児童治療における論争.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
対象の使用 妙木浩之 * この資料 ( 文字のみ ) は 「 フロイト以後 100 年 」 ブログサイトに掲載 。 D.W.Winnicott 1896 年 年.
Advertisements

J.Kominato 個別ケアプラン作成の留意点 個別ケアプラン作成の留意点 J.Kominato.
パーソンセンタードケアの構成要 素 ① アルツハイマー病の人々の Personhood 人 格は、失われるのではなく、次第に隠さ れていく ② すべての場面で、アルツハイマー病の 人々の Personhood 人格を認める ③ ケアと環境を、個人に合わせる ④Shared decision making.
学習目標 1 .セルフマネジメントモデル,学習援助型教育とは何か を理解する. 2 .セルフマネジメント支援のために必要な構成要素につ いて理解する. 3 .セルフマネジメントにおいて看護職に求められる能力 と責任について理解する. SAMPLE.
1 STAS-J 導入プロセスと 看護師への影響 宮城千秋(沖縄県立精和病院) 神里みどり(沖縄県立看護 大学)
教育と発達. 能力とは何か(まとめ) 能力=何かできること 教育との関連での条件 – 価値ある能力であること – 訓練で発達可能であること – 教えることが可能であること ふたつの階層性 – 価値的な階層 – 発達の規定性としての階層.
MSW の役割について 広島大学病院 薬剤部 藤田啓子. MSW の仕事とは? ・主に医療機関や老人保健施設、在宅介護支援センター等 に勤務し、医師・看護婦・理学療法士などと共に、 医療チームの一員として、患者さんとその家族への相談 やさまざまな援助を行っています。 ・社会福祉の専門家として、患者さんに関わる経済的、
カウンセリングナースによる 新しい治療システム -ストレスケア病棟での治療体験と カウンセリングナースの導入- 福岡県大牟田市 不知火病院 院長 徳永雄一郎.
がん患者の意思決定について がん患者の意思決定と、その過 程、要因について知る がん患者の意思決定への支援に ついて考える 先端侵襲緩和ケア 看護学 芦沢 佳津美.
第5章 子どもは心をどのように 理解するか? 道案内 (5) 子供は人の心をどう認識するか 1 準備 (0) 授業を始める前に (1) 発達心理学とはどんな学問か? (2) なぜ発達心理学を学ぶのか? 2 知覚の発達 (3) 子供に世界はどう見えるか 3 認知の発達 (4) 子供はものごとをどう認識するか.
発達障害と統合失調の類似性 原因を求めれば発達障害が増える
研修のめあて 授業記録、授業評価等に役立てるためのICT活用について理解し、ディジタルカメラ又はビデオカメラのデータ整理の方法について研修します。 福岡県教育センター 教員のICT授業活用力向上研修システム.
「ストレスに起因する成長」に関する文献的検討
治療構造と治療機序.
第5章 子どもは心をどのように理解するか?.
2009/01/27 がん患者を家族に持つ子ども達のケア 聖隷三方原病院 ホスピス科 天野功二.
8 人間関係の中で育つ −社会性の発達−.
木島伸彦 慶應義塾大学 パーソナリティ心理学  クロニンジャー理論 1 木島伸彦 慶應義塾大学.
1886年の学会発表 男性ヒステリーに関するフロイトの伝説 当然の前提であったが、シャルコー説からの離脱 歴史的経緯
自律学習と動機づけ 教育心理学の観点から 2011/2/19 上淵 寿 (東京学芸大学).
がんと就労 資料1 山内班計画 がん診療連携拠点病院等 【課題】 【課題】 就労や職場の現状、法律に関する知識なし
「存在の肯定」を規範的視座とした作業療法理論の批判的検討と 作業療法・リハビリテーションの時代的意義 田島明子
情報は人の行為に どのような影響を与えるか
