない なにか「仕掛け」があるのでは?と感じてきました。 そこで、本研究では、そうした「仕掛け」についての考察を行うことを目的とし、「障害受容」という言葉の臨床での使用状況について臨床で働く作業療法士にインタビューを行いました。

対象者 作業療法士として臨床で働く7名 選定方法:無作為に選出せず、第39回OT学会において筆者の発表に関心を持ってくださった方、養成校時代の友人、友人からの紹介により選出 専門領域、経験年数が重ならないよう配慮 →人数、選出方法等鑑み、本結果が必ずしも実際の臨床を一般化できてはいない ・ここに書いてあるとおりですが、選出方法について補足しますと、無作為に選出しなかったということなんですが、その理由ですけれども、本研究の問題設定が、臨床実践についての批判的検討を含み持つので、無作為に選出したところでインタビューに応じてもらえない可能性が考えられたこと、また、できるだけ正直に現状や心情を語ってほしかったということがあります。 ・第39回OT学会での発表内容につきましては、お手元の資料にありますので、ご参照ください。資料1になります。 ・というわけで、人数、選出方法等鑑みて、本結果が必ずしも実際の臨床を一般化はできてはいないと考えております。今後の課題というふうに考えております。

対象者内訳 ・対象者内訳は、表のとおりです。(経験年数、性別、インタビュー日時、インタビュー時間を記載しております)。 ・あと、対象者の仕事内容につきましては、お手元の資料にありますので、ご確認いただければと思います。資料の2になります。

インタビューの方法 1)あらかじめ作成した調査票を元に半構造的に実施 2)質問項目 一般情報:①現在、過去の仕事内容 ②勤務年数、  一般情報:①現在、過去の仕事内容         ②勤務年数、  障害受容に関して:①職場での使用頻度              ②誰がどのように使用するのか              ③その言葉による変化              ④障害告知について              ⑤「障害受容」についてどのように習ったか ・インタビュー方法については、ここに記載したとおりです。次にいきます。

分析方法 1)逐語録より、「障害受容」に関して述べられているものをすべて抜き取り、カード化 2)各事例ごとに内容が類似するカードを集め、それぞれにカード番号と見出しをつけた。 3)重複する内容のカードは省略したが、各事例のカードから得られたすべての結果を反映できるよう、文章を組み立てた。 ・分析方法についてはここに書いたとおりですが ・2)のデータについては、資料3にお示ししてあります。 ・3)についてなんですが、私が現在在学している大学院の修士論文で、結果すべての考察を行っているんですが、本発表では、そのなかから、「障害受容という言葉を使用している」という人たちから得られた結果と考察のみの報告になります。 ・インタビュー結果すべてにご関心のある方は、こちらの冊子に全文があります。関連する逐語録についてもすべてのっていますので、後でお声かけいただければ差し上げたいと思います。

結果1 ・職場での「障害受容」という言葉の使用頻度ですが、これは4件法で(しばしば用いる、ときどき用いる、ほとんど用いない、まったく用いない)答えていただいた結果です。 ・ここに書かれていないMさんは、入職後3年ぐらいは用いていたんだけれども、今は用いていない、ということで、Iさんについては、病院と更正施設両方を経験されているので使用の差異について重点的に伺いました。

結果2 ・で、ときどき用いているというSさん、Oさんの職場での使用状況ですが、細かいところは各自ご覧いただくとしまして、いくつか注目していただきたいところがあります。 ・まず注目されるのが、Sさん、Oさんとも、「回復期リハビリテーション」を行っているところなんですね。どうも、「回復アプローチ」「代償アプローチ」の移行に立ち会う機能を有する場で「障害受容」という言葉が用いられる傾向があるということが指摘できると思います。 ・もう1つは、「どのような事象に用いるか」というところなんですが、「機能回復への固執」ということが1つと、セラピストの主観に着目するなら、セラピストの意図やプランの到達へ向けての阻害感があるということになります。

結果3 これは、Iさんからの逐語録の結果なんですけれども、更正施設における使用についてなんですけども、見ていただきたいのは、「どのような事象に用いるか」ということで、読みますと、再就職の際に対象者が自分の適性や能力が分からず,適職を選べず,支援が難航するときに「障害受容」という言葉が適用される、ということなんですね。

考察 能力認識のズレ感 目的遂行の阻害感 障害受容 ・「専門性」の肯定化 ・多様ははずの障害観が「能力」へ収束 回復アプローチ 代償アプローチ 能力認識のズレ感 目的遂行の阻害感 ・「専門性」の肯定化 ・「専門性」の予定調和的遂行への期待感 ・多様ははずの障害観が「能力」へ収束 ・以上の結果から、障害受容という言葉の使用には、次のような図式が描けると考えます。まず、対象者とセラピストの間に「能力認識のズレ感」がある、ということです。それが、セラピストの「訓練の進行が妨げられている」という主観的な「苦労感」を引き出したときに、障害受容(ができていない)という言葉が用いられる、ということです。 ・最後に、こうした図式から導きだされるいくつかの問題点を指摘して終わりたいと思います。まず、「能力認識のズレ感」というのが引き金になっているということで、これはリハビリテーションにおけるアプローチ法との関連で、能力に着目した障害観へ収束していかざるを得ない部分があるということが1つ、それと同時に、目的遂行の阻害感というのは、逆に言えば、「専門性」の肯定化と予定調和的遂行への期待感、というのが発生する、ということで、つまり、「障害観」「専門性」の押し付けが、障害受容という言葉の使用により発生するということではないかと私は考えました。 ・「仕掛け」ということですが、アプローチ法の円滑な遂行ということを巡って、「障害観」「専門性」の対象者への押し付けということを背景として、障害受容という言葉が用られる、という一連のプロセスが明らかになったのではないかと考えます。 ・報告は以上です。ご静聴ありがとうございました。 障害観 専門性 障害受容