知られざる感覚の世界 -崇高な思考に不可欠なものー

Slides:



Advertisements
Similar presentations
全脳アーキテクチャ解明ロー ドマップ 産業技術総合研究所 一杉裕志. 大脳皮質 モデル 大脳皮質モデルを中心とした ロードマップ xx 応用: パターン認識 ロボット制御単純労働様々な労働支援高度な言語処理 時間 到達 目標: 要素 技術: 皮質・基底核連携モデル.
Advertisements

キー・コンピテンシーと生きる 力 キー・コンピテンシー – 社会・文化的,技術的道具を相互作用的に活用する力 – 自律的に行動する力 – 社会的に異質な集団で交流する力 生きる力 – 基礎・基本を確実に身に付け,いかに社会が変化しようと, 自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え, 主体的に判断 し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力.
第4章 何のための評価? 道案内 (4) 何のための評価? ♢なぜ教育心理学を勉強するか? (0) イントロダクション ♢効果的な授業をするために (1) 記憶のしくみを知る (2) 学習のしくみを知る (3) 「やる気」の心理学 ♢生徒を正しく評価するために ♢生徒の心を理解するために (5)
日本教育のゆくえ c 甲藤 瞳.  大学入学後、目標見失う  受験勉強で得た詰め込みの利用法 きっかけ.
認知心理学の知見のさわり 知覚、記憶、学習、思考などを研究対象とする心理学の一 分野。 [せまい意味] 認知の領域をあつかう心理学(人間の認知の働き)を 研究対象としてとりあげ、 コンピューター科学をはじめとする認知科学の枠組みの もとで 解明していこうという心理学の一領域をさす。 認知科学 心理学、コンピューター科学、脳神経科学、言語学、哲.
基礎ゼミ:電子と光と物質 多元物質科学研究所 上田潔・奥西みさき・高桑雄二・虻川匡司・佐藤俊一 大学とは何か? 大学で学ぶとはどういうことか? 大学:人類の遺産としての知識の伝 達 未知のものへの挑戦! 基礎ゼミの特徴:学生が積極的に授業に参加する。 自分で考え、自分で工夫して調べ、教室で発表する。
第2章 なぜ発達心理学を学ぶのか? 道案内 1 準備 (0) 授業を始める前に * (1) 発達心理学とはどんな学問か? 2 知覚の発達 (3) 子供に世界はどう見えるか? 3 認知の発達 (4) 子どもはものごとをどう理解するか (5) 子どもは心をどう理解するか 4 感情の発達 (6) 子どもに愛情を注ぐこと.
第5章 子どもは心をどのように 理解するか? 道案内 (5) 子供は人の心をどう認識するか 1 準備 (0) 授業を始める前に (1) 発達心理学とはどんな学問か? (2) なぜ発達心理学を学ぶのか? 2 知覚の発達 (3) 子供に世界はどう見えるか 3 認知の発達 (4) 子供はものごとをどう認識するか.
心理測定論 信号検出理論.
研修のめあて 授業記録、授業評価等に役立てるためのICT活用について理解し、ディジタルカメラ又はビデオカメラのデータ整理の方法について研修します。 福岡県教育センター 教員のICT授業活用力向上研修システム.
4,297 words 2016年1月 大学入試センター試験(英語) 筆記試験は引き続き長文易化傾向 大問 分野 word数 60wpm
「わかりやすいパターン認識」 第1章:パターン認識とは
第5章 子どもは心をどのように理解するか?.
コンパイラ 2011年10月17日
Excelによる統計分析のための ワークシート開発
日本の高校における英語の授業は 英語で行うのがベストか? 日本語の介在の意義
画像処理論.
知識情報演習Ⅲ(後半第1回) 辻 慶太(水)
第3章:記憶の貯蔵庫モデルと処理水準アプローチ
サドベリバレイ校の教育 子どもは自発的に勉強するのか.
教育心理学 学習と認知プロセス 伊藤 崇 北海道大学大学院教育学研究院.
第3章 「やる気」の心理学.
執筆者:市川伸一 授業者:寺尾 敦 atsushi [at] si.aoyama.ac.jp
心理学測定法 水曜2限 担当:小平英治.
自律学習と動機づけ 教育心理学の観点から 2011/2/19 上淵 寿 (東京学芸大学).
教育学の授業について 具体的事例から自ら課題を.
教育学の授業について 具体的事例から自ら課題を.
クイズ 「インターネットを使う前に」 ネチケット(情報モラル)について学ぼう.
ラーニング・ウェブ・プロジェクト(Learning Web Project) -自立・共愉的な学習ネットワークの形成に向けて-
学校の コンピュータ 発表者 Miho Harusawa.
第5研究グループ 教育システム組 卒研テーマ紹介
第4章 子供はものごとを どう理解するか?.
新幹線の最適化予約システム 親: iphoo さん KMSF B1 fuse.
コンパイラ 2012年10月15日
高山建志 五十嵐健夫 テクスチャ合成の新たな応用と展開 k 情報処理 vol.53 No.6 June 2012 pp
文化が醸し出す思考 岡山大学大学院教育学研究科 寺澤孝文.
人工知能特論2007 東京工科大学 亀田弘之.
ICT活用指導力チェックシート(小学校版)
シミュレーション論 Ⅱ 第15回 まとめ.
乳児における 運動情報と形態情報の相互作用
2013年度 授業の構成とねらい 新宿山吹高校 定時制 理科 松本隆行.
学びを促進する“インフォームドアセスメント” -学力評価の方向づけ機能に着目して-
数量分析 第2回 データ解析技法とソフトウェア
深イイ記憶はイイ記憶★ ~処理水準で記憶力アップ~ 清野 関口 高橋.
教師にとっての「生の質」 青木直子(大阪大学).
(1)序論 人工知能とは 歴史 方法論 人工知能の基礎 問題解決 探索 推論 知識.
ニューロマーケティング H 経営学科3年 李 ミヌ.
メロディの潜在記憶 ―注意分割課題を用いた検討―
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
学部新入生オリエンテーション 大阪大学における初年次共通教育 「学び方を学ぶ」    ための 1年ないし1年半 全学教育推進機構長 下田 正.
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
情報の授業 サイバースペースに飛び込もう(2) 情報のデジタル化 Go.Ota
構造的類似性を持つ半構造化文書における頻度分析
子どもの性格は生まれつき? ー性格の決定因と発達ー
教育学の授業について 具体的事例から自ら課題を.
教育情報共有化促進モデル事業報告 中学校数学 平成16年1月31日 岐阜県 学習システム研究会「楽しく学ぶ数学部会」
認知工学 設計のための認知科学 三宅なほみ(中京大学) 橋田浩一(産業技術総合研究所) 片桐恭弘(ATRメディア情報科学研究所)
大阪工業大学 情報科学部 情報システム学科 学生番号 B02-014 伊藤 誠
イメージや意識通りの動きの習得 ~野球の打撃において~
自然言語処理2008 平成20年12月22日.
ソフトウェア理解支援を目的とした 辞書の作成法
コンパイラ 2012年10月11日
文脈 テクノロジに関する知識 教科内容に関する知識 教育学 的知識
5.知識の定着・技能の習熟での 児童生徒による活用
情報処理の概念 #0 概説 / 2002 (秋) 一般教育研究センター 安田豊.
ベイジアンネットワークと クラスタリング手法を用いたWeb障害検知システムの開発
2008年度 情報数理 ~ 授業紹介 ~.
2012年度 情報数理 ~ 授業紹介 ~.
 タイピング  情報教育の効果を高めるために 慶應義塾大学 環境情報学部教授 大岩 元.
Presentation transcript:

知られざる感覚の世界 -崇高な思考に不可欠なものー 岡山大学大学院教育学研究科 寺澤孝文

自己紹介 記憶理論が一番の専門 最近、創造的思考のメカニズム 感覚記憶の長期持続性 マイクロステップ計測法 UMEの認識モデル:新しい認識モデル MANのニューロ原理 最近、創造的思考のメカニズム

マイクロステップ計測法に関する研究について 最近受けている大きな研究助成(研究代表は全て寺澤) ◆科学研究費補助金 基盤研究B(平成11~13年度)約1千5百万円    生涯個別学習を可能にするデータ蓄積型CAIシステム   -長期学習実験と記憶理論に基づく学習効果予測モジュールの開発- ◆科学研究費補助金 基盤研究A (平成14~17年度) 約5千万円    「経験の変数化」を念頭においた実験計画法に基づく    客観的絶対評価の実現 ◆岡山大学重点研究(学内COE)(平成20~21年度) 約1.3千万円    新たな縦断的調査技術を核とした,人と,情報流布システムのパワーアップ     -教育効果と広告効果の可視化によるパワーアップビリティーの追求- ◆科学研究費補助金 基盤研究A (平成22~26年度) 約5千万円    縦断的大規模調査法を基礎とした因果推定研究の創出 これまでシステム作りに専念.研究のコアとなる方法論は,特許登録済みの他、科研の出版助成で出版(寺澤・吉田・太田,2007) 3

