気泡の超微細化による 下水処理効率向上の可能性の検討

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気泡の超微細化による 下水処理効率向上の可能性の検討 システム創成学科知能社会システムコース4年 応用流体工学研究室 指導教官 川村隆文 10903 本宮 一

発表の概要 研究の背景・目的 微細気泡生成法について 気泡径と曝気効率の関係 下水処理施設に超微細気泡を導入した場合の効果の検討 結論・今後の課題 発表の概要です。 まず、本研究の背景・目的について説明します つぎに気泡の微細化法をいくつか紹介します そのあと、気泡の大きさと溶ける割合ついて行った計算の説明をします そして、超微細気泡を下水処理に導入した場合の効果の検討を行います 最後に結論・今後の課題を、まとめます

1.研究の背景 現在下水処理には、全消費電力のおよそ1%という莫大な電力が使われており、下水処理の効率を上げることが重要である。 下水処理の効率向上には、処理場における曝気効率の向上が求められている。 東京都区域 年間約6.6億kWh2 内訳 汚泥 処理 30% 揚水他 33% わが国では下水の処理に莫大な電気を消費しています そして下水処理のなかでも、受電量が多く、大きな効率化の図れる曝気効率の向上が求められています 曝気 37% 平成12年度 東京都区部全処理場受電割合

有機物除去の仕組み 散気(エアレーション)によって好気性微生物が呼吸 活性汚泥(好気性微生物)が繁殖 →下水中の有機物の1/3はCO2に 約1m 曝気槽を上から写した写真 下水処理の主な目的は有機物の除去です そのために、活性汚泥と呼ばれる好気性微生物に呼吸をさせ、3分の1は二酸化炭素として放出され、残りを活性汚泥として回収します 呼吸のためには大量の酸素が必要となり、「このように」水の底から空気を吹き出して供給します、この曝気に大量の電力を必要とします この写真は本学を処理区域に含む、三河島処理場に見学にいったときの曝気槽の様子を写したものです この汚れた色は下水の汚れではなく活性汚泥です 散気の様子 散気(エアレーション)によって好気性微生物が呼吸   →下水中の有機物の1/3はCO2に   →     〃    の2/3は微生物の体に

研究の目的 気泡を微細化することで曝気効率を上げることができるが、1mm以下の気泡の超々微細化はあまり例がない そこで                そこで 超微細気泡がどれほど水に溶けるのかを計算によって求め、 気泡の超々微細化によって曝気効率がどれほど上がるのかを検討する 本研究の目的です 曝気効率の上昇には気泡を微細化するとよいのですが、キャビテーションを利用したものの例がありません そこでキャビテーションによって作られる超微細気泡が、どれだけ水に溶けるのかを計算によって求め、 実際に下水処理場に導入することを検討します

2.微細気泡生成法 酸素の溶かし方 気泡の微細化方法 気泡径 水面攪拌式 従来型2,3ミリ① 下水 生物処理 散気式 径の小さい気孔に通す 超微細気泡1ミリ② 噴出式 せん断力で砕く 0.1~1.0ミリ この章では気泡の微細化法について簡単に紹介します 下水に酸素を供給する方法としては、水面をかき混ぜる水面攪拌式、水の底に細かい気泡を送る散気式、空気をまぜた水を噴出させる噴出式があります 散気式は小さい穴に空気を通すことで気泡を小さくし、噴出式は水流の剪断力や、キャビテーションによって気泡を小さくします。 超々微細気泡 キャビテーションで砕く 0.001~0.5ミリ③

従来散気法(気孔を用いた気泡微細化) ①セラミックス散気装置 ②膜状樹脂製散気板 ・+圧力損失小 ・-酸素移動効率小 ・気泡径1ミリ前後 2.超微細気泡生成法(1/2) 従来散気法(気孔を用いた気泡微細化) ①セラミックス散気装置 ・気泡径2~3ミリ ・+圧力損失小 ・-酸素移動効率小 ②膜状樹脂製散気板 ・気泡径1ミリ前後 ・-圧力損失大 ・+酸素移動効率大 セラミックス散気装置は2,3ミリの気泡を出し、現在もっとも一般的に使われているものです 膜状の樹脂製散気板は最新の技術で、1ミリの気泡を作り出します ともに小さい気孔によって気泡を微細化しています

③アトマイザー (キャビテーションによる超微細化) 2.超微細気泡生成法(2/2) ③アトマイザー (キャビテーションによる超微細化) 2液や気液の混合目的 0.001~0.5ミリに砕く 本卒論ではアトマイザーを使って検討する アトマイザーはキャビテーション発生装置で、気泡を0.001~0.5ミリ程度に砕くことができます 現実に、アトマイザーを下水処理に導入することが模索されており、本卒論はその研究の一部に位置づけられます 本研究室では ・アトマイザー形状の最適化 ・下水処理場への適用 を研究している

