音読練習の方法が 音読の熟達度に及ぼす影響

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音読練習の方法が 音読の熟達度に及ぼす影響 全国英語教育学会2008(8月)年東京大会口頭発表 飯野 厚(清泉女学院短期大学) 阿久津仁史(文京区立第八中学校) 鈴木 政浩 (西武文理大学) 飯野・阿久津・鈴木(2008)

1.音読の定義と効果 日本の英語教育界で言及される「音読」の多くは =「文字を見て繰り返し声に出して読む練習を持続的に行うこと」  =「文字を見て繰り返し声に出して読む練習を持続的に行うこと」    (e.g. Iino,1997; 宮迫,2006; 鈴木,1998) 音読の効果(概念図=図1)   受容への効果:「視覚情報から音韻情報をともなった意味情報(構造理解を経由)の内在化」   発信への効果:「内在化された言語知識を音韻情報を使って話す→話す調子で書く」 音読指導の実証的先行研究から、音読は中長期的に繰り返し行うことが英語学習の多様な側面に効果をもたらすと考えらている(Iino,1997; 宮迫,2006; 鈴木,1998)。 飯野・阿久津・鈴木(2008)

飯野(2005) 飯野・阿久津・鈴木(2008)

問 題 音読練習に際して「英語らしさ」(intelligibility)からかけ離れた棒読みや日本語的な調音による音読の存在(功罪) 問    題 音読練習に際して「英語らしさ」(intelligibility)からかけ離れた棒読みや日本語的な調音による音読の存在(功罪)   功:自己流の発音で物怖じせずに話そうとする、という情意的な効果はあるかもしれない。   罪:英語の音声に対して母語の音体系で代用する行為の強化。音声記憶の増強によるリスニングへの転移効果は望めない。リーディングの流ちょうさにかかわる聴覚(音響)イメージの増強は望めない。 英語の文字認識の促進とともに聴覚イメージを築くような音読が必要。→音読が情意面だけでなく、聞く、読むなどのスキルの伸張に効果をもたらす 1実際に教室において音読の繰り返しを促すと、棒読みや日本語的な音読を耳にすることは少なくない。(中学生の事例などに触れる) 功:自己流の発音で物怖じせずに話そうとする、という情意的な効果はあるかもしれない。 罪:英語の音声に対して母語の音体系で代用する行為の強化。音声記憶の正の転移はあり得ず、リスニングへの効果も生まれない。 「英語らしさ」とは、英語の音体系に照らしてミニマムな音韻条件を満たすというレベル。 2.英語の聴覚イメージが十分に築かれていない学習者は母語のイメージを当てるしかないため、日本語的な読み方になると考えられる。英語の音響的なイメージを植え付けながら、あるいは植え付けるために音読を行うことが大切。 3.ただし、音読の目的は音素レベルの正しい調音を身につけるだけではなく、単語レベル以上における意味・文字・音声の三者を融合することなので、単語レベルあるいはフレーズレベルで音響イメージが定着することを目指すのが現実的である。 すなわち、音読がシナジー効果を産み出すポイントとして単語レベル以上が対象となる。 飯野・阿久津・鈴木(2008)

研究課題 反復音読において モデル音声の与え方はどのような条件(方法)が望ましいか。 習熟度と音読上達度との関係。 本研究では、短時間のうちに、音声モデルが得られる条件とそうでない条件を設け、どのような方法で繰り返し音読を行うことが、「英語らしい」音読への熟達に奏功するのかを探った。尚、先行研究においては、繰り返し音読することの短期的な上達に関しての実証研究は少なく(飯野・阿久津・鈴木, 2007)、音韻論的な側面からのアプローチが散見されるのみである(e.g. Johnson & Moore,1997)。 また、音体系が一定域まで内在化された学習者では、自ら文字を読んで声に出す音声に「英語らしさ」の色彩が強くなることから、学習者のディクテーションに関するデータを加味し、音体系の習熟度の指標として分析に活用する。 飯野・阿久津・鈴木(2008)

本研究の位置づけ 反復音読 音読(熟達度) 音韻認識 リスニング力 音読メタ認識 語彙知識 ワーキングメモリ リーディング力 スピーキング力 文法知識 復唱能力 ワーキングメモリ 音読の熟達を促す練習活動 反復音読 音読(熟達度) 反復リスニング orディクテーション 音読メタ認識 語彙知識 音韻認識 図2. 本研究の位置づけ 飯野・阿久津・鈴木(2008)

研究計画 被験者:日本人英語学習者(英語専攻) 大学1年生18名(女子) 英語習熟度: CASECテスト485.8点      大学1年生18名(女子) 英語習熟度:  CASECテスト485.8点   (最小値323点、最高値638)  TOEIC換算の平均点は461.4点    (最小値240点、最高値655点)。 音読練習の前後でどの程度音読が上達するかを比較した。比較の方法は一定の評価基準にもとづいて行われた英語教師による主観的な評価をスコアとして扱った。繰り返し音読の方法として、教師のモデルに続いて繰り返す(教師音読群)、音読練習ソフトを利用する(PC音読群)、自分の力で何度も音読する(自力音読群)の3つの条件を設定した。それぞれの条件に対して均質なテキスト3種類を用いて音読練習を20回行い、練習前後の音読を録音した。その後、3名の日本人英語教員による評価を行った。 飯野・阿久津・鈴木(2008)

