1日目 13:50~16:20〔150分〕 テキスト37-53 【演習】強度行動障害とコミュニケーション 国立のぞみの園 志賀 利一

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1日目 13:50~16:20〔150分〕 テキスト37-53 【演習】強度行動障害とコミュニケーション 国立のぞみの園 志賀 利一 1日目 13:50~16:20〔150分〕   テキスト37-53       【演習】強度行動障害とコミュニケーション                                     国立のぞみの園 志賀 利一 この時間は、話しことばが「分からない」「伝えられない」状況を疑似体験します。     行動障害が起きる原因のひとつに、この「分からない」「伝えられない」があります。 【ポイント】 話しことばを「理解しにくい」人たちの気持ちを理解する 話しことば以外の方法で「伝える」工夫を行う 話しことばに依存した日常の支援を振り返る

演習の流れ 演習①② グループディスカッション①② グループ発表①② 70分 まとめと 講義 40分 演習の説明 30分 2回繰り返します 演習のデモンストレー ションを行います 2回繰り返します 休憩10分 グループ ディスカッション 15分 グループ 発表 15分 演習 5分

演習の説明(デモンストレーション①) 少々複雑な演習を行いますので、デモンストレーションを行い ます。 スタッフから2人に出てきていただき、デモンストレーション に協力してもらいます。 ●●さん、●●さん、前に出てきて下さい。 デモンストレーションの役割 ◯◯:援助者 ●●:モデル 援助者は、モデルに対して、聞き覚えのない外国語で指示を出す モデルは、援助者の出した指示に従い、アクションして下さい ●●:モデルサポート モデルサポートは、モデルの気持ちを汲んで観察して下さい(何もアクションしない)

演習の説明(デモンストレーション①) ◯☓△●■◯・・・ ◯☓△「日本語」◯ ◯☓△「日本語」◯ ◯☓△「日本語」◯ (話しことばのみ) デモンストレーションの流れ ◯◯:援助者 ●●:モデル ●●:モデルサポート ◯☓△●■◯・・・ (話しことばのみ) 援助者の指示に 従って下さい モデルの気持ちになり 観察 不正解なら ◯☓△「日本語」◯ (話しことばのみ) 援助者の指示に 従って下さい モデルの気持ちになり 観察 不正解なら ◯☓△「日本語」◯ (ジェスチャー入り) 援助者の指示に 従って下さい モデルの気持ちになり 観察 不正解なら ◯☓△「日本語」◯ (ありとあらゆる手段駆使) 援助者の指示に 従って下さい モデルの気持ちになり 観察

演習の説明(デモンストレーション①) モデルサポートに質問します モデルに、モデルサポートの回答は合っていたかどうか感想を述 べてもらいます 質問タイム モデルサポートに質問します 結果的にはどういう指示だったと思いますか? はじめから振り返ってみましょう。話しことばのみのときモデルはどう感じ ていたと思いますか? 日本語が混ざることで、何かヒントになっていましたか? 身振りや動作が加わってやすくなっていたでしょうか? 具体的にどのようなことが手がかりになっていたと思いますか? 指示がわからない時、モデルはどのような気持ちだったと想像しますか? モデルに、モデルサポートの回答は合っていたかどうか感想を述 べてもらいます

演習の説明(デモンストレーション②) 同じ演習をもう一度行います 援助者とモデルは変更ありません 会場から3人の方にお手伝いしもらいます。☓グループの☓さん、 ☓グループの☓さん、☓グループの☓さん、前に出てきてください。 司会 記録 デモンストレーションの役割 ◯◯:援助者 ●●:モデル 援助者は、モデルに対して、聞き覚えのない外国語で指示を出す モデルは、援助者の出した指示に従い、アクションして下さい ◯◯:モデルサポート モデルサポートは、モデルの気持ちを汲んで観察して下さい(何もアクションしない) 援助者サポート

演習の説明(デモンストレーション②) 私 援助者 交代 モデル 新規 援助者サポート 交代 モデルサポート 新規 司会 新規 記録 役割分担 モデルに対して、聞き覚えのない外国語で指示を出す 私 援助者 援助者の出した指示に従い、アクションする 交代 モデル 指示書(台詞)の受け取り係 援助者に台詞を見せる 新規 援助者サポート モデルの気持ちを汲んで観察し、終了後その内容を記録者に伝える 交代 モデルサポート 新規 司会 振り返りの進行役 演習後の振り返り内容を記録し、グループの発表を行う 新規 記録

