滋賀医科大学医学部附属 病院精神科思春期外来に おける不登校に対する 治療成績の開示と、 そこから得られる知見

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稲垣貴彦 *・*** 、田中恒彦 ** 、丸川里美 *** 、栗原愛 *** 、眞田陸 **** 、 藤井勇佑 *** 、中村英樹 **** 、栗山健一 *** 、山田尚登 *** * 滋賀県立精神医療センター ** 新潟大学教育学部 *** 滋賀医科大学精神医学講座 **** 長浜赤十字病院精神科.
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発達障害が疑われる不登校の実態 -福島県における調査 福島大学総合教育研究センター 中野 明德. 発達障害が疑われる不登校児童生徒の出現率 (福島県、 2007 ) 福島県の 291 の学 校を調査(小学 校 198 、中学校 69 、高校 24 ) これらの数字は 学校が確認した ものであり、実.
カウンセリングナースによる 新しい治療システム -ストレスケア病棟での治療体験と カウンセリングナースの導入- 福岡県大牟田市 不知火病院 院長 徳永雄一郎.
特別支援教育につい て. 「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」 ( 文 部科学省 答申) <特別支援教育の在り方の基本的考え方> 特別支援教育とは、従来の特殊教育の対象の障害だ けでなく、LD、ADHD、高機能自閉症を含めて 障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けて、そ.
発達障害と統合失調の類似性 原因を求めれば発達障害が増える
三例の糖尿病性腎症導入例 仁和寺診療所 田中 貫一 仁和寺診療所.
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児童の抑うつ認知処理過程による登校回避感情生起の検討 df=10, *p<.05, **p<.01, ***p<.001
不登校児への対応 ~不登校は「治る」病態である~
摂食障害における発達障害の合併頻度と合併例の臨床的特徴
今回の調査からわかった主なことがら ○糖尿病で治療中の人の43.2%は健診で見つかっている ○健診で見つかった人は、合併症の発症率が低い
ホスピス外来における STAS-Jを活用した看護の実際
患者さんとご家族のための 双極性障害ABC
4.「血液透析看護共通転院サマリーVer.2」 の説明
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問題と目的 方法 結果と考察 養護教諭の目を通した 児童生徒の自傷と援助・介入(2) 北海道大学大学院教育学院 ◯水野 君平・穴水 ゆかり
汎用性の高い行動変容プログラム 特定健診の場を利用した糖尿病対策(非肥満を含む)
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ドイツの医師国家試験 口答試験 実施要領 医師試験第3部(学部6年終了時)
女子大学生におけるHIV感染症のイメージと偏見の構造
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独立行政法人国立病院機構 舞鶴医療センター認知症疾患医療センター 川島 佳苗
2007年10月14日 精神腫瘍学都道府県指導者研修会 家族ケア・遺族ケア 埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科 大西秀樹.
離婚が出生数に与える影響 -都道府県データを用いた計量分析
第2回 福祉の現在・現在 厚生労働省(2018) 障害者白書 厚生労働省(2016) これからの精神保健福祉のあり方に          関する検討会資料.
特別支援教育 障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち,児童生徒一人一人の教育的二一ズを把握し,その持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善又は克服するため,適切な指導や必要な支援を行うものである。 (「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」平成17年12月8日.
