第 3 回.

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第 3 回

この講義の要点 大気の鉛直構造 (気圧・密度分布) を決定する支配法則の導出・理解 その法則から導かれること その発展として考えたいこと 気圧の意味 高さとともに気圧はどう変化するか? 高い山の上では気圧が低いことはどう理解されるか? その発展として考えたいこと [おまけ] 惑星大気温度の測り方の一例

地球大気の鉛直構造 温度で区分 熱圏 :90 km ~ 中間圏:50~90 km 成層圏:10~50 km 対流圏:0~10 km 雲ができる層 90km 熱圏 中間圏 50km 成層圏 地球型惑星の大気の厚みは惑星半径に比べて小さいが, 鉛直構造は重要. 水平よりも温度差が大きい. 10km 対流圏 0km 200k 280K (温度[k]) Andrews et al., 1987: Middle atmosphere dynamics, Academic Press, Fig. 1-1.

(新訂 地学図表, 浜島書店, より引用)

この回の講義のキーワード 静水圧平衡 (静力学平衡, hydrostatic equilibrium) 大気 (地球のみならず惑星の大気) の大規模な鉛直構造 (気圧・密度分布) を支配する法則

静水圧平衡の導出の準備 地面から宇宙まで延びる仮想的な気柱を考える 円柱の底面積: 大気の密度(単位体積あたりの質量): 下から n 番目の層の体積: 大気の密度(単位体積あたりの質量): 下から n 番目の層の質量: 単位を書く?

番目の層の空気に働く力 考える条件 空気が止まっているならば,空気に働いている力はつりあっている(力の総和はゼロ) 風が吹いていない 大気が運動していない または惑星全体の平均を考える 全体の平均としてみれば止まっているのと同じ. もし上向きの速度を持つならば,空気は宇宙に向かって逃げてしまう. もし下向きの速度を持つならば,宇宙から空気が降り積もってくる. 空気が止まっているならば,空気に働いている力はつりあっている(力の総和はゼロ)

番目の層の空気に働く力を 詳しく考える 空気に働く重力 上面に働く圧力: 下面に働く圧力: 3つの力のつりあい 質量×重力加速度  番目の層の空気に働く力を 詳しく考える 空気に働く重力 質量×重力加速度 重力加速度: 下向きに 上面に働く圧力: 力は 下向きに 下面に働く圧力: 力は上向きに 3つの力のつりあい

前の考察をまとめると 上向きの力 下向きの力 これらを使うと,

結果を整理 最終的に より, 静水圧平衡 (静力学平衡)

結果について考察(1) 上空に行くと気圧は?   と     の大小関係       なので

結果について考察(1) 上空に行くと気圧は?   と     の大小関係       なので 上空にいくと気圧は下がる 経験的に知っている通り

結果について考察(2) 気圧とは何か?

結果について考察(2) 気圧とは何か? 答え 1 m2 の上に乗っている空気の質量

結果について考察(2) 先に導出した式

結果について考察(2) 先に導出した式 最下層では

結果について考察(2) 先に導出した式 最下層では 2 番目の層では

結果について考察(2) 先に導出した式 最下層では 2 番目の層では 3 番目の層では

繰り返していくと 1 層目 2 層目 3 層目 4 層目 5 層目 ‥ ‥ ‥

繰り返していくと 1 層目 2 層目 3 層目 4 層目 5 層目 ‥ ‥ ‥ 各層の重さ

下から上まで足す 1 層目 2 層目 3 層目 + ‥ ‥ ‥

下から上まで足す 1 層目 2 層目 3 層目 + ‥ ‥ ‥

下から上まで足す 1 層目 2 層目 3 層目 + ‥ ‥ ‥

下から上まで足す 1 層目 2 層目 3 層目 + ‥ ‥ ‥

下から上まで足す 1 層目 2 層目 3 層目 + ‥ ‥ ‥

下から上まで足す 1 層目 2 層目 3 層目 + ‥ ‥ ‥

1 m2 あたりの地面から「大気の端」までの空気の重さ

1 m2 あたりの地面から「大気の端」までの空気の重さ

結果のまとめ わかったこと: (気圧)÷(重力加速度) =(地面から大気の端までの空気の質量) 1 m2 あたりの地面から「大気の端」までの空気の質量 わかったこと: (気圧)÷(重力加速度) =(地面から大気の端までの空気の質量)

計算問題:地球の空気の質量 先の結果を使って空気の質量を求めなさい 地球全球の質量は? 先の結果, 1 m2 あたりの空気の質量は (気圧)÷(重力加速度) =(地面から大気の端までの空気の質量)

