目録規則再構築の動向 -資料区分の問題を中心に- 整理技術研究グループ 吉田暁史 渡辺隆弘 整理技術研究グループの吉田です。「目録規則再構築の動向-資料区分の問題を中心に-」というテーマで発表します。本発表は、グループにおける討議を元に、吉田と渡辺がまとめたものです。
1.はじめに 1.1 昨年度の発表から 「最近における目録規則の改訂動向とその問題点-電子資料と継続資料を中心に-」 1.2 今年度 1.1 昨年度の発表から 「最近における目録規則の改訂動向とその問題点-電子資料と継続資料を中心に-」 1.2 今年度 「目録規則再構築の動向」 当グループでは昨年度、「最近における目録規則の改訂動向とその問題点-電子資料と継続資料を中心に」と題して、ISBD、AACR、NCR等の2002年度までの諸規則の改訂動向を検証し、特に大きく改訂された「電子資料」「継続資料」の両章について問題点を分析してきました。 両章の改訂は電子資料の出現という対象資料の変化に対応したものと一応評価できますが、現状のような章単位(つまり資料区分単位)の改訂作業では完全には対応しきれていない点を、今後の課題として指摘しました。また対象資料の変化とは別に、目録の機械化・OPACの登場から昨今の「メタデータ」出現に至る情報組織化環境の大きな変化に対しても、カード目録時代に確立された目録規則の枠組みが十分対応していないという点も指摘しました。 さて2003年度に入って目録規則の抜本的再構築の、具体的な動きがいくつか出てきました。。特に注目されるものは、IFLAによる「国際目録規則」への活動と、AACR抜本改訂の動きです。こうした背景のもと、当グループでは2004年度、「目録規則再構築の動向」をテーマに掲げ、IFLA IME-ICC(国際目録規則のための専門家会合)やAACR改訂、MODS等の動きを追う活動を行ってきました。 「目録規則再構築」の論点は多岐にわたり、またIFLAやAACRの動向は現在進行中のものであり、すべての側面をとりあげることは我々の手にあまります。本発表では、2003年以降の目録規則に関わる動きを概観したのち、特に現行目録規則の構成の基本をなす「資料区分」の問題をとりあげ、目録規則のあるべき姿を考察したいと思います。
2.諸規則の改訂動向 2.1 ISBD ISBD(G) 2004ed.の刊行など 2.2 AACR 2007年にAACR3刊行予定 2.1 ISBD ISBD(G) 2004ed.の刊行など 2.2 AACR 2007年にAACR3刊行予定 AACR3の基本方針ドラフト公表 2.3 NCR 2004年に、第13章「継続資料」改訂案の公開など まず諸規則の改訂動向を見てまいります。ISBDに関しては、あまり顕著な動きはありません。ISBD(G)の2004ed.が刊行されましたが、用語の変更等が中心です。次にISBD(ER)改訂案のWeb上における意見公聴が行われましたが、用語の変更のほか、第3エリアの使用停止という変更が行われています。 AACRに関しては、2004年7月の編集者の声明では、2007年にAACR3が刊行されるとのことであり、大改訂が行われますが、今年の1月12日にドラフト基本方針が発表されました。このあたりはレジュメにはまだ盛り込まれていませんが、やはり資料区分の扱いが最大の改訂内容となっているようです。これに関しては後ほど取り上げます。 NCRについては、2004年に第13章「継続資料」改訂案がまず公開され、次に第2章「図書」および第3章「書写資料」改訂案の公開も行われ、こういった章に関して改訂作業が進行中です。第2章、第3章は古書に関わる改訂であり、日本独自の動きですが、第13章に関しては、ISBDやAACR2の改訂をほぼ踏襲したものとなっています。
3.IFLA IME-ICCの動向 3.1 IFLA IME-ICC 国際目録規則のための専門家会合 国際目録規則のための専門家会合 IFLA Meeting of Experts on an International Cataloguing Code 個別の目録規則とは別に、IFLAの目録セクション(Cataloguing Section)が取り仕切って開催する、 IME-ICCすなわち国際目録規則のための専門家会合が定期的に開催されています。そこでは「国際目録規則」制定への動きが進められています。「国際目録規則」がどの程度のレベルを想定し、各国目録規則とどのような関係になるのか、書誌記述における国際標準であるISBDとの関係はどうなるのか、など、具体的なイメージはいまだ明らかでありません。この活動を主導的に進めているTillettによれば、1961年の国際目録法原則会議(ICCP)でパリ原則が確認され、1969年の国際目録専門家会合(IMCE)以後ISBDが作られた、という1960年代から70年代の標準化活動に倣ったものであるということです。専門家会合は、2003年のフランクフルトから始まり、2007年まで世界各地で開催される計画です。 毎年の会合内容ですが、「個人名」「団体名」「逐次性」「マルチパート構造」「統一タイトルと表現形レベルのGMD」についてWGが設けられて重要問題の議論が行われています。ただし、今のところ各グループから目新しい提案がなされるというわけではなさそうです。
