ASAのGAISEプロジェクトによる統計教育ガイドラインの内容 宮崎大学 藤井良宜 2006年5月13日 統計教育委員会
本文の内容 Executive Summary Introduction 概要 Introduction 導入 Goals for students in an Introductory Course: What it Means to be Statistically Educated 入門コースでの生徒の到達目標:統計的に教育されていることは何を意味しているのか? Recommendations 推奨事項
GAISE プロジェクトとは Guidelines of Assessment and Instruction in Statistics Education ASA が設立した 2つのグループ K-12 の教育 大学の入門コース
報告書の内容 大学の統計入門コースの簡単な歴史 1992年に出されたCobb レポートの概要 基本的には,このレポートでの推奨事項を受け入れる 入門コースの教育に関するサーベイの結果をまとめた。 統計的リテラシーを考慮して,生徒の到達目標のリストを提示する Cobbの推奨事項を考慮して,6項目の推奨事項を提示した。 推奨事項に関する詳細を示すために,付録として授業を変える方法やさまざまな例をつけた。
6つの推奨事項 Emphasize statistical literacy and develop statistical thinking Use real data Stress conceptual understanding rather than mere knowledge of procedure Foster active learning in the classroom Use technology for developing conceptual understanding and analyzing data Use assessments to improve and evaluate student learning
6つの推奨事項 統計的リテラシーを強調して,統計的思考力を育成する 実データを利用する 統計的手法に関する単なる知識ではなく,概念的な理解を強調する 授業の中で,活動的な学習を推進する 概念的な理解の育成やデータの解析において,情報機器を活用する 学生の学習方法を改善したり,それを適切に査定するよう評価方法を用いる
背景 研究者のための統計から市民としての統計へ R. A. フィッシャー 1923年 「研究者のための統計的方法」 G. W. スネデッカー 「研究者のための統計的方法」 G. W. スネデッカー 「統計的方法」 1937年or 1940年 将来研究者を目指す人たちが熱心に勉強していた。 David Freedman et. al 1978 Statistics David Moore Statistics: Concept and Controversies EDA
The 1992 Cobb Report 1991年春 e-mail Focus Group on Statistics Education 米国数学会のカリキュラムアクションプロジェクト 1992年に報告書 3つの推奨事項 Emphasize Statistical Thinking More Data and Concepts, Less Theory and Fewer Recipes Foster active learning
統計入門コースにおける 学生の到達目標 統計を利用する人を目指すのか,統計を作り出す人を目指すのか 統計的に教育を受けた学生とは, Wise consumers of Data 統計を利用する人を目指すのか,統計を作り出す人を目指すのか この2つをミックスしたものとなるだろう 統計的に教育を受けた学生とは, 統計的なリテラシーを持つ 統計的な考え方ができる Producers of Statistical Analyses 具体的には
Student should believe and understand why データはanecdote(逸話や奇談)を打ち負かす バラツキがあることは自然なことであり,バラツキは予想したり,数量化することが出来る 無作為抽出によって,調査や実験の結果をその標本が選ばれた集団に拡張できる。 無作為割付によって,比較試験で,因果関係や効果をもたらすことができる。
Student should believe and understand why 連関は,必ずしも因果関係を意味するわけではない。 統計的に有意な結果が実用的な意味での重要性を意味するとは限らない。特に,標本サイズが大きい研究において。 統計的に有意でない結果が,母集団での関係や違いがないことを示すわけではない。特に標本サイズの小さい研究において