計算問題:地球の空気の質量 先の結果を使って空気の質量を求めなさい 地球全球の質量は? 必要な値は以下の 3 つ. 地面気圧 重力加速度 地球の半径

地球の空気の質量 地球の地面気圧は ~1000 hPa = 100000 Pa h : ヘクト 100 のこと Pa : kg m s-2

地球の空気の質量 地球の地面気圧は 重力加速度 地球半径 ~1000 hPa = 100000 Pa h : ヘクト 100 のこと Pa : kg m s-2 重力加速度 ~9.8 ~10 m s-2 地球半径 ~6400 km

地球の空気の質量 先の結果を使って空気の質量を計算 (気圧)÷(重力加速度)=(地面から大気の端までの空気の質量) [Pa = kg m s-2] [m s-2]

地球の空気の質量 先の結果を使って空気の質量を計算 (気圧)÷(重力加速度)=(地面から大気の端までの空気の質量) [Pa = kg m s-2] [m s-2] [kg]

地球の空気の質量 先の結果を使って空気の質量を計算 1 m-2 あたり, 頭上には約 10 トンの空気がある. (気圧)÷(重力加速度)=(地面から大気の端までの空気の質量) [Pa = kg m s-2] [m s-2] [kg] 1 m-2 あたり, 頭上には約 10 トンの空気がある.

地球の全球の空気の質量 先の結果 を使って地球全体の空気の質量を計算 1 m-2 あたり, 頭上には約 10 トンの空気.

地球の全球の空気の質量 先の結果 を使って地球全体の空気の質量を計算 1 m-2 あたり, 頭上には約 10 トンの空気.

地球の空気の質量 この大気の質量は固体地球の何%か? 大気の質量

地球の空気の質量 この大気の質量は固体地球の何%か? 大気の質量 固体の質量

地球の空気の質量 この大気の質量は固体地球の何%か? なので, 大気の質量 固体の質量

惑星大気の空気の質量 先の結果を使って惑星の大気の質量を計算してみる 惑星 地面気圧(Pa) 重力加速度(ms-1) 惑星半径(km) 大気質量(kg) 金星 9.2x106 8.90 6052 4.8x1020 地球 1.0x105 9.78 6378 5.2x1018 火星 6x102 3.72 3397 2.3x1016

まとめ 大気の鉛直構造・・・特に気圧に注目して 上記の構造を説明する物理法則によって以下のことを説明 静水圧平衡 (hydrostatic equilibrium) 上記の構造を説明する物理法則によって以下のことを説明 山に登ると気圧が下がる 気圧は, それよりも上空にある大気の質量と等価

話していないこと 上空にいくと気圧はどのくらい下がるのか? 理想気体の状態方程式と静水圧平衡を組み合わせると結果を微分方程式として書くことができる. その解を用いることで上記の質問に答える事ができる.

おまけ (1) 微分方程式を用いて計算すると 結果は次のようになる 気圧は高さに対して指数関数的に変化. 地面気圧 スケールハイト (ただし, 温度一定を仮定) 大気分子/原子質量 ボルツマン定数 気圧は高さに対して指数関数的に変化. 気圧高度計はこの原理を使っているのだろう. 気圧高度計

おまけ (1) 微分方程式を用いて計算すると 地球の場合, 気圧は高さに対して図のように減少する 高さ (km) 気圧 (hPa)

おまけ (1) 微分方程式を用いて計算すると 地球の場合, 気圧は高さに対して図のように減少する 高さ (km) 気圧 (hPa) 例えば, 富士山頂 (z=3776 m) では, p ~ 650 hPa. 地面気圧の 65%. エベレスト山頂 (z=8848 m) では, p ~ 370 hPa. 地面気圧の 37%. 国際線旅客機が飛ぶ高度 (z~10 km) では, p ~ 320 hPa. 地面気圧の 32%.

おまけ (2) 密度観測に基づく温度測定 先の微分方程式を用いた気圧の式 を気体の状態方程式を用いて変形すると, 密度も, 気圧と同じように, 高さに対して指数関数的に変化.

おまけ (2) 密度観測に基づく温度測定 先の密度の式を変形すると, より ポイントは, 密度から温度を求めることができること. この原理を使って惑星の温度を観測することができる. (実際の計算には違う式が使われます.)

