第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■ 財と経済活動 財goods: 欲望の充足に役立つ物的手段である。

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第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■ 財と経済活動 財goods: 欲望の充足に役立つ物的手段である。 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■ 財と経済活動 財goods: 欲望の充足に役立つ物的手段である。 広義の財 狭義の財(物理的な財): パン,米,衣類など サービス(非物理的な財): タイピストや通訳の働き,レンタカーの働きなど 自由財(取引の対象にならず): 空気,太陽光 経済財(取引の対象になる): 通常の商品など ↑ 人間の欲望を満たすほど十分に存在せず稀少であり,経済学の研究対象になる。 ミクロ経済学(Ⅰ)

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■ 財と経済活動 稀 少 性 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■ 財と経済活動 稀 少 性 稀少scarcity: 財・サービスへの欲望に比べて存在量が少ないという相対的な概念である。 稀少な財・サービス → 経済財 人間の欲望を満たすに十分以上存在する財・サービス → 自由財 資源resources:人間の欲望を満たす財・サービスを生産するための投入物として用いられ,生産要素とも呼ばれる。 自然の資源,労働,土地,資本財を含む。 資源が稀少であるとは,生産を通して人間の欲望を満たすほど十分に資源が存在しないということである。 ミクロ経済学(Ⅰ)

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■ 財と経済活動 資源の稀少性scarcity 欲望の 非飽和性 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■ 財と経済活動 欲望の 非飽和性 資源の稀少性scarcity 資源量が有限かつそれを用いてつくり出せる生産物の量も限度がある。資源はわれわれの欲望に比して相対的に稀少している。 ↑ 資源resources:財の生産に利用できるすべてのものをいい,労働力や企業者能力のような人的資源をも,土地や機械,建物のような物的資源をも,全部そのなかに含んでいる。 多くの財goodsを含む物的欲望一般は,どこまで満たされても限りがない。 ↑ 財goods:欲望の充足に役立つ物的手段 選択 choices:資源を如何に効率的に活用する。 ミクロ経済学(Ⅰ)

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■ 財と経済活動 選択 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■ 財と経済活動 選択 choices: 資源が限られている以上,何をどれだけ生産するかという判断,即ち限られた対象から最適なものを選択することが必要になる。選択は競合する複数の対象があってこそ,問題になる。 家計の選択 企業の選択 政府の選択 それらの選択は相互に影響しあい,また相互に依存しあう。その相互依存の仕方によって,稀少資源の活用方法は異なったものになる。 ミクロ経済学(Ⅰ)

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■経済学の基本問題 経済学の定義 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■経済学の基本問題 経済学の定義 経済学とは,「稀少な財・資源を,競合する目的のために選択・分配する仕方を研究する学問」ということができる。 社会における稀少な資源をどのように使用するかは,多数の個人や企 業,さらに政府や官僚による諸々の選択によって決定される。このような個人や 企業の選択および経済全体での稀少資源の使用方法は経済の主要な問題と なる。 経済学の主要な問題 ① 何を,どれだけ生産されるか ② これらの財はどのように生産されるか ③ これらの財は誰にどれだけ分配するか 資源配分(resource allocation) の問題 所得分配(income distribution) の問題

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■科学としての経済学 観察の理論依存性(図形の例) 現実と抽象(地図の例) 実験性 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■科学としての経済学 経済学は社会科学(social science)の一つであり,選択にかかわる経済問 題を系統的に分析し,社会全体の経済問題の解明と改善を研究するものであ る。 経済学は科学であるから,現実の経済現象をあるがままの姿で観察し,経済 現象にとって本質的であると思われるものを抽出して,反証可能な形で経済理 論を構築していく。出来上がった理論が現実の経済現象をうまく説明できなかっ たときには,理論を修正する必要がある。 観察の理論依存性(図形の例) 現実と抽象(地図の例) 実験性

