行動分析学特論 5 「学生ジョブコーチ」という行動分析学に基づく実践の例:
学生ジョブコーチの実践と課題 Ⅰ.「支援」(対人援助)という概念: 「援助」・「援護」・「教授」の考え方 Ⅰ.「支援」(対人援助)という概念: 「援助」・「援護」・「教授」の考え方 Ⅱ.「応用行動分析」(ABA)を用いる理由 Ⅲ.事例集: 課題分析と機能分析 Ⅳ.就労者に対する援助のありかた
Ⅰ.援助・援護・教授 「対人援助」あるいは「支援」とよばれる実践活動には、3つの機能が含まれる。 (行動分析学的「対人援助学」)
行動分析学的の一般目標 正の強化で維持される行動の選択肢の拡大 徹底的に正の強化で維持しながら、障害のある個人の職業行動を成立させ維持していくには? これは一般的な職業人にも共通する要件であろう
3 2 1 Jobの指導・学習 治療・教授 援護 援助 ジョブの獲得、職場への定着のための対人援助 Instruction advocate 進歩するとは? advocate Assist 1 援助定着のための要請 今、job行動を成立させる環境設定
援助、援護、教授を想定する意義 *当事者に過大な努力を求めたり(教授のみ) *機会のみ与えて放任してないか(援助のみ) *燃え尽きてないか (援護としての伝達や要請をせずにいないか) 自分の仕事は、「連環的発展」の中で、 進歩しているのか? 後退させてないか?
Ⅱ.応用行動分析を用いる理由 「援助」「援護」「教授」に関わって・・・ 1)「教授」の記述:どう教えたら、ある行動の獲得ができるのか? 1)「教授」の記述:どう教えたら、ある行動の獲得ができるのか? 2)「援助」の記述:「なにがあれば」ある行動ができるのか? 3)「援護」の方法:他者に、1)2)を「確実」に 情報移行できるか? 1)2)3)の要件をみたすこと:そのまんま 「包括支援プラン」の必要事項
A B C 応用行動分析による行動の定義の意味 先行事象 反応(行動) 後続事象 「援助」は、AとCで表現可能 だから、「応用行動分析」という記述方法が包括支援プランにおいて採用される
学生ジョブコーチの意義 1)学生に狭義の臨床(あるいは教授方法としての応用行動分析(ABA))ではなく、徹底的行動主義にもとづく「対人援助学」の教育をする 2)過不足ない支援(援助・援護・教授のバランス)の方法を学ぶ 3)実際の就労現場あるいは就労実習現場での 新しい「援助設定」として大学(学生)を位置づける
Ⅲ.学生ジョブコーチの事例 1)実習ノートの形態を変化する 2)「幕張メモリーノート」の使用 3)「課題分析表」の自己チェック 課題分析→機能分析
1)実習ノートの改変による表記変化について(高等部Aさん) 期間 2005年10月31日から11月11日(平日のみ9日間) 場所 立命館大学内 書籍購買部 今回の職場体験実習の目的 記録行動に及ぼす項目シールの効果を検討し、相澤さんの実習支援を行う。 実習ノートの記入項目を業務に関して具体的に記録ができるように改訂。 予備実験の位置づけ 与えられた仕事に関する記述を行うことによって、業務遂行に関するセルフマネジメントが可能かどうかを検討するために、記述行動に関しての操作が可能かどうかを確認する。 目的:実習ノート項目を変えることにより、生徒自身が自らの行動をモニターし、記録し、評価すること。 期間:2005年10月31日から11月11日(平日のみ9日間) 対象生徒:養護学校高等部1年生女子、知的障害 独立変数:記入項目シール 従属変数:記入内容と記入量 強化子:生徒が好きなキャラクターのシール ABデザイン
変数 介入の方法(独立変数1) 記入量に従って、提供するもの(独立変数2) ジョブコーチがチェックする対象(従属変数) 記入項目シール 相澤さんが好きなキャラクターのシール ジョブコーチがチェックする対象(従属変数) 記入内容と記入量(文章の数)
書籍実習で使用した シール付き実習ノート
記入項目シールを使用した結果 ○ 記入内容のうち、具体的な業務行動を明示しているものについてのみ強化を与えるとか。 言行一致について 体験実習ノートに記入した内容について、実際に行動として業務遂行に反映されていたかについて、うまく評価をとれなかった。パフォーマンスとの相関が不明瞭 実習先の職員さんにお願いしたが、すべて「○」としてくれて、注意や指導は口頭で随時おこなっていたので、変化などをおうことはできなかった。 生徒自身が毎回記入した項目が、実際にできたかどうかなどの評価を細かくしていなかったので、生徒の自己記録に対する自己評価が確実に取れていなかった。 →生徒が書いたことについて、生徒が実習後にひとつづつ評価するような記録ノートの体裁にするのがよかった。 今日の目標 ○/× 入力を間違えないようにする ○
2)幕張メモリーノート(+マニュアル) 図1.案内行動の達成率の推移 図1.案内行動の達成率の推移
3)自己チェックの効果 1)課題分析表中心の外的評価 問題点の発見 ↓ 2)機能分析による自己管理型の課題挿入
課題分析表:「花の家」脱衣所清掃の例
ここで問題が生じた! A君は、いちいち職員やジョブコーチに、作業を確認して時間をくってしまう。 そのくせ、細かい仕上げができない。 ●課題分析表のみなおし 1)もっと細かい「課題」に別けて行う? 2)機能を考える?
2つの行動の「機能」を考える 仕事を急いで「形どおり」して 指導者の指示を仰ぐ B ↓ ・「よくできた」あるいは「ダメ」 C(指導者評価) さ、急いで仕事 A 仕事を急いで「形どおり」して 指導者の指示を仰ぐ B ↓ ・「よくできた」あるいは「ダメ」 C(指導者評価) 急いで次の仕事を 急いで同じ仕事を OKなら NOなら
機能分析の結果 「自分で自分の仕事の完成度を評価する」 この行動の成立のための、援助設定と教授
自己チェック表という援助
他者への確認行動の減少 B君の報告・確認行動は、図1のチェックリストが無いときは平均18回であったが、B条件でチェックリストに自分で記入するようになったら平均4回に減少した。
作業達成の変化 B条件「チェック表有」 A条件「チェック表なし」 A条件 ○ B条件ではA条件と比較してB君の課題達成率が上昇した。これはB君自身 が確認することを促す作業チェック表を用いることで、作業の完成度が高くなった ためであると考えられる。
Ⅳ.学校の外からみた個別包括支援 学生(大学セクター)の固有な役割 ①SJCが残す個別の生徒における実習 作業中の詳細な行動記録(必要な援助設定・教授過程を含む)を行える (高津・望月,2006参照) ②課題分析のみでなく機能分析を行える ③就学中の個別の包括支援プランの修正に関与する (太田ら,2006;飯田ら,2006参照)
獲得過程の記録例:表記(作業効率)
SJCからみた生徒の行動変化 他者依存・他者評価から、自己評価、あるいは自己管理(Self-Management)へ ・ 能力を超えて、一般従業員への支援の枠組みと変わるところはない。(キャリア・アップ) さまざまなセクター(複数の教員、親、企業、支援者)が、今、この生徒に必要な援助・教授・援護の内容を知ることのできる「情報プラットフォーム」
Ⅳ.就労者に対する援助のあり方 1)障害者の雇用は、企業にどんなメリットを生むか? 2)それを促進するようなジョブコーチのありようとはどんなものか? 3)障害者の雇用を可能にする支援体制のうち、 一般従業員にも適用できる要素とは?