キャビテーションにより 気泡が微細化する様子 ここでキャビテーションによる気泡微細化のメカニズムについてお話致します 途中、流れを絞られた水流は、急速に速度を増し、それに伴い圧力が低下します このとき気泡は急激に成長し、出口で流れが開放された途端に、今度は圧力が急上昇し、 不安定になった気泡は崩壊し、微細化されます この写真は、実際に気泡を微細化させている様子です ↑キャビテーションによる気泡微細化の様子

3.気泡径と曝気効率の関係 超微細気泡による曝気の検討に必要な、1mm以下の気泡の酸素移動効率データがほとんどないため、計算により求めた 記述すべき現象 ・気泡が水底から水面まで上昇する  並進運動 ・気泡内分子が水中内に移動する   拡散現象 これから、気泡径と酸素移動効率の関係を求めていきます キャビテーションにより作られる、1ミリ以下の気泡についてはどれほど溶けるのかのデータがほとんどないので計算により求めました 計算において考えるのは 気泡が上昇する運動と気体分子が拡散する現象 です。

計算準備(1) 気泡の上昇 富山ら、抗力係数に関する実験から 3.気泡径と曝気効率の関係(1/4) 十分汚れている場合の式   十分汚れている場合の式 まず気泡の上昇です。上昇力は浮力と抵抗力の差で求めますが、 このとき抵抗力に用いる抵抗係数Cdは運動の状況によって異なります。 ここでは下水処理場での計算を考えているので、水が十分に汚れている場合の式として 富山らの実験から求まった以下の式を用いることにします。

計算準備(2) 気体の拡散 竹村ら、二酸化炭素の溶解実験から 3.気泡径と曝気効率の関係(2/4) 完全に水の汚れが影響する時の式      完全に水の汚れが影響する時の式 気体の拡散においては、質量流速を考えるときに用いるシャーウッド数が、 Cdの値と同じく状況によって変化するので 水の汚れが溶解に影響する竹村の実験からの式を用いることにしました

計算確認 竹村らの実験結果と計算の結果を比較し、計算が正しいことを確認する 3.気泡径と曝気効率の関係(3/4) 計算確認 竹村らの実験結果と計算の結果を比較し、計算が正しいことを確認する 気泡半径0.38mmの二酸化炭素が水深50cmの深さから上昇する時の半径の変化を計算する 計算が正しいことを、二酸化炭素の溶解実験と比較して確認します このグラフからほぼ等しいことが分かります。 →ほぼ等しいことが分かる 気泡半径の 実験結果と計算結果比較

空気での計算 下水処理場での空気曝気を想定して計算する 以下のような範囲で、変数の値を変化させた 溶存酸素濃度 0 ~ 100 % 3.気泡径と曝気効率の関係(4/4) 空気での計算 下水処理場での空気曝気を想定して計算する    以下のような範囲で、変数の値を変化させた 溶存酸素濃度    0 ~ 100 % 曝気水深    0.25 ~ 10.0 m 初期気泡径 0.3 ~ 3.0 mm 計算が正しいことが確認できたので、実際の下水処理を想定します 以下、溶存酸素、水深、気泡径を変化させて計算しました

深さを4mとしたときの酸素移動効率 (酸素の溶解効率) 本卒論対象 最新1ミリ 従来型 キャビテーションによる 0.001~0.5ミリの気泡は 原則すべて溶けると考えてよい 深さを4mにしたときの結果です 通常、溶存酸素濃度は60%程度なので 今回検討対象の、キャビテーションによる気泡はすべて溶けると考えてもよいことが分かります

4.経済性評価 下水処理場に超微細気泡生成技術を導入した場合の消費電力削減効果について考える   下水処理場に超微細気泡生成技術を導入した場合の消費電力削減効果について考える 次に経済性の評価として、実際に下水処理場に導入したときの効果について考えます

1ミリ気泡コスト削減例 2.3ミリの気泡から1ミリ気泡を導入することで 39%の削減を達成(町田市事例) 2.3ミリの気泡から1ミリ気泡を導入することで  39%の削減を達成(町田市事例) その前に、1ミリ気泡の導入例について紹介します 町田市では通年の試験結果から、39%の削減を達成しており、 処理流量が増えると、55%の削減が見込まれています

