日本における認知症ケアマッピング に関する研究の動向

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1 STAS-J 導入プロセスと 看護師への影響 宮城千秋(沖縄県立精和病院) 神里みどり(沖縄県立看護 大学)
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「効率的で質の高い医療提供体制の構築」と「地域包括ケアシステムの構築」(車の両輪)
Presentation transcript:

日本における認知症ケアマッピング に関する研究の動向 聖隷クリストファー大学 田島明子 浜松医科大学 鈴木みずえ

はじめに 日本では2004年にDCMの使用許可を持つマッパーを認 定して以来、日本国内の認知症ケアに携わる施設にお いてDCMが行われるようになり、DCMに関する研究も 散見されるようになった。 優れた理念を基盤とする実践に対する観察評価手法で あるDCMは今後、認知症ケアに関する研究への応用可 能性が広がるだろう。 そこで本研究では日本におけるDCMに関する研究の様 相を探るなかで、DCMに関する研究の意義とDCMに関 する研究の今後の方向性について考察を行う。

対象 医学中央雑誌にて「認知症ケアマッピング」をkey words としてヒットした54文献。 54文献中、文献種別が解説・講演録である12文献を除 いた42文献を対象とした。 対象文献には、年代-番号でナンバリングをした。 文献リストはhttp://www5.ocn.ne.jp/~tjmkk/DCM.htmlで 閲覧できる。

分析方法 ① 対象文献を、「概要」「目的」「対象」「方法」「結果」「課 題」に沿って要点をまとめた基礎データを作成した。 ① 対象文献を、「概要」「目的」「対象」「方法」「結果」「課 題」に沿って要点をまとめた基礎データを作成した。 ② 基礎データから、対象文献の特徴的要素をキーワード 化。 ③ ①と②の内容を1つのカードとし、それらを見比べなが ら、内容の類似性によってカテゴリ化を行った。

結果  6つのカテゴリが生成された。 ①【ケアの変化】 ②【ケアする人の意識の変化】 ③【単独介入への適用】 ④【普及方法の模索】 ⑤【内在的検討】 ⑥【その他】

①【ケアの変化】のサブカテゴリ (15文献、うち2文献は②と重複) 「PCC実践の効果」(1) 「特別な介入の効果検証」(2) 「一事例への導入」(7) 「ケアの質の変化」(3) 「ケアスタッフ意識と認知症高齢者への効果」(2) ()の数字は文献数、下線のあるものは②との重複 「PCC実践の効果」:DCMの結果に基づいて介入を行ったケア実践では特別なアクティビティを行わなくともBPSD(Behavioral and psychological symptoms of Dementia:認知症の行動・心理症状)が軽減できたという内容 「特別な介入の効果検証」:タッピング・タッチやアロママッサージの効果の検証のためにDCMを用いたという内容 「一事例への導入」:精神科療養病棟、特別養護老人ホーム、グループホーム(以下GHとする)、有料老人ホーム、脳機能病棟において一事例にDCMの結果に基づいて介入を行った結果を提示した内容 「ケアの質の変化」:施設にDCMを導入した際における施設ケアの質の変化を検証した内容を含めた。 「ケアスタッフ意識と認知症高齢者への効果」:DCMを発展的評価として1年間に4回行い、ケアスタッフの意識変化と認知症高齢者への効果を明らかにしたもの

②【ケアする人の意識の変化】のサブカテゴリ (13文献、うち2文献は①と重複) ケアチームの意識変化(3) ケアスタッフの主観的変化(4) 職員教育(2) 施設間評価交流の結果(1) DCMの効果(1) ケアスタッフ意識と認知症高齢者への効果(2) ()の数字は文献数、下線のあるものは②との重複 「ケアチームの意識変化」:DCMの導入と結果のフィードバックによりケアチームの意識変化を調査した研究を含めた。 「ケアスタッフの主観的変化」:DCMによるフィードバックがケアスタッフの介護不安や介護負担感、自己効力感などに与える影響を調査した研究を含めた。 「職員教育」:職員教育の一環としてDCMを導入した結果を調査した研究を含めた。 「施設間評価交流の結果」:施設相互でDCMを行い、評価を提示し合い交流を行ったことによるケアスタッフ間の意識や行動の変化を調査した研究である。 「DCMの効果」:DCM結果のフィードバックに不参加の職員への「申し送り」を分析し、PCCやDCMに対する職員の認識を調査した研究である。 「ケアスタッフ意識と認知症高齢者への効果」:上述のとおりDCMを用いて発展的評価を行い、ケアスタッフの意識変化と認知症高齢者への効果を明らかにしたものである。

③【単独介入への適用】のサブカテゴリ (6文献) 単独介入の振り返り(3)    訪問介護サービスやユニット型特別養護老人ホーム での単独介入にDCMを実施したことで、単独介入の振り 返りにDCMが活用できることを明らかにした研究 在宅介護者へのサポート(3)   在宅介護者の行うケアについてDCMを実施し、結果を 在宅介護者にフィードバックしたことで、それが在宅介護 者へのサポートになっていることを明らかにした研究 ()の数字は文献数 「単独介入の振り返り」:訪問介護サービスやユニット型特別養護老人ホームでの単独介入にDCMを実施したことで、単独介入の振り返りにDCMが活用できることを明らかにした研究 「在宅介護者へのサポート」:在宅介護者の行うケアについてDCMを実施し、結果を在宅介護者にフィードバックしたことで、それが在宅介護者へのサポートになっていることを明らかにした研究

