アストロメトリデータによる力学構造の構築方法 国立天文台 2007年9月20日 上田晴彦(秋田大学)
はじめに JASMINE (Japan Astrometry Satellite Mission for Infrared Exploration) 日本の赤外線探査による位置天文衛星計画 ⇒実現されれば、銀河バルジ程度までの距離 を正確にきめることが出来る。
銀河系内のかなりの部分の星の位置、速度情報を含むアストロメトリデータ ⇒ 銀河系の力学構造を決定することが出来る? (⇒銀河系・銀河形成史の研究に発展) しかし、力学構造の決定は簡単ではない。 本日はその概要について紹介
銀河系力学構造の決定方法 銀河系の力学構造を決定するとは、どういうことか? ⇔ 銀河系の構成要素の位相分布関数を求める ⇔ 銀河系の構成要素の位相分布関数を求める 銀河系は定常状態であると仮定 ⇒ 位相分布関数は6次元になる。
アストロメトリデータは2次元的位置、天体までの距離、固有運動、および視線速度 ⇒観測された星の6次元位相分布関数はわかる。 観測できるのは、重力物質のごく一部(暗い星、ダークマターに関する情報はなし) 欲しいのは銀河系を構成する全ての重力物質の位相分布関数。 重力物質の位相分布関数 ≠観測された星の位相分布関数
どうすればよい? 何らかの方法で、擬似的な星の位相分布関数のテンプレート(雛形)をつくる。(多数作成しておく) ⇔ 観測結果と比較 ⇔ 観測結果と比較 最もよく合うものを 探し出す。
銀河系力学構造の構築法(概略) 1)重力ポテンシャル(ハミルトニアン)の形状を仮定 2)仮定されたHをもとに、重力物質の位相分布関数 を作成(本日の話の中心)。 3)2)をもとに、擬似的な星の位相分布関数を作成。 4)観測結果と(3)を比較し、銀河系の 重力ポテンシャルおよび位相分布関数を決定。
銀河系の重力ポテンシャルを仮定 logarithmic potentialなど (Three-dimensional Triaxial Potentialの例) Rc, q1, q2は定数 (現在、どのようなものがよいか探索中)
重力物質の位相分布関数の作成 先に仮定したポテンシャルのもとで、位相分布関数をつくる。 通常の位相分布関数は変数が多すぎる。 何とか変数の数を減らせないだろうか? ⇒ 強いジーンズの定理により可能
変数を減らす 我々の銀河は定常状態にあると仮定 ⇒ その星の軌道のほとんどは規則軌道と考えら れる。 強いジーンズの定理 ⇒ その星の軌道のほとんどは規則軌道と考えら れる。 強いジーンズの定理 位相分布関数は3つの孤立積分量のみの関数 となる。 f(I1,I2,I3 )
このようなことは、日常的にもよくあること。 例1)適当な座標系を取る ⇒ 自由度の数を減らせる 例2)自宅を建設する (家:3次元的物体) ⇒ 2次元情報(設計図)で記述できる。
ジーンズの定理の弱点 周期的な系では、孤立積分量として作用変数を考えると都合が良い。 ⇒ f(J1,J2,J3 ) (Galactic Dynamics: Binney & Tremaine 1987) ⇒ f(J1,J2,J3 ) ジーンズの定理を使うと、与えられたポテンシャルの もとで位相分布関数のテンプレート作りが 楽になる。
作用変数Jとx、vとの関係がわかっている場合 のみ以下の読み替えが可能 しかし一般には作用変数J(x,v)をx、vで解析的に書くことができない。 ⇒ 観測から得られる位相分布関数と比較不可能 ⇒ トーラス構築法・トーラス当てはめ法
この2つの場合が、鍵となる 例外的にJがx、vの関数系として求まり、 ジーンズの定理が有用となる場合。 A)調和振動子型 B)Isochrone型(ケプラー型) この2つの場合が、鍵となる
例) 調和振動子型の場合 (x、v)が(J、θ)で表現できる。 ⇒ 読み替えが自由に出来る。
星の軌道とトーラス Three-dimensional Triaxial Potential のもとでの星の軌道は、かなり複雑 コア内部では box orbit コア外部では box orbit + tube orbit ⇒ 位相空間内では単純 (3次元トーラス上を動く)
トーラス構築法 Torus Construction (McGill & Binney 1990) 一般の系(ポテンシャル)のもとでの作用変数 J’ 理想的な場合(J = J(x、v))と、母関数によって数値的に結びつける。 ⇒ J’ = J’ (J) = J’ (x、v) 任意の系で、J’が(x、v)の関数として求まる
用意するもの A)Targetハミルトニアン(一般的な系) 銀河系の重力ポテンシャルを表現する ハミルトニアン。作用・角変数は(J’、θ’) 銀河系の重力ポテンシャルを表現する ハミルトニアン。作用・角変数は(J’、θ’) B)Toyハミルトニアン(理想的な系) 作用・角変数(J、θ)が (x,v) の関数として解析 的に書き下すことが出来るもの。 ⇒ 具体的には調和振動子型または ケプラー型のハミルトニアン。
J’をJに結びつける手法(母関数Sの決定方法) 1) ある一定値をもつ J’を用いて、 ( J’,θi)の ペアを多数作成。 2) 仮の母関数を用いて 各ペアについてエネル ギーを求める。 ( J’,θi) ⇒ ( J,θi) ⇒(x、v)⇒E 3) Eの分散値χが小さくなるように、母関数を 修正する。
トーラス当てはめ法へ トーラス構築法がうまく働くためには、様々な技巧的措置が必要。 ⇒ このままの形では、3次元ポテンシャルに適用 が困難。 ⇒ このままの形では、3次元ポテンシャルに適用 が困難。 Torus fitting method (Tゼミグループ)
原理 位相空間内のトーラス情報を利用して、母関数を求める。(エネルギーの分散値というスカラー量ではなく、幾何学的な情報を利用。) 位相空間内のトーラス情報を利用して、母関数を求める。(エネルギーの分散値というスカラー量ではなく、幾何学的な情報を利用。) 現時点では、2次元ポテンシャルの場合にはうまくいくことを確かめた。 ⇒ 3次元ポテンシャルの場合を研究中
今後の作業 ここまでの議論でJ’⇔(x,v)が求まる。 今後の作業 J’を使って、重力物質のモデル位相分布関数 f(J1,J2,J3 )を作成 これをもとに擬似的な星の位相分布関数の テンプレートを多数作成。 fstar(x,y,z, vx, vy, vz )
アストロメトリデータと比較し、もっとも一致するモデルを決定。 fstar(x,y,z, vx, vy, vz )⇔fobs(x,y,z, vx, vy, vz ) このあたりについては、まだ手がついていない状態 ⇒今後も作業を続け、力学構造の決定までこぎつ けたいと考えている。