児童治療における論争
フロイト-クライン論争(2) クラインとアンナの亀裂 1938年のフロイト家亡命という問題 論争の激化と収束 クライン学派の形成 E.Sharpらのロンドン クラインとアンナの亀裂 1938年のフロイト家亡命という問題 論争の激化と収束 クライン学派の形成 1940年代の淑女協定までの間の感情的論争(母と娘の闘争) →独立学派の登場
論点 Ⅰ.当初の主な論点 1)児童分析における導入期の必要性 A.フロイト(以下A)=児童は自発的な決心で治療に訪れないし、病気に対して洞察を持たず、治療への意志を持たない。患者の気分に適応して、分析者を興味ある人物と思わせて、患者にその有用性を伝え、現実的な利益を確認させる「導入期」の必要性 M.クライン(以下M)=その必要性はない。子どもの治療は原理的に大人と一緒である。 2)児童分析における家族の参加 A=情報の収集や状態を把握するために、そして教育的な面でも有用 M=家族の葛藤を巻き込むためにマイナス
3)児童の感情転移 A=児童分析では治療者は鏡というよりも、積極的に働きかけていることが多い。しかも子どもは起源的な対象関係の神経症的な関係を発展させている途上にあるのであって、まだそれは実際の両親との間で現在進行中で、古い版になっていない。そのため感情転移は起こりにくい。 M=3才までに対象関係の原型は作られているので、それ以後においてはすべて起源の神経症を大人の神経症と同様に形成している。感情転移、特に陰性の感情転移こそ治療において重要である。 4)エディプス・コンプレックス A=3-6才の間に形成される。超自我はエディプス葛藤の解決によって形成される(攻撃者との同一化) M=早期エディプスコンプレックスの形成。3才までに完成している。これ以後の子どもは処罰不安を持っている理由はそのためである
5)児童分析での教育 A=教育的要素の必要性。児童は現在も自分のモデルを取り入れ中で、治療者が教育的な視点から「自我理想」であることが重要。 M=分析と教育は違う。早期から形成されている罪悪感や対象関係を深く扱うのが精神分析である。 6)死の本能 A=死の本能よりも自我と精神装置を重視 M=死の本能を理論の根幹に据える 7)解釈 A=自我から本能へ。防衛の解釈からイド解釈へ M=超自我を緩めるための深層解釈。象徴解釈を多用する。
動かせない構造と動かせる設定 治療のなかで動かせないもの(構造)は、動かせるもの(設定)とがある。 動かせない構造と動かせる設定 治療のなかで動かせないもの(構造)は、動かせるもの(設定)とがある。 動かせないものなかには、さまざまな人間関係があるが、それはたぶんに治療者の人間関係に左右される(自然と出来てしまうものを含む)。 面接者が活用できる要素 設定 姿勢 言葉の力
治療設定
設定か構造か 小此木-北山の論争 ウィニコット(深津)を通じて、慶応における治療構造の抱える環境論の追加 ウィニコット(深津)を通じて、慶応における治療構造の抱える環境論の追加 →設定状況論(ウィニコット)との差異 北山:可変的要素は設定と呼ぶべきであるという議論
小児医学から精神分析へ 1941年「設定状況における幼児の観察」 舌圧子 医師 母親と子ども
第一段階 驚きから「ためらい」の段階 第二段階 欲望を受け入れて、口で噛む、空想する 遊べる段階 第三段階 捨てられる。放っておいても大丈夫な段階 生後5ヵ月から13ヵ月(13ヵ月過ぎると幅が広がってしまう)に典型的なやりとり。
移行対象 1951年「移行対象と移行現象」 生後4、6、8、12ヶ月に発見される 最初の所有物 1952年「精神病と子どものケア」 中間領域と移行対象の理論、そして精神病 ↓ 1. 枠組みと治療空間、間の体験 2. スクウィッグルと相互作用 3. 内と外、パラドックスの発見と理解
治療相談therapeutic consultation 精神療法面接とは異なる技法 二三回あえば治る症例に対するもので 転移と抵抗を扱うよりも 間の体験のなかでクライアントのニードに合わせた体験を提供する。 スクィグル技法 オンディマンド法 在宅などの環境の活用
構造化という発想
細部に宿る構造 面接の場面で考えると、 病院や場所 人間関係や性格 動かせない
心理テスト構造 テスト依頼状況とテストの習熟度 テストバッテリー (テストの種類によって構造的なものと解釈の自由度が高いものがある) 心理テスト構造 テスト依頼状況とテストの習熟度 テストバッテリー (テストの種類によって構造的なものと解釈の自由度が高いものがある) 依頼の文脈/自我や対象関係などの解読の可能性が設定によって変化していくし、治療導入の方法が変化する
治療構造化 親子治療などの治療的退行論から発展して、さまざまな状況で構造を組み立てるという発想が育ってきた。 治療構造化 親子治療などの治療的退行論から発展して、さまざまな状況で構造を組み立てるという発想が育ってきた。 治療を与えられた状況でどのように可視的なもの、構造的なものにしていくかという発想から組み立てられた議論→主に、岩崎、狩野といった小此木の弟子たちがその発想を病院や治療場面に拡張したもの