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■科学としての経済学 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■科学としての経済学 理論theory: ある仮定(または仮説)を前提とし,それから論理的に結論を導 き出すことである。理論を構築する場合にはモデルmodel(分析対象である経 済問題にとって重要と考えられる要素だけに注目する模型)が用いられ,モデ ル分析から,さまざま経済変数variableがどのように関係し,どのように変化す るかを理論的に推測することができる。 こうした経済変数の間の系統的な関係は相関関係correlationと呼ぶ。 経済問題を系統的に説明するために,そのための理論を構築し,かつそれ に関するデータを検証しなければならない。 検証verification: 理論的な推測が正しいかどうかは,データdata(多くの財 やサービスの価格や販売量,賃金,利子率などのさまざまな変数)を用いて検 証することができる。 こうした変数間の関係を検証するには統計学的手法を利用するが,経済学 の分野では計量経済学econometricsと呼ぶ。

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■科学としての経済学 理論研究 現実 (観察) 理論 (モデル構築) 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■科学としての経済学 理論研究 現実 (観察) 理論 (モデル構築) 理論的演繹 (各変数の関係) 命題 (予測) 実証研究 理論の修正 (モデルの修正と再構築) No 検証 (計量経済学の手法) Yes 理論の確立 (経済政策への応用) 政策研究

厚生経済学,政治経済学(社会的選択問題) 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■科学としての経済学 現実の経済問題に関して議論の多くは,論理的な部分と論理では証明できない価値観に基づく部分を含んでいる。 実証的positive経済学: 論理あるいは事実をもって証明(実証)できるものだけを扱う経済学で,価値観をいっさい含まない純粋に論理的な分野の経済学である。 現実はどうなっているのか,理論的にはどうなるのかを分析する。 規範的normative経済学: 論理や事実によって証明することのできない問題を扱い,ある価値基準を導入することによって,その価値基準のもと(範囲)で,どう問題を解決されるべきかを扱う経済学である。 どうあるべきかを分析する。 厚生経済学,政治経済学(社会的選択問題)

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■科学としての経済学 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 1. 経済学とは何か ■科学としての経済学 経済問題を系統的に説明するために,そのための理論を構築し,かつそれ に関するデータを検証しなければならない。 検証verification: 理論的な推測が正しいかどうかは,データdata(多くの財 やサービスの価格や販売量,賃金,利子率などのさまざまな変数)を用いて検 証することができる。 こうした変数間の関係を検証するには統計学的手法を利用するが,経済学 の分野では計量経済学econometricsと呼ぶ。 また場合によって,実験を行うことによって理論的推論を検証することも可能 である。近年,実験経済学experimental economicsとして経済学の一分野と なっている。 ヴァーノン・L・スミスVernon L. Smith , 1927- (アメリカ人) 「特に代替的な市場メカニズムの研究において、経験的経済分析におけるツールとして研究室実験を確立した功績を讃えて」 ,2002年度のノーベル経済学賞受賞した。

( 計画経済 planned economy ) 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■経済体制の分類と経済基本問題の解決 経済体制の分類: 資源配分に関する意思決定を基準にして分類 分権制 decentralism: 資源配分に関する意思決定は社会の各成員に分散して個別的=自主的に行われている。 ( 市場経済 market economy ) 集権制 centralism: 資源配分に関する意思決定は中央機関に集中して一元的に行われている。 ( 計画経済 planned economy )

私有制 private ownership: 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■経済体制の分類と経済基本問題の解決 経済体制の分類: 物的資産の所有形態を基準にして分類 私有制 private ownership: 物的資産が個々の成員によって私的に所有されている。 ( 資本主義 capitalism ) 公有制 public ownership: 物的資産が国によって公的に所有されている。 ( 社会主義 socialism )

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■経済体制の分類と経済基本問題の解決 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■経済体制の分類と経済基本問題の解決 経済体制の分類: 混合資本主義経済 分権制 集権制 私有制 公有制 社会主義 市場経済 資本主義 市場経済 社会主義 計画経済 資本主義 統制経済 現実の資本主義国家の経済は必ずしも純粋の資本主義市場経済ではなく,かなりの程度の公的所有や政府の立場からする統制の要素を含んでいる。それらの国々の経済がしばしば「混合資本主義経済mixed capitalism economy」または「混合経済mixed economy」として特徴づけられている。