④【普及方法の模索】のサブカテゴリ (3文献) 研修後の実践のための課題(1)    DCMの研修を受けマッパーになった後、DCM実践が 円滑に行われていない現状があるため、その問題を探 るためにマッパーにインタビュー調査を行った内容 施設での普及のための模索(2)   施設でのPCC・DCMの導入の方法について模索さ れた研究 ()の数字は文献数 「研修後の実践のための課題」:DCMの研修を受けマッパーになった後、DCM実践が円滑に行われていない現状があるため、その問題を探るためにマッパーにインタビュー調査を行った内容 「施設での普及のための方法の模索」:施設でのPCC・DCMの導入の方法について模索された研究

⑤【内在的検討】(3文献) DCMの信頼性・妥当性 WIB値の信頼性・妥当性 WIB値に影響するBCCを明らかにする

⑥【その他】(4文献) DCM活用の際にはスタッフ・外部評価者の協働性が課題解決に向 けて重要であることを示した内容 観察調査法の検討   DCMと1分間タイムスタディに基づくipadソフトを比較し、観察調査 法を検討した内容 スタッフ・外部評価者の協働性 DCM活用の際にはスタッフ・外部評価者の協働性が課題解決に向 けて重要であることを示した内容 訪問介護者の役立ち感   訪問介護者にとってDCMフィードバックが役に立ったかを調査し た研究 利用者の内面を理解した介護に向けて   DCMを実施することで「時間」の側面から利用者の内面を理 解した介護を行えることが考察された研究であった。 どこにもカテゴリ化されなかった単独の文献である。 「観察調査法の検討」:DCMと1分間タイムスタディに基づくipadソフトを比較し、観察調査法を検討した内容である。 「スタッフ・外部評価者の協働性」:DCM活用の際にはスタッフ・外部評価者の協働性が課題解決に向けて重要であることを示した内容である。 「訪問介護者の役立ち感」:訪問介護者にとってDCMフィードバックが役に立ったかを調査した研究であった。 「利用者の内面を理解した介護に向けて」:DCMを実施することで「時間」の側面から利用者の内面を理解した介護を行えることが考察された研究であった。

考察 【ケアの変化】 認知症を持つ人の行動変容からその効果を判断する ことが可能になる 【ケアする人の意識の変化】    認知症を持つ人の行動変容からその効果を判断する ことが可能になる 【ケアする人の意識の変化】    理念的基盤を実践に生かすための評価法であるため、 自らのケアに不安を抱える実践者にとっては行動指針を 同時に与えてくれる。    しかしDCMによる課題の共有は「ブリーフィング」 「フィードバック」というプロセスにおいてマッパーとケア 実践者の共有作業がいかに有機的であったかに影響さ れるので、そのプロセスの評価も含めた効果検討が望ま しい 【ケアの変化】    特別な介入の効果についてもDCMによって評価を行うことで認知症を持つ人の行動変容からその効果を判断することが可能になると思われる。 【ケアする人の意識の変化】    DCMはPCCという理念的基盤を実践に生かすための評価法であるため、自らのケアに不安を抱える実践者にとっては行動指針を同時に与えてくれる。それゆえにケア実践者の主観的変化や職員教育としての効果が期待できるため、そうした研究数も多かったのだろう。    しかしDCMによる課題の共有は「ブリーフィング」「フィードバック」というプロセスにおいてマッパーとケア実践者の共有作業がいかに有機的であったかに影響されるので、そのプロセスの評価も含めた効果検討が望ましいと考える。

考察の続き 【単独介入への適用】    ケアの質を担保する目的だけなく、虐待など2者関係 に閉じることから起こるリスクを回避する、介護者のサ ポート機能としても、認知症ケアシステムの一環として DCMの実施を推進する意味 【普及方法の模索】    「施設間評価交流」【ケアする人の意識の変化】は施 設の枠組みを超えて、マッパーとケア実践者の対等性を 保ちながらDCMを実施できる新たな形態。施設や人の 壁をブレークスルーできる普及方法の開発が課題 【単独介入への適用】   認知症を持つ人とケア実践者の2者関係に閉じたケアの場が増えることが想定される。ケアの質を担保する目的だけなく、虐待など2者関係に閉じることから起こるリスクを回避する、介護者のサポート機能としても、認知症ケアシステムの一環としてDCMの実施を推進する意味があると思われる。 【普及方法の模索】   重要な課題と同時に、マッパー個人レベルで普及することの難しさある。DCMは評価されるケア実践者にとってみると、これまでの自身のケア実践の見直しを迫られることもあるので警戒感や抵抗感を持つ可能性。    「施設間評価交流」は施設の枠組みを超えて、マッパーとケア実践者の対等性を保ちながらDCMを実施できる新たな形態。こういった施設や人の壁をブレークスルーできる普及方法の開発が課題ではないか。