メディア社会学 (第5回) 2018年5月15日(火)
理念型的把握と 行為の意味理解との関係について① 社会学の基本(比較による行為の意味理解) (実際には右側の「意識・行動」にある程度くいこみうるが、ともあれ媒介変数) 世界観・行動様式の純粋なものが、理念型 属性の差 意識・行動の違い 世界観・行動様式(エートス)≒理念型
理念型的把握と 行為の意味理解との関係について② 上記の例 今までの話から 1)『プロ倫』に即すると 属性 プロテスタント、カトリック 世界観・エートス 意識・行動 禁欲的蓄積・勤勉(プ) 消費・何もしない(カ)
理念型的把握と 行為の意味理解との関係について③ ここでの「世界観」 蓄財によって恩寵の証を得る(プ) 閑暇に価値がある((カ)の一部)等々 「エートス」・・・世界観に基づく実際の行動様式・生活態度・倫理 (例)他人のためになることをして儲け、そして使わずに貯める(プ)
理念型的把握と 行為の意味理解との関係について④ 2)『日本の思想』に即すると 属性 ・・・ 庶民、知識人 ↓ 意識や行動 ・・・ 実感信仰、理論信仰 世界観 (庶)無限抱擁性、中心性の欠如(←日本の固有信仰(神道)由来)、体系性への反発(知)日本の封建遺制(天皇制など)への反撥→体系的なものへの憧れ、西欧崇拝
理念型的把握と 行為の意味理解との関係について⑤ 以下、①の一部繰り返し (実際には右側の「意識・行動」にある程度くいこむ)??? ただしそうも言えない → 例えば宗教上の教義・・・その点で先述のように属性にもなる 属性の差 意識・行動の違い 世界観・行動様式(エートス)≒理念型
理念型的把握と 行為の意味理解との関係について⑥ 宗教上の教義 ・・・ 世界観、エートスを典型的に示す しかし多分、昔のキリスト教徒でさえ以下の文言を守った人は多いといえるのか?(亀井勝一郎) 「すべて色情を抱きて女を見るものは既に心のうちに姦淫したるなり」(マタイ書)
理念型的把握と 行為の意味理解との関係について⑦ 再び①の変容バージョン 属性の差 現実の意識や行動の違い 背景となる純粋な世界観・ 行動様式(エートス)≒理念型
理念型的把握と 行為の意味理解との関係について⑧ 人々の世界観や思想 ・・・ 二つの再構成の方向 1. ボトムアップ的な再構成 彼らの日常生活そのもの 彼らの日常生活を繋ぎ合わせて、 おぼろげに浮かぶもの 2. トップダウン的な再構成 教義 ・・・△ 教義の彼らなりの解釈 ・・・ →トートロジーになりかねないと批判されうるかもだが × ○ ○
理念型と学問の二分類① (この項目は発展的内容) ウェーバーの問題関心 人文・社会科学がいかにして科学たりうるか? ウェーバーの哲学上の師、リッケルトの師ヴィンデルバント(1848-1915)の学問の二分 自然科学 ・・・ 法則定立科学 人文・社会科学(歴史的文化科学) ・・・ 個性記述科学
リッケルト(1863-1936) ウェーバー 理念型 理念型と学問の二分類② 一般化的方法 ・・・ 自然科学中心 個性化的方法 ・・・ 人文・社会科学中心 ウェーバー 理念型 モデルを作る ・・・ その点は一般化的方法に近い 極端な事例 ・・・ その点は、個性化的方法
・・・経済領域が思想・文化領域を決定する。 ウェーバー(一部のウェーバー解釈) 宗教などの文化が、経済を決定づけると。(上部構造決定論) 理念型と学問の二分類③ ウェーバーの方法 マルクスの逆との見方も マルクス 下部構造決定論(非常に粗っぽくいえば)。 ・・・経済領域が思想・文化領域を決定する。 ウェーバー(一部のウェーバー解釈) 宗教などの文化が、経済を決定づけると。(上部構造決定論)
用語補足説明・注釈 上部構造・・・政治・社会・文化 下部構造・・・経済 「社会の経済的土台(下部構造)の上に形成される政治・法律・宗教・道徳・芸術などの意識形態(イデオロギー)と、それに対応する制度・組織」 http://note.masm.jp/%BE%E5%C9%F4%B9%BD%C2%A4/ 下部構造・・・経済 「史的唯物論で、一定の発展段階にある社会構成の基礎となる物質的な生産関係の総体」 http://note.masm.jp/%BE%E5%C9%F4%B9%BD%C2%A4/
「プロテスタント→恩寵への不安→蓄財・禁欲」 理念型と学問の二分類④ 『プロ倫』に即すと、 「プロテスタント→恩寵への不安→蓄財・禁欲」 信仰 → 経済的行動ゆえ、 上部構造決定論とも素直に読めば解釈可能。 しかし文化勲章をとった東大教授大塚久雄はじめ、その解釈は間違いとする意見も強い。
『社会科学の方法』(1966、岩波文庫)では、その見方(ウェーバーは上部構造決定論だという見方)を否定 理念型と学問の二分類⑤ 大塚久雄(1907-1996) 『社会科学の方法』(1966、岩波文庫)では、その見方(ウェーバーは上部構造決定論だという見方)を否定 理念型は、一般化的方法と個性化的方法の折衷ゆえ 上部構造 → 下部構造の一方的規定ではない 信仰の深まりと経済の発展、双方が「親和性」をもつと。(シュパンヌング/緊張)