Split treatment(分担治療) Split treatment(分担治療) 親子並行治療? 投薬医―療法家 管理医―療法家 他 【二つのコミュニケーション】 治療者に知らせる 他の治療者の役割を尊重する
Main 「特別な患者」 「特別な患者」:看護者たちが職務をまっとうできないようになって治療が必要にまでなる。その背景にあるのは、特殊な患者たちとの関係であることが発見されたのである。この患者たちは同情心をかきたて、治療スタッフは万能感を呼びおこされる。スタッフとそれらの患者は密で排他的な治療関係を築き、このingroup関係に対して、outgroupのスタッフは批判的になり、スタッフのなかで分裂を生む。つまり彼らは「強烈な同情心と万能感を治療者に起こさせて、治療の客観性を失わせ、際限なく治療上の特別待遇をかちとっている患者」であり、スタッフのなかに、メインが「病いailment」と呼んだ状態を生み出す。
親子並行治療は是か非か 家族システムはIPを作る クライエントが治る→システムが変わる →別のクライエントが生まれるか、もとに戻るか(均衡) クライエントが治る→システムが変わる →別のクライエントが生まれるか、もとに戻るか(均衡) 治療者は誰を変えるのかという疑問が親ガイダンスや並行治療を求めてきた歴史→個人治療と家族治療
境界例の理論的な理解1 潜在精神病的理解(Bychowski) →人格障害的理解(DSM) ICD-10 (妄想性、分裂病質性、非社会性、情緒不安定性、演技性、強迫性、不安定性(回避)性、依存性、混合性、問題のある人格変化(感情障害と不安障害の二次グループ) ↓ 衝動型と境界型(borderline)
境界例の理論的な理解2 行動化と空虚さ →衝動性格との対比(小此木) →精神病との対比(海外の主流) 境界例は困ったクライアントである。 行動化と空虚さ →衝動性格との対比(小此木) →精神病との対比(海外の主流) 境界例は困ったクライアントである。 (ストロロー)
境界例の理論的な理解3 それぞれの境界例論者とその臨床 Kerberg,O.→表現的精神療法 解釈と陰性感情の取り扱い 解釈と陰性感情の取り扱い Masterson→愛情供給と愛情撤去の繰り返し Adler,J →欠陥理論と抱える環境論
身体的抵抗や言語的な抵抗に反応する前に、まず治療者自身を落ち着かせる 治療者は患者に自分で行動する機会を与える。そのために待つ。 行動制限の治療者の原則 身体的抵抗や言語的な抵抗に反応する前に、まず治療者自身を落ち着かせる 治療者は患者に自分で行動する機会を与える。そのために待つ。 →治療者の確固たる態度と逆転移の防止 自発的な行動として代替行動
精神療法のなかでの行動制限の問題 行動制限を行う精神療法の問題 ある種の上下関係、転移関係が発生する。「すべき」-「できない」 家族が関与するために、本人との間の信頼関係が崩れる。現実生活の影響。 全体に治療者の立場が危うくなる。好転しないのは治療者の技量の問題である。 →逆転移
境界例のなかでの自傷 superficial self-mutilation いくつかの臨床的な問題 事故への不安 表現行為の強さ 衝動の問題 →逆転移の問題 境界例現象 (Kernberg,O: Adler,J ら)
衝動行為の取り扱い よく分からないけど、やりたくなってしまう 意識水準の問題 衝動の問題 代替行為 ? *抑えれば良いというわけではない *そんなに豊かな世界を生きているわけではない
Split treatment(1) Knight(1983)以降の伝統 精神療法家が受身的で、中立性を守られる 患者も精神療法場面で話すことが現実生活での利害に影響を及ぼさないために内省や言語化がしやすい →管理医と精神療法家のスプリット
Slit treatment(2) 治療の現実としての「良い対象」と「悪い対象」の分離、そして価値下げ *怒り、養育されたい願望からの防衛 *怒り、養育されたい願望からの防衛 羨望からの庇護、投影された怒りからの保護、低い自己評価の投影 → 逆転移エンアクトメント
Split treatment(3) 原則 精神療法家は治療の中での患者の言動についての秘密を厳守する 原則 精神療法家は治療の中での患者の言動についての秘密を厳守する 管理医はその役割上、精神療法家からは情報を得ないで、自分と患者の関係やその周囲から得た情報のみで判断する →現実自我と葛藤自我の therapeutic split
Split structureの臨床的意義 内面を聞く態度の徹底→内省 超自我的にならない退行促進的な態度 →支持的な態度とcontainment 父親と母親の役割の内在化 →家族調整と実際の内在化 守秘義務を守る→内面の重視 主治医と精神療法家の信頼→良いと悪いの統合