高慣性比二慣性系の外乱抑制問題に対する 慣性比 の解析解に基づく 補償器の構成 平成30年度 修士論文発表会 高慣性比二慣性系の外乱抑制問題に対する 慣性比 の解析解に基づく 補償器の構成 Construction of controller based on analytical solution for infinite inertia ratio in disturbance suppression problem of two-inertia system with high inertia ratio 長岡技術科学大学大学院 工学研究科 機械創造工学専攻 No 15301690 岩本 慎太郎 指導教員 小林 泰秀 准教授
外乱抑制性能の最適化 研究背景 ・PID補償器 ・ノッチフィルタ 慣性 大 汎用サーボモータ 産業用機械の駆動装置 軽量化・高速化 研究目的 慣性 小 剛性 低 モータ 負荷 継ぎ手 外乱抑制性能 汎用サーボモータは産業用機械の駆動装置として広く用いられています. 近年,産業用機械の軽量化・高速化が進み低剛性・高慣性比の二慣性ねじり振動系の制御が求められています. しかし,サーボモータで広く使われているノッチフィルタやPID補償器では十分な外乱抑制制御性能が得られるとは限りません. 本研究では外乱抑制制御性能の最適化を目標としています. 研究目的 外乱抑制性能の最適化
従来研究との関連 従動側 駆動側 影響 補償器 観測 指示 補償器への入力を追加 ・提案手法 物理定数に依存し一意に構成可能 物理定数に依存し一意に構成可能 ノルムの意味で最適 ・極配置法 [先行研究8 16 18] 外乱抑制性能との関連が明らかでない ユーザーによる試行錯誤 試行錯誤なしに外乱抑制性能が最適となる 設計の計算コストが高い ・ 制御系設計 従来研究との関連について説明いたします。二慣性系の速度制御では,おもに駆動側モータの速度を観測し,補償器からTmを指示して制御します. いっぽうで,従動側には外乱が入力され,従動側の角速度へ影響を与えます.これを抑えるのが外乱抑制制御です.本研究の特徴としまして,このように従動側角速度を観測し,補償器へ入力できるとすることでよりよい性能をめざします。 このような問題設定の研究の多くは,極配置法とよばれる,制御系の極を任意に配置する方法がとられます.しかし外乱抑制性能とパラメータの関連が明らかではなく,ユーザーの試行錯誤が調整にのこってしまいます. 一方でH∞制御系設計等のロバスト制御を行えば,設計時の計算コストが高い反面,試行錯誤なしに一意に外乱抑制性能が最適な補償器が構成できます.しかし,制御対象が変わるたびに再構成が必要となり,設計アルゴリズムの実装は難しい課題があります. 本研究で提案する構成法は,物理定数に依存して一意に構成可能で,H∞ノルムの意味で最適な外乱抑制性能が得られます.
問題設定 制御対象: 制御の目的: を一定に保つ と を利用し 閉ループ系: 補償器: 簡単のため:定数ゲイン の設計問題 本研究の問題設定を説明します。 制御対象は低剛性・高慣性比の二慣性系です。 右側が駆動側でサーボモータが搭載され、左側が従動側で外乱トルクの影響を受けるものとします。 このとき、従動側角速度と駆動側角速度の情報を利用して,従動側角速度を一定に保つことが制御の目的です。 この二慣性系を制御対象Pハットとして補償器Kを用いて閉ループ系をこのように表します. Kはこのようになっています。簡単のため,K1とk2はそれぞれ定数ゲインとします. 本研究ではこのあと,補償器Kに対してこのような設計問題を扱います. 装置の物理定数は既知として,閉ループ系を安定化し,H∞ノルム ガンマ を最小化する問題です. の設計問題 装置の物理定数は既知として 閉ループ系を安定化 ( ノルム)を最小化
問題設定(制御対象の正規化) 制御対象を変更: ・入力を から に変更 制御対象の対応 ・共振角周波数 ・ (慣性比) 補償器の対応: ・入力を から に変更 ・共振角周波数 (慣性比) 制御対象の対応 (一般性を失うことなく正規化) 問題設定のつづきです. この後の議論において,パラメータ数を減らすために,制御対象に一般化を行い,閉ループ系をこのように変更します. 正規化された制御対象Pチルダの内容はこのようになっています. 元の制御対象と,正規化後の制御対象の対応はこのようになっています. まず,入力とトルクから各加速度にし,共振周波数を1にします. さいごに駆動側慣性に対する従動側の慣性比rと,およそその逆数の関係となるアルファを用いています.本研究では高慣性比として10倍を対象にしています. このとき,時間の都合上省略いたしますが,正規化する前の補償器Kと後の補償器kチルダはこのような対応関係になっています. Pチルダに対して最適なKチルダは,このような関係の下でもともとの装置にたいして最適な補償器Kと対応するため,本研究ではKチルダの構成法を考えます. 補償器の対応:
閉ループ伝達関数と安定条件 閉ループ伝達関数: :直流ゲインを指定するパラメータ 閉ループ系の安定条件: フルビッツの安定判別より 閉ループ伝達関数はこのようになります. このとき,カイチルダは閉ループ伝達関数の直流ゲインを指定する,本研究で重要なパラメータです また過程は省略いたしますが閉ループ系の安定条件はこのようになります.