音読練習の方法 Step1. 20秒の黙読後音読を録音し提出→Step2. 20回音読練習(飯野・阿久津・鈴木 2007) 音読練習の方法      Step1. 20秒の黙読後音読を録音し提出→Step2. 20回音読練習(飯野・阿久津・鈴木 2007)   →Step3. 仕上げとしての音読を録音し提出 20回音読練習の条件群 ①自力音読群:「意味をとらえて英語らしくよめるように」と指示。 ②PC音読群:PCソフト『SPEAK! 』(ライトハウス社)を使用して音読。自分の音声やモデル音声が何度でも聞ける環境(時間制限は他の条件と同じ) ③教師範読群:教師のモデル読みに続いて音読を20回。  飯野・阿久津・鈴木(2008)

英文テキスト 英語検定2級2次試験過去問題を活用した。 テキスト情報 練習条件別テキスト 自力音読 PC音読 教師音読 表1. 実験に使用した英文のテキスト情報 英語検定2級2次試験過去問題を活用した。 テキスト情報 練習条件別テキスト   自力音読   PC音読 教師音読         語数          61語    63語    62語 Flesch Reading Ease   74.86    75.87    76.48 飯野・阿久津・鈴木(2008)

音読の評価方法 3項目各5点満点の評定スケジュール(宮迫,2002を改変) 3名の評価者の合計(45点満点)を音読スコア 実際の評価シート 3名の評価者の合計(45点満点)を音読スコア 実際の評価シート 評価者間の信頼性係数α=.845 飯野・阿久津・鈴木(2008)

評価項目 プロソディの英語らしさ 分類 音声面での意識の度合い 音声と意味の接点 項目 発音の適切さ スピードの適切さ 観点 音韻の質 表2.音読の評価項目 分類 音声面での意識の度合い 音声と意味の接点 項目 発音の適切さ プロソディの英語らしさ スピードの適切さ 観点 音韻の質 アクセント pauseの適切さ 調音意識 イントネーション 内容理解度  評定ポイント   5~1  5~1 飯野・阿久津・鈴木(2008)

結果 飯野・阿久津・鈴木(2008)

結果1 音読評価  スコアの変化 表3. 各群における練習前後のスコア変化 音読群 練習前M SD 練習後M 前後Mの差 自力 26.50 5.19 30.39 4.70 3.89 ** PC 25.67 5.24 31.89 5.78 6.22 ** 教師 23.39 5.66 31.86 5.18 7.34 **  練習の成果は、自力<PC<教師の順。自力とPCは第三者を介さない練習法であるが、第三者の介入のある教師の指導が最も効果的であるということになる。 飯野・阿久津・鈴木(2008)

結果2 練習前後のスコア変化 図3. 音読群別練習前後のスコア変化 飯野・阿久津・鈴木(2008) 結果2  練習前後のスコア変化  グラフの伸びから、2要因(2水準と3水準)の分散分析は無理であると判断したため、自力とPC、自力と教師、PCと教師のペアにより分散分析を行った。その結果、いずれも交互作用が確認されたが、伸びの差の違いを示すように、有意水準は結果3から5に示す通り微妙な違いを見せた。 図3. 音読群別練習前後のスコア変化 飯野・阿久津・鈴木(2008)

結果3 教師と自力 表4. 分散分析表(教師と自力の交互作用) 教師-自力 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率 前後 結果3  教師と自力  表4. 分散分析表(教師と自力の交互作用) 教師-自力 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率 前後 1375.174 1 164.336 前後 x 音読条件 189.062 22.593 誤差 (前後) 284.514 34 8.368  伸びの差が最も見られた教師の指導と自力音読に関しては、上記の通り0.1%水準で交互作用が有意であった。 F (1, 34) = 22.539 ( p = .001) 交互作用有り(0.1%水準) 飯野・阿久津・鈴木(2008)

表5. 分散分析表(教師と自力PCの交互作用) 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率 前後 971.67 1 154.613 前後 x 音読条件 22.781 3.625 0.065 誤差 (前後) 213.674 34 6.285  教師とPCは、結果3と比べて差が小さかったことから、交互作用は有意傾向となった。 F (1, 34) = 3.625 ( p = .06) 交互作用有り(有意傾向) 飯野・阿久津・鈴木(2008)

結果5 PCと自力 表6. 分散分析表(PCと自力の交互作用) PC-自力 平方和 自由度 平均平方 F 値 有意確率 前後 460.056 1 95.264 前後 x 練習条件 24.5 5.073 0.031 誤差 (前後) 164.194 34 4.829  自力とPCでは若干差があり、5%水準で交互作用が確認された。 F (1, 34) = 5.073 ( p = .003) 交互作用有り(5%水準) 飯野・阿久津・鈴木(2008)