軽度発達障害の理解 中枢神経系における脳の機能障害である。 → 脳の発達の遅れ
株式会社メディカルアーツ スタッフ研修 放課後等デイサービス ホップステップ 合同会社サンクスシェア 田中 さとる ホップステップスタディ
スパイロメータを用いた COPDスクリーニング
一般住民と比較した米国透析患者の標準化自殺率比(SIR) 表.一般住民と透析患者の年齢階級別死亡者数
2015年症例報告 地域がん診療連携拠点病院 水戸医療センター
夜間・休日 精神科合併症支援システム 利用状況(※)
健診におけるLDLコレステロールと HDLコレステロールの測定意義について~高感度CRP値との関係からの再考察~
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感染症集団発生事例に対する基本的対応 大山 卓昭 感染症情報センター 国立感染症研究所.
第2回 市民公開講座 糖尿病を知って その合併症を防ぎましょう
Interventions to Improve the Physical Function of ICU Survivors            (CHEST 2013;144(5): ) 聖マリアンナ医科大学 救急医学 田北 無門.
不登校データ ・不登校人数(小学校・中学校・高等学校) ・不登校になったきっかけと考えられる状況 ・いじめられた児童生徒の相談の状況の推移
稲垣貴彦 滋賀県立精神医療センター・滋賀医科大学 日本認知・行動療法学会 第42回大会 at アスティ徳島
外傷患者の救急気道管理の実態 ~ JEAN studyを利用して ~
疫学概論 疾病の自然史と予後の測定 Lesson 6. 疾病の自然史と 予後の測定 S.Harano,MD,PhD,MPH.
St. Marianna University, School of Medicine Department of Urology 薄場 渉
小腸カプセル内視鏡により 診断しえた小腸出血の一例
2015年症例報告 地域がん診療連携拠点病院 水戸医療センター
高齢慢性血液透析患者の 主観的幸福感について
教育相談論 (教職科目) 第6講 2010年10月30日(土) 担当:岡田佳子 1.
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我が国の自殺死亡の推移 率を実数で見ると: 出典:警察庁「自殺の概要」
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1. 糖尿病による網膜の病気 =糖尿病網膜症 2. 自覚症状が現れないまま 進行します 3. 糖尿病網膜症の 予防法・治療法 4.
麻疹(はしか) の流行が広がっています! - 早急に予防接種が推奨される方 - - 特に麻疹が疑われる方 -
第5回 神戸在宅医療塾 ■日 時 平成27年3月19日(木)18:00~20:00 ■会 場 神戸市医師会館 3階市民ホール 講義内容
疫学概論 §C. スクリーニングのバイアスと 要件
三重大学医学部附属病院 総合診療部 竹村 洋典
基礎情報の収集・・・前年度の出欠席状況、配慮の必要性、長期欠席経験者への対応
33事件 精神障害者の自殺 (東京高判平13・7・19) 事実概要
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滋賀医科大学医学部附属 病院精神科思春期外来に おける不登校に対する 治療成績の開示と、 そこから得られる知見 滋賀医科大学医学部附属 病院精神科思春期外来に  おける不登校に対する        治療成績の開示と、                  そこから得られる知見 稲垣貴彦1)2)・田中恒彦2)3)・栗山健一2)・山田尚登2) 1) 滋賀県立精神医療センター                                2) 滋賀医科大学精神医学講座                         3) 新潟大学教育学部   第57回日本児童青年精神医学会総会 2016.10.27 At 岡山コンベンションセンター