低周波数域で平坦な特性を持つ構成法 (修士中間審査で報告) の場合:特別な周波数 で開ループと一致[15] 最適な比例補償器 の場合:特別な周波数 で開ループと一致[15] 二点のゲインを一致 最適な比例補償器 先に中間審査で報告した構成法について簡単に説明します.こちらの構成法は,K1=0の場合の制約を参考にしています. 具体的に,k1=0の場合,特別な周波数Ωアスタリスクにおいて閉ループと開ループでゲインが一致するという制約です. こちらが,K2を振ったときの閉ループゲインになります.K2をどのようにふっても,Ωアスタリスクにおいて閉ループと開ループが一致します. H∞ノルムで評価しているため,閉ループゲインの最大値を下げることが必要で,この場合の最適な場合は,この直流ゲインとωアスタリスクのゲインが一致する場合です. このとき,直流からωアスタリスク間の低周波数域でゲイン特性が平坦になります.この特性をk1が0でない場合の補償器構成に利用したものが 低周波数域で平坦なゲイン特性 → の場合の補償器構成に利用
低周波数域で平坦な特性を持つ構成法 構成法1: (修士中間審査で報告) 直流ゲインと特別な周波数 のゲインが一致するよう構成 手順1: 直流ゲインと特別な周波数 のゲインが一致するよう構成 構成法1: 手順1: を とする 手順2: 手順3: 手順4: を調整して手順2へ こちらの構成法1になります. これは,直流ゲインと特別な周波数Ωアスタリスクのゲインが一致するように構成する方法です.与えたカイチルダに対して,このように補償器を構成することで,直流ゲインとωアスタリスクのゲインを一致させることができます.こちらの図は実際に設計している様子となります.それぞれの閉ループゲインと,青の点線がΩアスタリスクになります. 直流ゲインをさげることで,低域は平坦なままゲインを下げていくことができますが,下げすぎると紫や黄色のプロットのようにピークが現れます.この図ですとおおよそ水色が最も良いことになります. このように外乱抑制性能を改善することが出来ますが,カイチルダに関する探索が必要でした. 課題: に関する探索が必要
数値探索による最適な補償器の構成 高慣性比範囲で最適な場合を探索 : -0.01刻み : 5刻み :大 と は単純な計算で求められると期待 本報告ではこのあと,探索なしに最適な補償器を近似的に構成する構成法を提案します.そのためにまず動機づけを行います.数値探索から,最適な閉ループゲイン特性をしらべました. こちらが,慣性比5倍から30倍に向けて探索したときの最適な状態の閉ループ系となります.こちらは,k1とk2の傾向になります. 左の図をみると,慣性比が上がるにつれて,ある形状へ発散していく様子がわかります.また高域にピークをもちますが,このピークは直流ゲインと同じ値になっています. また右側の図をみると,k2は変化せず,k1は単調に減少していく様子がみられ、k1とk2は単純な計算で求められると期待できます。 実際に,こちらの図から,収束する概形として慣性比無限大に発散させた閉ループ系を先に考え、その結果を適用することによってこのような提案法を得ることができました. に対する最適な , の変化 最小化した場合の と は単純な計算で求められると期待
慣性比 の解析解に基づく補償器構成法 構成法2: 手順1 手順2 手順3 こちらが本研究で提案する設計法になります. 慣性比 の解析解に基づく補償器構成法 構成法2: 手順1 手順2 手順3 こちらが本研究で提案する設計法になります. K2チルダを-1とおいて,先にk1チルダとk2チルダの和カイチルダをこちらの式でもとめ、そこからk1チルダを計算します。 構成法1に比べてさらに単純に構成することができます.