演習の説明(デモンストレーション②) ◯☓△●■◯・・・ ◯☓△「日本語」◯ ◯☓△「日本語」◯ ◯☓△「日本語」◯ (話しことばのみ) デモンストレーションの流れ ◯◯:援助者 ●●:モデル ●●:モデルサポート ◯☓△●■◯・・・ (話しことばのみ) 援助者の指示に 従って下さい モデルの気持ちになり 観察 不正解なら ◯☓△「日本語」◯ (話しことばのみ) 援助者の指示に 従って下さい モデルの気持ちになり 観察 不正解なら ◯☓△「日本語」◯ (ジェスチャー入り) 援助者の指示に 従って下さい モデルの気持ちになり 観察 不正解なら ◯☓△「日本語」◯ (ありとあらゆる手段駆使) 援助者の指示に 従って下さい モデルの気持ちになり 観察

演習の説明(デモンストレーション②) モデルサポートに質問します モデルに、モデルサポートの回答は合っていたかどうか感想を述 べてもらいます 質問タイム モデルサポートに質問します 結果的にはどういう指示だったと思いますか? はじめから振り返ってみましょう。話しことばのみのときモデルはどう感じ ていたと思いますか? 日本語が混ざることで、何かヒントになっていましたか? 身振りや動作が加わってやすくなっていたでしょうか? 具体的にどのようなことが手がかりになっていたと思いますか? 指示がわからない時、モデルはどのような気持ちだったと想像しますか? モデルに、モデルサポートの回答は合っていたかどうか感想を述 べてもらいます 援助者が「オーバ」と「ジョグ」ということばを何度も使ってい ましたが、日本語に置き換えるとどういう意味だと思いますか? 演習の援助者は、日本語を使えません。「指示」の内容と、 「オーバ」「ジョグ」だけしか話せません。

演習①|概要説明 グループ単位で演習を行います。 各自の役割分担は次のスライドの通りです 演習が開始されたら、援助者は日本語を話せません。援助者以 外の皆さんも日本語を話さないで下さい。また、援助者以外は ヒントになるような表情や身振り、笑い声も原則禁止です 援助者は、勝手に手がかりを増やさないでください。指示があ るまで、同じ手がかりだけを繰り返し出してください。 モデルは援助者からの指示された内容を想像し、何らかのアク ションを必ず行って下さい。「照れ」「過剰な演技」は厳禁で す 指示の次のステップに移るタイミングは、私が出します。 モデルが正解したら、「静かに」座ってお待ち下さい。 注意点

演習①|役割分担と番号 No. ① 援助者 No. ② モデル No. ③ 援助者サポート No. ④ モデルサポート No. ⑤ 司会 台詞① モデルに対して、聞き覚えのない外国語で指示を出す No. ① 援助者 援助者の出した指示に従い、アクションする No. ② モデル 指示書(台詞)の受け取り係 援助者に台詞を見せる No. ③ 援助者サポート モデルの気持ちを汲んで観察し、終了後その内容を記録者に伝える No. ④ モデルサポート No. ⑤ 司会 振り返りの進行役 演習後の振り返り内容を記録し、グループの発表を行う No. ⑥ 記録

役割分担は大丈夫? 各自準備はOK? では、 はじめましょう 演習①|スタート 援助者サポートは、台詞①を持っていますか? 封筒から出すとき に、援助者以外に見せないようにしてください。  役割分担は大丈夫?  各自準備はOK? では、  はじめましょう

ディスカッション ① 演習①のグループでディスカッションです。 「司会」と「記録」は、そのまま役割を続けて下さい。「記 録」が「発表者」になります ディスカッションのテーマは下の4つです テーマ グループ名を決めてください! 話しことばの理解が難しい人の戸惑いを体験してもらいました が、もう一度、どういう気持だったかまとめてください 様々な手がかりが出されましたが、援助者が意図した、あるい は意図していない、どのような手がかりが有効でしたか 指示する側も、伝わらない、わかってくれないストレスを感じ たと思います。どういう気持だったかをまとめて下さい

演習②|概要説明 グループ単位で演習を行います。 各自の役割分担は次のスライドの通りです 演習が開始されたら、援助者は日本語を話せません。援助者以 外の皆さんも日本語を話さないで下さい。また、援助者以外は ヒントになるような表情や身振り、笑い声も原則禁止です 援助者は、勝手に手がかりを増やさないでください。指示があ るまで、同じ手がかりだけを繰り返し出してください。 モデルは援助者からの指示された内容を想像し、何らかのアク ションを必ず行って下さい。「照れ」「過剰な演技」は厳禁で す 指示の次のステップに移るタイミングは、私が出します。 モデルが正解したら、「静かに」座ってお待ち下さい。 注意点