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■経済体制の分類と経済基本問題の解決 経済基本問題の解決: 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■経済体制の分類と経済基本問題の解決 経済基本問題の解決: 社会主義計画経済体制では,市場や競争が存在せず,市場の基本的なメカニ ズムが機能しない。すべて官僚や政府によって,経済の運営がなされ,コント ロールされている。 資本主義市場経済体制では,私有財産制度の下で各成員が消費生活の面で も事業の面でも選択の自由を認められ,各個人の目的を利己的に追求するか たちで,価格メカニズムを通じて,経済の運営がなされていく。 競争的な市場経済では,価格メカニズムの働きで,経済学の三つの基本問題に答えを出している。アダム・スミスは『国富論』のなかで,市場機構(価格のメカニズム)という「見えざる手」に任せれば,理想的な調和の世界が実現できるという考えを示した。 14

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■アダム・スミスの「見えざる手」の含意 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■アダム・スミスの「見えざる手」の含意 ① 何をどれだけ,② どのよう,③ 誰にどれだけ この3つの問題を解決するためには,利用可能な技術,資源の存在 量,(家計)消費者の選好などの情報が必要である。 市場経済では,価格がそれらの情報を伝える役割を果たしている。 価格は需給一致するように調節される。消費者や企業が,他の経済 主体についての情報を持たなくても,価格というシグナルを見て行動す ることで,市場全体ではアダム・スミスの呼ぶ「見えざる手」によって導か れるように,需給が一致する。 生産物市場には,パン・テレビ・住宅など多数の市場,また生産要素市場に は,小麦・労働力・石油などの市場がある。それらの市場は相互に関連してい ている。すべての生産物市場と生産要素市場が互いに関連して,経済全体の 「資源配分」と「所得分配」が解決される。

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■アダム・スミスの「見えざる手」の含意 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■アダム・スミスの「見えざる手」の含意 生産物市場には,パン・テレビ・住宅など多数の市場,また生産要素市場に は,小麦・労働力・石油などの市場がある。それらの市場は相互に関連してい ている。すべての生産物市場と生産要素市場が互いに関連して,経済全体の 「資源配分」と「所得分配」が解決される。 競争的な市場経済では,価格メカニズムの働きで,経済学の三つの基本問題に答えを出している。アダム・スミス(Adam Smith 1723-1790)は『国富論』のなかで,市場機構(価格のメカニズム)という「見えざる手」に任せれば(自由放任),理想的な調和の世界が実現できるという考えを示した。 すなわち,各個人が自分勝手な個別の経済活動をするということと,経済全体の秩序が維持されるということが,価格メカニズムによって両立すると考えた。 Adam Smith 1723-1790

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■アダム・スミスの「見えざる手」の含意 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■アダム・スミスの「見えざる手」の含意 完全競争市場における経済主体は,市場価格に応じて需要あるいは供給を調整する。同時に市場価格は需要と供給のバランスによって変化する。 価格の変化を通じて需要と供給を一致させる働きは価格の自動調整機能である。 このような機能を持つ市場あるいは価格のメカニズム(機構)を市場機構あるいは価格機構という。 家計:生産物の買い手 資源の供給者 企業:生産物の売り手 資源の買い手 市場:需要量 > 供給 の場合 ↓ 価格↑・ 需要↓・ 供給↑ 需要量 < 供給 の場合 価格↓・ 需要↑・ 供給↓ 家 計 代金支払 所得収入 商品需要 労働供給 生産物市場 要素市場 価格 財の量 S S 価格 労働 D D 労働需要 売上収入 商品供給 賃金支払 企 業 ミクロ経済学(Ⅰ) ミクロ経済学(Ⅰ) 17

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■アダム・スミスの「見えざる手」の含意 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■アダム・スミスの「見えざる手」の含意 市場機構の調整機能は,「完全競争perfect competition」の状態に おいてのみ,はじめて十分な役割を果たしうるに過ぎない。 完全競争の特徴:誰もが自分だけの行動によって財の価格を左右しうる ほどの力を持っていない。 完全競争の成立条件: 各財の買い手と売り手が多数存在 各財の製品差別化product differentiationなし すべての成員が市場の価格や財の特性について完全な情報をもつ 企業の市場への参入・退出が自由(自由参入free entry) 18