おまけ (2) 密度観測に基づく温度測定 惑星の大気の温度を測るには, 惑星の大気の密度を測る 静水圧平衡と状態方程式の原理を使って温度を計算

おまけ (2) 密度観測に基づく温度測定 惑星の大気の密度をどのように測るのか? 一つの方法は, 惑星に着陸する探査機 (着陸機, lander) が大気を横切るときに観測. Mars Pathfinder (Mars Pathfinder のサイト http://mars.jpl.nasa.gov/MPF/index0.html より引用)

おまけ (2) 密度観測に基づく温度測定 Mars Pathfinder のサイト http://mars.jpl.nasa.gov/MPF/mpf/edl/edl1.html より引用.

おまけ (2) 密度観測に基づく温度測定 摩擦力 重力 Mars Pathfinder のサイト http://mars.jpl.nasa.gov/MPF/mpf/edl/edl1.html より引用.

おまけ (2) 密度観測に基づく温度測定 着陸機 (lander) に働く摩擦力は大気が濃いほど(密度が高いほど)大きい. 着陸機の減速の大きさから密度を観測. 摩擦力 重力 Mars Pathfinder のサイト http://mars.jpl.nasa.gov/MPF/mpf/edl/edl1.html より引用.

おまけ (2) 密度観測に基づく温度測定 惑星の大気の温度を測るには, 惑星の大気の密度を測る 静水圧平衡と状態方程式の原理を使って温度を計算

おまけ (2) 密度観測に基づく温度測定 そのようにして求めた密度と温度. (Schofield et al. (1997) より引用)

まとめ 大気の鉛直構造・・・特に気圧に注目して 上記の構造を説明する物理法則によって以下のことを説明 静水圧平衡 (hydrostatic equilibrium) 上記の構造を説明する物理法則によって以下のことを説明 山に登ると気圧が下がる 気圧, 密度は高さに対して指数関数的に減少. 国際線の飛行機が飛ぶ高度では, 気圧は地面気圧の 30% 程度. 気圧は, それよりも上空にある大気の質量と等価 静水圧平衡と気体の性質 (状態方程式) を組み合わせた原理を用いて惑星の温度を測ることができる.

まとめ いくつかの日常経験を論理的に組み合わせて,ものの理を説明する 大気の鉛直構造・・・特に気圧に注目して 静水圧平衡(Hydrostatic Balance) 上記の構造を説明する物理法則は,下記と等価 山に登ると気圧が下がる 気圧, 密度は高さに対して指数関数的に減少. 国際線の飛行機が飛ぶ高度では, 気圧は地面気圧の 30% 程度. 静水圧平衡と気体の性質 (状態方程式) を組み合わせた原理を用いて惑星の温度を測ることができる.

金星, 木星など載せられる?

おまけ (1) 微分方程式を用いて計算すると 状態方程式の直感的な説明

地球の空気の質量 先の結果を使って空気の質量を計算する (気圧)÷(重力加速度) =(地面から大気の端までの空気の質量)

計算問題:地球の空気の質量 先の結果を使って空気の質量を求めなさい (気圧)÷(重力加速度) =(地面から大気の端までの空気の質量) (地面の気圧) と (重力加速度)の値が必要.

まとめ いくつかの日常経験を論理的に組み合わせて,ものの理を説明する 大気の鉛直構造・・・特に気圧に注目して 静水圧平衡(Hydrostatic Balance) 上記の構造を説明する物理法則は,下記と等価 山に登ると気圧はどのように変化するか? 気圧は下がる アルキメデスの原理 海や風呂にはいると体が軽くなった感じがする.浮く.

結果について考察(3) 静水圧平衡 これを用いて, 温度と密度の関係を導出

結果について考察(3) 静水圧平衡 これを用いて, 温度と密度の関係を導出

結果について考察(3) 静水圧平衡 気体の状態方程式 静水圧平衡と状態方程式を使って式を変形. 高校化学によると, という関係式が成り立つ. 温度 気体定数

地上の気圧 繰り返していくと 全部足すと・・・うまい具合に 1層目の重さ 2層目の重さ 3層目の重さ + 地上より上にある空気の重さ

地上の気圧 繰り返していくと 全部足すと・・・うまい具合に 1層目の重さ 2層目の重さ 3層目の重さ + 地上より上にある空気の重さ

1平方メートルあたりどのくらいの空気が乗っかっているか? さっきの結果 空気の質量 p(0)~1,000 [h Pa] Pa とは kg m /s2 のこと   hとは100のこと g ~ 10 [m/s2] p(0)/g =1,000×100/10=10,000 [kg] 1平方メートルあたり10トン

