生産要素への需要と生産要素価格: 労働市場・資本市場・土地の市場 ミクロ経済学II 第17回 要素価格と所得分配 1 生産要素への需要と生産要素価格: 労働市場・資本市場・土地の市場
生産要素市場 → 所得分配 所得分配の問題: だれがどれだけ稼ぐか? ー 労働者は賃金を稼ぎ、資本家は利子を稼ぎ、地主は地代を稼ぐ 生産要素市場 → 所得分配 所得分配の問題: だれがどれだけ稼ぐか? ー 労働者は賃金を稼ぎ、資本家は利子を稼ぎ、地主は地代を稼ぐ (所有する生産要素を市場で貸して支払いを受ける) 要素価格(賃金、利子、地代など)はどのように決まるか? ー それぞれの市場の需要と供給で決まる ー 企業の生産活動 → 派生需要(労働需要、資本需要、土地需要など)
今日やること 生産要素への需要関数 生産要素市場 労働市場 資本市場 土地の市場
単純化のための仮定 労働(N)以外の生産要素はすべて固定されている ⇒ 生産関数: Y=F(N) 生産物市場は完全競争 ⇒生産物価格Pは市場で決定され、各企業の行動に影響されない(各企業にとって定数) 労働市場は完全競争 ⇒市場賃金率wは市場で決定され、各企業の行動に影響されない(各企業にとって定数)
完全競争企業はどのように労働投入量を決めるか? 利潤が最大になるように労働投入量Nを選ぶ 利潤= 販売収入 ー 総費用 = P×F(N) - w×N ここで、生産物価格Pと市場賃金率wは各企業にとっては定数 利潤を最大にする労働投入量の値を求めよ 5
利潤最大化の条件 利潤関数は逆U字型 ⇒利潤曲線の傾きが0ならば利潤最大 ⇒Nで利潤関数を微分して0になれば利潤最大 ⇒利潤最大化の条件は P×F’(N)-w=0 ⇒ w = P×F’(N) 利潤 傾き0 N N* 6
労働の限界生産価値 労働需要関数(利潤最大化の条件と同じ): w=P×F’(N) 労働需要関数(利潤最大化の条件と同じ): w=P×F’(N) P×F’(N)を労働の限界生産価値(marginal value product of labor)という 労働を1単位追加すると、生産量がF’(N)(労働の限界生産)だけ増えるので、収入がP×F’(N)だけ増える P×F’(N)=労働を追加することによる限界メリット w=労働を追加することによる限界デメリット 主体的均衡点では、限界メリット=限界デメリット
労働の限界生産は逓減する 労働の限界生産 =F’(N)=ΔY/ΔN 資本が一定のときの生産関数 F’(N) Y ΔY ΔY ⇒P×F’(N)も右下がり N N ΔN ΔN
労働需要関数: w=P×F’(N) 労働需要曲線の高さ =企業が最大払っても良いと考える賃金 (willingness to pay) =労働1単位が生み出す収入 =労働の限界生産価値 w 労働需要曲線 P×F’(N) N 9
労働需要量の決定 各企業にとって市場賃金は所与 市場賃金と労働の追加1単位の限界メリットが等しくなるように労働投入量を決定 が労働者を雇うことから得た利潤 ⇒ N=N*のとき最大 労働の限界生産価値 =P×F’(N) w 市場賃金 P×F’(N) N N* 10
生産物の販売価格の影響 労働の限界生産価値=P1×F’(N) 生産物の市場価格がP0からP1に上昇 ⇒労働の限界生産価値が上昇 ⇒最適労働投入量が N0*からN1*に上昇 w 市場賃金 労働の限界生産価値=P0×F’(N) N0* N1* N
派生需要 労働需要関数: w=P×F'(N) ⇒生産要素の価格は、最終生産物の価格に比例 ⇒最終生産物への需要から、その生産物を生産するための生産要素への需要が派生 例) 車への需要減→自動車技術者への需要減