1 受講方法の変更について 講義への直接参加 (オフライン) Youtubeでの視聴 (オンライン) 今まで通りの方法で進める
がんの家族教室  第3回 緩和ケアには何が出来るのか? 愛知県がんセンター中央病院 緩和ケアセンター 下山 理史(医師) 松崎 雅英(薬剤師)
ドイツの医師職業規則 から学ぶもの 東京医科歯科大学 名誉教授  岡嶋道夫.
子どもたちが発達段階に応じて獲得することが望ましい事柄
ウィニコットの仲間たち 東京国際大学 妙木 浩之.
平成27年度 障害者虐待防止権利擁護研修 施設コース
2012年度スクールソーシャルワーカー研修会 スクールソーシャルワーカーの 役割と専門性について
第6章 子どもを愛すること ー感情と愛着の発達ー
Ⅲ.精神医学的アプローチの提案 精神科医 片山知哉 療育研究大会全体会シンポジウム 家族背景の要因で「難支援」に至るケースへの対応
女子大学生におけるHIV感染症のイメージと偏見の構造
神戸大学医学部附属病院 リエゾン精神専門看護師 古城門 靖子
「自分を理解し、理解してもらいたい」 自然な感情
ヘルスプロモーションのための ヘルスリテラシーと 聖路加看護大学『看護ネット』
患者とかかわる際に 行うこと・行わないことの指針
 クリティカルケア領域に             おける家族看護     ICU入室中の患者家族の      ニードに対する積極的介入について              先端侵襲緩和ケア看護学                    古賀 雄二 
ビデオ録画による心理療法 マスターセラピストから学ぶ 自我心理学的立場から
2007年10月14日 精神腫瘍学都道府県指導者研修会 家族ケア・遺族ケア 埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科 大西秀樹.
治療構造論2015.
心理学 武庫川女子大学文学部教育学科 北口勝也 http: //www. mukogawa-u.ac.jp/~kitaguti.
治療構造論.
治療構造論2014.
看護管理学特論 救急・集中治療領域における家族看護
認知症老人の介護   家族に対するケア 上野公園病院 高 田 靖 子.
「“人生の最終段階における医療” の決定プロセスに関するガイドライン」
がん患者の家族看護 急性期にあるがん患者家族の看護を考える 先端侵襲緩和ケア看護学 森本 紗磨美
相談支援従事者初任者研修のカリキュラムの改正について
日常生活から社会へ~社会学理論とジェンダー 1
(相互に利益を得、円満な関係で良い結果を得る)の関係です。
『組織の限界』 第1章 個人的合理性と社会的合理性 前半
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
理論研究:言語文化研究 担当:細川英雄.
フロイト あるいは自我心理学を通して 妙木 浩之
資料「裁判例に見る体罰」を引用した 体罰事故防止研修 埼玉県教育委員会
トピック6 臨床におけるリスクの理解と マネジメント 1 1.
子どもの性格は生まれつき? ー性格の決定因と発達ー
SWOT分析 看護師 転職例 強み (Strengths) 弱み (Weaknesses) 機会 (Opportunities)
教育と発達.
緩和ケアチームの立ち上げ (精神科医として)
HIV感染症患者のケアの中で 精神科疾患や薬物依存症以外の
南魚沼市民病院 リハビリテーション科 大西康史
力動フォーミュレーション.
図15-1 教師になる人が学ぶべき知識 子どもについての知識 教授方法についての知識 教材内容についての知識.
文脈 テクノロジに関する知識 教科内容に関する知識 教育学 的知識
ビデオレビューによる 外来教育 北海道家庭医療学センター 草場鉄周.
33事件 精神障害者の自殺 (東京高判平13・7・19) 事実概要
浜松医科大学附属病院・磐田市立総合病院 チャイルド・ライフ・スペシャリスト 山田 絵莉子
Presentation transcript:

児童治療における論争

フロイト-クライン論争(2) クラインとアンナの亀裂 1938年のフロイト家亡命という問題 論争の激化と収束 クライン学派の形成     E.Sharpらのロンドン  クラインとアンナの亀裂  1938年のフロイト家亡命という問題      論争の激化と収束     クライン学派の形成   1940年代の淑女協定までの間の感情的論争(母と娘の闘争)               →独立学派の登場

論点 Ⅰ.当初の主な論点 1)児童分析における導入期の必要性 A.フロイト(以下A)=児童は自発的な決心で治療に訪れないし、病気に対して洞察を持たず、治療への意志を持たない。患者の気分に適応して、分析者を興味ある人物と思わせて、患者にその有用性を伝え、現実的な利益を確認させる「導入期」の必要性 M.クライン(以下M)=その必要性はない。子どもの治療は原理的に大人と一緒である。 2)児童分析における家族の参加 A=情報の収集や状態を把握するために、そして教育的な面でも有用 M=家族の葛藤を巻き込むためにマイナス

3)児童の感情転移 A=児童分析では治療者は鏡というよりも、積極的に働きかけていることが多い。しかも子どもは起源的な対象関係の神経症的な関係を発展させている途上にあるのであって、まだそれは実際の両親との間で現在進行中で、古い版になっていない。そのため感情転移は起こりにくい。 M=3才までに対象関係の原型は作られているので、それ以後においてはすべて起源の神経症を大人の神経症と同様に形成している。感情転移、特に陰性の感情転移こそ治療において重要である。 4)エディプス・コンプレックス A=3-6才の間に形成される。超自我はエディプス葛藤の解決によって形成される(攻撃者との同一化) M=早期エディプスコンプレックスの形成。3才までに完成している。これ以後の子どもは処罰不安を持っている理由はそのためである

5)児童分析での教育 A=教育的要素の必要性。児童は現在も自分のモデルを取り入れ中で、治療者が教育的な視点から「自我理想」であることが重要。 M=分析と教育は違う。早期から形成されている罪悪感や対象関係を深く扱うのが精神分析である。 6)死の本能 A=死の本能よりも自我と精神装置を重視 M=死の本能を理論の根幹に据える 7)解釈 A=自我から本能へ。防衛の解釈からイド解釈へ M=超自我を緩めるための深層解釈。象徴解釈を多用する。

動かせない構造と動かせる設定 治療のなかで動かせないもの(構造)は、動かせるもの(設定)とがある。  動かせない構造と動かせる設定 治療のなかで動かせないもの(構造)は、動かせるもの(設定)とがある。 動かせないものなかには、さまざまな人間関係があるが、それはたぶんに治療者の人間関係に左右される(自然と出来てしまうものを含む)。    面接者が活用できる要素 設定 姿勢 言葉の力

治療設定

設定か構造か 小此木-北山の論争 ウィニコット(深津)を通じて、慶応における治療構造の抱える環境論の追加   ウィニコット(深津)を通じて、慶応における治療構造の抱える環境論の追加   →設定状況論(ウィニコット)との差異   北山:可変的要素は設定と呼ぶべきであるという議論

小児医学から精神分析へ 1941年「設定状況における幼児の観察」 舌圧子 医師 母親と子ども

第一段階 驚きから「ためらい」の段階 第二段階 欲望を受け入れて、口で噛む、空想する 遊べる段階 第三段階 捨てられる。放っておいても大丈夫な段階 生後5ヵ月から13ヵ月(13ヵ月過ぎると幅が広がってしまう)に典型的なやりとり。

移行対象 1951年「移行対象と移行現象」 生後4、6、8、12ヶ月に発見される 最初の所有物 1952年「精神病と子どものケア」 中間領域と移行対象の理論、そして精神病 ↓ 1. 枠組みと治療空間、間の体験 2. スクウィッグルと相互作用 3. 内と外、パラドックスの発見と理解

治療相談therapeutic consultation 精神療法面接とは異なる技法  二三回あえば治る症例に対するもので   転移と抵抗を扱うよりも   間の体験のなかでクライアントのニードに合わせた体験を提供する。 スクィグル技法 オンディマンド法 在宅などの環境の活用

 構造化という発想

 細部に宿る構造 面接の場面で考えると、 病院や場所 人間関係や性格 動かせない

心理テスト構造 テスト依頼状況とテストの習熟度 テストバッテリー (テストの種類によって構造的なものと解釈の自由度が高いものがある)  心理テスト構造 テスト依頼状況とテストの習熟度 テストバッテリー (テストの種類によって構造的なものと解釈の自由度が高いものがある) 依頼の文脈/自我や対象関係などの解読の可能性が設定によって変化していくし、治療導入の方法が変化する

治療構造化 親子治療などの治療的退行論から発展して、さまざまな状況で構造を組み立てるという発想が育ってきた。  治療構造化 親子治療などの治療的退行論から発展して、さまざまな状況で構造を組み立てるという発想が育ってきた。 治療を与えられた状況でどのように可視的なもの、構造的なものにしていくかという発想から組み立てられた議論→主に、岩崎、狩野といった小此木の弟子たちがその発想を病院や治療場面に拡張したもの

Split treatment(分担治療) Split treatment(分担治療) 親子並行治療? 投薬医―療法家 管理医―療法家         他 【二つのコミュニケーション】 治療者に知らせる 他の治療者の役割を尊重する

