第Ⅱ部 協力ゲームの理論 第14章 交渉集合.

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第Ⅱ部 協力ゲームの理論 第14章 交渉集合

内容 交渉集合 提携構造と利得構成 異議と逆異議 カーネル 仁

提携構造-交渉集合- プレイヤーの集合 のとき 成立する可能性のある提携構造は 今までの章では全体提携の成立を前提で考えたが, 本章では様々な提携構造における利得配分を考える

個人合理的利得構成-交渉集合-

異議と逆異議(例) -交渉集合- 例1 で,すべての提携は許容提携とする この3人ゲームの個人合理的利得構成は以下のように書ける ただし

異議-交渉集合- 提携構造 が成立している場合 プレイヤー1がv(12)=60を均等に分ける個人合理的利得構成 しかし, プレイヤー2は均等という分け方ならばプレイヤー3と提携して 『提携{1,2}で事業をするならもっと自分の取り分を増やしてくれ!』 異議

異議(定義) -交渉集合- ある個人合理的利得構成 における 2人のプレイヤー を考えたとき, 次の条件を満たす個人合理的利得構成 をkのhに対する異議という

逆異議-交渉集合- プレイヤー2の異議を否定 逆異議 プレイヤー1はプレイヤー2の異議を認め, 新しい個人合理的利得構成を提案 しかしプレイヤー2はさらに次のような異議を提出 ここでプレイヤー1が反撃 プレイヤー2の異議を否定 逆異議

逆異議(定義) -交渉集合- ある個人合理的利得構成 における kのhへの異議 に対して, 次の条件を満たす個人合理的利得構成 ただし

M安定-交渉集合- という利得構成 は,提携構造 のもとで得られる安定な利得構成であると考えられる この意味での安定性をM安定と呼ぶ プレイヤー2のいかなる異議にもプレイヤー1は逆異議で対抗できる プレイヤー1の異議に対してもプレイヤー2は逆異議で対抗できる は,提携構造 のもとで得られる安定な利得構成であると考えられる この意味での安定性をM安定と呼ぶ 同様にして,提携構造 の場合

M安定-交渉集合- 一般に3人ゲームにおいて次のように定義された値を 割当値と呼ぶ そのときのM安定な 個人合理的利得構成は

M安定-交渉集合- 提携構造 のとき ①まず3人の中の2人が交渉する(プレイヤー1,3) プレイヤー1 異議あり! プレイヤー3 プレイヤー1はプレイヤー3に対抗するためには 妥協案 M安定 異議 逆異議 プレイヤー3 (0,39,41 : 23, 1) プレイヤー1 (20, 40, 0 : 12, 3)

M安定-交渉集合- 提携構造 のとき ②次にプレイヤー1と2が交渉する 先ほどの案 M安定 異議 逆異議 プレイヤー2 (0,31,49 : 23, 1) プレイヤー1 (20, 0, 50 : 13, 2) ③プレイヤー2と3が交渉する 先ほどの案 M安定 3人提携においてどの2人の組をとっても, M安定な個人合理的利得構成に達し, それが交渉の帰結として受け入れられる

交渉集合-交渉集合- ある個人合理的利得構成が,どの2人のプレイヤーをとっても, 異議が存在しないか,存在したとしても,それに対抗する逆異議が 存在するとき,その個人合理的利得構成をM安定であるといい, M安定な利得構成の集合を交渉集合という (注) 利得間の大小関係より 交渉集合が一意に 定まるわけではない (今回の例は一意)

最大超過要求-カーネル- 交渉において異議を述べるのは, 異議 異議後の提携v(23)の提携値80と 異議前のプレイヤー2と3が得られる値の合計30との差50 異議によってこの差(超過分)を得ることが可能であることを示すということ

最大超過要求-カーネル-

最大超過要求-カーネル- 例2 プレイヤー1の提案 この案に対するプレイヤー3の要求 したがってプレイヤー3のプレイヤー1に対する最大要求は 同様にしてプレイヤー1のプレイヤー3に対する最大要求は

プレイヤー間の不満-カーネル- に対するプレイヤー1の3に対する最大要求と プレイヤー1の3に対する最大要求を比較すると      に対するプレイヤー1の3に対する最大要求と プレイヤー1の3に対する最大要求を比較すると このときプレイヤー3はプレイヤー1に不満をもつはず

請求関数-カーネル- プレイヤー3はプレイヤー1に対して,利得の譲渡を求める. 最大要求の差の一部を要求するとすると,次のような関数が考えられる. このような関数を請求関数とよぶ.

請求関数-カーネル-

プレイヤー間の均衡-カーネル- 任意の2人のプレイヤーの間の最大要求はすべてバランスしているので 全体として合意に到達すると考えることができる 2人のプレイヤーkとhは,互いに自分の最大要求を提示しあって, それを比較して,その最大要求が互いに等しくなっていれば, 2人のプレイヤーはともに納得するものと考えられる. この均衡の論理は,異議申し立ての論理とは矛盾せずに, それをさらに強化したものである

カーネル 例1のゲームは各提携構造について 一意に定まるからカーネルKは 交渉集合Mに等しい 例2のゲームでのカーネルは

カーネル カーネル(仁) 交渉集合では,提携構造 の場合には, ただ1つの利得構成に定まらなかったが,最大要求のバランスを 交渉集合では,提携構造           の場合には, ただ1つの利得構成に定まらなかったが,最大要求のバランスを 考えることによってただ1つの利得構成に到達した 最小コア カーネル(仁)

仁 カーネルは任意の2人のプレイヤーの間の最大要求を バランスさせることにより求められる解 最大要求をバランスさせても,まだ,ただ1つの個人合理的利得構成に 到達しないときは,次に大きい要求をバランスさせ,それでもまだ1つの 利得構成に到達しないときは,次の要求をバランスさせるといった 考え方によって,ただ1つの個人合理的利得構成に到達するまで, 進めていた解として仁が得られる 11章で仁においては,全体提携が成立しているという前提で, 最小コアの極限として考えたが,本来,仁は,交渉集合におよび カーネルの極限として,それぞれの提携構造のもとにおける 個人合理的利得構成として考えられた概念である

仁の定義