米国GAISEプロジェクトにおける 統計教育カリキュラムと評価方法

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5 章 標本と統計量の分布 湯浅 直弘. 5-1 母集団と標本 ■ 母集合 今までは確率的なこと これからは,確率や割合がわかっていないとき に, 推定することが目標. 個体:実験や観測を行う 1 つの対象 母集団:個体全部の集合  ・有限な場合:有限母集合 → 1つの箱に入っているねじ.  ・無限な場合:無限母集合.
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米国GAISEプロジェクトにおける 統計教育カリキュラムと評価方法 宮崎大学教育文化学部 藤井良宜

概要 背景 米国の状況 GAISEプロジェクト PreK-12の内容 日本における統計教育の方向性 今後の課題

背景 現在の日本の統計教育 世界的な統計教育の動き 統計的内容の削減 「総合的な学習の時間」の内容 学習指導要領の改訂 統計教育への関心の高まり 概念的な理解の強調 リテラシーから統計的な考え方へ

米国の教育の背景 理数教育への危機感 1957年 スプートニックショック 1983年 危機に立つ国家 1985年 プロジェクト2061 1957年 スプートニックショック 1983年 危機に立つ国家 米国の子供たちの数学や理科の学力が世界的に劣っていることを正式に認める 1985年 プロジェクト2061 米国科学振興協会のプロジェクト 1991年には「すべてのアメリカ人のための科学」を発行 科学的リテラシーとはなにか,を議論 1991年 2000年のアメリカ 「数学と理科の成績を2000年までに世界一にする」ことを目標とする 1992年 Cobb レポート 米国数学解のカリキュラム改善委員会内のプロジェクト

Cobbレポート 統計教育の改善の方向として,3つの推奨事項を提示 統計的思考力を強調すること データや概念を強調し,理論的な部分を中心に全体の内容を減らす 活動的な学習を推進すること

米国統計学会の動き 1998年8月 米国統計学会の会長挨拶でCobbレポートを引用 統計教育の指針をWeb上で提示 1998年8月 米国統計学会の会長挨拶でCobbレポートを引用 統計教育の指針をWeb上で提示 2003年 GAISE( the Guidelines for Assessment and Instruction in Statistical Education)プロジェクト発足 2005年 GAISEプロジェクトの報告書を公表

GAISE プロジェクト 2つのグループの分かれて議論 preK-12 グループ college グループ 高校生以下の教育を考える 大学における統計入門コースを考える 3つの目標と6つの推奨事項 今回は,preK-12グループの 報告書を中心に解説する college グループに関しては, 2006年の連合大会の企画セッションで メンバーの1人であるUtts先生に来ていただき, その概要を説明していただきました。

GAISE preK-12 report 2次元の枠組み レベルに分類 内容による分類 レベルA 小学校5年程度まで レベルA  小学校5年程度まで レベルB  小学校6年から中学校2年頃まで レベルC  中学校3年から高校3年ころまで 内容による分類 問題解決のプロセス 問題の定式化 データの収集 データの解析 データの解釈 変動の本質 焦点を当てる変動

レベルによる違い(1) 教師の役割と児童生徒の活動 レベルA 児童・生徒の体験を重視,教師主導 レベルB 児童・生徒の自主的な活動を重視,教師は支援する レベルC 児童・生徒が問題解決のプロセスを自主的に体験する

レベルによる違い(2) 生徒が行う調査 レベルA レベルB レベルC 教室内の調査(全数調査としてみる) 標本調査を体験する(母集団を意識し始める) 必ずしも無作為抽出である必要はない レベルC 無作為抽出を使った標本調査を実施する

レベルBでの問題解決プロセス 統計的に解決すべき問題の特徴を認識する 問題の定式化 標本調査や比較実験を体験する データの収集 バラツキの数量化や分布の比較,相関傾向 母集団への一般化,Association と因果関係の違いの認識 問題の定式化 データの収集 データの解析 結果の解釈

2次元の枠組 参考 preK-2 & 3-5 6-8 9-12 NCTMスタンダード 生徒の経験によってどのレベルの教育を行うのかを考えて行く。

テクニックではなく基本的な概念を レベルB(相関の指導について) 相関係数をどうするのか? 回帰直線をどう指導するのか? 積率相関係数ではなく, 別の指標を導入すること を提案 QCR(四分度数比) 最適な直線を引くことを目指さず, ある程度関連を表現する直線を 導入する 中学生を対象とすると,数学的な基礎が整っていない 問題点 導入した手法が,必ずしも世の中で使われているとは限らない

QCR(四分度数比) レベルBで取り扱う 4 1 Yの平均 基本的には,相関係数と同じような性質を持つ 2 5 -1以上1以下の値をとる  -1以上1以下の値をとる  平均からの距離の変わりに個数を使う xの平均 相関係数については,レベルCで取り扱う

直線の取り扱い xの中央値で2つのグループに分けて,グループごとにxとyの平均を計算する x,y座標が平均値となる点をプロットする × x,y座標が平均値となる点をプロットする × 2つの点を結ぶ直線を引く xの中央値 直線とデータのずれを評価する もちろん,この直線は回帰直線ではなく最適なものではない。 しかし,関係を見るために直線を引いてみること,直線とデータのずれを評価できる点が重要である。 回帰直線は,レベルCで取り扱う

日本の統計教育 現在の学習指導要領では,あまり統計的内容は入っていない 統計教育への期待は大きい 学習指導要領の改訂で,統計的な内容が入ってくるのでは? どんな内容を取り入れて行けばよいのか?

GAISEレポートから 考えられること 単なるテクニックではなく,基本的な概念の理解を図る 体験を重視する(実際に問題解決のプロセスを体験する) ばらつきや分布の概念が重要

今後の課題 具体的な内容の検討 教師教育への協力 概念的には理解できるが,実際に実施した場合に,どのような内容を行えばよいのか モデルプラン等が必要 教師教育への協力 教員自身が統計解析の経験が少ない 教師の教育が不可欠