3.2 国際目録法原則に関する声明(その1) Statement of International Cataloguing Principles ・パリ原則(1961)の見直し ・拡張を反映した章構成 1.適用範囲 5.アクセスポイント 2.実体、属性、関係 6.典拠レコード 3.目録の機能 7.探索能力の基礎 4.書誌記述 2003年のフランクフルト会合で草案が確認され、その後ブエノスアイレス会合で若干の修正が加わった「国際目録法に関する声明」という名称の文書が公開されています。引き続き検討されるようですから、まだ「草案」段階のものです。1961年のパリ原則に続いて、目録に関する国際的な原則が新たに策定されるので注目されるものです。次のような内容となっています。 ・パリ原則(1961)の見直し・拡張 パリ原則は、標目の選択と形式に特化し、さらには主題標目を対象としないという守備範囲を限定したものでしたが、今回の原則は書誌・典拠レコードのすべての側面を対象にするものとなっています。 ・拡張を反映した章構成 ここにありますような7項目に関して言及されています。パリ原則に比べて章構成は目録全体を包含するものになっています。しかし、内実を見ると、新たに守備範囲となった「書誌記述」「典拠レコード」等は著しく簡略であります。
3.2 国際目録法原則に関する声明(その2) ・FRBRの用語の取り入れ ・基本記入制への視点 ・OPACへの対応 ・全体的評価 3.2 国際目録法原則に関する声明(その2) ・FRBRの用語の取り入れ ・基本記入制への視点 ・OPACへの対応 ・全体的評価 ・FRBRの用語の取り入れ FRBRの諸実体(著作、表現形、体現形、個別資料等)を、「実体、属性、関係」の章にそっくり用いています。また、発見、識別といったユーザタスクを「目録の機能」の説明に用いています。このようにFRBRをできるかぎり取り入れる意図が見られます。ただ、「書誌レコードは実現形を反映」と断言している点は、現行の諸目録規則に沿ったものであり、FRBR以後「表現形ベースの記述」といった提言もなされていることからすると保守的に過ぎ、FRBR導入の意義を薄めてしまっていると思われます。 ・基本記入制への視点 パリ原則に明確であった「基本記入」「副出記入」といった枠組みは一応なくなっています。 ・OPACへの対応 「探索能力の基礎」の章を設け、従来の「標目」概念を越える多様なアクセスポイントや「探索デバイス」(キーワード、フレーズ、トランケーションなど)に言及しています。標目(アクセスポイント)の選択と制御という側面では、カード目録時代に作られた枠組みが機械化環境には適合せず、目録規則と現実の目録(OPAC)との乖離があります。こうした問題の解消を目指す意図が読みとれますが、これを具体的に「目録規則」にどう反映していくのかは未知数です。 ・全体的評価 半世紀近く変わることのなかった枠組みを作り直そうという構想には意義深いものがあります。またFRBR等からの概念や手法を受け入れるところもありますが、一方FRBRにおける最大の成果である「表現形」に対して前向きの態度を示していない、現状では十分な具体性を伴っていない、といったあたりが率直な印象であります。パリ原則の大改訂というには少し物足りなさを感じます。
4.目録規則の構造的枠組みの再検討 4.1 シンタックスとセマンティックスの整理 4.2 標目と典拠コントロール 4.1 シンタックスとセマンティックスの整理 4.2 標目と典拠コントロール 4.3 資料区分概念の再検討 以上、AACRやIFLAにおける具体的な動きをいくつか見てきました。目録規則の構造的枠組みを見直そうという近年の動きは、大きくは次の3点にまとめることができると思われます。1.シンタックスとセマンティックスの整理、2.標目と典拠コントロール、3資料区分概念の再検討です。これらのうち本発表では、特に4.3「資料区分概念の再検討」を重点として取り上げます。
4.1 シンタックスとセマンティックスの整理 ・ISBD セマンティックスにほぼ相当 ・MARC シンタックスにほぼ相当 4.1 シンタックスとセマンティックスの整理 ・ISBD セマンティックスにほぼ相当 ・MARC シンタックスにほぼ相当 ともにセマンティックスとシンタックスの分離が不十分であり、大きな問題をはらむ ・MARCXMLやMODS、RDFなど 目録を表現する形式面での整理が望まれる メタデータの世界では、シンタックス(データ要素の収納書式や表示形式を定める部分)とセマンティックス(データ要素の選択と定義を定める部分)を分離し、データ要素の把握と表現形式とを分けて考えることにより、相互運用性を強化することが常識となりつつあります。しかし目録規則・MARCフォーマットの世界では、両者の整理が十分ではありません。LCが中心となって、この分野の開発が進められています。MACRXMLなどMARCデータのシンタックスにXMLを採用するもの(これはMARCの忠実な変換ですが)のほか、他のメタデータスキーマにも応用可能なMODS(Metadata Object Description Schema)も開発されていますし、RDFといったものもあります。現状では、ISBDがおおよそセマンティックスに相当し、MARCがシンタックスにほぼ相当するわけですが、分離は明確ではなく、問題点を抱えています。しかし本発表では問題点の指摘のみにとどめ、詳しくは触れません。