利益相反の開示 及び 倫理的配慮 演者は以下の団体からの資金提供を受けている。 滋賀県(寄附講座所属) 本発表と直接関係はないが、演者は以下の団体からの資金提供を 受けている。 塩野義製薬(受託研究) JA共済(研究助成) 大塚製薬(奨学寄附) 滋賀医学国際協力会(研究助成) 本研究は観察研究であり、倫理委員会の承認を得る必要 がない。また、発表にあたっては個人を特定できる情報を 使用しない。

文部科学省(2015)によると 平成26年度「児童生徒の問題行動など生徒指導上の諸問題に関する調査」 平成27年9月16日 文部科学省 文部科学省(2015)によると   平成26年度「児童生徒の問題行動など生徒指導上の諸問題に関する調査」 平成27年9月16日 文部科学省 平成26年度間に不登校であった高校生 約53,000人 全高校生の1.59% 平成26年度間に不登校であった中学生 約97,000人 全中学生の2.76% 平成26年度間に不登校であった小学生 約26,000人 全小学生の0.39% 文部科学省は不登校の定義に 「病気」による者を除く             と定めている 従って                            これらの児童生徒は                 全員医療サービスを受けていない

文部科学省(2014)によると 「不登校に関する実態調査」~平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書~ 平成26年7月9日文部科学省 文部科学省(2014)によると  「不登校に関する実態調査」~平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書~         平成26年7月9日文部科学省 多数の児童が1年を超える不登校の状態にありながら        受診をしていない 一度、欠席状態が長期化すれば、回復が困難と言うのが          文部科学省の見解 そのうち既に不登校が1年を超える児童 68.4%  約28,000人 平成18年に中学校3年生で不登校であった児童 約41,000人

文部科学省(2014)によると 「不登校担ったきっかけと考えられる状況」~平成25年度児童生徒の問題行動など生徒指導上の諸問題に関する調査~         平成26年10 月16日文部科学省 高校生最多は 無気力

先行研究 著者(発表年) 対象 経過 診断 亀谷(2008) 入院歴のある患者のある時点における断面調査 平均900日の経過観察後、64.8%が再登校 PDD 35.1% 神経症性障害22.7% 斎藤(2000) 病院内学級卒業生の卒業10年後の調査 社会適応しているのは73% 不安障害35% 適応障害22% 星野(2003) 通院歴のある不登校児の ある時点における断面調査 平均7年(3年ー13年8ヶ月)の経過観察の後社会適応しているのは28.6% 神経症圏の者のみを不登校と判定 土岐(2012) 通院歴のある不登校時のある時点における断面調査 平均治療期間13.7ヶ月の後、再登校+卒業+転校37.8% 恐怖症性不安障害35.1% PDD16.2%

先行研究 「治療に難渋される病態」                 と認識されている不登校であるが、                先行研究で呈示された疾患割合は、文部科学省の呈示した不登校の原因を説明できない 先行研究の示した診断では、                 不登校の原因で最多の       「無気力」を説明できない 例:ICD-10によると 恐怖症性不安はしばしば抑うつと合併し、うつ病エピソードの併発中に更に増悪する。つまり、不登校に至るほど重篤な恐怖症性不安を有する場合、うつ病エピソードを鑑別しなくてはならない。先行研究ではされた形跡がない。

基礎解析 対象:平成24年1月から平成26年9月にかけて                         滋賀医科大学医学附属病院精神科思春期青年期外来を受診した 不登校の学童生徒(18歳以下) 不登校の  患者数 120名 (男子58名 女子62名) 年齢 平均14.8歳(SD=2.16、中央値15.0)  対象年齢を10歳以上としているため10歳未満の児童はほとんどいない。10歳までの適応が保たれていた患者が多い。 初診時GAF 平均31.3(SD=6.33、中央値32.0) 治療途中の 転医       あるいは中断 30例

診断の内訳(重複診断あり) 注:診断の定義 DSM-IV-TRの各章毎に分類(例:1章 発達障害、5章 精神病性障害)  ただし6章気分障害に関してはうつ病性障害と双極性障害に細分化

不登校の原因と考えられる診断の内訳 注:診断の定義 DSM-IV-TRの各章毎に分類(例:1章 発達障害、5章 精神病性障害)  ただし6章気分障害に関してはうつ病性障害と双極性障害に細分化

不登校離脱に影響を与える因子の探索 Cox比例ハッザード回帰分析(ステップワイズ法) 結果 対象:120例全例 目的変数:不登校離脱と最終診断からそれまでにかかった時間 説明変数:年齢・性別・初診時GAF・最終診断 結果 有意な説明変数 β SE(β) p 相対リスク(95% 信頼区間) 初診時GAF 0.033 0.020 N.S. 1.034(0.994~1.075) 年齢、性別、診断内容は不登校の経過に有意な連関を認めなかった AIC=551.0 単回帰分析:N.S. 不登校離脱率 発達障害なし:71.3% 発達障害あり:64.0% 観察期間 平均69.5% どのような重症度であったとしても、 どのような診断であったとしても、   その診断に基づく適切な治療が   行われれば、約70%の患者は                8ヶ月以内に不登校から離脱する。

