Liverpool Care Pathway(LCP)日本語版ワークショップ 東芝病院 緩和ケア科 茅根義和
クリティカル パス 定義:一定の疾患や疾病を持つ患者に対して、入院始動、患者へのオリエンテーション、検査、ケア処置、検査項目、退院指導などをスケジュール表のようにまとめてあるもの 歴史:1980年代後半、アメリカにおいてDRG/PPSが導入されたことに呼応してNew England Center for Medicineで看護教育者をしていたKaren Zanderが、もともと生産工程管理に使われていたクリティカルパスの手法を医療現場に導入した「Care Map」から始まっている。アメリカにおいてクリティカルパスは1)在院日数の短縮、2)医療の質の保証、3)業務の効率化を導入目的としているが、導入の歴史から一次的目的は1)の在院日数の短縮にある。 パスの一般的なイメージと看取りとがうまくマッチするか? パスの定義から
Liverpool Care Pathway(LCP) Dr. John Ellershaw(Marie Curie Center Liverpool)により2003年に提唱された看取りのクリティカル・パスである チェック・リスト形式のパスで、患者を看取るまで、そして看取り後の治療とケアの手引きとなり、経過記録を支援することを目的として作られているIntegrated Care Pathwayである LCPを導入することによって看取りのケアの標準化が図られ、必要なケアがもれなく行われることができるようになる LCPとは
Integrated Care Pathway その地域(国、一定の文化圏)での臨床的一致を得られている、多職種が参加する、ガイドラインおよびエビデンスに基づいたものであり、臨床における診療記録となりうる様式を持っており、ケアの質の向上のために容易にその成果を評価ができるもの National Pathway Association1997 ICPとは
看取りのパス Palliative Care for Advanced Disease Liverpool Care Pathway 作成者:Beth Israel Medical Center Department of Pain Medicine and Palliative Care 参照website http://www.stoppain.org/services_staff/pcad1.html Liverpool Care Pathway 作成者:Royal Liverpool University および Marie Curie Center Liverpool 参照website http://www.mcpcil.org.uk/liverpool-care-pathway/index.htm
英国におけるLCP
LCPの普及・教育プログラム 2004年にはThe Marie curie Palliative Care Institute LiverpoolにThe LCP Central Team UKが置かれ、LCPの普及、教育にあたっている。 The LCP Central Team UKにより10 Stepsの普及・教育プログラムが用意され、このプログラムによりLCPの導入から、施行、LCPに関する教育、地域における終末期ケアのResearchが組織的に行われている。
英国におけるLCPの位置づけ NHS end-of-life care programme(2004年) LCPは、 primary careとcere homeにおける終末期ケアの重要なframeworkとして、位置づけられている。 LCPは最後の48時間のケアを支援すると書かれている
Gold Standards Framework(GSF)とLCP Primary Care settingでの終末期ケアを総合的にサポートするframeworkである、Gold Standards Framework(GSF)では、Action planの7つのKey Taskの一つである臨死期のケアにおいてLCPを使用が推奨されている また、GSFでは特にCare Homesでの臨死期ケアにおいてLCPの使用が推奨されている
LCP日本語版の開発
開発の過程1 2004年6月 研究チーム(LCP Working Group Japan)の立ち上げ 2004年12月 著作者の非英語圏へのLCP普及プログラムへの登録 2004年12月〜2008年10月 EORTC guidelinesに沿った翻訳作業
翻訳過程での具体的作業 LCPver.11の各項目を逐次日本語に翻訳 翻訳した各項目について、項目毎にその内容を日本で使用可能なものに修正・変更 専門家(緩和ケア領域、サイコオンコロジー領域、在宅領域の医師および看護師合計40名)による内容の修正 各目標項目の内容を日本の医療に見合う内容に修正する 日本で使用するにあたっての目標項目の取捨選択 日本語版用アルゴリズムの作成 日本で使用可能なアルゴリズムの作成
開発の過程2 パイロット試用とLCP日本語版の確定 パイロット試用(2009年1月〜3月) 淀川キリスト教病院ホスピスおよび聖隷三方原病院ホスピスにおいて各20例ずつのパイロット試用を行った 2009年7月 パイロット試用の結果をふまえて、研究チームによりLCP日本語版の修正を行い、LCP日本語版を確定した
LCPの構造と解説 ここからは手元のパスを参照しながら聞いてください
LCPの概要 看取りへのケアにおける治療の手引きを示し、経過記録を支援することを目的としている。 チェックすべき項目は「目標」として記載されており、それぞれの目標を達成するために必要な介入も記載されている。 症状緩和のアルゴリズムと屯用指示が別に用意されており、具体的な症状緩和について使用できるようになっている。 LCPはクリティカルパスであるため、治療者は専門職としての判断に基づきパスが指示する以外の診療を自由に行うことができるが、パスと異なった診療行為についてはバリアンスとして記載する。
LCPの構成 パスの使用基準 Section 1 Section 2 Section 3 バリアンス分析シート 初期アセスメント Section 2 継続アセスメント Section 3 死亡診断と死後のケア バリアンス分析シート 症状緩和のアルゴリズムと屯用指示 痛み 悪心・嘔吐 喘鳴 呼吸困難 鎮静