自覚できない学習の効果の積み重ねを 世界で初めて個別に可視化、実用化も 児童A 児童B 児童C 世界初で 世界唯一 3人の小学生の漢字の読みドリルの客観テストの成績 NINTENDO DS用ソフトに実装 個人の実力の積み重ねを可視化 3名の麻布高校生のデータ →個別に学習完了の時期を予測することも可能

フィードバックにより勉強を “継続しよう”という意識が確実に上昇 面白みに欠ける学習を子どもが自発的に継続する状況が生み出せる(複数の実験で有意に上昇) 何かを終える前にあきらめてしまう(反転項目) すぐにあきらめてしまう(反転項目) 不登校生徒が、フィードバックをきっかけに劇的に学習量を増やし、10か月以上継続して学習量は増える一方に(図は3つの難易度の客観テストの成績)。 10か月目には、朝から夜までe-learningを続ける状況も生まれた 一般の小中学校や大学から、学習支援の要請が多数寄せられる 岡山、京都、兵庫、大阪、静岡で、のべ2000人以上のドリル学習支援とフィードバックを実現。

新たな認識の理論 感覚情報と生成のメカニズム

“見える”ことの意味 先天盲の開眼手術の事例 ものが見える処理

網膜 サッケード 1秒間に4,5回 金太郎あめ?

誕生から今まで一度も、直線という 情報は脳には届いていない 「見えている」と思っているものは、いったい何なのか? 現在の知覚理論は記憶との照合 eg, 鋳型モデル おかしい・・・・ 記憶 A 照合

パターン認識 2を2と認識できる仕組み 現在の主流:取り出し(照合)理論 現在のロボットがプログラムされたことしかできない理由 鉄腕アトムが生まれてこなかった理由

3%の壁 自動化できないことばかり( OCR処理) テストの採点にはどうしても教師の手がかかる 手書きの郵便番号の読み取り X線写真から肺がんの病巣を特定する 専門家の知識や考えたことを言葉で集め、それをコンピュータに入れても、専門家と同じことをコンピュータはできない。(エキスパート研究の失敗) 翻訳ソフトは使えない

人間の高次な創造的思考 墨に五彩あり 作詞、作曲 「天から降りてくる」 作詞、作曲  「天から降りてくる」 アインシュタインの相対性理論を考え出した思考と論文に書かれている論理は別物 寺澤の経験:マイクロステップの原理は手の動きから、UMEは考えるのに5年、書くのに1か月 羽生名人が強い理由:定石より実戦

新しい認識の理論 創造的思考のメカニズム 言葉ではなく、感覚 取り出しではなく、生成 感覚の多様性だけでなく、繰り返し

螺旋型記憶表象理論 (寺澤,1994,2005;Terasawa, 2005) 言語情報(シンボル) vs 感覚情報 牧場 ミルク 牛 白 青 黄 赤 菊 信号 黒 自動車 たんぽぽ すみれ 螺旋型記憶表象理論 (寺澤,1994,2005;Terasawa, 2005) 受容器から入力するインパルスのパターンのみが蓄えられている。 時間軸を想定 現在の認識の理論では、知識は言葉(シンボル)を最小単位として表現されている(意味ネットワーク理論)

常識を覆す新事実 人は、感覚情報が入力した瞬間にその情報を脳内に固定し、長期保持し、瞬時に再構成している ◆2ヵ月前に1,2度聴いた、意味のないメロディーに対して、ある反応が劇的に増加する(上田・寺澤[2008, 2010]) →大学の授業で簡単にデモ: 「鳥肌が立った」「感動した」「信じられない」という感想 ◆顔の線画を見た回数の影響が1,2ヵ月後に大きな効果として検出される(西山・寺澤[印刷中]) 日本の心理学の主要誌に掲載開始 理論的に予測、単語等の刺激でも同様に検出: 寺澤(1997, 2001), Terasawa (2005)他 放送大学「記憶の心理学」で放映中

