Unit12 出したり引っ込めたり -自己株式-

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Unit12 出したり引っ込めたり -自己株式-

伝統的「自己株式論議」 -自己株式取得が原則禁止であった理由- 出資払戻禁止の原則違反 株主平等原則違反 取締役の忠実義務違反 証券取引法違反

①出資問題 企業活動(営利事業活動) 形成されたFund 出資 株式 株式 株式 個人財産 (遊休資本) 非企業活動

「払戻」といおうが「買い戻し」といおうが… 企業活動(営利事業活動) 形成されたFund 保有株式 非企業活動

だったら… 企業活動(営利事業活動) 形成されたFund 利益 購入 保有株式 非企業活動

②株主平等 会社が株式購入 業績悪化 売れないよー

でも… 証券取引所の利用! 支配するのは、①価格優先の原則と②時間優先の原則のみ

③取締役 の義務 会社(株主)の金を使って、自らの保身に走っているのでは? 経営陣 Omni Present Specter  の義務 会社(株主)の金を使って、自らの保身に走っているのでは? 経営陣 Omni Present Specter Green mailに応じる 自社株防戦買 TARGET BIDDER HOSTILE Tender Offer Counter Tender Offer

取締役の善管注意義務(会330)、忠実義務(会355)があるじゃないか! でも… 法律上の義務という枷 取締役の善管注意義務(会330)、忠実義務(会355)があるじゃないか!

インサイダー取引のおそれ ④証券取引上の弊害 株価マジック 自社株買による株価買い支え 相場操縦のおそれ

でも… 取締法規としての金融商品取引法 があるじゃないか!   *とりわけ相場操縦、インサイダー規制

それぞれの弊害は 対処が考えられていた! だとすれば、自己株式取得を一律に禁じる理由は? 「臭いものには蓋」的な政策論?

2) 「金庫株解禁」の契機 新株発行:昭和25年改正による「授権資本」 2) 「金庫株解禁」の契機 新株発行:昭和25年改正による「授権資本」   取締役会による迅速・適宜な設備投資の実行は可能となった(Unit11ね!)。でもその結果… もうかっているのに株価が下がる?   「株式消却」の新たな認識!   *「出す」方が取締役会なら、「引っ込める」方も取締役会? 旧212条:利益による株式消却(利益消却)

① 授権資本制度とは? -昭和25年改正の意義(Unit11の復習よ)- 新株発行を「資金調達」として見直す  =旧株主に割り当てると、「株式分割」をタテにお金を出資しない。できるだけたくさんのお金を会社に入れる方が大事! 第三者割当、あるいは公募の優先   *旧株主に「おいしいおもい」をさせるより、引受資金のある新株主(候補者)に広く頼る方が便利!

こんなときこそ、プロに任そう! -所有と経営の分離- 所有に専念 裁量による経営 かくして、旧商法280条ノ2以下の制度が成立した  -所有と経営の分離- 素人集団である 株主 経営を委任 プロである 取締役 所有に専念 裁量による経営 かくして、旧商法280条ノ2以下の制度が成立した

② 株式を増やすだけ? 取締役会による「新株発行」の自由化の招いたもの ROE(return on equity)の伸び悩み ② 株式を増やすだけ? 取締役会による「新株発行」の自由化の招いたもの ROE(return on equity)の伸び悩み どの時期に問題認識が鮮明となったのか?

どっちが得? 5人で分ける 3人で分ける

減らせないの?-旧商法212条- 株式ハ資本減少ノ規定ニ従フニ非ザレバ之ヲ消却スルコトヲ得ズ 株式 資本

「例外」として…212条1項但書 但シ定款ノ規定ニ基キ株主ニ配当スベキ利益ヲ以テスル場合ハ此ノ限ニ在ラズ 資本 配当可能利益

 株式を純粋に経営戦略上の武器と位置づける背景から、自己株式取得規制を企業金融的側面から見直し、もっと効率的な企業財政策を経営者が採ることができるようにするために、企業財務の方法になるべく制約を加えず、経営者の裁量に委ねるべきだという考え方が台頭してきた。つまり、極端にいえば、会社が余剰資金を有するにもかかわらず、有利な投資対象を探し出せない場合、本来株主に帰属すべき利益を会社が非効率的に留保しているよりも、むしろ株主に払い戻してしまうほうが合理的だとする見解である。結果として、残された株式の一株当たりの利益率(ROE)は向上し、会社の株式の価値も見直されるようになる。

 ここで注目すべきは、この目的で自己株式を会社がその利益によって買い付けることが可能となれば、それが新株発行と対称的に把握できるようになることである。つまり、新株発行は、会社が資金調達のために経営陣の判断で迅速に適宜エクイティー・ファイナンスを行うための制度である。取締役会は、自社の株式にもっとも人気が集まる時点で新株発行を行うと、もっとも効率的な資金調達が可能となる。これとは逆に、「自己株式を取得して消却することはマイナスのファイナンス」である。

【ちょっと余談】 ROEとは何か? 当期純利益÷発行済株式数 ROE= ____________ 株主資本 ÷ 発行済株式数 *ほんとは「株主資本」で株式を買い取って減らさなければ、ROEは向上しない!?