消費電力W[kW]の推定式 これから超々微細気泡の導入の検討を行う コストとして、消費電力のみを考える ただし、 4.経済性評価(1/8) これから超々微細気泡の導入の検討を行う  コストとして、消費電力のみを考える 消費電力W[kW]の推定式  ただし、  ρ :水の密度 [kg/m3]  g :重力加速度 [m/sec2]  H : 送水圧 [mAq] Q : 処理場全体の送水量 [m3/sec]  ηp : ポンプ効率  ηm : モーター効率 ただし、  ρ :水の密度 [kg/m3]  g :重力加速度 [m/sec2]  H : 送水圧 [mAq] Q : 処理場全体の送水量 [m3/sec]  ηp : ポンプ効率  ηm : モーター効率 ただし、 QO2: 処理場全体に必要な酸素量 [m3/sec]  α : 送気中の酸素割合  β : 気液比率  γ : 酸素移動効率 ただし、 QO2: 処理場全体に必要な酸素量 [m3/sec]  α : 送気中の酸素割合  β : 気液比率  γ : 酸素移動効率 さて、実際にアトマイザーを導入する検討を行います コストとしては消費電力を考えますが、 ポンプの仕事から、このように求まります ここで、水の密度、重力加速度、ポンプ効率、モーター効率を一定と考えることで 消費電力は送水圧と、送水量に比例することがわかります さらに、使用する酸素の量を基準にすることで、 酸素割合と、酸素移動効率は等しいと見て 気液比に反比例することがわかる

曝気槽の想定 三河島処理場の浅草系曝気槽をモデルケースとする 4.経済性評価(2/8) 東京都下水道局事業年報 三河島送風量・受電量資料 三河島処理場の浅草系曝気層データ 導入に関して、具体的な計算をするための モデルケースとして、三河島処理場を選びました このデータは次の必要酸素量の推定に用いられます 東京都下水道局事業年報 三河島送風量・受電量資料 三河島曝気槽設備資料 より作成

必要酸素量の推定 ①計測したBODの変化量から求める ②散気管の性能から溶ける酸素量を求める ①BOD変化量より求める 4.経済性評価(3/8) 必要酸素量の推定 実際に消費する酸素の求め方には ①計測したBODの変化量から求める ②散気管の性能から溶ける酸素量を求める の2種類が考えられる ①BOD変化量より求める BOD(生物化学的酸素要求量)は水の汚れをはかる指標として用いられ、流入下水と処理後の流出下水のBODの差を求めることで、処理に使用した酸素量が分かる 酸素量[kg/分]=処理流量[m3/分] ・BOD変化[mg/l] /1,000          =179.1・104 /1,000=18.6 実際に消費する酸素の求め方には 計測したBOD変化量から求める方法と 散気管の性能から求める方法が考えられます まず、BODの変化により以下のように求まります

②散気管データから求める 散気管1枚当りの通気量[l/分] =全通気量[m3/日] ・1,000/散気管数[数] /24/60         =1,216,945 ・1,000/4,998 /24/60 =192.1 散気管の技術データ(気孔径300μm)と1枚当りの通気量より 酸素移動効率=10.8% 酸素量[l/分]=全通気量・1,000 ・酸素割合・酸素移動効率/24/60         = 1,216,945 ・1,000・0.2・0.18/24/60 =18,254 単位換算(20℃)  酸素量[kg/分] =24.3>18.6 次に散気管のデータより求めます 散気管の技術資料から、酸素移動効率を求め、実際に使っている酸素を計算します この結果、24.3と、18.6より大きくでますが、これは別の酸素消費メカニズムや、溶存酸素の揮発など が考えられますが、いずれにせよ、散気管から得られたデータを、必要な酸素の量と考えます 実際に消費する酸素量はBODの変化量を上回る →散気管から求めた酸素量を必要な量と考える

その他データの設定 ポンプ効率 モーター効率 酸素割合 酸素移動効率 三河島ポンプ効率70% キャビテーションに強いポンプの効率66% 一般的には90%以上 酸素割合 20% 酸素移動効率 三河島(従来)散気管の2.3ミリ気泡    10.8% キャビテーションによる超々微細気泡 100%  →66%に統一 →94%に設定 その他、一定と考えたデータは以下のように設定します

4.経済性評価(4/8) アトマイザー導入評価 空気曝気 送水圧を10~50mAq、気液比10~100%の範囲で幅をもって任意のパラメータとして計算する。すべてキャビテーションが起こると仮定 計算の一例 以上から、試算を行います 送水圧を10~50mAq、気液比を10~100の間で変化させ、すべてキャビテーションが起こると仮定しました 三河島を基準とした、いくつかの計算例を示します。 低NPSHポンプは現在キャビテーション下で運転ができると確認されているポンプの性能を当てはめました この結果、送水圧15mAq、気液比30%ならばコストで並ぶことがわかり、この時は余剰空気が出ない分アトマイザーの方が有利になります キャビテーションに強い低NPSHポンプの取りうる値では、コスト増となる 送水圧15mAq、気液比30%ならばコストで並び、この時は余剰空気が出ない分新技術の方が有利ではある