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 市場メカニズムが解決できない問題 ■政府の役割 所得格差の問題: 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■政府の役割 市場メカニズムが解決できない問題 所得格差の問題:  国と国の間の経済格差問題(いわゆる南北問題) 一国内の地域間の経済格差の問題 分配の問題: 人々の所得格差の問題 環境問題: 市場メカニズムは常に理想的に働くわけではない。自由な経済活動によって生じる歪みを「市場の失敗」と呼ばれる。それはいわゆる市場の限界である。 19

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■政府の役割 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 2. 市場と政府 ■政府の役割 混合経済の市場は,経済の基本問題を総じて効率的に解決するが,いくつかの分野においてはうまく機能しないかもしれないし,またうまく機能していないと考えられていることもある。(いわゆる市場の失敗) こうした場合に市場機能を補完するためには,政府の活動に頼ることがある。 具体的には, ①法的・制度的枠組みの設定 ②公共財の供給 ③外部効果への介入 ④所得の再配分 ⑤独占の規制 ⑥総需要の管理 など しかしこれは政府の機能のほんの一部に過ぎないのである。 20

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 3. 経済活動の主体と循環 ■経済主体 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 3. 経済活動の主体と循環 ■経済主体 経済主体: 家計household・ 企業firm ・ 政府Government 経済主体間の相互依存関係は,実際に非常に複雑である。それらの関係を分析する際,単純化した経済モデルを構築して分析を行う手法がよく利用される。 重要な仮定: 家計・企業などの経済主体が合理的である。 ここで合理的とは,目的が与えられたとき,それらの経済主体はその目的に適した行動を取るという意味である。 家計の目的: 効用(満足度)を最大化する。 企業の目的: 利潤を最大化する。 政府の目的: 国民全体にとって豊かな住みよい社会を 実現する。 ミクロ経済学(Ⅰ)

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 3. 経済活動の主体と循環 ■経済主体 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 3. 経済活動の主体と循環 ■経済主体 経済主体: 家計household・ 企業firm ・ 政府Government 市場経済では家計,企業,政府が互いに依存し合い,影響し合い,生産・分配・消費の経済循環が行われる。 経済主体 目的 経済活動 家 計 効用最大化 消費者としての行動: 消費など 生産要素の供給者としての行動: 労働提供など 企 業 利潤最大化 生産者としての行動: 製品供給 生産要素の需要者としての行動: 労働雇用など 政 府 よい社会の実現 租税を徴収するなど 公共サービスを提供するなど ミクロ経済学(Ⅰ)

循環構造 民間部門・政府の経済循環の流れ circular flow 中央銀行 政 府 家 計 企 業 海外市場 貨幣市場 消費財市場 循環構造 民間部門・政府の経済循環の流れ circular flow 貨幣供給 を制御する 中央銀行 需要(輸入) 海外市場 費用 需要(輸入) 政府国債 貨幣市場 供給(輸出) 貸出 貯蓄 支出 収入 需要 消費財市場 供給 支出 収入 需要 支出 需要 供給 支出 収入 公共 サービス 直接的消費用役市場 政 府 資本・中間財市場 租税 家 計 企 業 租税 公共 サービス 供給 所得 供給 所得 費用 需要 需要 費用 支出 需要 生産要素市場 ミクロ経済学(Ⅰ) 財・サービスの流れ 貨幣の流れ

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 4. ミクロ経済学の課題とアプローチ ■ミクロ経済学とマクロ経済学 経済を 見る視点 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 4. ミクロ経済学の課題とアプローチ ■ミクロ経済学とマクロ経済学 ミクロ的な分析: 各々の経済主体の行動を考察し,それらの行動が会 全体の資源配分の効率性や国民厚生などに与える影響を分析する。 マクロ的な分析: 経済主体の行動結果として,様々な集計経済指標(マクロ的なデータ)間の関係を考察し,社会全体に与える影響を分析する。 ミクロ経済学microeconomics: 経済を構成する主体である企業や家計の行動と個々の市場の動きを詳細に分析する。市場における価格の役割を重視し,「価格分析」ともいわれる。 経済を 見る視点 マクロ経済学macroeconomics: 経済全体の行動に注目し,失業,インフレーション,経済成長,貿易収支などの集計的な経済変数の動きを分析する。一国の所得の向上を分析の中心に置き,「所得分析」ともいわれる。 ミクロ経済学とマクロ経済学は,同じ経済現象を異なった方法によって見ているのである。マクロ経済学での経済全体の行動は,ミクロ経済学では個々の経済主体や市場の動きと密接に関連してくる。 ミクロ経済学(Ⅰ) ミクロ経済学(Ⅰ) 24