Student should recognize 調査や実験でよく生じるバイアスの原因 統計的推測の結果を拡張できる母集団は,データをどのように集めたかによって決まる。 どのような場合に,連関から因果関係や効果の推測へと導けるか,ということはデータをどのように集めたかによって決まる。 Normal, random, correlationなどの言葉は,統計では日常とは異なる意味で用いられる。
統計が問題の答えを出すプロセス データをどのように得るのか,あるいは作るのか understand 統計が問題の答えを出すプロセス データをどのように得るのか,あるいは作るのか データを解析する最初のステップとして,どのようにグラフ化するのか。 どんなときに興味ある質問に対する十分な答えが得られるのかを知る。
統計が問題の答えを出すプロセス データの数値的な概要やグラフ表現をどのように解釈するのか。 統計的推測をどのように適切に用いるのか understand 統計が問題の答えを出すプロセス データの数値的な概要やグラフ表現をどのように解釈するのか。 統計的手法を適切に用いるための条件をチェックすることも含む 統計的推測をどのように適切に用いるのか 統計解析の結果について,どのように話し合うのか
統計的推測の基本的なアイデア 標本分布の概念や標本データに基づいて統計的推測をする際に,それをどのように用いるのか understand 統計的推測の基本的なアイデア 標本分布の概念や標本データに基づいて統計的推測をする際に,それをどのように用いるのか 有意水準やp値といったものも含めた統計的有意の概念 信頼水準や誤差のmarginも含めた信頼区間の概念
Finally, student should know 状況にあわせて,統計的な結果を解釈する方法 統計的な情報を含んだニュースや論文を批評すること 表現の誤りや研究の流れの誤り,情報を生成するために用いた方法の誤りを特定することも含む。 どんなときに,統計家に助けを求めるべきか
6つの推奨事項 Emphasize statistical literacy and develop statistical thinking Use real data Stress conceptual understanding rather than mere knowledge of procedure Foster active learning in the classroom Use technology for developing conceptual understanding and analyzing data Use assessments to improve and evaluate student learning
1.統計的リテラシーを強調して, 統計的な考え方を育成せよ。 統計の基本的な用語やアイデアを理解すること 統計的な考え方 統計家が,統計的な問題に取り組んだり,解決する際に用いる考え方のタイプ データの必要性の理解 データを作り上げることの重要性 ばらつきの原因がいろいろあること バラツキは数量化したり,説明することが出来ること など
教師への提案(1) 学生の統計的な思考力をモデル化する。 情報機器を活用し,データの管理,探索的な分析,推測,推測を行ううえでの条件のチェックなどに,情報機器を有効に活用する方法を示そう。 統計的思考力を育成できる,あるいは,統計的思考力を活用するような課題を与えよう。オープンエンドな課題やプロジェクト活動を取り入れよう。
教師への提案(2) 学生に,どんな手法を使えばよいのかを説明し,単にそれを身に付けさせるのではなく,適切な問題や手法を選択するような活動をさせよう。 統計的な思考力を評価し,フィードバックしよう。
2.実際のデータを利用せよ。 学生が興味を持つデータを用いることが,データや統計的な概念について考えることに熱中させる良い方法である。 データの種類 アーカイブされたデータ 授業の中に,作り上げるデータ シミュレーションデータ
教師への提案(1) 教科書だけでなく,データをまとめたWebサイトや論文,調査や投票に関するWebサイトから実際のデータを探し,利用しよう。 課題に対して,状況に合ったデータを利用し,新しい課題を見つけよう。
教師への提案(2) データを利用して解決する課題は,学生にとって興味のある課題にしよう。課題に対して興味を持たなければ,入門コースの授業ではよいデータとはいえない。 統計的な質問をもたらすようなデータを授業の中で集め,利用しよう。また,質問紙を作り,データを集める前に,そのデータを利用する計画を立てよう。 学生から集めるデータについては,学生が気まずい思いを抱くような情報を含まないものとし,学生のプライバシーを保つことが重要である。
教師への提案(3) 大規模なデータを入力することで時間を浪費せず,入力は小規模なデータや大規模なデータの一部を。大規模なデータについては,すでに入力してあるものを利用できるようにしよう。 コース内の異なった部分で変量を利用するだけでなく,同じデータに対する情報を蓄積させよう