結果6 音読評価の伸びと習熟度の関係 (ピアソン相関係数) 結果6 音読評価の伸びと習熟度の関係                   (ピアソン相関係数) 表7. 練習条件による音読評価の伸びと習熟度の関係 自己音読群の伸張 PC音読群の伸張 教師音読群の伸張 CASECスコア .070 .153 .084 習熟度の表として用いたCASECの得点との相関はいずれの条件も低かった。 英語力の高低に関係なく音読練習の効果がそれぞれにあったことになる。 飯野・阿久津・鈴木(2008)

結果7 練習条件と習熟度構成要素の関係 表8. 練習条件と習熟度構成要素の関係 CASEC VOCAB EXP LISTEN DICT 自己音読群 の音読伸張 -.136 .001 .244 .074 PC音読群 .275 .213 -.019 .103 教師音読群 -.194 .225 .128 .101 CASECの下位項目ではリスニング得点と自己音読群の間に弱い正相関がみられた。 聴覚イメージの高い者が自分で練習しても伸びる、とえるのかもしれない。 PC音読群では、語彙力・表現力との関係に置いて弱い正相関がみられた。 PCソフトSpeakで何度も練習して伸びたのは単語力表現力の高い者と言えるかもしれない。 これは同ソフトが単語レベルのモデル音声を提供したり判定するためかもしれない。 表現力に関しては、Speak!はフレーズレベルでのポーズやイントネーションに関して現実的なモデルを示せない。表現知識のテストでは対話文を読んで適切な対話表現を選ぶ問題であるため、読解力の一指標と考えれば読み込む力のある学生と音読の伸びに関係性があることは不思議ではない。 また、音声面でも単語を越えた表現のレベルがフレーズレベル(チャンク)と考えれば、その知識が音声面に反映されることで音読の向上と関連があってもおかしくない。 教師音読群でも、表現知識との相関が高かった。 教師は学生にリピートさせるための音読としてあまり細かくないが適度なフレーズ単位でポーズを置くことを想定すれば(実際に実施したのは我々だが)、フレーズ単位のポーズの合間に音読を練習した結果、表現レベルの知識、それは音声情報をともなった者が音読上達と関係があることは言える可能性がある。 実際、評価者の基準にはセンスグループにおいて適切なポーズがとられているかは重要な指標であったことから、音読評価にプラスに働いた可能性がある。すなわち、教師音読群は教師が音読するであろう読み方に近かったと言えるのかもしれない。 飯野・阿久津・鈴木(2008)

考察とまとめ 音読条件の組み合わせにより、交互作用の有意水準が異なる。 自力<PC<教師→教師やPCによってモデル音声が得られる方が音読が上達した。 自分だけで何度も音読するよりもモデル音声が得られる条件の方が有効。 PC<教師→パソコンよりも教師の判読の方が上達。直接学習者に働きかける音読の方が有効。 個人差要員としての習熟度との上達の関係は見られなかった。   正しいかの関係に弱い正相関がみられたことから、今後、どのような要因が音読の上達を助けるのかを考える起点ととらえたい。     自己練習群では、リスニング力と。     PCでは語彙・表現力と。     教師範読群では表現力と。 教師の後に続くListen&Repeatという伝統的な方法がもっとも上達を示した。 なぜか。 パソコンソフトの利点はななにか。 モデルが自由に引き出せる。 自分の録音音声を聞きなおせる。この効果は大きいかも。Language awareness. 自力音読のでうまくなった学生は習熟度ではなく英語音声の特徴をあるていどつかんでいる者かも。 音響イメージが内在化している。 飯野・阿久津・鈴木(2008)

今後の研究課題 英語の音響的なイメージはどのように定着、拡張するのか。個別の音素や音韻的な特徴ではなく「音の体系が身についた」と言えるレベルはどのような次元なのか。 リスニングのみという条件との比較が必要 「音体系の内在化」(門田,2007)の音読はどの程度有効か。 飯野・阿久津・鈴木(2008)

引用文献 飯野 厚.(2005).「音読指導が学習者による音読過程の認識に及ぼす影響」.『清泉女学院短期大学紀要』,24, 27-38. 飯野 厚.(2005).「音読指導が学習者による音読過程の認識に及ぼす影響」.『清泉女学院短期大学紀要』,24, 27-38. Iino, A.(1997).The Place of Reading Aloud Revisited ―A Study of its Role in English Language Teaching in Japan. Unpublished Master’s thesis submitted to University of Tokyo. Miyasako, N. (2006b). Effects of oral reading practice on Japanese learners of English as a foreign language. Unpublished doctoral dissertation submitted to Hyogo University of Teacher Education. 鈴木寿一.(1998).「音読指導再評価―音読指導に関する実証的研究」.『LLA関西支部研究収録』,13-28.語学ラボラトリー学会関西支部. 宮迫2002 飯野厚・阿久津仁史・鈴木政浩(2007)「」 門田修平(2007)音読とシャドーイングの科学 飯野・阿久津・鈴木(2008)