Main 「特別な患者」 「特別な患者」:看護者たちが職務をまっとうできないようになって治療が必要にまでなる。その背景にあるのは、特殊な患者たちとの関係であることが発見されたのである。この患者たちは同情心をかきたて、治療スタッフは万能感を呼びおこされる。スタッフとそれらの患者は密で排他的な治療関係を築き、このingroup関係に対して、outgroupのスタッフは批判的になり、スタッフのなかで分裂を生む。つまり彼らは「強烈な同情心と万能感を治療者に起こさせて、治療の客観性を失わせ、際限なく治療上の特別待遇をかちとっている患者」であり、スタッフのなかに、メインが「病いailment」と呼んだ状態を生み出す。

親子並行治療は是か非か 家族システムはIPを作る クライエントが治る→システムが変わる →別のクライエントが生まれるか、もとに戻るか(均衡)   クライエントが治る→システムが変わる   →別のクライエントが生まれるか、もとに戻るか(均衡) 治療者は誰を変えるのかという疑問が親ガイダンスや並行治療を求めてきた歴史→個人治療と家族治療

境界例の理論的な理解1 潜在精神病的理解(Bychowski) →人格障害的理解(DSM) ICD-10 (妄想性、分裂病質性、非社会性、情緒不安定性、演技性、強迫性、不安定性(回避)性、依存性、混合性、問題のある人格変化(感情障害と不安障害の二次グループ)       ↓   衝動型と境界型(borderline)

境界例の理論的な理解2 行動化と空虚さ →衝動性格との対比(小此木) →精神病との対比(海外の主流) 境界例は困ったクライアントである。  行動化と空虚さ    →衝動性格との対比(小此木)    →精神病との対比(海外の主流)  境界例は困ったクライアントである。                 (ストロロー)

境界例の理論的な理解3 それぞれの境界例論者とその臨床 Kerberg,O.→表現的精神療法 解釈と陰性感情の取り扱い         解釈と陰性感情の取り扱い Masterson→愛情供給と愛情撤去の繰り返し Adler,J →欠陥理論と抱える環境論

身体的抵抗や言語的な抵抗に反応する前に、まず治療者自身を落ち着かせる 治療者は患者に自分で行動する機会を与える。そのために待つ。 行動制限の治療者の原則 身体的抵抗や言語的な抵抗に反応する前に、まず治療者自身を落ち着かせる 治療者は患者に自分で行動する機会を与える。そのために待つ。  →治療者の確固たる態度と逆転移の防止     自発的な行動として代替行動

精神療法のなかでの行動制限の問題 行動制限を行う精神療法の問題 ある種の上下関係、転移関係が発生する。「すべき」-「できない」 家族が関与するために、本人との間の信頼関係が崩れる。現実生活の影響。 全体に治療者の立場が危うくなる。好転しないのは治療者の技量の問題である。    →逆転移 

境界例のなかでの自傷 superficial self-mutilation いくつかの臨床的な問題   事故への不安   表現行為の強さ   衝動の問題       →逆転移の問題         境界例現象       (Kernberg,O: Adler,J ら)

衝動行為の取り扱い よく分からないけど、やりたくなってしまう 意識水準の問題 衝動の問題 代替行為 ? *抑えれば良いというわけではない *そんなに豊かな世界を生きているわけではない

Split treatment(1) Knight(1983)以降の伝統 精神療法家が受身的で、中立性を守られる 患者も精神療法場面で話すことが現実生活での利害に影響を及ぼさないために内省や言語化がしやすい  →管理医と精神療法家のスプリット

Slit treatment(2) 治療の現実としての「良い対象」と「悪い対象」の分離、そして価値下げ *怒り、養育されたい願望からの防衛  *怒り、養育されたい願望からの防衛   羨望からの庇護、投影された怒りからの保護、低い自己評価の投影       → 逆転移エンアクトメント

Split treatment(3) 原則 精神療法家は治療の中での患者の言動についての秘密を厳守する   原則 精神療法家は治療の中での患者の言動についての秘密を厳守する 管理医はその役割上、精神療法家からは情報を得ないで、自分と患者の関係やその周囲から得た情報のみで判断する      →現実自我と葛藤自我の therapeutic split

Split structureの臨床的意義 内面を聞く態度の徹底→内省 超自我的にならない退行促進的な態度         →支持的な態度とcontainment 父親と母親の役割の内在化 →家族調整と実際の内在化 守秘義務を守る→内面の重視 主治医と精神療法家の信頼→良いと悪いの統合