送水圧、気液比とコスト比の関係 コストの削減ができるかどうかは無事キャビテーションが起こるかどうかによる コスト減 0.5 1 3 10 計算をグラフにしました。「この」方向に送水圧、気液比を変化させるとコストが下がることが分かります コストが実際に削減されるかどうかは、酸素移動効率が100%が無事成り立つ、 つまりキャビテーションが起こることが前提で、起こるならば削減は可能です 判断が微妙なため、流量が5分の1になる酸素曝気を考えて見ます コストの削減ができるかどうかは無事キャビテーションが起こるかどうかによる  →流量が5分の1になる酸素曝気を考えてみる

アトマイザー導入評価 酸素曝気(1) =W+(QO2×U) 動力原単位をUとすると、 消費電力=曝気電力+酸素製造電力 と表すことができる 4.経済性評価(5/8) アトマイザー導入評価 酸素曝気(1) 動力原単位をUとすると、    消費電力=曝気電力+酸素製造電力        =W+(QO2×U) と表すことができる 動力原単位には0.36 [kWh/m3]を用いる 動力源単位を用いて、消費電力はこのように表されます ここで動力源単位は企業の内部資料、処理場や実験などの結果を集めて、この表のようになります 処理場や実験値には、攪拌装置の電力も含まれており、酸素移動効率100%を想定して元では必要ない よって、最小の値ではあるが、0.36を用いる 処理場、実験でのデータには攪拌装置の電力量も含まれ、回転制御によって攪拌装置の効率を上げている。

アトマイザー導入評価 酸素曝気(2) 酸素曝気のほうが導入しやすく、送水圧25mAq、気液比15%でコストが並び、十分現実的な数値である。 4.経済性評価(6/8) アトマイザー導入評価 酸素曝気(2) 酸素曝気のほうが導入しやすく、送水圧25mAq、気液比15%でコストが並び、十分現実的な数値である。 送気コストは空気曝気のときの5分の1だが、酸素代がかかるため、揚程を下げたり気液比を上げたりしたときのコスト比の下がり方が小さい。 効率を最大に見て、やっと1ミリ気泡の成果を超えることができる 空気のときと同じ、送水圧と気液比の元で計算しました 酸素曝気の場合、ほぼ実現可能な値でコストが並ぶことが分かります しかし、酸素の製造電力が一定にかかる分、コストの減り方は小さくなります

考察(1) コスト比較 コスト比が1以下 になる条件 空気曝気 [mAq] 酸素曝気 酸素曝気のほうがコストが下がりやすい 考察(1) コスト比較 4.経済性評価(7/8) コスト減領域 酸素曝気 空気曝気 コスト比が1以下           になる条件 空気曝気                               [mAq] 酸素曝気       考察として、導入できるコスト比が1の境界線を考えます このグラフの傾きとなり、酸素曝気の方が、コスト減になる領域が広いことが分かる 酸素曝気のほうがコストが下がりやすい

考察(2)アトマイザー・酸素曝気による効果 4.経済性評価(8/8) 考察(2)アトマイザー・酸素曝気による効果 噴流が曝気送内のDOを均一化させ、汚泥の沈降を防ぐ BOD容積負荷が2~6倍に設備縮小化で維持費、減価償却、人件費の大幅削減 高価な酸素を逃すまいと曝気槽に蓋をし、逃げ場を失ったCO2が下水に溶けこみ、pH値を下げて微生物の育成に影響を及ぼすことがなくなる など その他考察として。単純な消費電力以外の影響を考えます 噴流によって、曝気槽内では汚泥が沈降しない 同じ処理場面積での処理容量が増えるため、設備の縮小化ができる ふたをする必要がなくなり、微生物の育成が促進される などが考えられます

結論 超々微細気泡の酸素移動効率を求め、導入に関して気液比や送水圧の関係を求め、以下の結論を得た 今のコストに並ぶためには空気曝気で送水圧15mAq、気液比30%ほどする必要があり、現実的に困難な数字である 酸素曝気ならば、十分にコストの削減が見込め導入が可能である(送水圧25mAq、気液比15% )               →しかし、すでにコストの4割削減が達成されている1ミリ気泡のほうが、現状ではやや優位にある。 結論は、以下のようになります。 酸素曝気では十分コスト削減が見込めますが、1ミリ気泡の方が優位である

今後の課題 高い気液比・低い送水圧での運転が可能な装置の開発が重要 詳しく調べる必要のあるデータは 今後さらに検討すべきものは 気泡径・気液比、等と酸素移動効率の関係データ 実ポンプの性能(キャビテーションによる性能の変化) 今後さらに検討すべきものは 消費電力以外の効果の定量的な比較 アトマイザー形状の最適化 キャビテーションが微生物に及ぼす影響 今後の課題として、以下のデータを調べ さらにあいまいな部分を検討する必要があります