取り出し vs 生成

UMEモデル 感覚情報のみで、人間のシンボリックな(言語的)認知処理を実現できるか? 活字が頭になくても、活字を合成できればよい 寺澤(1997:博士論文)の活性化相互抑制理論をパターン認識に適用: 塚原朋哉(現: (株)日立ソリューションズ東日本)がコンピュータに実装 自然言語処理への適用可脳性: 東芝研究開発センターからの受託研究

UMEのシミュレーション結果が意味すること UME:非シンボリックなパターン情報のみから,我々がシンボルと呼ぶにふさわしいパターンが生成できることを示した.全てのシンボル,やルールを単なるパターンの集合から作り出せる可能性がでてきた. 不思議な感覚:UMEはシンボルを作り出すよう,パターン認識に最適化されたアルゴリズムではない.怖いこと. 昔、手書き文字しか見ていなかった植字職人が活字を作った理由を説明している。

高次な(創造的)思考に必要なこと 自分の知識は、誕生から今に至るまでに、外から与えられた膨大な感覚情報そのもの。 答えは与えられた情報の中にあり、既に決まっている。 親や自然から与えられた情報、新しい体験や学びの大切さ 感覚を伴う経験の重要性 cf 本を読んだり問題集を解くことでは得られないこと。範囲を限定し、覚えて使う受験勉強は高次な思考を阻害する可能性もある。 もう一つ、大切なものがある。

創造的思考に必要な反復情報 学習した単語は、これ以上学習しても意味がないと思うような日本語 記憶は青天井 多様性の2つの次 反復次元 グラフのバーはSDを表す 学習した単語は、これ以上学習しても意味がないと思うような日本語 記憶は青天井 多様性の2つの次 入力次元 反復次元 森敏昭(編著) 2001 おもしろ記億のラボラトリー 北大路書房 参照

忍耐・誠実さ 記憶は青天井 MANのニューロ原理から推測されること レンズ職人さんの事例 田植えの経験:辛い、義務、責任は、新しい感覚情報 繰り返しは、新しい情報を脳に付加し続ける。 MANのニューロ原理から推測されること 桁外れの情報を有限のニューロンで表現し、長期に蓄え、瞬時に再構成する原理 レンズ職人さんの事例 田植えの経験:辛い、義務、責任は、新しい感覚情報 繰り返し考え続ける、繰り返しやり続けることができなければ、本当に新しいことは見えてこない

参考文献(★:一般書) ・西山めぐみ・寺澤 (印刷中) 偶発学習事態における未知顔の潜在記憶 心理学研究 ・寺澤孝文(2012) 学習と動機づけ 田山・須藤(編著) 基礎心理学入門 培風館 ・上田紋佳・寺澤孝文(2010) 間接再認手続きによる言語的符号化困難な音列の潜在記憶の検出 心理学研究 81, 413-419. ★寺澤孝文(2008) 「再生と再認」、「記憶と学習」 太田信夫(編) 『記憶の心理学』 放送大学教育振興会 ・寺澤孝文・太田信夫・吉田哲也(編)(2007) マイクロステップ計測法による英単語学習の個人差の測定 風間書房 ★寺澤・太田(監修)(2007)THEマイクロステップ技術で覚える英単語,D3Publisher (任天堂DS専用学習ソフトウェア) ★寺澤孝文・吉田哲也(2006) 自覚できない到達度を描き出す e-Learning, 太田信夫(編),『記憶の心理学と現代社会』,有斐閣, 187-205. ★寺澤孝文(2005) 認知 森正義彦(編著),『理論からの心理学入門』,培風館. 65-101. ・ Terasawa, T.(2005) Creation theory of cognition: Is memory retrieved or created? In N. Ohta, C. MacLeod, B. Uttl (Eds), 『Dynamic cognitive processes』,Springer-Verlag, 131-157. ・寺澤孝文(2002) 記憶 都築誉史(編著),『認知科学パースペクティブ:心理学からの10の視点』,信山出版社. ★寺澤孝文(2001) 記憶と意識-どんな経験も影響はずっと残る-(第5章) 森敏昭(編著) 認知心理学を語る①: おもしろ記憶のラボラトリー 北大路書房, pp.101-124.