(補)シュパンヌング(緊張のドイツ語Spannung) ウェーバー独自の弁証法のように大塚は紹介 通常の弁証法・・・正と反が交わりあって新たなものになる(合) 大塚のいうシュパンヌングの弁証法・・・正と反が交わりそうで、近づきつつ、交わらずに 相互に影響を与え合うが、別の新しいもの (合)ができるのではなく、正と反がそれぞれ変化していく。
(補)シュパンヌング(緊張のドイツ語Spannung) ここでの正に信仰の深まり、反に経済の発展を入れてみれば『プロ倫』に即して理解できる あれか-これか、のままの宙づり状態
大塚久雄(1907-1996)http://drc. diamond. co. jp/sales/pdf/200309/index 大塚久雄(1907-1996)http://drc.diamond.co.jp/sales/pdf/200309/index.html及びスパイシー、さらにhttp://hurec.bz/mt/archives/2006/08/294_199711.htmlからの画像 文化勲章受章者。水と油の関係にいわれるマルクスとウェーバーを統合し、さらにキリスト教までをも統合しようとした大塚久雄。東大教授時代は松田智雄教授(東大図書館長のちに図書館情報大学初代学長、日本ワグナー協会初代理事長、あらえびす野村胡堂の女婿)と非常に親しかった。
「棚上げ」を学術用語でいうと→ 「価値自由」 理念型から価値自由へ 研究者自身の信仰、世界観、価値観 → 棚上げ(例・・・大塚は熱心なクリスチャンだったので、そこからまずウェーバーに入ったが、宗教を阿片だというマルクスにも惹かれ、宗教上の恩師、内村鑑三に相談し、逆に励まされた、という)(シュパンヌングの宙づりは大塚自体の水と油の統合の難しさの自覚の現れか) 人々の価値観 → 純粋な型で抽出 ・・・ 理念型 「棚上げ」を学術用語でいうと→ 「価値自由」
「・・・から解き放たれた」「・・・が欠如した」 「(特定の)価値(観)から解き放たれた」 = 「中立的な」 価値自由 「価値中立性」とも。 「価値自由」でいう「自由」の語感 日本語の日常の「自由」の語感とは → 120-180度違う(要注意!!) cf.カント・・・動物的欲望のまま生きること=不自由 「・・・から解き放たれた」「・・・が欠如した」 「(特定の)価値(観)から解き放たれた」 = 「中立的な」
価値自由 価値関係 価値自由と価値関係① 特定の価値観や価値判断から研究者が解き放たれて、中立的に研究対象に臨む 研究対象のもつ価値観は価値判断を尊重し、それを内在的に追っていく OR 研究対象当人の究極の価値(多くの場合宗教観や革命の理想などになる)から位置づけた個々の事柄の価値付け・価値判断の体系を追うこと。
価値自由 → 価値関係を可能に 価値関係の研究 → 理念型の追究の基礎 価値関係を価値自由的に追う例 価値自由と価値関係② → 価値関係を可能に 価値関係の研究 → 理念型の追究の基礎 価値関係を価値自由的に追う例 若者文化が分からないと言っていたマクルーハン ・・・ ミイラ取りがミイラに オウム真理教やネオコンに対する私の態度 かつての多くの日本のソ連・中国研究者
とはいえ、ウェーバー自身、研究者の窮極の価値を否定はせず 政策論の問題 -価値自由との関係でー ウェーバー 社会政策学会で、価値自由を唱える 一部のマルクス主義者について、「困ったマルクス主義者が教壇から自説を押しつける」と、批判 「べき論」 科学(学問)ではなく、論説・主張(評論) とはいえ、ウェーバー自身、研究者の窮極の価値を否定はせず 現代のウェーバー解釈(山之内靖、矢澤修次郎)
→ 価値を含むのは当然。ex.差別研究者で差別をなくそうと思わない人はゼロに近い 現在の「価値自由」解釈① 研究者の研究の動機部分 → 価値を含むのは当然。ex.差別研究者で差別をなくそうと思わない人はゼロに近い 虚心に研究対象の人々に向き合う 自分の価値と反対の世界観をもつ人々 彼らの動機や意味世界もきちんと色眼鏡なく把握 → 似たことを別の表現で(次のスライド)
人間は必然的に価値判断を持つ 研究者も例外ではない 価値判断をなるべく減らす努力は可能 それでもどうしても残る価値判断の部分 現在の「価値自由」解釈② 人間は必然的に価値判断を持つ 研究者も例外ではない 価値判断をなるべく減らす努力は可能 それでもどうしても残る価値判断の部分 自分及び他人に正直に話す → 価値判断による歪みを最小限に
現在の「価値自由」解釈③ 反対の例 : 中立的な装いの調査報告 → 大いに人を欺くことに 例・・・政府の報告書の調査・企業の研究所の調査(「科学の中立性神話」を利用) ←こういう見方の背景に量的調査主導であった客観主義を標榜する、従来の社会学への反省もありうる