発達障害を有する群の経過 MR 発達障害の種別 合併症 不登校離脱 不登校離脱あるいはDrop Outまでの期間 PDD+MR 双極性障害 4 MR うつ病性障害 1 素行障害+双極性障害 5 3 6 2 離脱せず - 解離性障害 Drop Out

発達障害を有する群の経過 PDD 発達障害の種別 合併症 不登校離脱 不登校離脱あるいはDrop Outまでの期間 PDD+MR 双極性障害 4 PDD 不安障害 7 うつ病性障害 離脱せず - Drop Out 1 2

発達障害を有する群の経過 その他 発達障害の種別 合併症 不登校離脱 不登校離脱あるいはDrop Outまでの期間 ADHD うつ病性障害 発達障害を有する群の経過 その他 発達障害の種別 合併症 不登校離脱 不登校離脱あるいはDrop Outまでの期間 ADHD うつ病性障害 離脱 3 双極性障害 12 Drop Out 2 5 チック 11

考察1 本邦の不登校の児童に対して、 うつ病の診断が適切にされていないのではないか 当科の診断は先行研究で呈示された疾患割合と大きく異なる。 しかし先行研究で呈示された疾患割合は、                文部科学省の呈示した不登校の原因で最多の「無気力」を説明で きない。 当科での疾患割合は文部科学省の呈示した不登校の原因を              説明するのに矛盾がない。 うつ病の主要症状に「興味・喜びの著しい減退」や「思考力・集中力の減退」がある。これは文部科学省の呈示した不登校の原因のうち「無気力」「学業不振」そして「対人関係の問題」を説明するのに十分である。 我々は危惧する 本邦の不登校の児童に対して、                                     うつ病の診断が適切にされていないのではないか                            児童のうつ病は、96%に寛解が期待できる疾患であり(IACAPAP 2015)、これを適切に診断し治療を適正化することは不登校の治 療において必須である。

発達障害が治療抵抗因子として 過剰評価されているのではないか 考察2 当科では20名の患者に対して発達障害と診断している。 しかし、そのうち発達障害が直接不登校の原因になっていたのは たったの2名であった。 当科での治療経過において、発達障害を有していた患者は、有さ ない患者と比較して有意差がなかった。 したがって、                                      発達障害は治療抵抗因子ではないと考える。 我々は危惧する。 発達障害が治療抵抗因子として                  過剰評価されているのではないか                  

考察3 全中学生のうち97,000人(2.76%)もが不登校で、うち1年以 上も不登校の状態にありながら受診しない児童が1学年に 28,000人もいる現状について 精神医療が不登校の患者を救っていない  可能性⇒受診しても無駄だと思われている? 適切な診断がなされていない可能性は指摘したとおり 適切な診断がなければ適切な治療もありえない しかしそれだけか? 市民に対して精神障害に関する                                     適切な情報が開示されていない 適切な医療介入がなされれば、8ヶ月で                約70%の児童生徒が不登校を離脱する。 治療が遅れれば治療成績が低下するのは       他の種々の疾患同様である。 治療の遅れ →治癒率の低下 間違った知識 Stigma to MH Hostility to MHS

結語 不登校に関しては、適切な医療介入がなされれば、 およそ8ヶ月で約70%の児童生徒が不登校を離脱する。 不登校に関しては、適切な医療介入がなされれば、      およそ8ヶ月で約70%の児童生徒が不登校を離脱する。 不登校の原因疾患で最も多いのがうつ病性障害である。 不登校の児童に発達障害を認める割合は、約17%で      少なくはないが、そのほとんどはその合併症が不登校の   原因であり、発達障害の有無はその後の不登校離脱に    関する経過に影響を与えない。 受診しない不登校の児童生徒の多さは精神医療に対する  不信の現れと考えられ、これを解消するためには適切な    情報の市民に対する開示が必要である。

ご静聴              ありがとうございました kerosuke3@gmail.com