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 4. ミクロ経済学の課題とアプローチ ■ミクロ経済学のアプローチ 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 4. ミクロ経済学の課題とアプローチ ■ミクロ経済学のアプローチ 経済主体:経済活動に携わって意思決定をする主体である。 経済学は,経済主体が合理的な行動をしているという前提で理論構築してきた。 合理的行動: 経済主体が経済的な目的を達成するために,所与 の制約の中で,最適な意思決定を行う。 この理由で,経済学が「制約付きの最適化問題を用いて分析する学問である」とも言われる。 合理的な経済主体の前提は,現実と一致しないことがあるかもしれないが,経済理論の構築に有益なアプローチである。 ミクロ経済学(Ⅰ)

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 4. ミクロ経済学の課題とアプローチ ■ミクロ経済学のアプローチ ■経済分析の方法 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 4. ミクロ経済学の課題とアプローチ ■ミクロ経済学のアプローチ 経済学の理論分析では,議論対象に影響を与える重要と思われる要因のみを抽出して考察するアプローチはしばしば用いられる。その時に他の要因は変化しないことを前提としている。 「他の条件を一定とする」の下で,重要と思われる要因が議論対象にどのような影響を与え,またはどのように影響するかを分析する。これによって,複雑な経済現象を明快に説明することができある。 ■経済分析の方法 すべての財および生産要素の市場とその関連を,同時に分析する方法は一般均衡分析と呼ばれる。 一般均衡分析が難しいため,単純に他の財や生産要素の価格を一定として,ただ1つの財(あるいは生産要素)の市場だけを分析する方法は部分均衡分析と呼ばれる。 ミクロ経済学(Ⅰ)

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 4. ミクロ経済学の課題とアプローチ ■経済分析の方法 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 4. ミクロ経済学の課題とアプローチ ■経済分析の方法 すべての財および生産要素の市場とその関連を,同時に分析する方法は一般均衡分析と呼ばれる。 一般均衡分析が難しいため,単純に他の財や生産要素の価格を一定として,ただ1つの財(あるいは生産要素)の市場だけを分析する方法は部分均衡分析と呼ばれる。 注意すること: 経済全体の間の相互依存,多数の市場の相互依存を無視すると,誤った結論に導かれることがある。 一部分について正しいということが,全体としても正しいとは限らない。もし,一部分についてのみ正しいことを,全体についても正しいという錯覚をした場合,それを合成の誤謬と呼ぶ。 ミクロ経済学(Ⅰ)

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 4. ミクロ経済学の課題とアプローチ ■動学と静学 ■機会費用 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 4. ミクロ経済学の課題とアプローチ ■動学と静学 経済分析において,経済変数が時間の経過につれて変化することを明示的に考慮して分析する手法は動学分析である。逆に,複雑な分析をより簡単化するために,時間を捨象して,経済変数の変化が外生的な所与として扱うような分析は静学分析である。 ■機会費用 費用: ある財・サービス,あるいは生産要素を得るために,支払う金額, またはその他の交換物あるいは生産要素のことである。 機会費用: ある財・サービスを得るために,あるいはあることを実現するために,支払わなければならない何らかの犠牲である。 ① 企業は有限な資金を持って,ある事業に投資したら,別の事業への投資から得る収益を犠牲にしなければならない。この犠牲収益は最初の投資の機会費用である。 ② 講義に出ることによって,この時間はその他の利用を犠牲にしている。このような犠牲は講義の機会費用である。