2.4 もっとネチネチと吟味(3) 浮力 水の中に物を沈める 上向きの力が働く 何故でしょう? 静力学平衡を使うと説明できる 2.4 もっとネチネチと吟味(3) 浮力 水の中に物を沈める 出来るだけ軽い物がいい 上向きの力が働く 何故でしょう? 静力学平衡を使うと説明できる

静水圧平衡の式(水の場合もOK) 移項して 下面に働く圧力 上面に働く圧力 重力 上向きの力 下向きの力 浮力

静水圧平衡(Hydrostatic equilibrium) 今日のキーワード 静水圧平衡(Hydrostatic equilibrium) 地球大気・海洋,他惑星(金星,火星など)の大気の鉛直構造を支配している法則

この講義で何がわかるのか? 大気の鉛直構造を支配している法則を導出 物理法則には一般性があります その物理法則からいろいろなことが導かれる 気圧の意味 山に登ると気圧はどのように変化するか? 海や風呂にはいると体が軽くなった感じがする・・・浮力 ペットボトルを使った手品ができる!

2.静水圧平衡の導出 地面から宇宙まで延びる非常に背の高い仮想的な気柱を考える 円柱の底面積: 大気の密度(単位体積あたりの質量): 下から n 番目の層の体積: 大気の密度(単位体積あたりの質量): 下から n 番目の層の質量:

番目の層の空気に働く力を考える 空気はどのような速度で運動しているか?  番目の層の空気に働く力を考える 空気はどのような速度で運動しているか? 地球上のあらゆるところで平均すると0であろう もし,上向きの速度を持つならば,空気は宇宙空間に向かって逃げてしまう 逆に,下向きの速度を持つならば,宇宙から空気が降り積もってくる 空気が止まっているときには,空気に働いている力はバランスしている(力の総和はゼロ)

番目の層の空気に働く力を詳しく考える 上面に働く圧力: 下面に働く圧力: 空気に働く重力 3つの力がバランスしている 力は 下向きに  番目の層の空気に働く力を詳しく考える 上面に働く圧力: 力は 下向きに 下面に働く圧力: 力は上向きに 空気に働く重力 質量×重力加速度 重力加速度: 下向きに 3つの力がバランスしている 単位質量の物体を地球が引っ張る力の大きさ (力)=(圧力)×(面積)

前の考察をまとめると 上向きの力 下向きの力 最終的に 静水圧平衡

結果を整理する さっきの結果 ちょっと複雑...Aが邪魔

2.2 結果をネチネチと吟味(1) 上空に行くと気圧は?   と     の大小関係は?     (質量なので) つまり上空にいくと気圧は下がっていく

2.3 他に何がわかるか? まだまだネチネチと吟味(2) 2.3 他に何がわかるか? まだまだネチネチと吟味(2) 1m2の上に乗っている空気の質量は? さっきの式 面積   なので 最下層では 2番目の層では

地上気圧とはその上に乗っかっている空気の重さのことである! 地上の気圧 この議論を続けていくと 全部足すと・・・うまい具合に 1層目の重さ 2層目の重さ 3層目の重さ + 地上より上にある空気の重さ 地上気圧とはその上に乗っかっている空気の重さのことである!

1平方メートルあたりどのくらいの空気が乗っかっているか? さっきの結果 空気の質量 p(0)~1,000 [h Pa] Pa とは kg m /s2 のこと   hとは100のこと g ~ 10 [m/s2] p(0)/g =1,000×100/10=10,000 [kg] 1平方メートルあたり10トン

2.4 もっとネチネチと吟味(3) 浮力 水の中に物を沈める 上向きの力が働く 何故でしょう? 静力学平衡を使うと説明できる 2.4 もっとネチネチと吟味(3) 浮力 水の中に物を沈める 出来るだけ軽い物がいい 上向きの力が働く 何故でしょう? 静力学平衡を使うと説明できる

静水圧平衡の式(水の場合もOK) 移項して 下面に働く圧力 上面に働く圧力 重力 上向きの力 下向きの力 浮力

静水圧平衡(Hydrostatic Balance) まとめ いくつかの日常経験を論理的に組み合わせて,ものの理を説明する 大気の鉛直構造・・・特に気圧に注目して 静水圧平衡(Hydrostatic Balance) 上記の構造を説明する物理法則は,下記と等価 山に登ると気圧はどのように変化するか? 気圧は下がる アルキメデスの原理 海や風呂にはいると体が軽くなった感じがする.浮く.

話していないこと 上空にいくと気圧は下がると言ったがどのくらい下がるのか? 理想気体の状態方程式と静水圧平衡を組み合わせると 結果は微分方程式として書ける. その解として上記の質問に答える事ができる.