Black Litterman Modelによる最適化

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Black Litterman Modelによる最適化 東京国際大学                                   渡辺 信一

相場観の表し方 投資家は、通常、特定の資産に対して、相場観を持っている。 たとえば、株式よりも債券に対して強気だとか、国内資産より も外国資産に対して強気だとかである。 しかし、たとえば、国内債券に対して強気だとしても、国内債 券の期待収益率だけを上げて最適化しても、最適なアセット・ アロケーションにはならない。なぜならば、その場合は、外国 債券やCBの期待収益率を上げなければ整合的でないし、株 式の期待収益率を下げる必要があるからである。 BLMは、このように、投資家の個別資産への相場観(期待収 益率)を、アセット・アロケーションに反映させ、かつ、他の資 産と整合的に変化させるモデルである。 BLMでは、投資家が、相場観を持っていた場合の最適なア セット・アロケーションを求めることができる。

相場観の表し方 【ケース1】資産1の(無危険資産に対する)期待超過収益率は、3~7% である。  【ケース1】資産1の(無危険資産に対する)期待超過収益率は、3~7% である。       →資産1に対して、(絶対的に)強気の相場観を持っている。   【ケース2】資産2と資産3の(無危険資産に対する)期待超過収益率の 差は、100BPと40BPの間である。       →資産2に対して、資産3よりも強気の相場観を持っている。 【ケース3】資産4の(無危険資産に対する)期待超過収益率は、 マーケット・ポートフォリオ(TOPIX)を200BP~0BP上回る。      →資産4に対して、(インデックスに対して、相対的に)強気の 相場観を持っている。

相場観の表し方 平均±2標準偏差に収まる確率は95%

【ケース2】 【ケース3】 【ケース1】 平均: 標準差: 正規分布を仮定すると、平均±2標準偏差になる確率が95%であることを利用している。 【ケース2】 平均: 準偏差: 正規分布を仮定すると、平均±2標準偏差になる確率が95%であることを利用している。 【ケース3】 平均: 標偏差: 正規分布を仮定すると、平均±2標準偏差になる確率が95%であることを利用している。

相場観の表し方 上記の相場観に基づいて、モデルは、下記の計算を行う。

相場観の表し方 実際には、短期金利を基準にして、超過収益率を算出する。

【参考】 BLMの出力画面の説明 【BLM出力画面】は、以下のことを表している。 均衡期待収益率とリスク→ヒストリカルな値を自動計算 相関係数行列→ヒストリカルな値を自動計算

【参考】 BLMの出力画面の説明

【参考】 BLMの出力画面の説明 ①【ケース1】自信度100%の場合  ①【ケース1】自信度100%の場合 投資家は、国内債券の(無危険資産に対する)超過期待 収益率が200BPという相場観を持っている。 この相場観に対する自信は、100%である。 モデルは、国内債券の(無危険資産に対する)超過期待 収益率は190BPとし、短期金利、国内CB、国内株式、 米国債券、欧州債券、米国株式、欧州株式、アジア株式、 貸付金の超過期待収益率を10BP下げる。

【参考】 BLMの出力画面の説明

【参考】 BLMの出力画面の説明 ②【ケース2】自信度(設定)の場合  投資家の相場観に対する自信が、100%でない場合 は、以下のようになる。 ここでは、自信度(誤差で表わされる)を0.1に設定して いる。 投資家は、国内債券の(無危険資産に対する)超過期待 収益率が200BPという相場観を持っている。 モデルは、国内債券の(無危険資産に対する)超過期待 収益率は50BPとし、米国債券20BP、欧州債券40BP、 米国株式-10BP、欧州株式-10BPとなるように修正を 行う。

【参考】 BLMの出力画面の説明

【参考】 BLMの出力画面の説明 ③誤差0.1の意味 相場観に対する自信度の数値は、以下のような意味を 持っている。 【BLM出力画面】では、国内債券が、均衡期待収益率 (市場コンセンサス)よりも強気のケースを想定している (3%→5%、超過リスク・プレミアム=200BP)。 また、自信度は、0.1%で設定している。 これは、下記により、国内債券の超過期待収益率を18 0BP~220BPに設定していることになる。

【参考】 BLMの出力画面の説明 平均: 平均: 準偏差: これは、国内債券の期待超過収益率が、95%の確率で、180BP~220BPの範囲に収まることを想定していることになる。 また、国内CB、国内株式、米国債券、欧州債券、米国株式、欧州株式、アジア株式、貸付金は、期待超過収益率が、95%の確率で、-20BP~20BPの範囲に収まることを想定していることになる。 平均: 標偏差:

【参考】 BLMの出力画面の説明 ④制約条件

【参考】 BLMの出力画面の説明 (1)危険資産(国内株式+米国債券+欧州債券+米国 株式+欧州株式+アジア株式)<50%  (1)危険資産(国内株式+米国債券+欧州債券+米国 株式+欧州株式+アジア株式)<50% (2)国内株式<30% (3)外貨建て資産(米国債券+欧州債券+米国株式+ 欧州株式+アジア株式)<30% (4)国内CB<5% (5)貸付金=0% (6)アジア株式<1%

【参考】 BLMの出力画面の説明 ⑤最適解

【参考】 BLMの出力画面の説明

【参考】 BLMの出力画面の説明 ⑥アセット・クラス別構成比率

【参考】 BLMの出力画面の説明 この例では、投資家が、国内債券に強気であるため、欧州債 券や国内債券、国内CBが多く含まれるポートフォリオになる。 米国債券が選ばれないのは、欧州債券よりも、リスクが高く、 期待収益率が低いためである。 リスクを高めることができれば、アジア株式や国内株式が選 択される。 (参考文献) 1 豊崎恭行、1993、「相場観を織り込む最適化」、『証券アナ リストジャーナル』、12月 2 Black Fisher, Robert Litterman, 1992, “Global Portfolio Optimization” ,Financial Analysts Journal Sep/Oct pp.28-43

最適化計算とは 資産運用において、最も重要な意思決定が、アセット・アロケーションである。その際、通常は、下記の最適化計算がおこなわれる。  ただし、 :各資産のウェイト・ベトル :資産間の分散・共散 :ポートフォリのリスク :ポートフォリオ収益率 :各資産の収益率クトル

最適化計算の実際 (1) :共通ファクター ①過去の平均値(長期均衡) ②投資家の相場観 ③均衡収益率 最適化計算に当たっては、過去の分散・共分散の他に、期待リターンを設定する必要がある。   ①過去の平均値(長期均衡)   ②投資家の相場観   ③均衡収益率 Black Litterman Modelでは、各資産の超過収益率を下記のように設定する。 (1) ただし、 :超収益率 :衡下のリスク・プレミアム   :共通ファクター :独立ァクター

最適化計算の実際 (2) したがって、 のボラティリティは、 と の部に分解できる。 とする。 また、  期待値は、以下のようになる。 (2) ここで、 は、均衡リスク・プレミアムを中心にランダムに動く変数と仮定する。 したがって、 のボラティリティは、 と の部に分解できる。 とする。 ここで、期待収益率の共分散マトリックスを この場合、サンプルの平均ボラティリティ(分散)は、母集団のボラティリティよりも小さいので、cは、小さな値となる。 また、 と均衡リスク・プレミアムが、期待収率を決める。 ここで、投資家の相場観を下記のように表すことを考える。 ただし、 :期収益率差

最適化計算の実際 (5) ここで、次のように、 の分布を考える。 ランダム項の平均値は、正規分布を仮定する。 ただし、 ただし、  期待収益率が、下記を満たす条件下での期待収益率の条件付き分布を計算する。  ここで、下記の最適化を行う。 (4) (5)

最適化計算の実際 ただし、 :サンプル平均の分散/母集団の分散(スカラー) c :市場均衡値、あるいは、ヒストリカル・リターン(ベクトル) ただし、    :サンプル平均の分散/母集団の分散(スカラー) c :市場均衡値、あるいは、ヒストリカル・リターン(ベクトル)   :分散・共分散行列(ヒスリカル・データ)の逆数(ベクトル) :均衡期待収益率(クトル) :資産間の期待収益率(ベクトル) :資産間の期待収益率(ベクトル)

最適化計算の実際 【ケース(1)】相場観に自信がある場合 (6) (5)式で、誤差項  この解が、相場観を織り込んだ期待リターンとなる。詳細は、3 計算例を参照。     【ケース(1)】相場観に自信がある場合 (6) 【ケース(2)】相場観に自信がない場合 (5)式で、誤差項 が、平均0、分散 とする    (7)

計算例 【ケース(1)】相場観に自信がある場合  相場観に自信がある場合は、下記の最適化を行う。 (8)  (9) ただし、

計算例  (8)、(9)式を解くには、ラグランジュ乗数を使う。 (10)

計算例  Mの最小値を求めるために、 と で偏微分し、0と置く。 (11) (12)

計算例 (11)式より、 (13) (12)式を(13)式に代入する。   (13)  (12)式を(13)式に代入する。 最終的に、下記が、相場観に自信がある場合の投資家の相場観を反映させた期待収益率になる。

計算例 【ケース(2)】相場観に自信がない場合  相場観に自信がない場合は、下記のような定式化を行う。 誤差項は、下記のようになる。 ただし、

計算例  最小化するために、下記の設定を行う。

計算例 最小値を求めるために、下記のようにする。 したがって、以下のようになる。  最小値を求めるために、下記のようにする。 具体的には、下記を満たす をめる。 したがって、以下のようになる。 最終的に、相場観に自信がない場合の投資家の相場観を反映させた期待収益率は、下記のようになる。