4.2 標目と典拠コントロール ・目録規則と現実の目録(OPAC)との乖離 4.2 標目と典拠コントロール ・目録規則と現実の目録(OPAC)との乖離 3.2で述べましたように、カード目録時代に作られた枠組みは機械化環境には適合せず、目録規則と現実の目録(OPAC)との乖離があります。特に標目に関しては、カード目録時代の概念がまだそのまま使われています。国際目録法原則においてもこの点に関する配慮が強く意識されていますし、AACR3においても(具体的な姿は必ずしも明らかではないが)現行の第Ⅱ部を大きく構成変更するとされています。ここでは詳しく取り上げませんが、今後の問題点でしょう。
4.3 資料区分概念の再検討 (1)現行AACR2における資料区分 第1章 記述総則 対応するGMD 4.3 資料区分概念の再検討 (1)現行AACR2における資料区分 第1章 記述総則 対応するGMD 第2章 図書、パンフレットなど text 第3章 地図資料 cartographic material 第4章 手稿 manuscript | | 第11章 マイクロ資料 microform 第12章 継続資料 対象資料の様相が複雑化する中で、現在の目録規則の章構成をなす資料区分概念を再検討することが求められています。AACR2の2002年改訂版では記述の大原則を示した条項0.24が「記述されるべきアイテムのあらゆる側面を明らかにすることが重要である。つまり、その内容、そのキャリア、その刊行形態、書誌的な関連性、そして出版されたか否かといったことである。」と改められましたが、この実現には資料区分概念の抜本的な再検討が不可欠であります。 現行AACR2を例にとると、記述における資料区分は、このようになっています。詳しくはレジュメをご覧ください。第2章から第12章までが資料区分であり、特に英国方式における一般資料表示(GMD)が、ほぼこれら資料区分ごとにに対応して設けられています。この資料区分をどのように解釈し、整理し、表現していくかが、記述規則における最も難しい、最大の問題点であると考えます。
(2)Tom Delseyの提案 Content Description →内容に関わる Technical Description →キャリアに関わる Mode of Issuance →刊行様式に関わる Unpublished Resources→ 〃 Analytics and Multilevel Description →階層関係に関わる Tom Delseyはこのように、資料区分に基づいて記述規則の構造を5つに仕分ける構成を提案しています。最も重要な区分はテキスト、音楽、静止画像、といった内容の種類に関わる区分です。2番目が、印刷メディア、マイクロメディア、といったキャリアに関わる区分です。3番目は、完結資料、継続資料といった刊行のありさまに関わる区分です。4番目は非刊行資料となっていますが、これも刊行に関する区分と考えることができます。最後に分出と多段階記述といった階層関係に関わる区分です。 これらの区分は、現状区分を、精密かつ論理的に改める試みと見られます。 しかし以下のような問題点があります。 1.刊行様式は完結と継続だけの区分でよいのか(逐次刊行物、更新の別) 2.電子資料の扱いをどうするのか(内容区分か、キャリア区分か) 3.手書き資料は非出版物と断定できるのか 4.複製資料と唯一資料の区分がない 5.複製物か否かの区分もない 6.全体-部分関係は、中味とキャリアの2つの場合に分離する必要がある 7.記述対象を1つのレコードで記録するのか、あるいは2つのレコードで記録するのか といったことです。
(3)AACR3ドラフト基本方針 Section A. General rules Section B. Supplementary rules applicable to specific types of content Section C. Supplementary rules applicable to specific types of media 2005年1月12日に公表された、AACR3ドラフトの記述部分概要は、Delseyの提案を下敷きにしていると思われますが、3つのセクションに大きく分かれています。Aは一般規則で、さらにgeneralと、分冊形式資料と、更新資料の3つに分かれます。BはDelseyにおける内容区分に相当します。CはDelsyにおけるキャリア区分に相当する、というものです。Aで定めた刊行様式ごとの一般規則が、さらに内容区分およびキャリア区分ごとに細かく規定される、という構造になっています。DelseyにおけるMode of issuanceがAに入り込んでいることになります。BとCに関しては同じことです。要するに、基本的には内容とキャリアで分けようという発想です。このほかに、非刊行資料は補足的に扱われたりします。またドラフトでは言及がありませんが、当然階層関係に関する規定も盛り込まれるでしょう。