演習②|役割分担の交代 援助者サポート No. ① No. ② 司会 No. ③ 援助者 No. ④ 記録 No. ⑤ モデル No. ⑥ 台詞② 指示書(台詞)の受け取り係 援助者に台詞を見せる 援助者サポート No. ① No. ② 司会 振り返りの進行役 モデルに対して、聞き覚えのない外国語で指示を出す No. ③ 援助者 演習後の振り返り内容を記録し、グループの発表を行う No. ④ 記録 援助者の出した指示に従い、アクションする No. ⑤ モデル モデルの気持ちを汲んで観察し、終了後その内容を記録者に伝える No. ⑥ モデルサポート

役割分担は大丈夫? 各自準備はOK? では、 はじめましょう 演習②|スタート 援助者サポートは、援助者と二人だけで台詞②を見ながら、話しこ とば以外にどのような手がかりを出すか作戦会議をしてください。 1分少々時間をあげます!  役割分担は大丈夫?  各自準備はOK? では、  はじめましょう

ディスカッション ② 演習②のグループでディスカッションです。 「司会」と「記録」は、そのまま役割を続けて下さい。「記 録」が「発表者」になります ディスカッションのテーマは下の4つです テーマ 話しことばの理解が難しい人の戸惑いを体験してもらいました が、もう一度、どういう気持だったかまとめてください 様々な手がかりが出されましたが、援助者が意図した、あるい は意図していない、どのような手がかりが有効でしたか 指示する側も、伝わらない、わかってくれないストレスを感じ たと思います。どういう気持だったかをまとめて下さい 通常の支援の中で、このような経験はありますか

まとめと講義|大切なこと ◎※・▲☓・・◯□◆ 言語の通じない外国に旅行に出か ければ、私たちは自然に相手の意 思を理解する、相手に意思を伝え るために、左の図のような様々な 方法を活用するはずです。 文化の違いは、コミュニケーショ ンの難しさを表面化します。障害 者の中にも同様な人がいます。 ◎※(理解できる単語)◯□◆ (表情・眼差し) (指差し) 話ことばだけでない、様々なコ ミュニケーションの方法があり、 それを意図的(計画的)に使う 工夫を学んでもらいました。 (ジェスチャー) (お手本) (一部手を添えて) (すべて手を添えて)

コミュニケーションとは相互のやりとり コミュニケーションとは:ラテン語の「分かち合 う」という意味の communicare が語源 コミュニケーションとは出し手(表現/表出性) と受け手の相互作用による「やりとり」のことを 言います。 コミュニケーションしているとは、コミュニケー ションの出し手の行為(行動)が、コミュニケー ションの受け手の行為(行動)に明らかに影響を 与えることです。 コミュニケーションとは、「話しことば」による「やりとり」だけではあり ません。前ページのピラミッドのすべて、さらに文字情報等も含みます。

もっとも単純なコミュニケーション 「障害のある人」と「支援者」の2人のもっともシンプルなコ ミュニケーションを下に図示しました。 トイレに行きたい トイレこっちだよ 一緒に行こう

もちろん表現・理解は反対の場合も 「話しことば」に対して、「話しことば」でもない(非言語)で 応えるコミュニケーションの場合も多い。また、場合によっては、 「やりとり」が何度も繰り返されることも。 トイレに行こうか 支援者の手をとり トイレまで 付いてくる (非言語)

演習で学んで欲しかったこと 聞こえの障害がなくても話しことばの理解が難し い人がいる 私たちも、わからない状況に陥ると、これまで頼 りにしていた話しことば以外の手がかりを必死に 見つけようとする 話しことばに替わる手がかりを適切なタイミング で出すことは非常に有効である

この演習で設定したこと ? ? ? ? ①「話しことばの理解が難しい人」を模擬的に作り出しました 一方、この演習で皆さんは、 ◎※・▲☓・・◯□◆ 一方、この演習で皆さんは、 「話しことば以外の手がかりを探そうと最大限努力」 「新しい手がかりの反応の成功・失敗を積み重ねて学ぶ」 ことがとても上手にできる人たちです。もし、 ②「話しことば以外の手がかりの理解が難しい人」 ③「タイミングよく手がかりに注意を向けることが難しい人」 であったなら、演習はこんな時間には終わらなかったのでは?