LCPのサイクル 1.使用基準に沿って、LCPを開始 2.初期アセスメント(セクション1) 3.経時的なアセスメントとアルゴリズムの使用(セクション2) 4.死亡診断(セクション3) (必要ならバリアンス分析)
LPCの使用基準 患者に関わる多職種チームが予後数日または一週間程度と判断し、かつ以下の項目のうち2項目以上が当てはまる場合: 患者が終日臥床状態である 半昏睡/意識低下が認められる 経口摂取がほとんどできない 錠剤の内服が困難である イメージは 終末期ではなく、「看取り期」「日単位」「数日中の死が避けられない」 プレテストでは1~2日から1週間以内(まれにそれより長くなることがある)
Section 1(初期アセスメント) LCPが開始となった時点でのアセスメント項目をチェックする ケアの主体が「看取りのケア」に移行する時に必要な内容が盛り込まれている
初期アセスメント 身体症状:この時点で存在する症状を確認する 目標1 投薬/処方の見直し 目標2 頓用指示の見直し 目標1 投薬/処方の見直し 目標2 頓用指示の見直し 目標3 不必要な治療・検査の中止 目標3a 不必要な看護介入の中止 バイタルや体位交換などのルチーンの見直し 目標5 病状認識 現状で適切に病状が認識されているかを確認する
初期アセスメント(つづき) 目標7 家族との連絡方法の確認 目標8 家族への施設の案内 目標9・10 ケア計画 バリアンス 目標7 家族との連絡方法の確認 目標8 家族への施設の案内 パンフレットを渡すか、口頭で説明する 目標9・10 ケア計画 患者や家族と、今後のケア計画について話し合う(説明する) バリアンス
Section 2(継続アセスメント) 経時的なアセスメントを時間毎に繰り返し行う 必要な介入が確実に行われているかをチェックする 症状緩和に関しては必要に応じてアルゴリズムを使用する
継続アセスメント 原則としておよそ4時間ごとに記入する(時間は厳密ではなくてよい。ラウンドに合わせてなどでよい) 疼痛、精神症状、気道分泌、吐気・嘔吐、呼吸困難については必ずチェックする 上記以外に患者にとって苦痛な症状があれば、それを「その他の症状」に記入し、チェックする 口腔ケア、排尿障害、投薬が安全、正確に行われているかについてもチェックする 各項目について達成(A)未達成(V)に○をつけて、具体的な問題点を記入する
継続アセスメント(つづき) 褥瘡ケア、排泄のケア、家族の病状理解、家族ケアなどの項目は原則としておよそ12時間ごと(1日2回)に記入する 時間は厳密ではなくてよい。日勤帯と準夜帯でチェックなどでよい。各項目について達成(A)未達成(V)に○をつけて、具体的な問題点を記入する
死亡診断 死亡診断に関して、必要なことが確実に行われるかをチェックする 本来、遺族会の紹介などのパンフレットを渡すことになっていたが、日本の現状に合わないため、必要時のみ紹介することとした
LCP使用上の留意点 LCPは看取りのケアを事務的に行うためのものではない LCPに記入すれば看取りのケアの質が向上する訳ではない
LCPを導入することで何が変わるか
海外文献では LCPの導入により臨床現場においては医療者の意識に変化が起こった。 医師が臨死期の患者への処方を意識するようになり、看護師は臨死期に必要なケア・不必要なケアを整理して理解することができるようになり、ケアの質が向上した。 結果として記録も整理され記録量は削減された。 看護師の臨死期のケアに関する知識が高まり、経験の浅い看護師への教育効果も得られた。 Jack BA, Gambles M, Murphy D et al : Nurses’ pereception of the Liverpool Care Pathway for the dying patientin the acute hospital setting. 2003
看護師へのアンケート調査 対象看護師:LCP日本語版パイロットスタディに関わった看護師40名. 日本語版に対する評価を大阪大学大学院の市原さんが行い、 現在まとめています
看護師へのアンケート調査結果 患者・家族ケアに関する有用性 質問項目 有用だと思う(%) LCPの開始により患者が看取り期であることを確認できる 85 初期アセスメントで患者のケアの見直しができる 74 初期アセスメントで家族へのケアの見直しができる 66 継続アセスメントにより患者へ適切な治療やケアが行える 継続アセスメントにより家族へ適切なケアが行える 69 症状コントロールが改善する 67 看取り後に家族に適切なケアを行える 56
看護師へのアンケート調査結果 看取りのケア全般に関する有用性 その他の有用性 質問項目 有用だと思う(%) 継続したケアが提供できる 69 継続したケアが提供できる 69 一貫したケアを行うことができる ホスピス・緩和ケア病棟で通常行うケアが見落としなく行える 59 その他の有用性 質問項目 有用だと思う(%) 教育的効果 看取り期のケアの経験が少ない看護師への教育につながる 71 看取り期のケアが適切に行えている確信になる 53 記録時間の 短縮 看取り期の記録がLCPのみであれば記録時間が短縮する 64
LCP日本語版の有用性 まとめると 1)ケアの見直し 2)教育効果 3)情報の共有効果
LCP日本語版の有用性 看取りのケアの向上のつながる 看取り 看取り後に家族に適切なケアが行える 患者の状態 LCPの開始 予後が1週~数日 LCPの開始 医療チームでのケアの目標の達成状況を評価し、ケアの改善策の検討する 医療チームで患者が看取りの時期であることを共通認識できる 初期アセスメントで患者と家族のケアの見直しができる 継続アセスメントで患者と家族に適切な治療やケアが行える 看取り後に家族に適切なケアが行える 看取りのケアの向上のつながる ・見落としがない、 一貫したケアを継続して提供できる ・症状コントロールが改善する
まとめ LCPの導入によって看取りの時期に 必要なケアを見直し、必要なケア を見落としなく提供でき、より適 切な看取りのケアの提供につなが る
休 憩