構成法2の導出(慣性比 の解析解) として 補償器に対応する と を求める 仮定: → を最大化する の解 ( ノルム)を最小化 構成法2の導出(慣性比 の解析解) として 補償器に対応する と を求める 仮定: この構成法2の導出について説明します. 閉ループ伝達関数gclをr=∞へ発散させたこちらの伝達関数のγを最小化することを考えます. Aはrを∞にしたときに,アルファとカイの積に対応する定数です. このように,直流ゲインがH∞ノルムを与えるという仮定を与えます.時間の都合上途中を省略していきますが,この不等式を展開すると,Ωの2乗についての二次方程式が得られるようになり,その判別式Dが0または負であることと,この過程の不等式が等価ということになります. ここで,この仮定は,この不等式を維持しながら,直流ゲインをできるだけ下げることが,γの最小化になるといえるので, Aの絶対値を最大化するD=0の解を得ればよいことになります.大切なことは,最適な結果を得るためにこの仮定を用いると,式展開した結果からω2乗についての判別式Dが得られることです. ( ノルム)を最小化 → を最大化する の解
構成法2の導出(慣性比 の解析解) 展開: 円の方程式2つで構成 最適値: 円と傾き0の接線との交点 対応する円: したがって: 構成法2の導出(慣性比 の解析解) 展開: 円の方程式2つで構成 最適値: 円と傾き0の接線との交点 対応する円: このDを展開すると,このようになります.これにK2チルダを与え,それに対するAの実数解を求めるとこのように、軌跡をみると円が二つで構成されているように見えます 赤い範囲が安定条件を満たす範囲で,こちらの青のプロットがAの絶対値が最大となっており最適解となります 円の方程式二つになるように因数分解が可能になります. この点は,傾きが0の接線との交点となるため,対応する円を式からぬきだして一般系に整理すると,このように得ることができます.K2チルダは円の中心の座標から,Aは中心座標と半径からえられます. したがって: の実数解の軌跡
構成法2の導出(慣性比が有限の場合) 慣性比が有限の場合の を最大化する を求めたい によって最適な が変化 簡単な因数分解より を最大化する を求めたい によって最適な が変化 この考え方をrが有限の場合に当てはめます. 時間の都合上省略していきますが,有限の場合も慣性比無限大の場合と同様に進めることが出来,判別式Dを得ることが出来ます しかし,慣性比を変えて,αごとにK2チルダに対するD=0の実数解をプロットすると,このように円でとはならず,さらに楕円ですらない場合も含まれており,最適値のk2チルダも移動していくことから 簡単に因数分解から最適解が得られないことが分かります. 簡単な因数分解より 最適解が得られない
構成法2の導出(慣性比が有限の場合) 慣性比が有限の場合の 高慣性比より と近似 を最大化する は ( と近似) 高慣性比より と近似 ( と近似) そこで,このD=0の式のこの要素に着目し,このような近似をおきます すると,式は最終的にこのように楕円の方程式二つで構成することができ,安定条件の範囲を含むこちらの楕円からこのようにえることができます. を最大化する は
慣性比 の解析解に基づく補償器構成法 構成法2(再掲): 手順1 手順2 手順3 安定条件(再掲): を必ず満たす ( ) 慣性比 の解析解に基づく補償器構成法 構成法2(再掲): 手順1 手順2 手順3 以上で構成法2を導出することが出来ます. 近似を利用することによって,簡単な式で求めることができます. なお,安定条件をここに再掲しますが,これに手順を代入すると, このようにすべての慣性比において不等式を満たすため,かならず安定な制御系を構成することができます. 安定条件(再掲): を必ず満たす ( ) 全ての慣性比において
近似による性能への影響 性能差 程度 慣性比10倍以上では近似が制御性能に与える影響は小さい 構成法2について,近似を用いて設計することによって,数値探索から得られた最適解からどの程度性能が悪化するかを検討しました. この表は数値探索の最適解と提案法の比較になります.こちらが数値探索の最適解,こちらが提案法になります. 赤枠がH∞ノルムγで,ひかくすると慣性比10倍以上では性能差が0.02dB程度に収まり, 本研究で対象としている範囲では近似が制御性能に与える影響は小さいと考えられます. 慣性比10倍以上では近似が制御性能に与える影響は小さい
シミュレーション 従動側角速度を 用いない比例制御→ 構成法1→ 構成法2→ 数値探索による最適解→ つぎにシミュレーションから性能を比較しました.4つの補償器を比較し,表はそれぞれの補償器のパラメータと設計した結果のH∞ノルムγです. こちらが閉ループゲイン特性で,こちらがこの条件の0.1Hzの正弦波外乱を入力した場合の時間応答のシミュレーションになります. 従動側角速度を用いない比例制御に対して構成法1は5dB程度改善し,さらに構成法2は0.6dB良い性能が得られます. また最適解と構成法2のプロットはほぼ重なり,同等の性能が得られることがわかります. シミュレーションをみると,H∞ノルムの順に変動を抑えることができていることがわかります. メモ(0.5倍が約-6DB)
実機実験(設計) 実際の実験装置で実験を行います.こちらの物理パラメータに基づいて設計しており,先ほどまでとは異なり減衰を持つ制御対象に対して適用しても, このように先ほどと同様に傾向をえることができます
実機実験(結果) 入力外乱 実験結果 こちらの外乱を入力しています 1秒間,定格トルクの15パーセントのステップ外乱を与え, 入力外乱 実験結果 こちらの外乱を入力しています 1秒間,定格トルクの15パーセントのステップ外乱を与え, そのあと1秒間定格トルクの10パーセントの5Hzの制限波外乱を与えます 実験結果がこちらです,それぞれ安定に実験できていることと 先ほどの設計時性能予測と同じ順に変動を抑えることが出来ていることが読み取れ 構成法は実用性があるといえます.
結論 従動側角速度を利用する 補償器の構成法を提案 ・慣性比無限大の場合の 補償器に基づく ・物理パラメータと簡単な演算で近似的に構成 従動側角速度を利用する 補償器の構成法を提案 ・慣性比無限大の場合の 補償器に基づく ・物理パラメータと簡単な演算で近似的に構成 数値例 ・慣性比10倍以上では近似による影響は小さい 実機実験 ・実用性を確認