こんな障害のある人もいます 注意集中できる範囲が極端に狭いと → ジェスチャー全体の把握ができない 注意集中できる時間が極端に短いと 知的・認知機能の障害は本当に様々な状態像を生み出します 注意集中できる範囲が極端に狭いと   → ジェスチャー全体の把握ができない 注意集中できる時間が極端に短いと   → 手を変え品を変え手がかりを出しても・・ 聴覚過敏が重大な障害があると   → 笑い声、賞賛の声が不快極まりない 顔の表情の認識に重大な障害があると   → 見つめられたり笑顔が叱責と感じる

強度行動障害のある人の多くは 話しことばの理解が難しい人 話しことば以外の手がかりの理解が難しい人 適切な手がかりにタイミングよく注意を向けるこ とが難しい人 強度行動障害とはどういう人のことを言うのか、強度行動障害のある人には どのような特徴があるのかは、2日間の研修で繰り返し学びます。

強度行動障害のある人の多くは 表現・理解を反対にしても・・・ 話しことばで人に伝えることが難しい人 話しことば以外で人に伝わりやすい手がかり(方 法)を知らない人 人にどのタイミングで伝えればいいかがわからな い人

こんな難しい人とどう関わればいいの? とても気難しい人だ! うまくかかわれるだろうか? ? 自分の気持ちは伝わらないの? 何をしたいのか理解してあげられないのかな? ? ? 心配で、心配で・・ ? 間違って理解したらどうしよう? 強度行動障害はとても自分には対応できない! こんな研修受けなければよかった! 安心してください。人と人との「やりとり」「コミュニケーション」には、 至ってシンプルで基本的な原則があるのです。まず、それを覚えてください。

人と人との「やりとり」の原則 「相手の関わりに誠実・実直に対応する」 障害のある人 支援者 表現/表出性 障害のある人 支援者 障害のある人が「表現/表出性」の行為を行ったら、それをしっかりと受 け止めて、支援者が応えることが大切です。言い換えると、障害のある人 が、新たに覚えた表現/表出性コミュニケーションを出していても、ほと んど、あるいは時々しか支援者が応じなければ、間違いなくそのコミュニ ケーションは消えていきます。

人と人との「やりとり」の原則 「相手の関わりに誠実・実直に対応する」 障害のある人 支援者 理解/受容性 「理解/受容性」を支援者が求めるのは、障害のある人が「いま」「やり たい」と準備できたタイミングが大切です。言い換えると、障害のある人 が、行う準備ができているかどうかを想定することなしに、頻繁に支援者 から「理解/受容性」コミュニケーションを求められたとしたら、いつま でたってもこれに従うこと(これを理解すること)はできません。

強度行動障害者の「やりとり」の原則 強度行動障害者の表現/表出性コミュニケーショ ンは、周囲が確実にそれに応えられて、はじめて 身についていくもの 強度行動障害者の理解/受容性コミュニケーショ ンは、本人の準備が十分に整ったタイミングを見 計らうことで、はじめて身についていくもの 表現/表出性コミュニケーションも理解/受容性 コミュニケーションも、何度も繰り返し、時間を かけて学んでいくもの

着実な一歩:事例紹介 施設入所支援と生活介護を利用している30歳前 半の男性です 生まれてから、トイレで大便の排泄ができたこと がありません(パンツの中で排泄) 施設の職員が、計画的かつ実直に取り組んだ結果 ・・・ まさに、前ページの原則がそのまま当てはまりますね

演習全体のまとめ 話ことばだけでない、様々なコミュニケーションの方法があり、 それを意図的(計画的)に使う工夫を学んでもらいました。 コミュニケーションとは出し手と受け手の相互作用による「や りとり」のことを言います。 強度行動障害者の多くは、「話しことばの理解」「話しことば 以外の手がかりの理解」「手がかりにタイミングよく注意を向 けること」の3つが苦手な人たちです(理解/受容性) 強度行動障害者の多くは、「話しことばで伝える」「話しこと ば以外の方法で伝える」「適切なタイミングで伝える」の3つ が苦手な人達です(表現/表出性) 強度行動障害者に対して私たちは、適切な手順を踏み、ある程 度の時間をかけ、やりとりを繰り返すことで、意思の理解や表 現ができるようになります 適切な手順には、「相手の関わりに誠実・実直に対応する」こ とが原則です