3.単なる手法の知識ではなく, 概念的な理解を強調せよ。 多くの入門コースでは,多くのことを教えすぎている。 学生は,表面的な理解にとどまり,知識は蓄積されず,すぐに忘れてしまう。 もっと,概念を強調すべきである。
教師への提案 手法をカバーすることを目的とせず,概念を育成することを主要な目的としよう。 主要な概念に対する生徒の理解に焦点を当て,多くの手法をカバーするのではなく,少ない手法で例示しよう。 主要な概念を深く理解することに焦点を当て,入門コースの内容を減らそう。 Appendixにシラバスの例が提示されている
計算は,情報機器を利用すればよい。 キーとなるアイデアを示す表現を重視し,計算のためだけの公式は避けよう。
4.教室において, 活動的な学習を推進せよ。 活動的な学習のタイプ グループあるいは個人での問題解決,活動,議論など 実験的な活動(物理的実験やシミュレーション実験) 学生からその場で集めたデータに基づくデモンストレーション
教師に対する提案(1) 活動は,現実的な問題に基づくものとしよう。そのため,データは問題に対する答えを得るために集めるもので,データ収集のためだけのデータの収集はやめよう。 講義は,活動や議論,実験などとうまく調和させよう。 物理的な調査(さいころ投げやカードのシャッフル)では,コンピュータシミュレーションを優先しよう。
教師に対する提案(2) 生徒からデータを集めよう。(匿名で) データを解析する前の活動のひとつとして,データを集める研究の結果を予測することを勧めよう。これが統計的方法の必要性のモチベーションとなるだろう。 手法のリストを用いて,一つ一つ進めていく活動ではなく,データや問題について議論し,考えるような活動をしよう。
教師に対する提案(3) あらかじめ計画を立て,課題を説明するための時間が十分あるか,確認しよう。 学生が行ったことや学習したことをフィードバックする機会を多く与えよう。 活動の重要な要素として,評価を含めよう。
5.概念の育成やデータの解析 に,情報機器を活用せよ。 <有効な情報機器> グラフ計算機 統計パッケージ 教育用ソフトウエア アプレット 表計算ソフト Webによるデータソースやオンラインの文書,データ解析ルーチン 教室での電子回答システム
情報機器の活用方法に関する 教師に対する提案 大きな実データを利用できる 自動的に計算できる 統計的なグラフを作成したり,修正したりすることができる 抽象的な概念を例示するためのシミュレーションを行うことができる 「もし,~ならばどうなるか」というタイプの問題を調べることができる レポートを作成することができる
情報機器を選ぶ際に考えること データの入力が容易で,さまざまな形式のデータを用いることができる インタラクティブな操作が可能である。 データとグラフ,数値解析の間に有機的なリンクがあること 対象者にとって使いやすいこと 学生にとって利用可能であること
6.生徒の学習活動の改善や 適切な評価ができる評価方法 を活用せよ。 評価方法のタイプ 宿題 クイズやテスト プロジェクト 活動 口頭発表 レポート Minute paper
教師に対する提案 コースの重要な要素として,評価を位置づけよう。 学生が学習したことをより完全に評価するには,さまざまな評価方法を用いる必要がある。 メディアの中のニュースやグラフを解釈したり,批評するような評価方法を用いることで統計的なリテラシーを調べることになる 生徒が行ったプロジェクトやオープンエンドな調査作業を評価することで,統計的思考力を調べることになる。
大きなクラスでの評価について 個別のプロジェクトの代わりに,小さなグループでのプロジェクトを用いる 評価を行う前に,フィードバックのためにピアレビューを行い,プロジェクトを改善させる。 グラフのよい解釈を選んだり,適切な統計手法の選択に焦点を当てた項目を利用する。 学生のプレゼンテーションに対して,ディスカッションの場を利用する。
Appendix の内容 プロジェクトや活動の例 評価項目の例 テクノロジーの使用の例 実データの例 コースシラバスの例
クラス活動として持つべき特徴 活動は,実生活での状況に似たものにすべきである 活動の中の何らかの決定は,そのクラスで行うべきである。 クラスで決定することは,学んだ知識を要求するものであること 可能であれば,デザイン,データ収集,解析を含むこと チームで議論した方が良いものとクラス全体で議論した方が良いものがある。 活動は,何をなぜ行うのか,ということをはっきり認識して行うべきである。 活動は楽しくあるべきである。
プロジェクトや活動の例 改善できる活動 活動やプロジェクトの例 Pepsi vs. Coke Activity 中心極限定理の活動 データ収集と解析 関係を調べる質問を作成するチーム活動 2つの条件の下でのManual Dexiterity の比較