(完全競争)労働市場の均衡 (賃金の所得効果より代替効果のほうが大きければ)労働供給は右上がり 注意: 個々の企業が直面する労働供給曲線は水平 労働需要: w=P×F’(N) 労働供給 w N
資本需要 労働需要関数: w=P×F'(N) 資本需要関数: r=P×F'(K) r=資本のレンタル価格 (市場で決定) r=資本のレンタル価格 (市場で決定) F'(K)=資本の限界生産 P×F'(K)=資本の限界生産価値 資本を1単位追加すると生産量がF'(K)(資本の限界生産)だけ増えるので、収入がP×F'(K)だけ増える 企業の主体的均衡点では、資本追加による利潤の増加分と資本追加による費用の増加分が等しくなる
資本の限界生産は逓減する 資本の限界生産 =F'(K)=ΔY/ΔK 資本以外の生産要素が一定のときの生産関数 Y F'(K) ΔY ΔY ⇒ P×F'(K)も右下がり ⇒資本需要曲線も右下がり Kが増えるとF'(K)は小さくなる K K ΔK ΔK
(完全競争の)資本市場の均衡 F'(K)(資本の限界生産)が右下がりなので、資本需要曲線も右下がり 資本供給曲線は右上がり 資本需要: r=P×F'(K) 資本供給 r K
土地への需要 土地への需要関数: a=P×F'(L) a=地代(rent, 土地のレンタル価格) F'(L)=土地の限界生産 土地を1単位投入すると、生産量がF'(L)(土地の限界生産)だけ増えるので、収入がP×F'(L)だけ増える 企業の主体的均衡点では、土地を限界的に増やすことによる、利潤の増加分と費用の増加分が等しくなる
土地の限界生産は逓減する 土地の限界生産 =F'(L)=ΔY/ΔL 土地以外の生産要素が一定のときの生産関数 F'(L) Y ΔY ⇒ P×F'(L)も右下がり ⇒土地への需要曲線も右下がり ΔY Lが増えるとF'(L)は小さくなる L L ΔL ΔL
土地市場の均衡 F'(L)(土地の限界生産)が右下がりなので、土地への需要曲線も右下がり 土地の供給は常に一定→土地の供給曲線は垂直(価格弾力性ゼロ) L*: 市場全体の土地の量 土地供給 a aE 土地需要: a=P×F'(L) L* L
地主の収入 生産物価格が2倍 ⇒地代も2倍 ⇒地主の収入も2倍 土地供給 a a aE’ 収入の増加分 土地需要: a=P×F'(L) aE L* L L* L
労働市場と土地市場の比較1 労働供給は右上がり (実証結果) S a w 土地の供給は一定 S D D O L* L O N 21
労働市場と土地市場の比較2 生産物価格が2倍 賃金は2倍にはならない 生産物価格が2倍 ⇒地代も2倍 S a w S aE’ wE’ wE D’ D’ D D O L* L O N 22
生産物価格の上昇率=地代の上昇率 土地への需要関数: a=P×F'(L) 土地の投入量はL*で常に一定 ⇒土地の限界生産もF’(L*)で一定 ⇒生産物価格Pが2倍になると均衡地代aEも2倍になる ⇒均衡地代aEが2倍になるので、地主の収入(aE×L*)も2倍になる つまり、生産物価格が上がった分だけ、地代も地主の収入も上がる 経済成長⇒地代上昇
レントと準レント レント: (土地に限らず)固定的な生産要素に支払われる報酬 レント: (土地に限らず)固定的な生産要素に支払われる報酬 準レント: (資本など)短期的に固定的な生産要素に支払われる報酬 ダイヤモンドや石油、特殊な才能のように自然に供給量が固定されている生産要素もあるが、医者や弁護士、金融業のように免許や参入規制によって人為的に供給量が固定されている生産要素もある