(4)資料の区分原理 1.記録内容の種類による 2.キャリアによる 3.記録の様式による(活字の種類など) 4.記録の様式による(ディジタルかアナログか) 5.物的な刊行形態による(単行資料か否か) 6.内容が確定しているか、更新されるか 7.出版物か否かによる 8.複製資料か唯一資料か 9.複製物か否か さて資料区分に関しては、もっと徹底した区分原理を考える必要があると考えます。資料の区分原理には、1から9までのようなものがあると考えられます。あるべき目録規則としては、こういった独立の区分原理がすべて論理的に表現されるものでなければなりません。それらは結局資料の持つ性質の異なる属性値であり、個々の記述対象ごとに、こういった区分に対応する属性値が論理的に組み合わせ表現によって示されなければならないと考えます。 これらの区分が各々別々の次元を持ち、それらに対して具体的な記述要素が対応していくというイメージでしょうか。具体的な記述要素は、AACR3ドラフトを例にとれば、それはA章で決めることになりましょう。当然区分によっては対応する記述要素が存在しないことも起こりえましょう。例えば非刊行物における出版・頒布等エリアや、完結資料における巻次・年月次エリアのようなものです。 これら区分のうち、1と6が内容部分に関わる区分原理であり、その他はおおむね広い意味での物的な部分に関わる区分原理であると考えられます。
(5)規則構造の枠組(その1) 1.内容部分のレコード 第1エリア タイトルおよび責任表示 第2エリア 版(改訂版等) 第3エリア 資料特有 第1エリア タイトルおよび責任表示 第2エリア 版(改訂版等) 第3エリア 資料特有 第6エリア 内容的な全体-部分関係 第7エリア 注記(内容部分に関する注記) 以上をふまえて、目録規則構造の大きな枠組みを提案します。まず記述を、内容に関するレコードと、物的なキャリアに関する部分に関するレコードの2つに分けることにします。その理由は、例えばタイトルや版、全体-部分関係といったものが、内容的なものと、物的なものの2つが存在しうるということ。次に分割しないと、3つの作品が、1.5ずつ2冊に含まれるというケースが処理できないということの2つです。 そして、それぞれのレコードごとに記述要素(つまり属性の種類)を定め、これらを先にのべた資料区分との組み合わせで、属性値を表現していくという手法を採ります。記述要素としては、とりあえず現状のISBDを元にしています。ただし、これらも再考する必要があるとは思います。 内容部分レコードでは、第4エリアの形態的記述エリアは当然出現しません(内容的な数量という要素ならありますが)。第3エリアは資料区分特有の内容的なデータがあれば書き込まれます。例えば地図資料における数値的データのような。またシリーズエリアは全体-部分関係を表す章に改められます。なお従来のシリーズエリアは、セマンティックスではなく、シンタックスの問題となるので、この規則では規定しません。これらのエリアを見ていただいたら分かるように、結局内容部分では、第1と第2エリアが中心となるでしょう。
(5)規則構造の枠組(その2) 2.キャリア部分のレコード 第1エリア:現物資料のタイトル等 第2エリア:版エリア(大活字版等) 第3エリア:資料(刊行方式)特有 第4エリア:出版・頒布等 第5エリア:形態的記述 第6エリア:キャリアの全体-部分関係 第7エリア:注記(キャリア部分に関する注記) 第8エリア:標準番号 次にキャリア部分のレコードですが、第1エリアは内容部分と相違がある場合のみ、書き込まれることになるでしょう。そして第2の版エリアは大活字版等のキャリアに関わる版を内容に関わる版とは区別して記載することになります。キャリア部分のレコードで最も中心となるのは、第4エリア、第5エリアという、まさしく物的な側面に強くかかわるエリアが中心となるでしょう。 このように内容とキャリアにまずレコードを分離し、それぞれごとに記述要素を定め、それらを資料区分との組み合わせで、表現していくというイメージになろうかと思われます。これは実際の規則としての提案ではありますが、現実には作業性などの問題、過去との継続性などを考慮して、もっと現行目録規則に近いものが作られることになるでしょう。しかし、あくまで論理レベルではこのような枠組みを作る作業が必要となる、ということを強調したいと思います。
5.おわりに ・現状目録規則および現在検討されている目録規則の枠組みは、まだまだ不十分である。 ・より論理的な枠組み構築が必要であろう。