河口論文へのコメント 学習院大学経済学部 鈴木 亘.

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河口論文へのコメント 学習院大学経済学部 鈴木 亘

この論文の意義・貢献 Greenのtrue Fixed Effect Model(tFEM)を使った推計であること。 Newhouse(1994)が指摘するとおり、Frontier Estimationの問題点は、異質性の統御と、生産物の測定誤差。 わが国の自治体病院の推計では、CMIなど患者のseverityを考慮する変数がないことがしばしば致命的な問題。

また、制御変数として様々な病院属性、病院の経営状況の変数を使ったとしても、異質性を完全にコントロールすることは難しい。 これに対して、上記二つの問題を、Fixed Effectとして取り除いてしまうという手法上の発想転換。効率性の値は非常に正確であることが期待できる。 この値を得たことこそが本論分の最大の貢献である。

ただし、Fixed Effect自体はブラックボックスなので、あまり政策的インプリケーションを得にくいところが難点。 また、非効率性の要因として我々が実感するような要因(医師不足、補助金、平均在院日数、空き病床率)といった要因が、果たして、非効率性に出ているのか、それとも固定効果として拾われてしまっているのか、つまり、tFEMが期待通り成功しているかという点も、確認したいところ。

コメント1:論文の強調点について 論文の展開として、データの異なる先行研究との比較、上位・下位10病院の比較等。これでは、この論文の利点が生かされない。 むしろ、従来の推計方法で行なったものと、tFEMの比較にフォーカスを当ててはどうか。 その際、病院属性の様々なダミー、競争条件やCMIの代わりの変数(例えば、患者一人当たり入院収入(高塚・西村2006)など、最大限の努力を試みて、効率性の程度や分布、相関、安定性などを比較する。 後述するように、fFEMの評価という点に論文の焦点を当ててはどうか。

コメント2:推計について 関数型について・・・推定結果では全ての変数が有意⇒もう少し他の複雑な関数型(トラログ、ログクォドラティック)を試してはどうか。 病院固有の異質性を示す属性、非効率性の原因となる属性は変数化しないのが原則。診療科目数、看護基準はそれを満たすか? インプットの価格について、職員全体の平均給与は粗すぎないか(表3-1-6にもっと詳細な変数がある)。また、レント(r)はないのか。

政策的なインプリケーションを考えるのであれば、規模のパラメータ、もしくは規模と非効率性の関係は重要なので、もっと焦点を当ててはどうか。また、polynominalで推計して最適点を出すなども一案。 診療科目数についても同様。むしろ診療科目ダミーが良いか。どの診療科目を持つことがコスト上昇要因かわかる。ただし、この第一段階というよりは、非効率性自体の分析の際にフォーカスを当てるべきか。

コメント3:上位・下位分析について 上位、下位10病院の分析は、興味深いが問題もある。異質性を取り除いた結果に対して、異質性による説明が混在していないか。 862病院に対して、上位下位で20病院だけをみるというのは代表性に欠ける。 サンプル全体の非効率性と、その説明要因との散布図・相関関係をみてはどうか。 さらに進めて、非効率性自体を説明するモデルを推計することも興味深い。

その場合には、 非効率性を被説明変数にして別途回帰モデルを作るのではなく、Battese and Coelli(1995)の 2段階同時推計アプローチが望ましい。 tFEMと組み合わせる推計はまだ無いように思うので、その拡張ができれば、新しい論文となる。 プログラム自体は、 Coelli(1996)が無料で提供しており、さらに包括的説明は、 Coelli, Rao and Battese (1998)がある。 自治体病院のSoft Budget問題も重要な点なので、補助金との関係なども興味深い。

コメント4:固定効果の要因について 本来は分析の対象外ということであるが、政策的インプリケーションをより豊富に導くためには、固定効果自体の分析もあって良いのではないか。 地域別の特性、分布などを観察することは興味深い。 さらに、コメント1で取り上げた異質性を説明する要因、地域の競争条件との相関関係などもみることも面白いかもしれない。

さらに言えば、この固定効果に回帰して、固定効果をそのような諸属性要因でどの程度説明するかということも、この分析自体の成功度を評価する上で、面白いのではないか。 様々な諸属性要因や経営指標、地域変数などは、それらが非効率性の説明要因か、それとも固定効果の説明要因かという事後的な分析をすることが考えられる。これによって、tFEMがどの程度、期待された効果を挙げているかモデル評価になることが期待できる。

コメント5:今後の発展について この論文自体は、河口(2008)の著書の一章であり、公刊済論文。したがって、以上のコメントは、新しい論文を書くことを期待してのコメント。 もし、新論文を書くのであれば、まず、推計期間を延ばして、2004年4月からの新医師臨床研修制度以降の分析期間を含むと、地域の医師不足問題の影響などが分析でき、より注目度が高い論文となるのでは。

また、市町村合併、自治体病院の経営統合や廃止など、より、分析するイベントも多くなるので、直近時点まで推計期間を増やして行なう価値は十分にある。

<引用文献> Battese, G. E. and Coelli, T. J.(1995) “A Model for Technical Inefficiency Effects in a Stochastic Frontier Production Function for Panel Data,”Empirical Economics, 20,325-332 Coelli, T. J.(1996) “A Guide to FRONTIER Version 4.1: A Computer Program for Stochastic Frontier Production and Cost Function Estimation,”CEPA Working Paper, University of New England,Armidale. Coelli, T. J. D. S. Prasada Rao, and George E. Battese (1998) An Introduction to Efficiency and Productivity Analysis, Kluwer Academic Publishers. Newhouse J.P. “Frontier estimation: How useful a tool for health economics?” Journal of Health Economics 13(3) (1994)317-322 河口洋行(2008)『医療の効率性測定』勁草書房