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 4. ミクロ経済学の課題とアプローチ ■経済学の諸分野 理論分野: 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 4. ミクロ経済学の課題とアプローチ ■経済学の諸分野 理論分野: ミクロ経済学,マクロ経済学,・・・・・・ 応用分野: 財政学,公共経済学 金融論,金融工学 国際経済学 (国際金融,国際貿易) 地域経済論,開発経済学,都市経済学 経済地理学,空間経済学 産業組織論,労働経済論,経済成長論,環境経済学 人口論 ・・・・・・ 実証分野: 計量経済学,実験経済学,・・・・・・ そ の 他 : 経済史,経済学史,経済思想,・・・・・・・

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 5. 経済学の流れ 十七世紀 国家の形成 官僚と商人 商人の富と国の力との関係 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 5. 経済学の流れ 十七世紀 国家の形成 官僚と商人 商人の富と国の力との関係 重商主義(Mercantilism) イギリスとオランダで: 経済著作の大部分は商人 merchants)たちが書いた。 フランスとドイツで: 経済議論はもっぱら国の役人が書いた ドイツ: 重商主義は「官房学派 (Cameralism)」(王立chamber を指すドイツ語にちなむ)として知られる。 イギリス重商主義はしばしば三つの時期に区分される。 1580年代-1620年代:「金塊主義/地金(じがね)主義」段階 1620年代-1700年代:「伝統」段階  1680年代-1750年代:「リベラル」段階 重商主義の核心には,成長と富の蓄積との間の正のフィードバックに対するこだわりがある。活動が増えれば,富が(商人にとっても国にとっても)増え,富が増えれば経済活動が増す。

第1章 ミクロ経済学:プレリュード 5. 経済学の流れ 十七世紀 重農主義者 (The Physiocrats) 第1章 ミクロ経済学:プレリュード 5. 経済学の流れ 十七世紀 重農主義者 (The Physiocrats) フランスの宮廷医師,フランソワ・ケネーを中心とする 1760 年代のフランス啓蒙思想家の一団だった。  重農主義ドクトリンの要石は,フランソワ・ケネー (1759, 1766) の命題である剰余―彼が呼ぶところの純生産 (produit net)を生み出すのは農業だけだという考え方だった。  重農主義の議論によれば,製造業は産出を製造するときに,同じだけの価値を生産の投入として使うので,結果として純生産はまったく生み出さない。重商主義者とは反対に,重農主義者たちは国の富はその金銀のストックにあるのではなく,その純生産の規模によるのだ,と考えた。 Françis Quesnay 1694-1774 『経済表』1759

経済学の系譜 近代経済学 K.マルクス 1818-1883 『資本論』1867 F.ゲンゲルス 1820-1895 J.M.ケインズ 需要サイト 近代経済学 K.マルクス 1818-1883 『資本論』1867 F.ゲンゲルス 1820-1895 マルクス経済学 J.M.ケインズ 1883-1946 『一般理論』 1936 ケインジアン 財政・金融政策 サミュエルソン 1915- 『経済学』1948 フィスカリスト 財政政策派 A.マーシャル 1842-1924 『経済学原理』 1890 ワルラス 1834-1910 新古典派 古典派 限界革命1874 重商主義 重農主義 リカード 1772-1823 比較優位の理論 ケインズ革命1936 M.フリードマン 1912- 『貨幣安定』 1959 マネタリスト 金融政策派 アダム・スミス 1723-1790 『国富論』1776 J.S.ミル 1806-1873 マルサス 1766-1834 『人口論』1798 ミクロ経済学 マクロ経済学 供給サイト ミクロ経済学(Ⅰ)

授業の進め方 家 計 企 業 不完全競争市場の下で市場機構(第9章~第13章) 完全競争市場の下で市場機構 (第2章~第6章) 完全競争市場の下で市場機構 (第2章~第6章) (価格メカニズム) 市場機構 が働く y p x p 需要 消費財市場 供給 支出 収入 家 計 企 業 労働供給量 賃金w 供給 所得 労働需要量 賃金w 費用 需要 生産用役市場 ミクロ経済学(Ⅰ) 財・サービスの流れ 貨幣の流れ