でも、利益消却は『大例外』! 株主の「持分」である株式が「消却」されてしまう。 →とても「大変なこと」という認識 株主の「持分」である株式が「消却」されてしまう。 →とても「大変なこと」という認識 そのため、原始定款に規定があるか、あるいは株主の全員一致の決議があるときに限ってこれを行うことが可能(通説)  *「強制」消却の場合、株主の本源的持分権を侵すおそれがある(財産権侵害=憲法違反?)

* 実は、従来このマイナスのファイナンスは、ほんとは212条1項但書に委ねられる役割であった。しかし、「法的なもとでの金額の宣言」=資本という項目が法的にはとても重視され(1項本文!)、資本の金額を無視した自由な会社財産の増減は『邪道』であった。そのため、その要件は厳格すぎるほど厳格であり(原始定款が原則、変更には全員一致!)、実際の役には立たなかった。

そこで、平成6年・旧商法212条ノ2の登場 会社ハ前条第一項ノ規定ニ依ルノ外定時総会ノ決議ヲ以テ株式ヲ買受ケテ之ヲ消却スルコトヲ得 資本 配当可能利益 株主総会決議

なぜ、定時株主総会? 配当可能利益の処分権限 *会452条、454条 **でも本当に利益処分は株主総会権限か?  *会452条、454条  **でも本当に利益処分は株主総会権限か?     unit7でちょっと触れましたが… そのため、後々尾を引く、 「株主総会か取締役会か」という綱引き

問題認識の時期 –利益消却の意味の微妙な変化- 問題認識の時期 –利益消却の意味の微妙な変化- バブル末期 バブル崩壊後 儲かっとるのに どうも、ウチの 株価は思うよう にあがらんのう… 利益が出ている間 に、株価を買い支 えろ! 絶対下げ るな!!

③ 利益消却特例法 平成9年「株式の消却の手続に関する商法の特例に関する法律」 3条1項 ③ 利益消却特例法 平成9年「株式の消却の手続に関する商法の特例に関する法律」  3条1項  「公開会社は、定款をもって、経済情勢、当該会社の業務又は財産の状況その他の事情を勘案して特に必要があると認めるときは取締役会の決議によりその株式を買い受けて消却することができる旨を定めることができる」

ようやく… 取締役会決議 資本 配当可能利益

めでたく取締役会は、「出す」ことも「引っ込める」ことも… 取締役会決議 資本 配当可能利益

④ 利益消却特例法改正- 超えてしまった一線(平成11年改正) ④ 利益消却特例法改正- 超えてしまった一線(平成11年改正) 3条の2:「前条第一項の場合においては、定款をもって、資本準備金をもって株式を買い受けて消却することができる旨を定めることができる」 利用財源:資本準備金 権限:取締役会のまま

資本準備金とは? 旧284条ノ2②(会445条② ) 「株式の発行価額の二分の一を超えざる額は資本に組入れざることを得」  「株式の発行価額の二分の一を超えざる額は資本に組入れざることを得」 旧288条ノ2(会445条③ )   *資本性取引による準備金=資本の「弟」  「左に掲ぐる金額はこれを資本準備金として積立つることを要す」  ・発行価額中資本に組入れない額  ・株式交換、株式移転、新設分割、吸収分割、合併などの場合の設定資本超過額

どういうこと? 取締役会決議 資本準備金 資本 配当可能利益

法的な「もとで」宣言を重視すると非難囂囂! ▼ 「急に現金を必要とする家庭が、目の前にあるダイヤモンドを売らないで、家の基礎の鉄骨を売って金に換えようとするようなもの」(by上村達男) *本来、旧289条①「資本準備金…は資本の欠損の補填に充つる場合を除くの外これを使用することを得ず」が原則だったが、旧289条②で上述の消却特例法の措置を踏襲!(但し株主総会決議) **さらに、旧289条②では資本の1/4を超える部分に限ったのが、会448条では無制限!!

⑤ かくして210条改正 平成13年6月-210条-  「会社が自己の株式を買い受くるには本法に別段の定めある場合を除くのほか定時総会の決議あることを要す」 →取得目的規制はない! 平成15年-211条ノ3  「会社は左に掲ぐる場合には取締役会の決議をもって自己の株式を買い受けることを得   …取締役会の決議をもって自己の株式を買い受くる旨の定款の定めある場合において第二一〇条第九項本文に規定する方法により自己の株式を買い受くるとき」

3) 現行の会社法では?

原則としての株主総会決議 →会156条 165条2項:「取締役会設置会社は、市場取引等により当該株式会社の株式を取得することを取締役会の決議によって定めることができる旨を定款で定めることができる」 →取締役会による自己株式取得:消却に限らない! 「募集株式」:会199条 →株式のリサイクル! 資本準備金を自己株式取得財源どころか、配当にまわすことも可能(会446条4号)